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【Web版】毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない  作者: らいと
5:宇津木太一は負けられない
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そういやこの問題がまだ残ってた…

 居心地の悪さに太一はお昼休みの教室を飛び出した。

 行く当てもなく校舎を彷徨い歩き、教室でのことを思い出す。

 

「なんなんだろ、あれ」


 もともと不破と大井の中がよろしくなさそうな雰囲気は太一も感じてはいた。

 しかしここ最近になり、霧崎までもが二人と静かにバチバチやり始めた。

 

 選挙活動期間中に、太一の知らぬ間になにか揉め事でもあったのだろうか……


「どこで食べようかなぁ」


 太一の手にはお弁当。

 まれに学食や購買を利用する太一だが、普段は姉の涼子が弁当を持たせてくれる。

 包み片手に校内をふら付く強面男子。中庭は陽キャの群れで賑わい、学食で弁当を広げる気にもならない。


 ……あそこに行ってみようかな。


 太一は思い付きに従い踵を返した。

 そうして向かった先は、校舎の裏手である。


「ここに来るのも久しぶりだなぁ」


 以前は、ダイエット中の不破とよくここでお昼を食べていたが。

 彼女が理想体型を取り戻してからは、所属グループの面々とお昼を囲むのが日課となり、ここへ足を運ぶ機会は徐々に減っていった。


 およそ数カ月ぶりに訪れた校舎裏は相も変わらず人けは皆無。

 10月を迎えて少し肌寒さを覚える昨今。

 しかし秋晴れで空は快晴。色づき始めた植木を肴にここで心を落ち着けるのも悪くない。 


 ベンチもなく、適当な場所に腰を落ち着ける太一。

 久しく味わっていなかったボッチ飯。

 弁当の包みを開く。


「――あ、いた」


 ふいに聞こえた男性の声に太一は顔を上げる。


「よお、今ちょい時間ある?」


 視線の先にいたのは、


「仲持、さん?」


 クラスの男子カーストトップ、西住昇龍にしずみとおりのグループに所属する男子生徒……仲持力也だった。

 たれ目ぎみな目元、着崩した制服、脱色した亜麻色の髪の隙間から覗く耳にはドロップピアスが光っている。


「別にさんとかいらねぇよ、力也でいい。俺も太一って呼ぶから」

「はぁ……」


 力也は困惑する太一をよそに、彼の隣に腰を下ろして購買のパンにかぶりつく。


「あの、僕になにか……」

「お前さ、不破とは最近どんな感じなん?」

「いや、どんなって言われても……」

「つかなんでこんなとこでメシ食ってんの? お前のこと探すのめっちゃダルかったんだけど」


 仲持と言葉を交わしたことはほとんどない……というより今回が初めてではなかろうか。

 そんな彼が、わざわざ太一を探してまでなんの用があるというのか。

 この時点で太一の警戒心が上昇中。しかし彼もナチュラルに隣に座ってくるもんだから完全に虚を突かれてしまった。

 なんなんだこいつ……


「う~ん、ちょっと教室にいづらかった、と言いますか」

「ああ、そういや最近お前、あの転校生と4組の女子からめっちゃアピられるしな。絡みがウザすぎるってのは分かるかも」


 淡々とした仲持の反応。彼は西住グループの中でも比較的ドライな方で、バカ騒ぎをする彼らを横で眺めている方が多い。


「まぁ、キララとしては面白くねぇだろうな。自分が目を掛けてる男に横からちゃちゃ入れられてんだし」

「どうでしょう……目を掛けてる、っていうより、ただ一緒にいることが多いだけの相手、みたいな感じだと思うんですけど」

「……お前それマジで言ってんだったらちょっとやべぇからな」

「はい?」


 キョトンとする太一に、仲持は「はぁ……」と溜息を一つ。


「まぁ別にお前らの関係にいちいち口出しはしねぇけどよ……ただ」


 すると、仲持はおもむろに太一の瞳をじっと見据え、


「いまだにクラスの男女がギスギスしたまま、って自覚、お前あるか?」

「え?」

「その反応、お前忘れてるだろ。ほら、六月だったか七月ごろ、お前が俺らのカラオケに乗り込んで、トオリがお前をボコそうしたのをキララが庇って、ってヤツ」

「あ」


 思い出した。

 今年の六月の末。

 西住たちとカラオケに入ってく不破を目撃した太一。

 彼らの入ったカラオケルームを前にいらん思考回路がいらん妄想を生み出し、いらん勘違いの果てに太一は暴走。

 ジェイ○ンコスで彼らのいるカラオケルームに乱入、場を掻き回してしっちゃかめっちゃかやらかしたわけだ。

 後日、自分のやらかしを謝罪した太一だったが、グループのリーダーである昇龍が「落とし前をつけろ」と太一をぶん殴ろうとした。

 が、そこを不破が仲裁、もとい西住のメンタルを逆にボッコボコに叩きのめしてしまったのである。


 結果、クラスの男女代表格である二人の関係は最悪となり、その余波を受けて現在の教室は男女の交流が極端に減っている状態になっていた。


「あれからトオリもずっとピリピリしてるし、クラスの女子連中はキララの反応が怖えのか男女の絡みを極端に抑えてる感じだしよ」

「……その、なんと言えばいいやら」

「いや、お前に原因の一端があんのはそうだけど、もともとトオリとキララの問題ってのがでけぇしな」


「つっても」と仲持は前置きし、


「今度の体育祭までにはこの状況をどうにかしたいわけよ」

「えっと、それはなんで?」

「……夏休みの間に、クラスの連中が何人かこっそり付き合い始めたんだよ……俺のグループにも一人いんだけどよ」


 仲持は辟易とした様子で話し始めた。


「今の教室じゃ、付き合ってる、なんて言える空気じゃねぇし、下手すりゃ総スカンをくらうかもしれねぇ」


 そのくせ、今月に入ってから年末にかけてイベントごとが多い。

 体育祭、文化祭、修学旅行……付き合いたてのカップルからすれば、それらはお互いの仲をより深めるための重要なイベントにもなるだろう。


「正直、今の雰囲気のままいくと体育祭で余計に男女の仲がこじれる可能性大なんだよ……なんだかんだ、今は男子にも女子にもお互いに対して色々と不満みたいなもんが溜まってるみたいだしな」


 そうして、果ては来年のクラス替えまで今の状態が続き、夏休みに付き合い始めたカップルも、それ以前から付き合のある男女も、雰囲気に流されて破局するかもしれない。


「だから、お前にはキララをどうにか説得して、トオリとの仲を取り持つのを手伝ってほしいんだよ。こっちはトオリをどうにか説得してみっから」

「う~ん……でも僕の言う事を素直に聞いてくれる人じゃないですし……」

「言っとくけど、このままだとお前にも被害がないとはいいきれねぇからな」

「え? それはどういう」

「考えてもみろよ。男女交際してんのに教室じゃ他人のふり、なのにお前らは男女でワイワイと楽しそうにやってる……不満が溜まっていくのは容易に想像できんだろ」

「……」

「そんで、お前に嫌がらせする奴が出てくるかもしれねぇし、あの転校生にも女子の攻撃が向くかもしれねぇ。んで、いっちゃん最悪なのは、クラス全体でキララを攻撃する流れができるかもしれねぇってことだ」

「……それは、確かに」


 不破は確かに現在クラスのトップに君臨している。

 しかしそれも数の暴力に押し潰されれば、どうなるか分からない。


「ハッキリ言ってお前には荷が重いとは俺も思うけどよ。なんていうか、今のキララが素直に言う事聞きそうな相手が、お前くらいしか思いつかねぇんだよ」

「それはちょっと買い被り過ぎだと思いますけど」


 太一の一言に仲持は眉をしかめて「あのな」と言いかけるが、


「分かりました。僕にどこまでできるか分かりませんが、不破さんと少し、話をしてみようと思います」

「……ちょっと自信なさそうなのが気になっけど、まぁいいか。ただ、お前も分かっちゃいると思うが、キララは意固地になるとちょっとやそっとじゃ意見を曲げねぇ。あまり強引に話を進めすぎんのも悪手だから、注意しとけよ」

「はい」


 と、そこまで話したところで予鈴が鳴った。


「ここでのことは他の奴には言うなよ。周りが騒ぎすぎっと体育祭来る前にこじれっかもしれねぇから」

「分かりました」


 彼は最後にそう言い残し、校舎裏から去って行った。

 太一は数分だけその場に留まり、肺の中から息を大きく吐き出した。


「ああはいったものの」


 あの傍若無人の権化といえる不破満天を相手に、果たして太一の説得が通用するのかどうか……


 ……でも、


 彼女に災難が降りかかる可能性を示唆されて、それを無視できるほど、彼女との関係は浅くない……浅くは、なくなっていた。


「そろそろ教室に戻るかな」

 

 太一は、どうしたものか、と考えながら、校舎の中へと戻って行った。



 (۶ ͛⌯ᾥ⌯ ͛٩)ウーン•••

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