いいかげんに慣れろって、無茶言うなや
急に決まったお泊り会。
もはやお家芸の領域で太一の意思は完全無視。
なぜここまで家主の意向が反映されないのかを問い詰めたい。
しかし実際に問い詰めたところで確実にフルボッコにされる未来が想像できる。
太一は唯一くつろげるトイレの中でため息を吐くばかりである。
涼子不在の宇津木家は、現在ギャル四人によって完全に選挙されてしまった。
別に今更、彼女たちが我が家をたまり場にしていることに文句を言うつもりはない。
なんやかんやと太一もこんな状況には慣れてきた。
以前ほど騒がしのにも抵抗はない。
だがしかし、
「みんなちょっと無防備すぎないかな~……っ!」
便座の上で太一は顔を覆った。
時刻は現在20時過ぎ。
トイレの外では現在進行形で女子メンバーが順番に入浴タイムに突入。
一番手に鳴無、次に霧崎、不破、大井と……
今は大井がお風呂をご利用中。
防音設備がしっかりしたこのマンション、どこぞのラブコメでありがちなシャワーの音が廊下に響く、なんてことはない。
それでも知り合いの女子たちが自宅のお風呂を次々と使っていくというのは、思春期男子にとって拷問にも等しい苦行だ。
煩悩を殺処分するのにどれだけ苦悩しているか、皆さんには伝わるまい。
しかも、彼女たちは普通に薄いTシャツやインナー姿で部屋を歩き回るのだ。
彼女のたちの奔放具合にも慣れ来たな、と思った時もあったさ。
だがそれは勘違いだったと思い知らされた。
涼子がいる時は、もう少し格好に気を遣っていたように思うのは太一の気のせいではあるまい。
いくら太一を男として見てないからといっても限度がある。
こころなしか、霧崎と不破の二人がチラチラと太一を見ていたような気がしないでもないが。
しかし、彼女たちを視界に収めないよう理性を限界稼働させていた太一に、そんなことを気にしている余裕などあろうはずもない。
そもそも湯上がり姿の女子はなぜああも色香が強いのか。
リビングにたむろするギャルたち。
自室に引きこもっても突貫してくるもんだから、太一はトイレへ駆けこんだ。
居心地が悪いなんてレベルじゃない。
もういっそ太一の方からマンションを出て野宿してやろうかと思うほどだ。
が、いつまでもトイレに閉じこもっているわけにもいくまい。
というより――
『お~い宇津木~! お前いつまでトイレ入ってんだよ!』
扉がドンドンと乱暴にノックされる。声の主は不破。
太一は「ちょっと待ってくださ~い」と諦めを多分に含んだ声を吐き、別に汚れてもいない便器を水で流す。
扉を開けると、そこには黒のロングTシャツ姿の不破が仁王立ちしていた。
ブラをつけていないのか、制服の時と胸の形が違う。
確認する術はないが、さすがにパンツくらいは履いていること願いたい。
「なげぇ。腹でもいてぇのか?」
「まぁ、そんなところです」
当たらずとも遠からず。
実際のところ、太一の胃袋は針のむしろ状態と言っても過言じゃない。
かつて、何度も宇津木家に彼女たちが泊まりに来たことはあった。
なんなら夏休みは祖母の実家に……大井はいなかったが……全員で泊まったことだってある。
それでも、涼子がいない中で、というのは今回が初めてなのだ。
姉というストッパーがいてくれる安心感。
それがない今、どうしても不安が襲ってくる。
「まぁあんだけドカ食いすりゃ腹も痛くなるか」
「あはは……」
不破が勝手に勘違いしてくれて助かった。
さすがにここで皆を妙な眼で見ていることがバレるのは避けたい。
既に手遅れかもしれないという可能性はこの際考慮しない方向で。
「確かリンゴ酢あったから飲んどけよ。ちょい楽んなるかもしだし」
「はい、ありがとうございます」
不破は太一と入れ替えにトイレへと入って行く。
しかし彼女は振り向きながら「しっしっ」と手を振ってさっさと消えろと促してくる。
ちょっと優しくした後にこの仕打ち。まさしく不破満天である。
太一は「はぁ」とため息を吐き出す。
もういっそコンビニにでも外出しようか。
なんてことを考えていると、
「――ねぇ、そこに誰かいる?」
ふいに、脱衣所の扉越しに声が聞こえて来た。
大井である。
「ヤヨちゃん、どうかした?」
「あ、たいちゃんか」
大井は相手が太一だと確認。するとあろうことか、扉が少しだけ開き、
「ちょっ!?」
「たいちゃん、ごめんなんだけどちょっと剃刀の代えとかってあったりしない? あとで新品のヤツ買って返すからさ」
「姉さんのが脱衣所の引き出しにあるから! ていうかわざわざ顔出さなくてもいいでしょ!」
「えへへ。大丈夫だって、ちゃんとバスタオル巻いてるし」
「そういう問題じゃないと思う」
「まぁたいちゃんなら今さら裸見られてもって感じするけどね。なんなら、このまま一緒に入っちゃう」
「あまりからかわないでよ……」
以前に温泉宿で盛大にやらかしている大井。あの時、太一は彼女の生まれたままの姿を見てしまっている。
が、だからといってそれで見る方も見られる方も羞恥心が消えたわけではあるまい。
「からかってないし、たいちゃんなら別にいいのに」
「余計にダメだって」
「背中流してあげよっか?」
「人の話を聞いて」
この幼馴染はあの温泉宿に羞恥心を置いてきたのだろうか。
だとしても、太一が混浴を了承することはないが。
「確か、洗面台の引き出しのどこかにストックしてたと思うけど」
「う~ん……悪いんだけど直接出してもらっていい?」
などと言って、大井はためらいもなく扉を全開にした。
太一は咄嗟に顔を隠したが、大井にその手を取られてしまう。
「だから大丈夫だって。ほらちゃんとバスタオル巻いてるでしょ」
赤く火照った肌、バスタオルから覗く無防備な肌に、胸の谷間……女性らしいラインの浮き出たシルエットを前に、太一は顔を逸らした。
「……もうちょっと恥じらいもとうよ」
「たいちゃん相手だからいいの」
どんな理屈だ。
太一はこの際、さっさと剃刀を渡して退散した方が早いと諦める。
「え~と、いつもならここの引き出しに……」
と、後ろで大井が見守る中、洗面所の引き出しを漁っていると――
「お前ら、なにしてんの?」
廊下から、妙に凄みを感じさせる声が聞こえた。
肩をビクッとさせて、太一はギギギ、と後ろを振り返る。
すると、そこには腕を組んでまたしても仁王立ちする不破が立っていた。
「ふ、不破さん、これはその」
「ああ、たいちゃんにお姉さんの剃刀ある場所聞いてたの。いや~、着替え取りに行くときに忘れちゃってさ~」
しかし、慌てる太一に対し、大井は何事もないかのように、平然と答えて見せた。
「そうかよ」
不破はそう言って、脱衣所に入ってくると。
「お前はさっさと出てけ。剃刀、どこにあるかは知ってっから」
「は、はい」
「はぁ……不破さん、タイミングわるすぎ……」
などと、大井はあからさまにため息を吐いた。
背中を押され、太一は脱衣所を追い出される。
そんな様子を、リビングから霧崎が見ていた。
「色仕掛けとか……安直すぎじゃね」
と言いつつ、霧崎は来ているシャツの襟を引っ張り、周りと比べてつつましやかな自分の胸を見下ろし「ぐぬぬ」と唸り声をあげる。
それからしばらく、大井が風呂を済ませたのと入れ替わりに、太一は脱衣所へと消えていった。
が、洗濯籠の中に、洗濯機の空き待ちをしている女性ものの下着たちが無造作に入れられているのを前に、太一は己の目潰しを敢行しようか、本気で迷ったという。
――ちなみに、リビングではギャルたちが集まり、鳴無を除いた全員が、互いに動きを監視するという状況になっていたことを、太一は知る由もなかった。
…(ㆆωㆆ)ジー …(ㆆωㆆ)ジー …(ㆆωㆆ)ジー
明日9月20日は本作「ギャルゼロ3巻」の発売日!
9月27日にはコミック版も発売されます!!
ご期待ください!めっちゃ面白いです!!
※明日は投稿をお休みさせていただきます。
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