晴れのち雷雨のちピンチ&チャンス
『そっか~。不破さんと喧嘩しちゃったんだ……ごめんね、ウチのりゅうちゃんが色々と迷惑かけちゃって。まぁ私も人のことは言えないんだけど』
電話越しに苦笑する声がした。
スマホ越しに通話している相手は秋穂である。
明日に体育祭を控えた日曜日の夜。
彼女から太一のスマホに連絡があった。
――『通話しても大丈夫かな?』
――『りゅうちゃんからね
話を聞かせてもらったの
宇津木君、なんだか大変なことになってるって…』
メッセージに太一は少し悩んでからOKと返事をした。
今回の一件は西住の件が絡んでいることもあって、今回の不破との勝負について話をする場合、どうしても5月のアレに触れないわけにはいかない。
――『前に助けてくれたお礼
宇津木君の相談に乗るってお話
あれ、まだ有効かな?』
ふと思い出す。秋穂と接点を持つに至ったい切っ掛け。
太一が言い訳として使った、相談という口実。
――『はい
それじゃ少しだけ
相談に乗ってもらっていいですか?』
秋穂に話たからと何かが変わるというわけではない。
しかし、西住の姉として、今回のことを彼女がどう思っているのか気になる。
それに、家族や友人という立場とは少し違う……不破との面識も少ない彼女の忌憚ない意見も聞いてみたかった。
『わたしを迎えにきたあとから、少し様子がおかしかったけど……不破さんのことが気になってたんだね、あの子』
彼女が家で塞ぎ込んでいる時に、何度か西住から彼女の名前が出てきているため存在は知っていた。
しかしまさか、自分からフッた挙句にクラス全体にまで影響するような仲違いに発展していると思ってもいなかったのだろう。
秋穂の珍しい呆れた声音が聞こえてくる。
『まさか私だけじゃなくて、元カノさんにまであんな態度を取ってたんなて……久しぶりに私もちょっと小言が出ちゃったわね』
「そうですね。彼なりに相手を思っての部分はあったんだと思うんですけど。さすがに伝え方に問題がなかったとは言えませんから」
『りゅうちゃんって反射神経だけで色んなこと言っちゃうことあるから。家でもよくお母さんとかお父さんと喧嘩してる。あれでも小さい頃は素直だったんだどな~……』
素直な西住というのも想像できない。
昔語りをしてくれた彼の話から、今の性格になった切っ掛けには心当たりがある。
とはいえ、それは相手を傷つける発言をしてもいい免罪符にはならない。
今回の秋穂との一件で、その辺りのことを彼が理解してくれていればいいのだが。
体育祭の勝負で仮に不破に勝てたとしてしても、西住が考えを改めていなければそもそも意味がない。
「秋穂さん」
『なに?』
「……僕は、判断を誤っと思いますか?」
『……そうね~』
しばらく考えるような間が空き、秋穂は電話越しに口を開く。
『間違ってたのか、どうかってね。結局後付けなのよ。私は太一くんのお陰で今こうして色々と話せるようになったけど、もしかしたら余計に引っ込み思案にあって、家にひきこもってたかもしれない』
それは、ありえる話だった。
結果だけ見れば秋穂は自身の努力もあって今の状態にまで回復した。太一に後押しがあったのはそうだが、それが必ずしも今回のような結果に結びついたかは分からない。
物事というのは、時間が過ぎた先にしか結論は出ない。
未来予知なんて便利チートが存在しない現実では、どうしたって手探りで物事を判断し行動するしかないのだ。
『だからって、私は宇津木君と出会えたことを幸運に思ってるし、本当に感謝してるの……たぶん、ずっと私の記憶に残ると思う』
柔らかく、優しい声が耳に入り込んできた。
『宇津木君、ちょっとだけスマホ離してもらってもいい?』
「え? わかりました」
言われた通りにスマホを身から放す。
すると、通話画面がビデオチャットに切り替わった。
『どう? 映ってる?』
「は、はい。大丈夫です」
急に画面に現れた秋穂にドキリとする。
彼女は緩く編んだ三つ編みを肩に流し、出会った時に着ていたのとは別のロング丈ワンピースにストールを羽織っている。
以前のものは体の起伏を隠すようなゆったりとしたデザインだったのに対し、今はウエスト部分を絞る様な意匠になっている。
『どうかな? 昨日りゅうちゃんと一緒に買い物行ったときに、気になって買ってみたんだけど』
「……よくお似合いです。秋穂さん、やっぱりスタイルがいいですね」
先日は散々ギャルたちに付き合わされたせいか、思ったよりすんなりと言葉が出てきてくれた。太一自身、本音を素直に伝えたというのもあるだろう。
秋穂は画面越しに頬を染めつつ、柔和な笑みを見せた。
『訊いておいてなんだけど、やっぱり恥ずかしいね……でも、ありがとう。まだ、私は自分にそこまで自信を持てないけど……宇津木君の言葉を、信頼してるの』
だから……こんな私の言葉でも君を勇気づけてあげられるなら。
『宇津木君は、今のまま、りゅうちゃんや不破さんと向き合ってみればいいと思う。宇津木君は、相手に寄り添えるひとだから、きっと大丈夫』
「……ありがとうございます」
いつも相談に乗ってもらっている、涼子や霧崎ではない、太一が自分から関り、そうして繋がりを得た彼女からの言葉。
それは、太一に少しだけ、行動することの自信を与えてくれる。
「どこまでできるかは分かりませんけど」
――明日、頑張ります。
(ง •̀_•́)ง‼
まさかの事態だ。
大井はマンションの一室でソファに転がって目元を腕で覆っていた。
距離が近い太一と秋穂に危機感を覚えて大井はいつものギャルメンバーを集めてショッピングモールに出かけた。
できれば太一と二人きりが良かったが、それだと後から知られた時にグチグチと突っかかってくるライバルの相手をしなくてはならない。
それに最近は太一にアプローチをし過ぎたせいか少しだけ警戒されているのが肌で分かった。
今更この気持ちを偽るつもりも蓋をするつもりも緩めるつもりもないが、いささか攻め方が性急すぎたかもしれないと最近は反省している。
だからこそ大井は色んな方面に気を配った結果として、自分を含めた5人で出掛ける提案をしたわけだ。
それに、しばらく太一が秋穂の件で掛かりきりだったのもあって単純に彼と遊びに行きたかった、というのもある。
それが、まさかこんな事態になるなど、誰が想像できようか。
「も~う……なんで不破さんはああなのかなぁ~……」
夏休みから知っているが、彼女はどうにも喧嘩っ早い。
相手が少しでも自分の領域に踏み込んできたらとにかく応戦。ギャルの距離感で迫ってくるくせに、触れた相手が地雷原というのは笑えない皮肉だ。いっそこういうのも地雷系と呼称してはどうかと思えてくる。
「たいちゃん、大丈夫かな……」
ショッピングモールで彼は『なんとかします』と言っていたが、正直言って不破は太一の手には余る存在だと大井は思っている。
それに、
……あんましあーしに嫌なこと考えさせないでよ。
このまま不破と太一の関係がこじれて、そのまま距離が開けば自分はかなり有利になる。
今のところ不破は自分の気持ちにかなり鈍感……というより、頑なに認めようとしていないように見える。
それが太一をいまだ『下』に見ているという理由なら、そんな相手がレースに参加しているのはただ不愉快でしかない。
が、大井はそうじゃないのではないか、と考えている。
「多分……不破さんって……」
――本当に好きな相手にはとことん天邪鬼になる性格なんじゃないだろうか。
……話きいてる感じ、不破さんって自分のお母さんのこと絶対に大好きだよね。
夏休みの前後で太一の家に居候していた……なんて羨ましい……時の話は霧崎や鳴無から聞いている。
なんでも母親と学校や将来のことで喧嘩した挙句に家出をしたとか。
……たぶん、片親だから少しでも早く自立してお母さんの負担を減らしたかったんだよね、彼女。
霧崎や鳴無も大井と同じ考えだった。
不破にとって母親は特別な存在。態度こそアレだが相当母親のことを気に掛けている。
そして、
「ああ~……これ不破さんが自覚したらガチでマジな本気のヤバイやつじゃん」
親娘間の情愛と、異性に対する愛情は別物だ。
仮に不破がなにかの切っ掛けで太一に対する想いに気付いてしまったら、
「暴走列車どころじゃないよ~」
あの性格だ。きっと一切の躊躇いなくイクところまでイク。なんなら告白からベッドインまで一日で行っちまうんじゃなかろうか。
「不破さんなら普通にありえるんだよな~」
兵は拙速を貴ぶ、などと言うが……不破は地でそれをやってのけそうな性格をしている。
それ故に、焦りを覚える。
それ故に、好機と見てしまう。
「いっそのこと、部屋に連れ込んで既成事実でも作っちゃった方がいいのかも」
増え始めているライバル。
それを考えると、決して悪い手段ではないように思えた。
太一に性格から考えても、肉体関係にまで至った相手をないがしろにはできないだろう。
とはいえ、
「失敗したら目も立てらんないしな~……」
自分は処女だ。つまり経験皆無。耳年間な自覚はあるが、それだけでリードできるわけもなし。最悪の場合はぐだる。そうなったら最悪だ。太一に気を使わせた挙句に距離を取られることが目に見えている。
……もうちょっと自分の方も慣らしておかないとダメかも。
色々と。
襲うにしても、受けである女性の準備は欠かせないのである。失敗できないのならなおさら。
「も~う……」
ベッドの上で枕に顔を埋める大井。
不破とはまた別に、こちらにも太一に対してモヤモヤする少女が一人。
本気で彼を襲うかどうかについて、割と真剣に悩んでいたのであった。
(۶ ͛⌯ᾥ⌯ ͛٩)ウーン•••
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