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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
5:宇津木太一は負けられない
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はらぁ括るしかねぇよなぁ? 前哨戦だ!

 西住には彼なりの信念があり、それは周囲の考えとは異なるモノではあれど彼にとっての確信でもある。


 状況は比較的太一に味方している。

 ふたりきり、ショッピングで不破の機嫌もそこそこいい。

 きっと、切り出すなら今しかない。


「少しだけ、相談したいことがあるんですけど」

「んだよ改まって」

「はい、実は――西住くんのことについて、です」


 ピクッ――不破の眉が跳ねた。

 眉間に皺が寄り、明らかに不機嫌になっているのが手に取るように分かる。


「なんで今、あいつの話が出てくんだよ」

「むしろ、今しかないと思ったので」

「……聞きたくねぇ」


 不破は腰を上げてその場を去ろうとする。

 らしくない。

 どうしてしまったのだ、彼女がこんな風に何かから逃げる姿など。

 数ヵ月前、母親と喧嘩して家出してきた時は違う。あの時の不破はハッキリと自分の主張を持っていた。それが相手とぶつかり、抗議する意味も込めて家を飛び出してきた。


 しかし今の彼女は、訳も分からないまま『有耶無耶』にその場を立ち去ろうとしている。


「待ってください」


 太一は不破の腕を掴んだ。


「お願いします。一度だけでいいです。西住くんと、話し合いをしてみてもらえませんか?」

「話し合い? あいつと? 何を?」

「不破さんが西住くんに色々と思うところがあるのは知ってます。でも、このままなし崩し的に疎遠になる前に、お互いに思ってることをちゃんと口にした方が」

「それで? どうなるってんだよ?」

「わかりません」


 ハッキリ言って、これは二人の問題だ。

 第三者が余計な口をはさむべきではないのかもしれない。

 それでも、


 ……不破さんが教室で孤立する可能性が少しでもあるなら……そんなことになるくらいなら。


 たとえ憎まれ役を買ってでも、今は彼女を説得する。

 自分は、ずっと彼女に助けられてきたのだから。


「不破さんだって、5月にフられたこと、色々と納得できてないんじゃないですか?」

「は?」


 不破の声から温度が下がった。


「それが、あんたと、何の関係があるってんだよ?」

「……もし、不破さんの中でまだ疑問とかわだかまりがあるなら、ちゃんと西住くんから話を聞くべきです。今なら、西住くんだって素直にちゃんとした理由を」

「理由があれば、相手をコケ落として人の目がある中でフってもいいってか?」

「そうじゃありません! でも、このままじゃ不破さんはずっとモヤモヤしたまま、」

「うるせぇ!!!」


 それは、明確な拒絶の声だった。

 太一の腕を振り払い、見下ろしてくる不破の強烈な圧。

 怯みそうになる、臆しそうになる、屈しそうになる、逃げ出しそうになる。

 それでも、太一は奥歯を噛んで、不破と目を合わせ続けた。


「アタシはもうあいつになんの興味もねぇ! 今さら蒸し返されたって迷惑なんだよ!!」

「百も承知です。それでも僕は、西住くんとちゃんと向き合うべきだと思います」

「ふざけんな!! 今更あいつをなに話すってんだ!? また喧嘩しろってのか! あん!?」

「彼にも、彼なりに思うところがあったはずなんです。確かに西住くんのしたことは褒められたことじゃないかもしれない。不破さんが怒るのも当然です」

「だったら!」

「でも不破さん、まだ西住くんのこと気にしてますよね」

「――ッ!!」


 不破が太一の胸倉を掴み上げる。

 射貫くような眼光は獣のそれだ。かつてこれだけの敵意に満ちた視線を向けられたことなどない。

 今、不破は太一を明確な敵と認識している。


「いい加減にその口を閉じろ……そして二度とアタシの前であいつのことを口にすんな!」

「……好きに殴ってもらって構いません」


 太一は彼女に腕を、もう一度掴んだ。


「怒鳴ってもいい、嫌いになってもいい、拒絶してもいい。僕は何度でも言います。西住くんと、話し合ってください。納得できないかもしれない、許せないかもしれない……でも、それで僕は、不破さんが前に進めると信じてます」

「……話になんねぇ」


 不破は太一を放すと「帰る」と踵を返した。

 しかし、太一はベンチから立ち上がり、彼女の前に回り込んだ。


「どけ。まじで一発ぶん殴られてぇのか?」

「いえ……今の不破さんが、僕の話を聞いてもらえないことは分かりました。なので、提案です」

「は?」

「週明け、体育祭があります。僕と不破さん、確か同じ競技に出場する予定でしたよね」


 バスケットボール。人数合わせてあの協議に決まった時は、あんな如何にも陽キャしか集まらないようなスポーツに自分が参加するなんてありえない、などと思っていたが。


「男子と女子でそれぞれにトーナメントが組まれます。そこで、どこまで勝ち進めるか勝負しましょう」

「は? アタシ、普通に決勝まで行くし、優勝すっけど」


 相当な自信だ。体育祭の競技は基本的に該当する部活に所属しているメンバーは外される仕組みになっている。実力差が出てしまうことが多いからだ。

 つまり、単純な身体的機能の勝負になるパターンが多い。

 今の不破はガチな運動部と比べてそこまで技術力は高くない。それでも今日まで続けてきたダイエットやスポーツで確実に体力がついており、女性にしては高い身長もあいまってフィジカルもなかなかのものだ。


 十分に優勝を狙えるポテンシャルを秘めている。


「なら、僕も決勝まで進みます、優勝もします。もしそうなったら、お互いの所属チームでどれだけ点数を稼げるか……そこで勝負しましょう」


 それで、もしも自分が勝ったら。


「西住くんと、ちゃんと向き合うって、約束してください」


 そして、もしも自分が負けたら、


「絶交でもタコ殴りでも、なんでも不破さんの言うことに従います」

「…………」

「不破さんは、僕なんかを相手に、逃げたりしませんよね?」


 ――ビキッ、ビキッッ!!


 冷や汗を流しながら、太一は不破を挑発した。


「調子に乗ってんじゃねぇぞ……ああそうかよ! そんなボコボコにされてえならお望み通りやってやるよ! 勝負だ? アタシにケンカ吹っ掛けたこと! 死ぬほど後悔させてやっからな!!」


 不破は太一にわざと肩をぶつけながら、乱暴な足取りで遠ざかっていく。

 それは、不破との勝負が、正式に交わされたことを意味していた。


 騒ぎを聞きつけた霧崎たちが「何事」かと駆け寄ってくる。


「すみません、僕」


 事情を訊いてくる彼女たちに、太一は苦笑しながら、


「はは……不破さんと、喧嘩することになっちゃいました」



 ( ´・( ´・ω( ´・ω・`)え?( ̄▽ ̄;)アハハ…



太『――というわけでして』

西『お前さ、マジか?』

仲『頼んだ俺が言うのはなんだけどよ

  マジ太一なんで毎回トラブル起こしてんだよ…』

太『成り行きです』

仲『それ言ってれば何でも許されるわけじゃねぇからな』



 その日の夜、太一はさっそく今日の一件を仲持に連絡した。

 すると、太一は西住たちのLINEグループに招かれ、今日の顛末を説明するよう促された。


仲『まあ元々はトオリの問題だから

  太一を責めんのはお門違いなのは分かってけどよ』

西『うっせ

  悪かったな』

仲『今さら拗ねんなって

  勝負とか面倒なことは確かだけどよ

  キララから完全無視されるよりマシだろ』

太『すみません

  あの場ではこうでも言わないと

  不破さんにうやむやにされそうだったので』

仲『どうするトオリ?

  状況はどおあれ太一はやることはやった

  最後はお前の判断だぞ』

西『分かってるよ

  てか、もうやるしかねぇだろ

  俺らもバスケ選択してんだから』

仲『大場おおば垣崎かきざきはバスケ部だから参加できねぇけど

 トオリがいりゃギリ優勝までいけっか?』


 大場茂おおばしげる垣崎剛きざきつよしは西住グループに所属する残りの男子メンバーだ。二人は幼馴染で、二人でバスケ部に所属している。二人ともお調子者なところがあり、そのノリは軽く太一は少し苦手意識を持っている。


大『いやどうだ?』

垣『最近は絡みねぇけど

  キララ男子に交じっても

  フィジカル負けてねぇから』

大『普通の女子相手だと

  マジで無双ゲーんなるかもな』

仲『ああ…俺あいつにふっとばされたことあるわ』

太『不破さん、喧嘩強そうですもんね』

西『そうかもじゃなくて

  ガチでつえ~んだよ

  バカみてえに』


 開いた口が塞がらない。

 ゲストである太一に西住たちは割と普通に接してくれている。

 しかし不破と勝負するということに対してなかなか前向きな発言が出てこないあたり、やはり不破という存在は彼らをしても恐れる存在らしい。

 

 改めて、不破の大きさを思い知らされる太一であった。


 ……でも。


太『勝つしかありません

  今回は直接勝負する形式じゃないので

  勝ち抜きと得点さえ稼げれば』

西『簡単に言うんじゃねぇよ』

仲『3年は受験シーズンとか就活とかで

  ガチでやる参加する感じじゃねぇけど

  それでも運動部中心のメンツで

  チーム組まれるとキツイかもな』

大『つっても3年はそこまで運動できるって奴多くねぇし』

垣『トオリが前でて得点稼げりゃワンチャンあんだろ』

西『まぁ実質俺がキララと勝負するみてぇなもんだしな』

太『いえ』


 そこで太一は間に割り込み、


太『僕と不破さんの勝負でもあります』


 こうなった切っ掛けはなんであれ、不破の目は確かに太一を勝負の相手と見据えていた。

 自惚れるつもりはない。

 しかし、いつしか太一は、不破から「相手にされる」存在になっていた。


 西住と仲持はクラスの中心人物なだけあって運動もかなりこなせる。逆に太一はそこまでスポーツは得意じゃない。技術的な面だけでいえばむしろ足手まといかもしれなかった。

 それでも、西住と仲持におんぶに抱っこではいられない。


 ……今さら練習したところでそこまで技術は向上しない。


 大場や垣崎にアドバイスをもらっても焼け石に水だろう。

 それなばら、自分にできることでチームに貢献するしかない。


 ……僕ができることは。


 夏休みの浜辺で、不破とビーチフラッグで勝負した時のことを思い出す。

 太一が、初めて不破から勝ち取った白星。

 

 ……足の速さで、不破さんと勝負する。


 そして――日曜、月曜の朝。

 不破は宇津木家の敷居を跨ぐことはなく、次に太一が彼女と顔を合わせたのは、体育祭当日の教室の中だった。



 (・ω ・ )○オ――!!

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