なっかよっく喧嘩しな、バカたれ…
「てか姉貴、最近ずっと朝っぱらから外に出てるみてぇじゃん。夜もちょこちょこ出かけてみてぇだし。なに? マジでそういうこと?」
西住の瞳が秋穂と太一を交互に見据える。
そこに不快感のようなものを感じた。
太一は咄嗟に言い訳を考える。
別にやましことなどない。秋穂には相談に乗ってもらっていただけだし、太一も彼女の気分が少しでも上向きになればいいと軽い運動を促した。
そこに西住が考えるような思惑も疑念もありはしない。
が、客観的な事実として、男女が家族にも内緒で秘かに会っていたという事実は、邪推するには十分な動機と言えよう。
「ちょっと前まで部屋から出んのも嫌がってた根暗のくせに、今は随分とめかしこんでじゃねぇか」
西住から露骨なまでに秋穂を嘲る態度が見える。
対して秋穂は何を言い返すでもなく、弟の言葉に俯いてしまった。
「はっ……マジでだせぇ……男できたら色気だして律義に着飾って会いに行くとか、身内として恥ずかしいったらねえ」
「っ、ちがっ……私は別に」
「はっ……マジでイラつくんだよ。あんたみてぇなのが姉貴だと思うだけで吐き気がする。見てくれもクソ、当然な中身もどうしようもねぇほどクソだ。その中途半端に取り繕った格好、最高に気持ちわりぃぜ」
「ちょっ、西住君――」
と、太一が思わず立ち上がった瞬間、不破が彼の脇をすり抜け前に出る。
――バチン!
と、乾いた音が辺りに響いた。
「グーじゃなかっただけありがてぇと思えよ、お前」
「っ……この、キララ!!」
「うるせぇ! そうやって怒鳴り散らせば周りが全員黙り込むとか思ってんじゃねぇぞタコ!!」
鋭い剣幕で両者が睨み合う。
今にも西住に掴みかかりそうな勢いの不破をどうにか霧崎と鳴無が押さえ込む。
それでも不破は前に出ようと暴れ続けた。
「さっきから聞いてりゃ見た目の話ばっかじゃねぇか! ああそういやアタシをフッた時ももっかいアピってきた時も全部アタシの見た目『だけ』で判断したもんなおめぇはよ!」
「ああ!? 人間なんてもんは全部見た目だろうが! やれ中身が大事だ性格さえ良ければいいって綺麗ごとばっか抜かしやがって! 反吐が出んだよ! 俺がお前をフッタ? デブったお前が悪いんだろうがよ!」
「あん!? てめぇもう一回言ってみろやこら!」
「だから! 俺は見た目がよけれりゃそれでいいんだっての! それともなにか? お前は中身がいい奴なら見た目なんか気にしねぇってか!?」
「てめぇの場合は見た目だけだろうがよ!」
「見た目も取り繕えねぇ奴の中身なんかたかが知れてるってもんだろうが!」
「マジで話になんなねぇ、お前……」
今日は西住も引かない。
秋穂が「りゅうちゃんやめよっ! もう私、変な事したりしないから」と、どうにか西住を宥めようとしている。
が、秋穂の言葉を拾った不破が余計にボルテージを上げていく。
「おうキララ? お前最近やたらとそこの宇津木に執心してるみてぇじゃねぇかよ? でもな、そいつが前みたいに卑屈なデブだったら今みてぇに気に掛けてるか? い~や断言する、お前は気にも止めねぇし、こんだけ長くツルもうとだって思わねぇよ。結局はお前も見た目だけで人のこと判断してんだよ!」
「おめぇみてぇのと一緒にすんなカス! 仮にこいつがデブったらもっかいしばきたおして絞るまでだよ!」
ちょっと待って今はそういう話じゃない。
「はん……結局は見た目じゃねぇか……俺はな、見た目が悪くても中身が良けりゃいいなんて妄言は信じてねぇんだよ。その辺のきったねぇ善良なおっさんより、俺はクソみてぇな中身でも外見をしっかり作ってる人間を信用する。まぁ、大抵は外見がクソな奴は中身もクソだけどな。うちのクソ姉貴がいい例だ」
「……どこまでも救えねぇな、お前」
「チッ……お前になんて思われようが知ったこっちゃねぇよ」
すると、西住は踵を返した。
「おいこら! 逃げんのかお前!」
「ちょっ、キララやめなって!」
「きらりん、ちょっと熱くなりすぎ! いったん冷静になって! お姉さんもいるんだよ!?」
「~~~~~~~っ!!」
不破は獣のように低く唸りながら、遠ざかる西住をにらつけてる。
すると、西住はまるでバカにしたような態度で振り返り、
「ああそうだ姉貴。お前が宇津木に惚れんてんなら家に泊めてもらえよ。そいつ、ここ最近は不破とか他の女とか見境なく泊めてるみてぇだからよ」
そのクソみてぇな外見でも受け入れてくれんじゃねぇの?
などと、口走り、いよいよ不破が飛び出しそうになった瞬間、
「西住君」
と、太一が静かに前に出て、
「それじゃあ、お言葉に甘えて、しばらくお姉さんを預かるから。いいんだよね?」
ナイフのような瞳に明確な怒りを宿した太一の相貌は、気性の荒い西住をしても怯ませるには十分な威力を誇っていた。
「君が言ったんだ、文句は、ないんだよね?」
「宇津木……ああそうだよ! 好きにしろよそんな根暗女!」
西住は捨て台詞をその場に残し、公園から遠ざかって行った。
太一は拳をギリギリと握りしめる。
不破ではないが、あの最後の西住の言葉が出た瞬間、思わず彼を本気で殴ってやろうかと思った。
しかし、
……西住君、なんだかすごいムキになってた気がする。
彼の性格は、クラスで不破に次いで苛烈だ。
それにしたって、今日の西住は必要以上に不破を挑発していたし、なんなら太一に対しても敵意を剥いていた。
しかし、そこにはクラスでの衝突とか、そういったものとは違う、なにか別のものが隠れているような気がしてならない。
尤も、あくまで太一の所感でしかないが。
「っ……ごめ、ごめん……ね……」
と、鼻声が聞こえてきて、思わず振り返ると、そこには服の裾をぎゅっと握りしめて、俯きながら嗚咽を漏らす秋穂の姿がった。
大井や霧崎も、さすがにことここに至って彼女を色眼鏡で見ることができず、傍に寄り添ってハンカチを差し出していた。
「ごめんね、皆……わたし、私のせいで……ごめん、ね……」
ずっと謝りっぱなしの秋穂。
太一は彼女にそっと近づき、視線を合わせるように身を低くした。
「秋穂さん、よければ今日は僕の家に来ませんか?」
「で、でも……」
「さすがに、ちょっと気まずいと思いますし、気分が落ち着くまでの間だけでも」
「…………」
秋穂はしばらく立ち尽くしていたが、最後は静かに頷き、了承してくれた。
今は、家に帰るのは精神的にキツイものがあるだろう。
「はぁ……今回はさすがにあーしもなんも言えない……けど」
と、大井が太一の横に並び、
「あーしも今日はたいちゃん家に泊まる! 異論は認めないから!」
「え?」
ん? なんだかこの流れ、ちょっと前にも……
「てか、それならウチも泊まるに決まってるじゃんね?」
「んっ?」
「チッ……おい、宇津木。さすがに色々と話し聞かせてもらうからな」
「え? それって」
「アタシも泊まるって言ってんだよ! それくらい分かれっての!」
「理不尽!」
「はぁ……これは、ワタシもお泊りしないといけない流れだよね~♪」
「鳴無さんは絶対に関係ないですよね!?」
そうして、10月に入って間もなく、太一の家にはまたしてギャルたちが全員集合する流れになってしまったのだった。
……でも、少し賑やかなくらいが、今の秋穂さんにはちょうどいいかもしれない。
あまり放っておいても、ネガティブな思考に支配されてしまうかもしれない。
不破たちギャルの強引さに、太一も救われたことがある。
今は、それを信じてみるのもいいかもしれない。
太一たちは一度そこで解散し、各々に荷物をまとめてから宇津木家に集合、ということになった。
秋穂は、帰りにコンビニ下着だけ買って、あとは姉の服を拝借すればいいだろう。
「秋穂さん、行きましょうか」
「……うん、ごめんね」
「いえ、むしろ遊びに来てくれて、嬉しいです」
「はは……宇津木君は、優しいね」
秋穂の手を取り、歩き出す。
帰り道が同じ大井は、複雑な感情をどうにか押し込めた。
……今だけ、なんだから。
少し頬を膨らませつつ、太一の手を、秋穂に譲った大井だった。
(๑˘・з・˘)
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