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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
5:宇津木太一は負けられない
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弾け始めるこの修羅場、助けて

「ただいま……」

「遅かったじゃん、今まで何してたんだよ」


 18時過ぎ。玄関の戸を開けると、制服の上からエプロンを着けた不破に出迎えられた。


「すみません。帰り道でちょっと具合の悪そうな人がいて――」


 かいつまんで事情を説明する。

 しかし相手が西住の姉であることは伏せて。


「ふ~ん。てかそれなら連絡くらい入れろし」

「すみません、次は気を付けます」

「メシ、できてっから」

「はい。着替えたらすぐに行きます」

「おう」


 リビングへと歩いていく不破。

 太一のその後姿に、


「不破さん」

「あん?」

「夕飯、わざわざありがとうございます」

「おう。アタシの優しさに感謝しろよ」


 今日から数日間、涼子は会社の社員旅行で不在になる。

 去年は適当にコンビニやスーパーの総菜、カップラーメンで食を繋いでいたが。


 今年は、


『ふ~ん。しばらくなら、アタシが作ってやろうか、メシ』


 と、不破から提案されたわけだ。

 正直、少し意外だった。

 不破がここまで素直に、太一のために、という意思表示をしたこと。

 怪訝な顔をしてしまった太一に、不破は少し不機嫌そうに、


『なに? イヤなわけ?』


 などと、少しだけ拗ねたような顔をした。


『いえ、それじゃ、お願いできますか』

『おう』


 それだけのやりとり。しかし妙に、背中が痒くなるような、ムズムズするような空気だった。

 が、その話をしてたのは教室でのことで、


『あ、ならあーしも手伝おっか? こう見えて、実家じゃ花嫁修業で料理は叩き込まれてるんだから』

『はぁっ!?』

『じゃあウチもお邪魔しよっかな。バイトでたまに厨房入るし、簡単な料理ならできるよ』

『あのキッチンに3人も入らねぇよ!』


 不破の提案に乗っかるように、大井と霧崎もなぜか参加を表明。


『皆が集まるならワタシも行く~!』


 と、最後に鳴無がノリで手を上げ……


 ――宇津木家のキッチンテーブルの上には、普段の3倍以上はボリーュミーな食事が並んでいた。


「作り過ぎじゃないですか……」


 思わず呆れた声が出てしまう。作ってもらっておいてなんだが、これは5人で食べるにしても多い気がする。


「仕方ねぇだろ! マイとアキラがバカみてぇに張り切ったんだからよ!」

「え~? キララだって無駄に対抗心燃やしておかず追加しまくったじゃ~ん」

「でもいが~い。不破さんってマジで料理できたんだ」

「マイうっせぇ。で、おめぇは何が言いてぇんだよ」

「いや不破さんってもっとこう、漢の料理! みたいながっつり炒める系っていうか」

「大雑把って言いてぇのかこら」

「自覚あんじゃ~ん」


 不破、大井、霧崎の三人が卓を囲んで騒がしい。

 鳴無は不破が作ったと思われるチキンサラダを一口。

 頬に手を当ててうっとりと「おいし~」とご満悦。

 不破の料理は冷しゃぶやおからを練り込んだチヂミなど、ヘルシー志向のダイエットメニューが中心。

 大井は定番の肉じゃがやきんぴらなど、和食メインで作ったらしい。

 対して霧崎はパスタや揚げ物といったジャンクなフードたちを作ったようだ。


 さすがにキッチンが足りなかったようで、大井は自室で調理してきた物を持ち込んだらしい。


「はい、たいちゃ~ん」

「あの、自分で食べられるから……」

「え~、これくらいいいじゃ~ん」


 さりげなく太一の隣の席をキープしてきた大井が、肉じゃがの芋を差し出してくる。

 ぷくっと膨れる大井の押しに負け、太一は羞恥心もそのままに芋にかぶりつく。


「あふっ!」

「できたてだからね~」


 ホクホクのお芋はそれそれは熱かった。


「で、どう? おいしい?」

「おいしい、です」


 口の中がヒリヒリした以外は、味がしっかりと染み込んでて非常に美味。


「肉じゃがだけは前もって仕込んでおいたんだ~。さすがに短時間じゃ味が染みないからね」


 露骨なアピールに不破と霧崎の瞳がすっと細くなる。


「ウッディ~」

「あ、はい――んむっ!?」


 向かいの席から霧崎に声を掛けられて振り返ると、いきなり口の中にフォークで巻いたパスタをねじ込まれた。


「このトマトソース、ウチの自前。どう?」

「おいひい、でふ」

「にしし」


 太一の感想に気を良くしたのか、霧崎がはにかんだ表情を見せる。

 すると、太一の斜め向かいから不破がドンと皿を太一の前に置いた。


「食え」


 それは取り分けられた冷しゃぶサラダだった。

 眼光鋭く、まるで獲物を狩人のような視線に太一は「い、いただきま~す」と恐る恐る口をつける。


「……どうだよ?」


 テーブルに肘をついて、ぶすっと不機嫌を隠そうともしない不破。口の中の物を咀嚼して飲み込む。

 すると、この場の雰囲気にしては珍しく、太一の口から自然と感想が漏れた。


「やっぱり、不破さんの料理はおいしいです」

「……当然じゃん」


 不破はぶっきらぼうに、フォークで自分の作ったチヂミを突き刺して口へ運ぶ。彼女の耳の先は、少しだけ赤くなっていた。


 と、ジーっと不破と見つめる3対の視線。

 

「不破さんってあれだよね。わりとテンプレでツンデレだよね」

「あ? んだよそれ?」

「割とギャップ狙ってる、みたいな。意外とあざといな、って」

「露骨なおめぇと一緒にすんなや」

「いや~、キララも普通に露骨だとウチは思うんだけど」

「だから、なにが?」

「うへぇ~。ここまでやって認めないとか……ウチこんな相手に遅れとってんの~? めっちゃやるせねぇ~」


 と、霧崎が先ほど太一の口に突っ込んだフォークをそのまま使って、コロッケを無表情に食べ進める。

 大井は静かに「胃袋は先に掴まれちゃってるか」などとぶつくさ言いながら、不破の料理に手を伸ばしていた。


 そして、鳴無は不破の隣から彼女の肩に触れ、


「きらり~ん、ワタシにあ~んしてほし~な~」

「ふん!」

「もがっ」


 絡みつく鳴無に、不破は霧崎が作ったから揚げを丸々一個、口の中にねじ込んだ。

 口いっぱいに放り込まれたから揚げを、鳴無はしかし、幸せそうな顔で咀嚼していた。

 本人がそれでいいなら、なにも言うまい。


「あ、たいちゃん、せっかくだし今日は泊っていってもいいでしょ?」

「え?」

「あ、ならウチも久しぶりにウッディん泊ってく~」

「はい?」

「チッ……まぁどうで明日の朝食も作らねぇといけねぇし、そのまま泊ってった方が楽か」

「不破さん?」

「じゃあワタシ、きらりんと一緒の布団で寝た~い! それで~、きらりんとエッチなこともしたいな~」

「てめぇマジで入ってきたらベランダに放り出すからな」

「ちょっと!?」


 食事の席で、なぜかそのままギャル全員、太一の家にお泊り、という流れになり……一人果敢な抵抗を試みるも、太一の意見は『却下』の二文字に封殺され、いきおいのまま、お泊り会が実施されることになってしまったのだった。


 ……ここ、僕の家なんだけど。


 家の住人であるはず太一の意見は完全に無視。これを悪行と言わずしてなんと言う。

 太一はせめて、近所に騒音問題でクレームを入れられないことをだけを、切に願った。



 _|\○_オネガイシヤァァァァァス!!

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