レベルアップしたのに物理や魔法よりも状態異常が強すぎると萎える
体育祭当日。
新たに発足した新生徒会主導の下で実施される最初の大規模な校内イベントである。
形式は学校によって様々。
小学校でイメージするようなチームと分けて総合得点で競い合う形式、あるいは各競技ごとに各クラスからチームや人員を選出しトーナメントを組んで優勝を目指す形式がある。
太一たちの学校は後者。
太一たちの学校は進学校と言うこともあってかスポーツ事態にはそこまで力を入れているというようなことはない。
それ故に、部活動に所属している生徒とそうでない者とで力量差はそこまで大きな開きがあるわけでもない。
まぁ運動部所属が有利であることには変わりないだろうが、どちらかと言えば運動しているかどうかより、クラス内カーストのトップにいるような生徒が優勝していくイメージだ。
太一の通う学校では、屋外競技はリレーやサッカー、短距離もハードルなどを実施……しかし屋内競技は場所の関係上、バスケやバレーといった団体競技が主でバドミントンや卓球といった比較的少人数で回すような競技は実施されない。
以前はバスケットボールやバレーボールが飛び交う中、脇でひっそり実施していた時期もあったようだが、流れ弾が飛んできて危険と言うことで廃止になったらしい。
開会式も終わって各々が協議に出向く。
競技ごとに時間割が設定されているため、それ以外の時間は割と暇だったりする。
が、バスケの試合は予選試合が真っ先に組まれているため、太一たちは各クラスの試合を眺めながら自分たちの試合開始を体育館の脇で待っていた。
試合時間は休憩なしの15分間。試合が終わった段階ですぐに次のチームと入れ替えていく形式で、これを優勝チームが決まるまで繰り返す。
細かいルールは省き、5秒ルールやダブルドリブル、ファウルといった行為以外は基本的にゆるゆるである。
試合の順番はくじ引きで学年が完全に入り乱れて競い合う。
――そして、
「うっしゃ! 気合入れていくぞ!」
「普段はこういうイベントとかあんま興味ねぇくせに」
「うっせぇダイチ! 今回は負けらんねぇだろうがよ!」
「まぁそうなんだけど……」
西住が拳を鳴らしてバスケットコートに入っていく。
仲持が面倒くさそうにしながら後に続き、人数合わせで組まされた男子生徒二人はあまりやる気が感じられない。
そして、後に続くように太一がコートに入った。
反対側のコートでは女子バスケの試合が行われている。
今朝から不破とは一言も口を聞いていない。
不破のチームは会田、伊井野、布山に、大井で5人のチームだ。
まだ順番を迎えていないのか、彼女たちの試合をまだ見ていない。
……とにかく勝たないと。
太一はひとり、自分に活を入れる。
試合は予選で一回負けても敗者復活枠が一つだけあり、それで決勝トーナメントに出場することはできる。
が、残機がまだ『1』残ってるなんて甘い考えは捨てている。
不破を相手にそんな弱腰ではとうてい敵わない。
しかし幸いにして同じチームの西住と仲持は学年でみても運動能力の高いメンバーだ。
とはいえ、他の二人はハッキリ言って特筆したモノもなく、やる気もほぼ皆無なことから戦力としては期待できない。
最初の試合は1年生が相手のようだ。
髪を染めていたり声がやたら大きかったりとなかなかにやんちゃしてそうな集団が目に入る。
正直、以前の太一であれば相手にしたくないあまりその場からひっそりと距離を取っていたに違いない。
が、今は決して引くことができない理由がある。
「すぅ~~~~……」
太一は挨拶を済ませて後ろへ下がり、静かに息を吸い込む。
ジャンプボールは西住。クラスカーストでトップを張るだけあって、1年生たちは彼を前に緊張した面持ちだ。
が、それよりも彼らの注目を一身に集めるのは……
試合開始のホイッスルが鳴り、ボールが宙へ上がる。
西住は持ち前の体格でボールと指ではじき、その先には、
「――――っ!」
太一。
ボールを受け、そのままドリブルで前に駆ける。
正面に立つ1年生男子。
太一の実力では相手を躱しながら相手コートの奥へと切り込んでいくのは難しい……そう、そのはずなのだが。
ダンダムダンダムダンダムダンダム―ッ!
力み過ぎた太一は普段から鋭すぎるナイフのような目つきを、更に研ぎ澄まして人○しのごとき顔つきに。
「ひぃっ!?」
正面の生徒が引きつった悲鳴と共に場所を空ける。
……あ、あれ?
なんの障害もなく相手を突破できてしまったことに呆気にとられながら、太一はコートを突き進む。
お世辞にもうまいとはいえないブレブレのドリブル。
「太一!」
声を掛けられて顔を上げた先には仲持。
太一は彼にパスを繋ぎ、ゴールに向けて駆ける西住に中継として更にパスを回す。
「ふっ!」
西住は危なげなくレイアップシュートでゴールを決めた。
これでまずは一点。
西住と仲持がハイタッチを交わす中、太一は一年生たちに振り返る。
が、彼らは太一からさっと顔を背けて離れていく。
太一は知らない。今、彼は以前の選挙から妙な噂をひろめられているということを。
(。´・ω・)?
宇津木太一という生徒の噂を聞いたことはあるだろうか。
なんでも、春に二年であった殴り合いの喧嘩で停学になったという、とんでもない生徒のカレシであるという。
しかしも、そんなカノジョをもつ彼の容姿は、どこぞの893事務所にでも出入りしているのかと疑ってしまうほどの強面らしい。
聞くところによると、彼は自分のカノジョに手を出そうとした男子生徒を、カラオケボックスで強襲してボッコボコにしたとか。
加えて、カノジョが他の女子生徒と揉めた際には、相手のジョセイもそのまま自分のカノジョとして侍らせている、なんて話まで……
というか、彼の家には常に複数の女子生徒が通いつめ、カノジョに至っては高校生の身分で同棲までしているというではないか。
そんな情報から、太一は複数の女性と関係を持ち、毎日のように乱交パーティーに明け暮れている、などと根も葉もないことを言われていたりする。
しかし、噂の中には真実も多分に含まれており、こういった一人歩きの末にいらん憶測が飛ぶのも仕方ないのかもしれない。
人間など真実がなんであろうと別に構わない。
そこに刺激的な要素があれば飛び付き、情報をかき乱して錯綜させるのが大好きなのだから。文○砲待ったなし案件である。
加えて前回の生徒会選挙での立ち回りである。
彼自身は真面目に大人しい生徒のつもりで臨んでいたのだが、霧崎がいらん脅しを一年生に向けて放ち、彼自身が同学年に向けて啖呵を切った場面は多くの生徒に目撃されていた。
結果……
宇津木太一という先輩はやべぇ奴、という本人からすれば遺憾の極みのような評価を一年から受けてしまっているわけである。
ただでさ人のひとりやふたりはヤッていそうなやんちゃな見たした太一に、噂というオプションまで換装されてしまったわけだ。なんたる呪いの装備。誰か早急にシャナクの呪文を唱えてくれ。
(゜∀゜≡゜∀゜)help!
――そうして、予選試合は太一の顔面パワーと西住たちの活躍により、
「……お前いると試合楽すぎんだけど」
「……どうも」
隣に並んだ仲持の言葉に、太一は口角をヒクヒクさせていた。
いや、別に試合に勝ってるのはいい。
普通に喜ばしいことだ。
不破との勝負には決勝トーナメント進出が最低条件。
ならばこうして勝ち進めているならいいじゃないか。
……なんか違う!!
ゲームで必死こいてレベルアップして物理も魔法もパラメーター上げたのに、結局は状態異常が最強でしたというオチを突き付けられたような気分を味わう太一であった。
次回、不破の試合シーンです
ようやく太一のデバフがバフに切り替わる時が来た!
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