加速する包囲網、に・げ・ら・れ・な・い
第五幕:始まりです
「あの~……」
無事に生徒会選挙も終わり、季節は秋の色を深め冬支度を始めている。
これから新生徒会体勢による体育祭が十月に開催され、翌月の頭には文化祭を控え、そこから更に月を跨げば修学旅行が待ち構えている。
イベント目白押しで、きっと今ごろ生徒会と教師たちは盛大に目を回していることだろう。
制服も衣替えの時期を迎えて生徒たちの装いも変化。
……なのだが。
ここに状況が一変し過ぎて目を回す少年が一人。
「霧崎さん、そろそろ自分の教室に戻った方が……」
「センセ来るまで別にいいじゃ~ん。それともなに~? ウッディはウチに早く消えてほしいってのか~?」
「いやそんなことは」
「はくじょうだな~。先月はあんなに二人で頑張って選挙活動した仲だってのに~」
太一の隣の席の椅子を引き寄せて座る霧崎麻衣佳……本名を霧崎麻里佳という……は、指先でツンツンと肩をつつきながら、意地の悪そうな笑みを浮かべている。
もうすぐ予冷が鳴る。
彼女が座る椅子の本来の主は、この状況に居心地悪そうな様子で仲良しグループの中からこちらをチラチラと盗み見る。
はよ帰れや、という気持ちが透けて見えるようだ。
わかるぞ、その気持ち。
「ねぇねぇたいちゃん、昨日動画サイトでけっこう笑える感じのヤツ見つけてさ! ほらこれこれ!」
「おい宇津木。今日の放課後メシの材料買いだめすっから。ガッコ終わったら付き合えよ」
などと、太一の席を囲むように陣取る二人……大井暁良と不破満天がまったく別の話題を同時に振ってきた。
「その買い物さ、別にキララ一人でもよくない? ただでさえ普段からウッディんとこでお世話んなってんだからちょい自嘲した方がよくね」
「別にいいだろそんくらい。米買うから人手いんだよ」
「まぁ、僕は別に構いませんけど」
「ウッディはキララを甘やかしすぎ」
「別に甘えてねぇっての」
「いや十分以上に甘えてるっしょ」
瞬間、チリッと場の空気に静電気のようなものが走った気がした。
しかし、そんな空気を無視するように、大井が太一の肩に触れるほど密着、手元のスマホ画面を見せてくる。
「どうどう? これって確かたいちゃんもやってたゲームだよね。これの実況がけっこう面白くてさ! 特にこことか!」
もはや肩どころか頬までくっつきそうな距離感だ。というか実際にさっきからちょいちょい彼女の柔らかい肌が触れてくる。
おかげさまで動画どころではない。
「お前さ、ちょいベタベタしすぎじゃね」
不破が半眼で見下ろしてくる。
そんな中、隣の霧崎はむしろ大井の手を強引に引き、自身も太一に密着して同じ画面を共有する。
「へぇ、アキラってこういう実況系観るんだ。ウチはあんまゲームとか知らんから面白さよくわかんないんだよねぇ」
「えと、霧崎さん……ちょっと距離が」
「え? なに?」
「なんでもないです」
太一の声を遮るようにきょとんとした表情を見せる霧崎。
二人の少女にサンドされる太一。
しかし正面からこちらをえらい眼光で睨み据えてくる不破に太一は冷や汗が止まらない。
太一は思わず、最近になって言葉を交わす機会が増えた不破グループの三人……会田蛍、伊井野千穂、布山美香に無言の救難信号を送った。
が、彼女たちは太一からの視線に気づいたものの、なぜか全員がサムズアップの上で、ウィンクを決めてくるという謎リアクションを返してくるだけでなにもフォローしてくれる気配なし。
むしろそのニヤケ面からこの状況を楽しんでいる気配がハッキリと伝わってきた。
役に立たねぇ連中である。
と、いきなり不破が前の席の椅子を引く……机の主である男子生徒は不破が怖くて逃走した模様……と、ドカッと背もたれを前に腰を下ろし、大井の手元を机に下ろし、
「なにこれ? お前こんなん興味あんの?」
画面を無理やり共有して来た。
というか、その短いスカートで椅子を跨いで座るとか……下手をすればパンツがチラ見えしそうで非常に危うい。
女子に囲まれる太一。
やったねこれで君もハーレム主人公の仲間入りだぜ……やかましい。リアルに空気が微妙な女子たちに囲まれてみろ、胃痛が限界突破の果てに爆発しそうなんだが?
……先生、早く来て。
教師の到来をここまで切に願う機会などそうはない。
果たして場の空気と太一の意をピリピリさせる時間は担任の倉島教諭が教室に現れるまで続いた。
ようやく解放された安堵に太一はホッと息を吐く。
が、そんな彼を遠巻き見つめる視線が、教室中から集まっていることに、この時の彼は、気付いていなかった。
…(ㆆωㆆ)ジー…(ㆆωㆆ)ジー…(ㆆωㆆ)ジー
投稿が遅れて誠に申し訳ございません
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