イベント後の余韻って後を引くよね
選挙も無事(?)に終わ数日が経った。
「ウッディ、学食行こ」
「はい」
昼休み、霧崎に誘われて学食へと赴く。
今日は一日、選挙が一段落したお祝い、らしい。
結局、彼女の挑戦は敗北という形で幕を閉じた。
しかし、霧崎がそれを気にした様子もない。
元から無謀な挑戦なのは理解していたし、勝てる見込みも高くなかった。
それでも、やるからには勝ちたかった、というのが太一の本音だ。
……感化されてるなぁ、僕。
誰の影響か考えて、思わず苦笑する。
今は霧崎と二人きり、放課後は全員で集まっての残念会を開催予定。
「頑張ってくれたウッディに、今日はウチが奢ったげる。なに食べる?」
「じゃあ霧崎さんのおススメで」
「え~、なにそれ~……う~ん、どうしよっかな~」
券売機の前で悩む霧崎。
あの選挙以来、彼女は自分を『私』と呼ぶことはなくなった。名前も麻里佳ではなく、麻衣佳……彼女にとって、あの選挙は特別な期間で、限定的に麻里佳として在ることを許していただけ。
やはり霧崎にとって、麻衣佳とは既に自分の一部であり、そうして生きてきた数年間を覆すことは難しい。
それでも、霧崎麻里佳という少女を少しだけ許容できるようになった、と彼女は口にした。
『マリィ……お姉ちゃんから、そう呼ばれてたんだ。ウッディならこの名前、呼んでいいから』
霧崎の中で、宇津木太一という少年は、麻里佳であることを認める……それはきっと、麻里佳が自分に与えた『甘え』なのだ。
「う~~~~ん」
じっくりと券売機の前を占拠する霧崎。
すると、
「君たち、あまり後ろを待たせすぎるものではない」
二人で振り返る。そこにいたのは、今期生徒会長に赴任した、大賀美真人が呆れ顔で立っていた。
「お、会長じゃ~ん、やっほ~」
「相変わらずだな……まぁいい、君たちに少し話がある。席を取っておくから、同席してもらえるか?」
彼の手には弁当の包みが握られている。わざわざ二人を追いかけて学食まで来たらしい。
太一と霧崎は顔を見合わせ、
「まぁ、別にいいけど。ウッディは?」
「僕も大丈夫です」
返事を聞いた大賀美は席に移動し、霧崎は「ハズレなし」という理由でカレーを二つ注文した。
「それで、話しってなんですか?」
「ああ、実は――」
彼の切り出した話の内容に、二人は目を見開いた。
(;゜Д゜)
「――それじゃ今日は~、霧崎麻衣佳プレゼンツ! 無事に落選! 残念会の開催じゃ~!」
「無事に落選ってなんだしw!」
「キララうっさい! 今日はあの堅苦しかった選挙活動から解放された憂さ晴らしすんの! みんなもいいね!?」
カラオケの一室、霧崎がマイク片手に室内にキンキンと音を響かせる。
不破がノリよくそんな彼女にツッコミを入れ、場がワイワイと盛り上がる。
しかし、そんな場の雰囲気とは裏腹に、参加者の一人である鳴無は真面目な表情で霧崎を見つめていた。彼女は苦笑する太一に近づくと、耳打ちするように声を掛けてくる。
「で、結局あの子って、『まいか』なのか『まりか』なのか、どっちだったわけ?」
「さぁ、僕にもよくわからないです」
「ふ~ん」
含むような鳴無の目。実際、太一の言葉は半分が嘘、半分が本音だ。霧崎という少女の過去を、太一は知った。
そのうえで、彼女がどちらであるかという回答を明確に得ることはできても……彼女が『どうありたい』のか、という回答は曖昧なまま。
それは太一が答えを出せるものではないし、赤の他人が強引に介入していいこととも思えない。
尤も、霧崎がその件で太一に助けを求めてきた時……その時こそ、彼女の在り様に、決着がつく時なのかもしれない。
「まぁ、いいわ。結局、彼女は『マイマイ』ってことでいいのよね?」
「はい……少なくとも、今は」
「曖昧ね~」
はぁ、と溜息を吐き出す鳴無。納得できないところはあれど、彼女も自分という存在を別の存在に置き換えて今日まで生きてきた以上、霧崎をどうこう言えた立場じゃない。
「おいお前ら! こっそり話してねぇでさっさと曲入れろ~!」
不破が二人にマイクを押し付けてくる。彼女も、霧崎の名前について疑問を抱いているはずだが、そのことには触れないまま、今という時間を全力で楽しもうとしている。
今日はクラスメイトで不破グループのメンバーである、会田、伊井野、布山も参加している。
彼女たちの輪の中には、大井の姿もあった。特に、彼女は布山とは性が合うのか、一緒に機械の画面を覗き込んでいる。
が、不意に太一が鳴無とかなり距離が近くなっているのを見つけ、サッと隣に移動してきた。
「ねぇねぇ! せっかくだしたいちゃんとあーしでデュエットとかどう?」
コレコレ、とテンション高めに、彼女は太一にガッツリと体を密着させて画面を太一と共有する。
鳴無はこれみよがしなアピールに再度の溜息を吐き出すと、すぐに表情を取り繕って「き~らり~ん! わたしたちも一緒になんか歌お~!」とすり寄っていく。
「うぜぇ近寄んなデカ乳!」
「あはっ、きらりんつれな~い♪」
が、相も変わらず邪険にされている。それでもめげない精神には感心するばかりだ。
大井と曲の共有をしている傍ら、太一は今日の昼休みのことを思い出す。
『どうだろう、君たちさえよければ、一緒に今期の役員として生徒会に参加してみないか?』
……まさか、あの人があんなこと言い出すなんて思わなかったなぁ。
開幕は、霧崎と太一への謝罪だった。
外聞というものに囚われ過ぎて、挑戦しようとしている人間を一方的に否定していた自分に気付かされた、ということだった。
『君たちは確かに破天荒だが……形ばかりに囚われて、新しいことに挑戦する気持ちを失ってしまうより、何倍もマシだと考えさせられた』
停滞は悪である。その場に留まることは居心地もいいし、楽でいい、面倒がない。
その代わり、日々の生に虚無感を抱き、マンネリはあらゆるものの色を失わせていく。
『あまりふざけたことはしてほしくないが、君たちと一緒なら、今まで惰性で続けていた行事に、新しい一石を投じることもできるんじゃないか、と思ってる。顧問とも相談した上で誘いに来た。どうだろう?』
彼なりに、学校の今後を考えているようだ。無難に今期の生徒会を終わらせることもできたが、それでは自分が会長である意味もない。
今時にしては珍しく、真面目過ぎるくらいに真面目で、なかなかに情熱的なモノを胸に秘めているらしい。
果たして、彼の誘いに、霧崎は、
『うん、無理!』
きっぱりと、それはもう有無を言わさぬ勢いで、お断りさせていただいた。
……霧崎さん、あれでよかったのかな。
正直、そこで首を縦に振っていれば、彼女という少女にとって、そこいる意義をひとつ得られたかもしれない。
しかし、
『役職とかじゃない……ウチは、欲しい物はもらったから』
などと、清々しく言い切っていた。
思考を切り替え、マイクを手になぜか演歌を熱唱して場を沸かせる霧崎。
彼女が今回の挑戦で欲しかったもの……それは、
「ウッディ~! イチャイチャしてないでさっさと歌え~!!」
「呼ばれてるよたいちゃん? それじゃ、あーしらの魂の歌、聞かせてあげようじゃない!」
熱気に当たてられたように、大井はマイクを手に取り太一に手渡してくる。もはやこちらの意見などガン無視の幼馴染。グイグイと引っ張られるままに彼女の入れた曲を歌い、不破から「へたくそ~w」といつものようにからかわれる。
ただ、最近はこのノリに少しづつ順応して来た事実を感じて、思わず自分に呆れつつ、それを楽しんでいることに気付かされる。
「ウッディ~! 次はウチと歌うからね~!」
霧崎に機械を押し付けられる。全然知らない曲、彼女にイヤホンを渡され、一緒に曲を共有し、デュエットする。
残念会という名のどんちゃん騒ぎは、日が暮れてからも続き、夜の九時近くまで行われた。
へ(゜ω゜*へ)ワショーィ(ノ*゜ω゜)ノワショーィ
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