表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
5:宇津木太一は負けられない
159/175

身内になると相手に求めることが『当たり前』になっちゃうから

 翌朝。

 恒例となった校舎裏にて。


「とりあえずトオリのはそれとなく話しといてやったぞ」

「ありがとうございます」

「お前さ、なんでキララの説得頼んでんのにトオリの姉貴の面倒見てんだよ」

「成り行きです」

「まぁそうなんだろうけどよ……お前に関係ねぇじゃん? あいつらの家庭事情とかよ」

「そうなんですけど、色々と話を聞いちゃったら放っておけなくて」


 秋穂の状況は他人事とは思えなかった。

 過去に太一自身が自分の殻に閉じこもり、以降も引きずられて自虐的になり、不破と接するようになるまでずっと外では独りで過ごしていた。

 太一には手を差し伸べてくれる涼子という存在がいてくれた。

 しかし秋穂は家の中でも居場所を見失ない、弟から毛嫌いされて精神が余計に摩耗していたように見えた。

 そうでなければ、知り合って間もない年下に助けを求めるとは思えない。


「ふ~ん……まぁいいけどよ。トオリも渋い顔しつつ会ってもいいみたなこと言ってたしな。とりあえず、昼休みに学食に来いってよ」

「わかりました」

「体育祭までもう時間ねぇし……もうダメかもしんねぇな」

「時間があるだけやってみましょう」


 今日の西住の反応次第では、いよいよ不破に彼との対話を促す切っ掛けを得られるかもしれない。


「最後まで頑張ってみます」


 止まれば成果は得られない。足掻いて必ず結果が出るわけではないが……


「諦めるにはまだ早いです」

「……お前、ほんと変わったよな」

「不破さんたちとずっと一緒にいたので」

「まぁアレは影響受けるわな」


 仲持は「しばらくしたら戻るわ~」と手をヒラヒラ振って太一を見送った。



 ( ・ω・)・・・



 ――昼休み。


 太一は一人学食を訪れた。

 昼時のここはいつ来ても賑わいがクライマックスしている。確か先日、謎の新製品が新たに追加されたとかいう情報が霧崎経由で入っていたことを思い出す。

 なんでも今期の生徒会長が、副会長時代から購買に入荷しようと画策していた商品を会長になってすぐに試験的に取り入れたらしい。

 先日の選挙で顔を合わせて神経質な眼鏡の少年を思い出す。職権乱用というか行動力の塊というか。

 ウマいマズイはひとまずおいといて、新しいものにはとりあえず飛び付いておくという生徒がこぞって新製品を求めているようだ。実にご苦労な事である。


 弁当を持参した太一は目的の人物を捜して首を巡らせる。


 目的の相手は珍しく一人、入り口から最も奥まった席で既に月見そばをすすっていた。近付くと、西住は太一に気付いて顔を上げる。


「よぉ」

「急に呼び出してすみません」

「別に……それで、何の用だよ?」

「仲持君から話とか聞いてないですか?」

「なんも聞いてねぇよ」

「そっか。まぁ用事って言っても大したものじゃないですど。ただ、西住くんにこれを見せようと思っただけです」


 太一はスマホを取り出して、昨日の夜に撮影した秋穂の写真を彼に見せた。


「お姉さん、頑張ってます」


 新しい服に身を包んだ秋穂の写真。

 恥ずかしそうにしつつも、はにかんだ笑みがとても愛らしい。

 少なくとも、少し前までの非常に陰鬱とした雰囲気から脱却し、持ち前のビジュアルの良さが強調されている。


「なんのつもりだ、これ?」

「昨日、不破さんたちと服を買いに行ったみたいです」

「は?」

「この前、西住くんの言っていたことについて、色々と誤解を解いておきたいと思います」


 眉間に皺を寄せる西住に対し、太一はどこか一方的に言葉を投げ続ける。

 太一はコミュニケーション能力に優れているわけではない。

 ここで西住に席を立たれてしまえば引き留めるのは容易ではないし、言いたいことも言えなくなる。

 会話に対しての採点は間違いなく赤点だろうが、今は自分の考えと秋穂の状況を西住に伝えたかった。


「まず、秋穂さんと僕はお付き合いしてるとかそういうことはないです。それで秋穂さんが色気を出したとか、そういう誤解はしないであげてください」


 まずひとつ。


「それと、秋穂さんは精神的が落ち込んで厳しい状況にありました。外見を維持できなくなるほどに。もしも西住くんが外見を気にしてお姉さんに辛く当たるなら、それは余計にお姉さんの見た目を悪くするだけです」


 ふたつ。


「秋穂さんは自分のダメなところを素直に受け入れて改善できる人です。正直僕もビックリしました。秋穂さんは想像以上にストイックで、今も頑張って今の自分を変えようと努力している……西住くんには、秋穂さんのそんなところもしっかりと認めてあげて欲しいと思います」


 みっつめ。


「その上で――」


 これが、最後。


「僕は、君に秋穂さんを迎えに来て欲しいと思ってます」

「…………お前」

「僕が伝えたいことはこれだけです。すみません、一方的に話しちゃって」

「チッ……お前さ、身内のファッションショー見せられる相手の気持ちとか考えたか、あん?」

「でも、ちゃんと見てください」


 今一度、太一はスマホを西住に押し付けた。

 ここで引けば自分のことだ、ずるずると逃げ腰になって相手に押されるのは目に見えている。

 ここは、絶対に自分が一方的に押していかねばならないタイミングだ。


「お姉さん、すごく綺麗になりました」

「…………チッ」


 西住はスマホを突き返した。


「お前に言われなくても、姉貴の元が良いのは知ってんだよ」


 彼は大きくため息を吐き出し、太一から視線を外して窓の外に目を向けた。


「昔から姉貴にはなにしても敵わなかった。成績も運動も、なんでも俺の前を行きやがる」


 生まれが早いとか遅いとかそういう話ではない。

 秋穂は間違いなく誰もが認める優秀な人間で、西住自身もそれを素直に認めていた。


「ガキの頃は憧れてた時期もあったよ、あいつに……やたらと俺の世話焼きたがるところはすげぇウザかったけどな」


 などと口する西住の口調はどこか拗ねた子供を思わせた。


「……いつかぜってぇ追い越してやる、なんて……ガキみてぇに無駄に熱くなってた……だってのに、あいつ。俺が中学卒業する直前にいきなりダメんになりやがった」


 家にひきこもって、飯もまともに食べず、日課も習慣も全て投げ捨てて、薄汚れていくその姿は、西住が最も嫌いなタイプの人間のそれだった。


「頭じゃ分かってんだよ。それが俺の八つ当たりだってのは……」


 憧れた人間が堕落していく。

 それは彼にとって、見るに堪えないものだった。

 自分の身内が、自分の最も嫌うタイプの人間だなんて事実を認めたくなかった。


 だからこそ、


「西住くん、お姉さんに否定してほかったんですね」


 今は少し調子が悪いだけ。

 ちょっと発破を掛けてやれば、あの姉のことだ。

 弟に舐められた悔しさですぐに挽回してくるはずだ。

 

 ……しかし、現実はそう甘くない。


 彼の言葉は秋穂を余計に追い詰め、ただ事態を悪化させただけ。そして彼も、どこか引っ込みがつかなくなっていたのだろう。


 ……もしかして、西住くんが不破さんをフッたのって。


 一つの可能性が脳裏をよぎる。

 しかしそれは都合の良すぎる考えだろうか。

 仮にそうだったとしても、彼のしたことは決して褒められたことではない。


 もし、彼が姉や不破に思うところがあったのなら、拒絶と非難ではなく、寄り添ってあげなくてはいけなかった。

 身内に親身になることは気恥ずかしさもあるかもしれない。彼は素直とは言えない性格のようだし、不器用なところもあるようだ。

 それを加味しても、先日の公園での発言はいただけない。


「とりあえず、僕は待ってますから。連絡先、教えてもらっていいですか?」

「…………ほらよ」


 ぶっきらぼうに、どこぞの金髪ギャルが不貞腐れた時とよく似た仕草で、彼はスマホを太一に差し出した。

 メッセージアプリのIDを交換、太一はその場を後にする。


 姉との確執をどうにかする気があるのなら、彼から謝罪するより他にない。それは不破に対しても同様だ。

 しかし、太一はあえて「誤ったほうがいい」などとは口にしない。

 それは、決して強制されてやるものではないからだ。


 太一は、西住を信じることにした。

 彼は粗野で口が悪いところもあるが、性根が腐っているわけではないことは明らかだ。

 きっと、彼ならこれ以上選択を間違えたりはしない……太一はそう、信じてみようと思った。


 ――それからさっそく。


 放課後を迎えてマンションに帰宅した太一のスマホが震え、


『明日

 朝に姉貴を迎えに行く』


 と、連絡がきた。

 以前、彼と揉めた公園……そこに、秋穂を迎えに行くと。


 太一はその旨を秋穂に説明し、どうするか訊いてみると。


「うん。わかった……じゃあ、明日になったら、家に帰るね」


 そして翌朝、


「たまに、遊びに来てもいい?」

「好きな時に来てください」

「うん、ありがとう、宇津木君」


 そんな約束を交わして、秋穂の家出は幕を閉じた。

 少しだけ広くなった部屋に寂しさを覚えながらも、直後に秋穂から、


『りゅうちゃんと

 久しぶりにお出かけすることになりました』


 というメッセージが送られてきたことに、太一は安堵した。


 ――そして、二日後。

 いよいよ体育祭を目前に控えた時、


『太一

 トオリがキララと話したがってる

 なんとかセッティングできね?』


 と、仲持から連絡を受けた。

 彼曰く、これまでどれだけ「不破と話し合え」と言っても空返事そらへんじだった西住が、ようやく仲持たちの声に耳を傾けたという。


 太一はそれに、


『分かりました

 不破さんと相談してみます』


 そう返したのだが……


「――ふざけんな!! 今更あいつをなに話すってんだ!? また喧嘩しろってのか! あん!?」


 不破の拒絶は、太一の想像以上に強いことを、すぐに思い知らされることになった。


 (# ゜Д゜)!!

作品が面白かった、続きが読みたい、と思っていただけましたら、

『ブックマーク□』、『評価☆』、「いいね♪」をよろしくお願いいたします。

また、どんなことでもけっこうです。作品へのご意見、感想もお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ