波乱+波乱=順風満帆?
教室に波紋が広がる。呼吸を落ち着けて太一は黒板の前に立つ少女を改めてガン見した。
しかし幻想ではない。そこにいるのは、紛れもなく大井暁良で間違いなかった。
「転校、って言っても、この辺には前も住んでたことあるんで、中にはあーしのこと、知ってる人もいるかもね?」
と、意味深な視線を太一に向けてくる大井。彼女と目が合い、太一の肩が分かりやすく震えた。
……まさか同じクラスになるなんて。
これはどんな神様の悪戯か……いつもと同じ性悪か、それとも新たな性悪がご降臨なさったか。いずれにしろ、太一にとっては迷惑な事この上ない。
彼女が体を揺らす度、色素の薄い長髪が振れる。曰く……幼い頃に太一が、長い髪が好き、と口にしたから伸ばした、らしい。中世的な面立ち。インドア趣味の割に、海辺の町を散策するのが趣味の彼女は、肌が健康的に日焼けしている。
「時間押してるから質問とかは各々でやってくれ~。んじゃ始業式に行くぞお前ら~」
相変わらずマイペースな倉島教諭。クラスメイトがバタバタと廊下へ出ていく。それに倣うように彼らの後を追う太一の近くに、
「よっ。同じクラスになったね~? これは運命的なものを感じちゃうヤツじゃない?」
「ど、どうだろうね。まぁ、僕も正直ビックリはしたよ」
「いうて、本当は事前に学年主任のセンセにお願いしてみたんだけどね。知り合いが学校にいるから、できれば一緒のクラスに~、って」
「え? そうなの?」
だからといって、それを理由にクラスが決まるものだろうか。
「うん。なんか、『だったらそいつにぜんぶ丸投げできっか~』とか言ってた」
おい担任。それはさすがにどうなんだ? 職務放棄も甚だしい。
「まぁなんにしても、これからよろしく。それと……不破さんも、ね」
「え? うぇぉっ!?」
振り返ると、そこには今朝にもましておっかない顔をした不破がいた。会田や伊井野たちのグループ女子も、不破のただならぬ気配に「なにごと?」と、首を傾げる。
「ふん……おら宇津木! ぼうっとしてねぇで行くぞ!」
「え、ちょ、ちょっと!?」
まるで朝の焼き直し。不破は太一の手を取り廊下へ出る。
「こらこら転校生を置いてくなよ~。迷子になって泣いてやるぞ~」
太一を両サイドで挟む女子二人。後ろをついていく会田たちは、「これは……荒れそうな感じすんね」と、どこか期待するような眼差しで呟いた。
夏休み明けのだるい学校。しかしそこに舞い込んだ急な転校生&意味深な太一との距離感。
どうやら太一の日常は、退屈とはしばらく疎遠な状態が続くらしい。刺激に飢えた現代人であってもこれはさすがにノーセンキューである。
「ちょい不破さん、足速いって~」
「そっちがとろいんだろうが」
「うわ、ひどっ。てか、たいちゃんは歩幅合わせてよ~」
……め、目が回る。
女子二人に挟まれてキャッキャウフフ? なら今すぐにこのポジションを提供してやろう。なんならカネだって払ってやる。
女子に囲まれる太一。ただでさえ注目の的になっている彼へ、更なる注目が集まるのは、自然な流れであった。
(இ௰இ;)
「うぐぉ~~~~……」
「お疲れ~。いや~ウッディも大変そうだね~」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる霧崎。場所は学食、時間は正午。
昼休みの学食は相変わらずの込み具合。ただ駄弁る者、ガツガツと腹を満たす者、スパルタ戦士もかくやといわんばかりの気迫で、購買へ突貫する者。
喧騒の中にあって、今は太一と霧崎二人。
「正直、助かりました」
「ふふん。ウチに感謝したまえ~。ちなみにレモンティーがいい」
「……わかりました」
昼休みの鐘と共に、
『宇津木~、飯食うぞ~』
『たいちゃん、ご飯一緒していい~?』
と、不破と大井が太一を昼食に誘ってきたのだが、そこ霧崎が現れ、
『あ、悪いんだけど、ウッディに用事あるからちょい借りてくね~』
と、強引に教室から連れ出されたのがつい先ほどのこと。
あのまま教室に留まっていたら、確実に食事どころではなかっただろう。胃がひっくり返って、入れるより出す方に専念するような事態になっていた可能性大である。
霧崎は学食の日替わり定食を、太一は弁当をテーブルの上に広げる。今日の日替わりはかに玉らしい。
太一は霧崎にレモンティーを献上。「うむ、ご苦労」などと胸を張る彼女に苦笑しながら、弁当の中をつつきはじめた。
「ま、実際にウチもウッディに用はあったしね」
「そうなんですか?」
「じゃなきゃあんな面白くなりそうなところからウッディを連れ出すわけないじゃ~んw」
お~い、そのレモンティー返せこら~。思わず太一もジト目の悪行。確信犯である。
「いやいやちょいそんな睨まんでって。ウッディ顔だけは怖いんだからさ~。ほらこれあげるから」
そういって渡してきたのはかに玉の上に乗ったグリーンピース。いらんわ。太一はかに玉の端を一口大に切り分けて奪取する。ちなみにグリーンピースは強制的に太一の弁当箱へ投下された。
「ウッディ最近ちょい遠慮なくなってきたよね~。やっぱキララとずっと一緒にいるからかな~?」
大変そうだけど、退屈してるよりは充実してるっしょ? などと、霧崎はレモンティーをすする。
「……それで、なんのようですか?」
「ナチュラルに話スルーするとか……別にいいけど。まぁちょい真面目な話。ウッディに相談したいことあってさ」
「相談?」
そういえば、今朝もホームルーム前に『昼休みに相談あるんだけどさ~』と顔を出したのを思い出す。はてさてこれまで彼女には色々と世話になってきたわけだが。
逆に彼女からなにか相談ごとを持ち掛けられたのは、夏休みの追試対策の一度きりだ。
「う~ん。相談、っていうか協力、かな。この場合は」
「はぁ」
何が言いたいのか。彼女は食事の手を止めて、太一をまっすぐに見つめてくると、
「あのさ、ウチ……」
普段のふざけた雰囲気もなく、彼女は珍しく真剣な表情で、
「生徒会選挙、出てみたいんだよね」
「…………」
「ん? お~い、ウッディ~?」
一瞬何を言われたのか分からず硬直してしまう太一。霧崎が太一の目の前で手を振り我に返った。
「って!? 生徒会、選挙、ですか!? 霧崎さんが!?」
「そう言ってんじゃん。あんまし繰り返さないでよ、はずいんだから」
彼女の頬が少し赤くなる。彼女のこういう反応も珍しい。
「ほ、本気、なんですか?」
「だからそうだって」
「えぇ……」
彼女の奔放な性格を考えると、生徒会選挙に興味があるというだけでも驚きだった。
それに加えて、実際に自分が選挙に立候補する、などと言い出すとは……
「まぁそういう反応が出てくるのはなんとなくわかってた……だからキララとかアイリじゃなくて、ウッディに相談したわけ。あの二人に言ったら、真剣に話し聞かないどころか、絶対に笑われるじゃん?」
「ああ……まぁ確かに」
容易に想像できてしまった。不破は言わずもがな。鳴無も「似合わないって~w」と言って、本気で取り合ってはくれない気がする。
「でも、なんで急に?」
「いや、急っていうか……実は前からちょこちょこ、出たいな~、とは考えてた、っていうか」
「……そうなんですか?」
不破の話では、二年に進級してからの一ヶ月……それ以前から、霧崎は学校を休みがちだった。
最近は出席率も上がっているらしいが、それでもたまに、学校から唐突にいなくなっていたりすることがある。
そんな彼女が、生徒会選挙に出たい、というのは、どんな心境によるものなのだろう。
「その、一応、理由を聞いてもいいですか?」
「う~ん……そうだね~……なんて言えばいいかな~」
霧崎にしては珍しく、どこか曖昧な態度。体を左右に揺らし、彼女は太一に視線を合わせると、
「面白そう、って思ったから、かな? 実際に当選できるかは別にして、なんかこういう、真面目な奴がやりそうなイベントに、ウチみたいのが紛れ込んで引っ搔き回したらさ、どんな感じになるのかな~、的な?」
「は、はぁ……」
それは、なんとも霧崎らしい理由……と、そう思うのと一方、彼女は本気の相手に対しては、茶化したりするキャラではない、思っていた。
だからこそ、霧崎の口にした理由に、太一も曖昧に頷くことしかできなかった。
(-ω-;)ウーン
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