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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
5:宇津木太一は負けられない
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この空気耐えられる奴いる?

 完全に太一の不注意である。

 せめて電話がかかってきた時点で教室から移動するべきだったのだ。

 もしそれで切れてしまったとしてもこちらから掛けなおせばいいだけの話である。

 そうすればきっと、こんな事態にはならなかった。


「あん? てめぇもう一回言ってみろやこら」

「だから、俺は見た目がよけれりゃそれでいいんだっての。それともなにか? お前は中身がいい奴なら見た目なんか気にしねぇってか?」

「てめぇの場合は見た目だけだろうがよ!」

「見た目も取り繕えねぇ奴の中身なんかたかが知れてるってもんだろうが」

「マジで話になんなねぇ、お前」


 夕方。日も暮れかけの5時過ぎ……秋穂と会うために訪れた公園で、不破と西住が衝突してしまった。

 霧崎と鳴無はどうにか不破を宥めようとしているが、彼女は西住を威嚇するように睨みつけ、引くつもりはなさそうだ。

 対する西住も、後ろでオロオロと「喧嘩はやめよ、ね?」と、この中で『一番の当事者』であるにも関わらず、なんとか場を治めようと必死な様子だ。


「ねぇ、たいちゃん……なんかこれ、マズくないかな?」


 マズイなんてものじゃない。

 これは限りなく、太一が最も恐れていた事態と言っても過言じゃない。


 太一は後悔する。

 あの時、もしも自分が教室でスマホを取り出さなければ……

 大井たちに秋穂の存在がバレなければ……

 

 だから、こんな事態に発展してしまったのは、やはり太一のせいなのだ……



 il||li (OдO`) il||li



 ――時間は数十分前へと遡る。


 太一の不注意によって秋穂の存在がバレてしまった。

 しかし太一になんら後ろ暗いことなどない。ないはずである。

 実際、彼女に会っていたからといってなにを責められることでもないはずだ。


「太一くん、別にこの中の誰とも付き合ってるわけじゃないわよね?」

「そうですよ」

「そうよね……」


 そう。太一は別にこの中の女子の誰とも交際していない。

 故に、別の女性と会ったところで、それを責められるいわれなどはないのだ。


 5人でぞろぞろと公園へと歩く。

 前を行く不破、霧崎、大井の後ろから、少し遅れて太一と鳴無が続く。


「でも、アッキーの気持ちが宙ぶらりんな状態ってのはあるかもね~」

「それに関しては夏休みに一回答え出てるんですけどね……」

「でも諦められてないんでしょ?」

「まぁ……」

「もういっそのこと面と向かって『嫌い』って言っちゃうとか?」

「それは嫌です」

「即答するわね。でもそんなんじゃいつまでも付きまとわれるかもしれないわよ」


 ま、ワタシとしては好都合かもだけど、などと鳴無は胸中で呟いた。

 今の状況を相関図に表すと、太一を中心に他の女子から矢印が一方通行で伸びている状態だ。

 大井は言わずもがな、霧崎も先月の選挙を機に太一へアプローチを掛け始めた。

 不破だけはこの中でまだ太一への気持ちが曖昧な状態だが、なにか決定打の一つでもあれば……


 ……そうなるとちょっと面倒よね~。


 夏休み前に撮った『例の写真』。

 あれを実際に使うつもりはない。

 使えばどうなるか理解しているから。


「太一くんって女子と付き合いとか思わないわけ? あのメンヘラ……大井って子、けっこう男子人気ありそうだし、幼馴染なら変に気を遣わなくていいと思うから、試しに付き合ってみるのもアリじゃない?」

「なんか、不誠実じゃないですか、それ?」

「考えすぎ。付き合う前から好きって気持ちが確定してないと交際できないわけでもないでしょ」


 気持ちなんて移ろうものだ。

 最初は相思相愛だったとしても、あとから色々と問題が出てきて破局するなんてザラだ。


 ならば、お付き合いを始める、なんてスタートラインで躓いている場合ではないんじゃないか。


「ま、ワタシが決めることじゃないし、太一くんの好きにすればいいと思うけどね……ただ、相手がいる問題、ってのだけ忘れないように」

「はい」


 ――学校を出てからしばらく。


 太一たちは待ち合わせ場所の公園に着いた。

 しかし秋穂が待っていたのはいつものガゼボではなく、公園の入り口だった。手には飲み物。どうやら自販機でココアを買って飲んでいたようだ。


「あ、宇津木君。こんにちは……今日はすごく人が多いのね」

「あの、なんかすみません」

「別にいいよ。二人きりじゃなきゃいけない、なんて話もしてないしね」


 それはそうなのだが……

 秋穂は明らかに気まずそうな様子だ。


「はじめまして、あーしは大井暁良。えっと、お姉さんは秋穂さん、でいいんだよね?」

「うん、はじめまして。西住秋穂です」


 と、大井が人好きする笑みを見せながら秋穂に近づいた。

 しかし細められた瞳の奥には、相手を値踏みするかのような瞳が覗いている。


「は? 西住? あきほ……西住あきほ、西住…………あ」


 秋穂の自己紹介に不破は前に出て、


「もしかしてあんた、昇龍の姉貴か?」

「え? うん、そう……あれ?」

「あんま会ったことねぇけど、そういやあいつから姉貴がいるって聞いてたな。名前が確か、西住秋穂」

「うん、たぶんそれ、私のことじゃないかな……えっと、あなたは?」

「……ちょい前まで、あいつのカノジョだった不破満天だよ……っても、もうあいつとは別れて、何の関係もねぇけどな」

「そ、そうなんだ。りゅうちゃんのカノジョさん」

「『元』な。そこ間違えんなよ!」

「う、うん」


 グイグイと距離を詰める不破。

 彼女の勢いに秋穂は完全に飲まれてしまっていた。

 なんとなく、少し前の自分もこんな感じだったのかな、なと太一は思った。

 いや、今でも十分彼女には押され気味で、押し返せたことなどなかったか。


 ははは……泣いていいよね?


「こんちは! ウチは霧崎麻衣佳だよ!」

「初めまして、鳴無亜衣梨です」


 霧崎と鳴無も秋穂に挨拶する。

 タイプの違うギャルたちに囲まれて秋穂は落ち着かない。


「う、うん……はじめまして。う、宇津木君すごいね。皆はお友達なのかな? ……女の子ばっかりだけど」

「いえ、その。色々と成り行きで」

「も、もしかして、この中にカノジョさんがいたりとか」

「あ、それはないです」


 太一は即答。

 しかし大井はぷくっと頬を膨らませて太一の腕に絡みついて来た。


「あーしはカノジョになりたいって言ったんですけどね~」


 まるで秋穂を牽制するような動き。

 女としての勘が告げていた。

 ここで放置すると、このオンナは確実に面倒な相手になる、と。


 が、不意に霧崎も太一の隣に並び、


「いうてアキラが一方的に言ってるだけなんだけどね。ていうかフラれたのに未練がましくない?」

「でも別にたいちゃんは友達としては好きって言ってくれたし? これから更に好感度上がってワンチャンないとも言い切れないじゃん?」

「ウッディ~? 絡まれて面倒ならハッキリと言ってやるのもまた優しだと思うよ~」


 太一を間に挟んでやいのやいのと騒ぎ始める大井と霧崎。

 目を白黒させる秋穂に、鳴無が音もなく近づいて、


「まぁ見てのとおりで~す。こんな感じでいっつもプチ修羅場ってるんですよ~。可愛いですよね~」

「そ、そうかな……で、でも宇津木君って、モテるんだね」

「本人は自覚ない、というか、自信がなさ過ぎて卑屈になっちゃってるところあるけどね」


 でも、と鳴無は続けて、


「最近は、我が強く出始めたなぁ、って思うこともあるけど……誰かさんの影響で」


 彼女は不破をチラと盗み見た。


「もし、彼のことが気になってるなら、お姉さん、結構頑張らないといけないと思いますよ」

「わ、私はそういうのじゃないなから……」

「ふ~ん……なんかお姉さん、さっきからずっと下見てるけど、具合でも悪いんですか?」

「う、ううん……大丈夫だから、気にしないで」


 秋穂は思いかげず周りを囲まれて委縮していた。 

 別に敵意を持たれているわけでも……いや、一部の女子は警戒心を抱いてたか。

 それでも、特に彼女を害そうとする意志があるわけじゃない。

 ただそこにいて、秋穂と話をしているだけ。

 しかし秋穂は、うまく目を合わせられない。

 人目が怖い。秋穂はかつての失敗がトラウマになってしまっている。

 つい、他人から否定的に見られているのではないか、と想像してしまうのだ。


「おめぇのその無駄にでけ胸のせいで圧迫感でも感じてんじゃねぇの?」

「え~? なにきらり~ん? ワタシが他の女の子と話してヤキモチ妬いちゃった~?」

「お前は相変わらず脳みそ花畑だな」

「きらりんは相変わらず辛らつだな~。まぁ、そこがいいんだけど」


 鳴無は不破にぎゅ~っと抱き着く。

 うむ、ここは相変わらず一方通行でユリユリしているようだ。


「お前、マジで鬱陶しい!」

「あはっ、きらりんめっちゃいい匂いする~!」

「てめ、こら! どこに顔突っ込んでたおい!」


 と、目の前で繰り広げられるドタバタ劇に、秋穂は目を白黒させることしかできない。

 太一はどうにか霧崎と大井の包囲から抜け出し、秋穂に声を掛ける。


「なんか、本当にすみません。秋穂さん、騒がしいの苦手なのに」

「うん……そうだね。でも……」


 なんだか、懐かしい。


 かつては、自分もこうして、友達とバカみたいにはしゃいで、くだらない掛け合いで盛り上がっていた気がする。


 追憶に浸り、目を細めた秋穂。

 太一はそんな彼女の儚い仕草に目を奪われる。

 最近は、肌の血色もよく、鬱屈していた表情も少しだけ明るくなったような気がする。

 目の下に浮いたクマは相変わらずだが、依然と比べると(化粧の効果もあり)薄くなったように思える。


 同時に、彼女の目鼻立ちの整った顔つきが浮き彫りになり、昇龍と顔つきが似ていることに気付かされた。


「宇津木君、今日は少し賑やかだね」

「ですね」


 不破は鳴無が相手をしてくれているからか、想像してていたような気まずい空気にはなっていない。

 やはり彼女を呼んで正解だったようだ。


 はにかんだ秋穂の表情に、太一は少しだけ胸を撫でおろす。


 ――しかし、その場に彼が到来する事態を、太一はまるで予想すらしていなかった。


「――は? 姉貴? てか、不破」

「あん? って、お前か」


 思わず太一はギョッとした。


「あ、りゅうちゃん。今かえり?」

「その呼び方やめろっての。つかなんでお前らが姉貴と一緒にいんだよ」


 昇龍が目を細めて不破に問いを投げた。

 太一は冷や汗が止まらない。

 まさか、不破が西住の姉だけでなく、昇龍とまでバッティングするとは予想外もいいところだ。

 あまりにもタイミングが悪すぎる。


 太一は妙にヒリつく空気を前に、自分が盛大にやらかしたと悟る羽目になった。 



 ((((;゜д゜))))アワワワワ

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