その手を取る責任は存外、重いぞ?
太一は自室に籠って秋穂の見た目改善プランを練っていた。
ちなみに、以前霧崎と買って来た伊達メガネも掛けている。なにげにブルーライトカット機能付きだった。
押しかけて来たギャルたちには両親の部屋を使ってもらうことにした。
秋穂は姉の涼子の部屋に布団を持ち込み、そこで寝てもらっている。
大井や霧崎は太一と同室を希望していたが、さすがに今回は断った。当然、集中させてもらうためだ。
「う~ん……外見的な改善を目指すにあたって、どうするか……」
いや、そこはむしろ太一の領分ではないような気がした。
不破の時は体重減という目標を掲げ、運動や食事改善でどうにか理想体型を手に入れたが。
秋穂の場合はどちらかといえば、あの弱り切ったメンタルをどう上向きにするかが重要だ。
「やっぱりマストなのは運動なんだろうけど……」
いきなり激しい運動を取り入れても『キツい』という思いが先行し、結果が出るのも遅いため長続きしない。
ラジオ体操レベルの運動でも効果はあるし、第一だけならそこまで大きな負荷ではないはずだ。
「ランニング……は少し重いかな」
秋穂はかつて陸上をしていたという。しかし使ってこなかった体をいきなり酷使するのは厳しい。徐々に慣らしていくのがいいだろう。
なら……
「『朝習慣』を取り入れてみようかな」
ネットから拾った情報、以前買った書籍の中身をひっくり返し、太一は今の秋穂に必要だと思えるプランをひねり出していった――
_φ(-ω-`*)メモメモ
太一がネットと睨み合っていると――コンコン、とノックが鳴った。
「はい?」
姉ではないだろう。彼女はノックせず、部屋の外から声を掛けてくる。
『あの、宇津木君……今、ちょっといいかな……?』
遠慮がちな声。
太一が部屋の扉を開けると、そこには姉の寝巻に袖を通した秋穂が立っていた。
寝巻はサイズがあってないせいかブカブカだ。
「なんか、部屋から明かりが漏れてるみただったから、まだ寝てないのかな、って」
「ええ、ちょっと調べ物を」
「そうなんだ……もしかして、邪魔しちゃったかな?」
「大丈夫です。あ、とりあえず……入りますか?」
「う、うん……」
知人の姉を部屋に入れる。何とも言えない気分になる。
別にやましいことをしようとかそういうことではないが、どこか落ち着かない。
「すみません、あまり綺麗じゃなくて」
「ううん、りゅうちゃん……弟の部屋と比べたら、ちゃんと片付いてると思うよ」
「なら、良かったです」
「うん……」
それから、少しだけ沈黙。
太一は椅子をすすめて、自分はベッドに腰掛けた。
「あれ? これ……」
が、咄嗟に自分が選択をミスしたことに気付かされる。
秋穂が座った椅子の正面、いつも太一が使っている机の上に開かれたノートPCには、先歩まで秋穂のために情報を集め、内容をまとめている状態が表示されていた。
「あ、ああっ、それはっ!」
秋穂はじっとPCの画面を注視。
太一は慌てて立ち上がったが、彼女は苦笑して見上げてきた。
「これ、もしかして私が弟に色々言われちゃってから、宇津木君になりに気を遣ってくれたのかな?」
彼女は「あはは……」と、相変わらず自嘲的な笑いを漏らす。
その姿を、太一は見ていられなかった。
「秋穂さん、無理に笑わなくて、いいと思います」
「え?」
「辛い時に、辛いって気持ちを吐き出しても、いいんです」
それはいつだったか、不破が太一に掛けてくれた言葉だ。
「でもさ、私……ほら、なんていうか、お姉さんだし」
「秋穂さん」
「っ」
「大丈夫です」
秋穂は下唇を噛んで、太一から目を逸らした。
「宇津木君、優しいね……つい、この前会ったばかりなのに」
「まぁ、僕も秋穂さんと似た様な経験、したことがあるので」
太一は自分がひきこもりになった事実を説明した。
「そんなわけで、秋穂さんの現状と、昔の自分を重ねちゃったりして……あはは、お節介ですね」
「そんなこと、ないよ」
秋穂は、少しだけ赤くなった瞳を向けてきた。
「宇津木君は、すごいね……それに比べて、私は大学にもいかないで、毎日毎日……家で、なにしてるんだろ、って……もう、頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃて」
「はい」
分かる。
「今のままじゃダメだな、って思うんだけど……どうしたらいいのか、分かんなくて……」
「そうですよね」
知っている、その気持ちを。
「私なんか、いらないんじゃないかな、って……夜に寝れなくなって、ね……」
「一度考えると、止まらなくなっちゃいますよね」
落ちた精神は、どこまでも自分に厳しく、何に対しても自罰的になっていく。
太一も、そうだった。
「私……どうしたらいいかな?」
その言葉は、秋穂の伸ばしてきた手だ。
太一は、それを受け入れる。
「秋穂さん」
「うん……」
「僕がお手伝いしても、いいですか?」
「めいわく、じゃないかな……」
「いえ、むしろ……ありがとうございます」
今の秋穂が気持ちを語るというのは、言うほど簡単な事じゃない。
「色々話してくれて、ありがとうございます」
「~~っ……」
秋穂はもう、なにも語れなかった。顔を隠し、泣き顔を隠す。隙間から漏れるか細い声に、溢れた雫。
太一はタオルを貸して、彼女の気持ちが落ち着くのを、静かに待った。
……僕に、どこまでできるか分からないけど。
彼女が伸ばした手を取った責任を、果たす。
たとえ傲慢とそしられようと、太一は彼女を、助けると決めたのだ。
((( ; ´•ω•` ; )))
「――お~い……マジで勘弁してくれよ……」
昼休み、太一は仲持を校舎裏に呼び出して先日の一件について説明した。
メッセージアプリ越しでも良かったが、さすがに内容が内容なので、直接会って話そうと思った。
「どおりで、今朝からあいつの様子がおかしいと思ったんだよ」
パック飲料をずぞぞぞ~っと啜りながら、仲持は天を仰いだ。
「で、どうすんだよこの状況」
「ひとまず、秋穂さんの状況を改善しないと、なにも始まらないと思います」
「なんか考えとかあんのか?」
「……不破さんの受け売りですけど、とりあえず秋穂さんの見た目を改善して、西住くんのお姉さんを見る目を変えようと思います」
「それすぐに決着つくのか? 体育祭までもう1週間程度だぞ? それ以前に、今のキララとトオリの雰囲気は最悪だ。見てるだけで分かるくらいにな」
「たぶん、僕は今回の関係修復は、西住くんが重要だと思ってます」
「あいつの方が悪い、ってわけか?」
「いえ、西住くんからは、どこか本音が見えてこない気がしたので」
「本音……ねぇ」
確証はない。ただ、やはり太一には、西住の態度に違和感が拭えずにいた。
「とりあえず、なんとか宥めてはみっけど、あんま期待すんなよ」
「はい」
「それから、あいつの姉貴を気に掛けんのはいいけど、不破のことも忘れんなよ」
「もちろんです」
本来の目的を忘れたわけじゃない。
ただ、そのためにはきっと、秋穂の一件は無視してはならない。
思いがけず、西住のプライベートに触れてしまった太一。
それは思いのほかデリケートで、扱いを間違えてはいけない。
「また進展があったら連絡します」
「次はもっとポジティブなヤツにしてくれよ?」
「はい」
「てか、あいつの姉貴……あきほ、だっけ? 見た目変えるって言うけどよ、具体的に何してんだ?」
「例えば――」
太一は、今朝のことを思い出した。
( ̄ω ̄ )エートォ...
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