表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
5:宇津木太一は負けられない
160/175

大波乱の予感……望むところ!

 ――不破と衝突する数時間前。


 週明けに体育祭を控えた週末。


「初めまして。秋穂の母で、羽奈はなといいます。先日までご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした……こちら、つまならないものですが」


 不破の母親と名乗る人物が、休日の宇津木家を訪れていた。彼女は対応する涼子に菓子折りの入った紙袋を手渡す。


「わざわざご丁寧に、ありがとうございます。うちの弟も、秋穂さんと一緒で楽しかったみたいですし、あまり気に過ぎないでください」

「いえ、秋穂からお話は聞かせていただきました。あの子があんなに喋ってるところを見たのは本当に久しぶりで……弟さん……太一くんには本当にお世話になりました」

「うちの愚弟が少しでもお役に立てたなら、よかったです」


 リビングで涼子と会話するは羽奈は姉弟の母親なだけあって容姿がとても優れている。もう四〇を超えているそうだが、二児の母とは思えないほどに若々しい。

 とはいえ、最近は秋穂を含めた家庭の問題で少しだけ白髪が増えたという。


 羽奈いわく、秋穂が昨日に家へ帰宅してから、西住も交えて彼女とゆっくり話をしたらしい。


「正直、大学でなにかあったんだろうな、とは思っていたんですが、全然話をしてくれなくて……昨日、ようやく色々と打ち明けてくれました」


 彼女は常に両親から期待され、それを自分が裏切ってしまった後ろめたさで悩みを打ち明けることに躊躇してしまった。

 なにより、大学で打ちのめされてしまったことに、秋穂は恥を感じていたのだろう。


 それが、悪い方悪い方に転がり、今日にいたってしまった。


 大学で所属したサークルが、名ばかりの飲みサーで、まともに活動しようとしていた人間はゼロ。秋穂は状況を変えようと苦心し、走り回ったが、それも空回りに終わってしまった。

 挙句、弱っていたところに当時付き合っていたカレシの浮気が発覚。


 これまで大きな失敗という失敗を経験してこなかった秋穂の挫折。


「こう言ってはなんですけど、話を聞けて少しだけ安心したんです……娘は何か、もっと大きな問題を抱えているんじゃないかと思っていましたから」


 それこそヤリサーに所属や、活動家といった思想の強い組織に入ってしまい、精神を壊されたのではないかと危惧もしていたくらいだ。


「とはいえ、あのにとっては大きな問題だったんでしょう……うちの娘は、勝手に強い子なんだとばかり思っていましたが、やはり女の子ですね。繊細で傷付きやすい。もっと……ちゃんと見てあげていればよかった、甘やかしてあげればよかったと、反省しています」


 羽奈は苦笑する。今回の一件で彼女も自分を責めた。

 親に頼ることができないのは、子供の性格もあるが、親自身も子供が『頼っていい相手なんだ』と思ってもらえなくてはいけない。


「家に戻って、秋穂さんはどうですか?」

「ええ。今日は久しぶりに、弟と出掛けるみたいです。本当は娘と一緒にご挨拶に来たかったのですが」

「いえ、せっかくの機会ですし」


 まだまだ、西住一家の中には小さなわだかまりが残っている。秋穂たちの父親はいまだ腫物を扱うように動きは慎重だし、西住も(だいぶ緩和)されたとはいえまだまだ姉に対する態度は固いものがある。


 それでも、姉弟ふたりが歩み寄りを示したことに変わりはない。良くも悪くも、これからが肝心だ。


 涼子は暗くなってしまった話題を変えるように「せっかくですし、お茶にしませんか?」と提案。


 涼子と羽奈は、お互いにひきこもりになってしまった家族の面倒を見ていた、という経験から意気投合。色々と当時の話で盛り上がったり、また反省会をしてみたり。


 外に気持ちを吐き出せなかった羽奈も、涼子の会話を楽しんでいる様子だった。


「それでですね、お姉さんにこんなことを言うのはどうかと思うんですが……あの子、今回のことで太一くんのこと意識してるんじゃないかと思うんですよ」


 家に帰ってきてからの秋穂の話題は、太一に言及したものが非常に多かった。


「まだ学生とはいえ、成人したあの子が高校生の男の子と……というのはさすがにどう対応したらと思いまして」

「そうですね~……良識の範囲でしたら、別にお付き合いをすることを私は反対したりはしませんけど……」


 ただ、


「うちの愚弟、今は少しだけ、面倒なことになっていまして」

「と、いいますと?」

「あの子、別の女の子からもアプローチされてるみたいなんですよ……本人は戸惑ったり、気付いていないみたいなところがあるんですけど」

「あらまぁ」


 涼子は苦笑し、羽奈は興味を引かれたように少しだけ前のめりになっていた。



 。:+((*´艸`))+:。



 一方、太一は朝から不破たちから呼び出しを受けていた。


 最寄駅から出ているシャトルバスに揺られること20分。

 地元でも有名な大型ショッピングモール。多くのテナントが軒を連ね休日ともなれば人でごった返す陰キャお断り(個人の感想です)な施設である。

 あまりにも多くの店舗が並んでいるため無目的で回ると全く時間が足りない。


 しかし今日はいつものギャルズたちにより太一は全く興味関心のないブティックの店に連れ込まれたり、小物雑貨を取り扱う店舗をハシゴさせられり……


 いつぞやのコーディネート会を思い出させるシチュエーションだが、今回は前回よりもなお悪い。

 なにが悪いってそりゃあんた、ブティックってそもそも女性モノの服飾雑貨を扱うお店だから。

 男が入ったらその時点で完全にアウェーなんですよ。

 なのに太一はギャルたちに首根っこを押さえられて連れまわされるこの仕打ち。

 これはもう市中引き回しと同レベルの刑罰ですよ。


 しかも、


「ねぇたいちゃん、これとかどう? あーしってあんまこういう系統着たことないんだけどさ、どう思う?」


 などと言いながら試着室のカーテンを開けて出てきた大井。

 デニムのパンツにボーダーニット。メンズ寄りなコーデで中世的な大井の容姿とよくマッチしている。


「いいと思う」

「たいちゃん」

「はい」

「真面目に答えて」

「ええ……」


 最近ようやくアパレルショップに入れるようになったばかりの太一。そんな彼に的確な感想など出てくるはずがない。


 彼女は普段ガーリー系のファッションがスマートカジュアルで固めていることが多い。大井家の跡継ぎとして育った彼女は時代遅れにも『女性らしさ』を周囲に求められていたこともあり、ワンピースや丈の長いマキシスカートにブラウスなど落ち着いた印象の服装が多かったらしい。


「……ちょっと、男子っぽいかも」

「たいちゃんはこういうのキライ?」

「いや、似合ってると思う」

「ふ~ん、そっか。OK」


 候補の一つかな、と言いながら、大井は再び試着室の中へと消えていった。

 

 ……つ、疲れる。


「ねぇウッディ~、ちょっといい~?」

「は~い」


 今度は霧崎に呼び出される。

 試着しようとした服のサイズが合わなかったとかで、ワンサイズ小さいモノを持ってきてほしいとか。


「よろしくね~。あ、それと試着したら感想よろ~」

「……」


 太一は渡された服を腕に抱えてその場を離れるなり「はぁぁぁぁ~~~~」とクソデカ溜息を吐き出した。


 ショップのスタッフに同じものでサイズ違いがないかを尋ねる。

 声を掛けられた女性スタッフは太一の鋭い眼光に頬を引きつらせていた。本当に悪さしないなこの目つき。


「こ、こちら、同じ色はちょっと……別のお色でしたら~……」


 涙目で謝罪してくるスタッフ。太一は無理やり笑みを浮かべてみるも顔の凶悪度が上がっただけであった。はてさてこれはいったいどっちを慰めるべきか。


 太一はとりあえず用意できる中で同系統の色味を選択して霧崎に手渡した。


 そしてしばらく。


「ウッディ、どうどう!? けっこういい感じだと思うんだけど!」


 そういった霧崎の服装はトラックジャケットにショートパンツ、試着室から出て霧崎はロングブーツに履き替えて全体像を鏡で確認した。


「上はいいですけど下は寒そうですね」

「そういう実用性重視な発言禁止。ファッションは我慢」

「……」

「で、感想は?」

「オニアイデス、ハイ」

「てきと~かよ~。もっと具体的な感じで」

「……可愛いと思います、はい」


 もう誰かタスケテ。

 お店のスタッフからは無駄に怖がれるわ女性陣(特に大井と霧崎)からやたらと感想を求められるわ……


 メンタルポイントが久しぶりに削られていく音が消えてるようだ。


 ゴリゴリゴリ……


「お~い! 宇津木~!」

「太一くん、ちょっといい~?」


 そして、今度は不破と鳴無である。

 太一はなかばやけくそになって、


「今行きます!」


 と、ショップを(良識の範囲)で駆け回った。

 女子に囲まれてキャッキャウフフ? そんな寝言をほざく奴の枕元にシュールストレミングを進呈してやる、ありがたく受け取れ。


 ――そして、ギャル四人に連れまわされた太一は、ぐったりとベンチにもたれ掛かり、完全に溶けていた。


「すっごい帰りたい」


 切実な呟きが漏れ出ていた。

 姉の買い物に付き合わされたことは過去に何回かあるが、あれの比ではない。


 さすがに見かねたのか鳴無が「ちょっと休ませてあげたら」と提案し、今はギャル4人で近くのセレクトショップを物色している。

 この時ばかりは鳴無のことが本気で女神に思えた。

 中身はかなり真っ黒な外面お清楚だが……


 ブー、ブー、ッ。


「ん?」


 太一のスマホが震えた。まさか舌の根も乾かないうちから不破たちから呼び出しを受けたのかと思ったが、相手は秋穂だった。


『こんにちは

 実はさっきまでりゅうちゃんと外でご飯食べてたんだ

 弟と久しぶりに色々話せたよ

 これも宇津木君のおかげだね

 本当にありがとう』


 という内容のメッセージ。

 可愛らしい白熊のスタンプも送られてくる。

 この様子なら、西住との姉弟デートはうまくいっているようだ。


『りゅうちゃんにね

 大学のこと話してみたの

 そしたら』


『そんなくだらねぇ連中のことなんか放っておけばいいだろ』

『そういう奴らは何言っても無駄

 バカはどこまでいってもバカ

 付き合うだけこっちが損してバカみんぞ』


『だって…

 もうボロクソ』


 秋穂の砕けたメッセージに太一は思わず笑みが零れた。

 西住も口調は悪いが、やはり姉のことを気に掛けていたのだろう。


『前の私だったら、きっと否定してたけど

 今は、そういうダメな人がいて、

 そういう相手と関わったらダメなんだな

 って思うようになった』

『これから社会に出たら

 こんな感じですれ違うのが当たり前になるのかもしれないね』

『あ、ごめんね

 急にネガティブな内容送っちゃって』


 手を合わせる白熊スタンプ。

 それに太一は、


『大丈夫です

 僕でよければ話くらいは聞きますから』


 と送っておいた。

 別に格好つけたつもりはない。

 これから先、自分にできることは本当にそれだけになる。

 自分はヒーローではない。できることは限られているし、所詮は高校生だ。

 家計を支えている姉には到底及ばないし、いつだって力不足を痛感している。

 そんな自分が、他人にしてやれることは多くない。

 それでも、少ない手札で、できるを考えていくしかない。


『ありがと

 よければ今度なにかお礼をさせてね

 それじゃ』


 秋穂とのやりとりを終えて、スマホをポケットにねじ込む。

 すると、


「隣、邪魔すんぞ」


 店から出てきた不破が太一の隣に腰掛けた。


「もういいんですか?」

「アタシの趣味じゃなかっただけ」

「そうですか」

「ていうか、あんたはなんか服見たりしねぇの? あそこ、メンズも普通に扱ってんぞ」

「いえ、僕はいいです」


 バイトもしていない太一には、そこまで服に予算を割く余裕はない。

 さすがに、そろそろ自分もなにか始めたほうのがいいのか、と思ったり思わなかったり。


「しっかし、あの姉貴もついに帰っちまったな~」

「はい。少し寂しいですね」

「なんだ~? あんたやっぱあの姉貴に気が合ったのか~?」

「そういうじゃないです、本当に」

「ふ~ん? でも、せっかく見た目良くしたのにあのバカの反応が見れなかったのはちょい残念だったかもな」


 不破が秋穂に協力していたのは、西住に対する当てつけの意味が強かった。

 とはいえ、不破が秋穂を気に掛けていたのも事実で、少しでも自信を取り戻せたならそれでいい、といった感じのことを口にしていた。

 

 彼女は努力する人間を笑わない。

 容姿も口調も派手ではあるが、太一は彼女の人間性を信頼していた。


 ――だからこそ。


「あの、不破さん」

「うん?」

「少しだけ、相談したいことがあるんですけど」

「んだよ改まって」

「はい、実は――」


 太一は、これから起きるであろうことをどこかで予測しつつ、不破に西住との話し合いに応じるよう、説得を始めた。



 (`・ω・´)キリッ

更新が遅くなって申し訳ありません。

明日と明後日は更新をお休みさせていただきます。

次の更新予定は22日(金)の予定です、お楽しみに!


作品が面白かった、続きが読みたい、と思っていただけましたら、

『ブックマーク□』、『評価☆』、「いいね♪」をよろしくお願いいたします。

また、どんなことでもけっこうです。作品へのご意見、感想もお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ