夏休み明けてだるい…とか言ってる暇がない
投稿再開&新章開幕!!
夏休みが明けた9月……世間では秋と呼ばれる季節へ移り変わっていく。
しかし、最近の夏は他人の机を占領する陽キャのごとき鬱陶しさを発揮。秋君は9月という席に座れず右往左往。迷惑なことこの上ない。残暑の厳しい今日この頃。さっさとどっかへ行ってほしいと願わずにはいられない。
「…………え~と」
「おはよ、たいちゃん」
自宅マンションの玄関を出た太一の前には一人の少女。名前は大井暁良。夏休みに祖母の家へ帰省した際に再会した、いわゆる幼馴染というやつである。
太一が小学5年生の時に転校していった彼女。再会の果てに、太一は大井から、異性として好き、と、告白された。悩んだ末に、太一は彼女をフッたのだが……
『諦めなくても、いい、ってことだよね?』
彼女は太一の頬にキスをして宣戦布告。あの時は咄嗟の出来事に頭がついてこれなかった。確実にヒューズの一本か二本、ミサイル並みの勢いで吹き飛んだ。
太一が大井の告白を拒んだ理由は、自分の中に彼女に対する明確な恋愛感情……好きを自覚できなかったから。
真面目をこじらせた太一は、なし崩し的に人と付き合うのを良しとはできなかった。これが世にいう、面倒くさい童貞マインド、と言うヤツである。
しかし、『いつか、自覚させてあげるから』
彼女は、『たいちゃんに、好きって気持ち』
太一を諦めるつもりは毛頭ない、と……あの時は、その本気を推し量ることができなかったが……
「なんでお前がここにいんだよ」
太一の後ろから険しい顔を覗かせるのは不破満天。金に染まった派手な髪色。耳といわず舌にまでピアスを空けた、いわゆるギャルと呼ばれる人種である。
アタリがキツク、やることなすこと破天荒。なんの因果か。今の太一は彼女と『友達関係』やってます。陰キャに投下されたクラスター爆弾。毎日が刺激的すぎて全身に穴が空きそうである。
そんな劇物ヒロインな彼女と、いつのように早朝ランニングから朝食を共にし、今から二人で四〇日ぶりに登校しようとしていた矢先のことだった。
「その制服……」
「へへ~……どう?」
大井の着ている制服は、間違いなく太一の通う高校のものだ。短いスカートをチョンとたくし上げて生足チラリ。うむ、実にけしからん。
「さっきの不破さんの質問に答えると、あーし、たいちゃんの高校に転校することになりました~! イエイ! あ、ついでにこのマンションに引っ越してきたから。ちょうどこの真上があーしの部屋」
「え? えぇっ!? て、転校!?」
「そそ。そんなわけで、これからご近所兼、同じ学校の生徒として、よろしくね、たいちゃん」
なにがなんだかさっぱりだ。急展開にもほどがある。目を白黒させることしかできない太一。
彼の後ろで目を細める不破。奥に覗く瞳は、警戒心を露わに相手を威嚇する獣のようにも見える。
「ていうか、なんでたいちゃんのとこから不破さんが出てくるの? え? どういう関係?」
「えと、不破さんとはいつも朝にランニングしてから、一緒に朝食を食べて、そのまま登校してるから……」
最近は不破の遅刻もだいぶ減った。それでも時折、登校中にいきなり『だるい』と学校をサボタージュしたりと気ままを発揮してみたり……自由人なところは相変わらず。
担任の倉島なんかは、「おい、今日の不破はどんな感じだ?」などと、太一に訊いてくる始末。まるで仲介人ではないか……いや、まるで、ではなく、まんま仲介人である。
太一の返答に、大井は「へぇ~、そうなんだ」と、笑顔で頷く。が、彼女の顔はまるで不破を見ていなかった。
「せっかくだし、あーしもご一緒していい? あ、もしお邪魔だったら退散するけど~?」
からかうような笑み。太一は「違うから」と呆れた様子で否定する。
「おい。いつまでくっちゃべってねぇで行くぞ」
「って、ちょっ!?」
不破は太一の腕に自分の腕を絡めて歩き出す。後ろから大井が「あ~、ちょっと待ってよ~!」と追いかけてきた。
新学期早々、波乱を予感させる滑り出しである。
太一の横に並んだ大井は、彼を下から覗き込み、
「たいちゃん」
「な、なに?」
「わざわざこうして転校してきたんだから……色々と、覚悟、してね?」
不破とは別の、獲物を狙う狩人の視線で見上げてきたのだった。
キラーン(*ΦωΦ)
『それじゃ、あーし職員室行ってくるね~』
と、昇降口で大井と別れた太一。不破は終始不機嫌だし、大井は何を考えているのか分からない。
夏休み明けの気だるさを感じている暇もない。気分は朝からジェットコースターで振り回されたかのようだ。夏休みの間も、太一の心は落ち着かず、隙があれば大井のことを思い出す。
太一の人生で、初めて明確な好意を寄せてきた女子。嬉しくないわけではない……それでも、彼女とは色々ありすぎた。
太一にとって彼女は、引っ込み思案になってしまった自分を、外へ連れ出してくれた恩人であり……同時にトラウマを植え付けてきた、因縁の相手でもある。
「はぁ……」
しかし、まさか彼女がいきなり転校……おまけに自分の住むマンションの上階に越してくるとは。いったい誰が予想できるというのか。
微妙な感じのまま、夏休みに別れてしまったことは心残りではあったが、
だからと言って、心の準備もできないまま、唐突に彼女と対峙しろ、というのは、些か性急すぎるというものではないか。
……これから、どうなるんだろ。
思わず、太一は会田たちと駄弁っている不破を見やる。登校している最中は、ずっと険しい表情をしていた彼女だが。今はケラケラと陽気に笑っている。
ホッとしたのもつかの間。不破はこちらに気付くなり、またしても顔を顰めてそっぽを向く。
……え~。
なにかした覚えもない。やはり彼女の内心は摩訶不思議。出会って4ヶ月以上経つ。それでも不破の心を正確に読み取ることは難しい。特に最近は、余計に彼女のことが分からない。
「はぁ……」
思わず飛び出るため息君。一つ吐くたび幸せ一つ、無常に逃げるというけれど……もはや残量からっぽか。
幸福と不幸は全体でつり合いが取れているそうだ。幸せになる人間の裏には、必ず不幸な人間がいる。ならばどこかに太一の幸福を奪ってる誰かがいるわけだ。見つけ出して制裁を加えてやらねばなるまいて。
加えて……太一は教室を見回す。
男子と女子。双方は妙な距離が空いている。異性で言葉を交わすものは誰もいない。
今年の6月。夏休みの前に起きた、不破と西住の衝突。これによるクラスでの男女冷戦状態。長期休みが明けた今でも、それは継続されているようだ。
男子と女子は、互いに交わることもなく、違和感だらけの距離感で、空気を読んで互いを避ける。
「おう、宇津木」
ただ一人……太一を除いて。
「放課後、こいつらとカラオケ、って話んなったから。プールもねぇし」
「よろ~」
不破と、彼女が所属する女子グループ三人……会田、伊井野、布山が、太一の周りを取り囲む。拒否権はない。そもそも、行くか行かないか、という問いかけではなく、行くこと前提なあたりが不破と太一の関係を現わしている。
「……わかりました」
渋々承諾。途端に教室中から視線が集中。安定の居心地の悪さである。この注目度、なんとかならんものか。
加えて……
「あ、いたいた。太一君、ちょっといい~?」
「ウッディ~。ちょい昼休みに相談あるんだけどさ~」
教室の扉が開かれた。別のクラスから現れた二人の女子生徒。霧崎麻衣佳に、鳴無亜衣梨。異性ばかりに声を掛けられる太一。クラスの視線はより一層、彼に集まっていく。
……もう帰っちゃおっかな。
不破につられて学校を抜け出す機会が増えた太一。思わずそんなことを考える。徐々に、太一の脳内も不破に浸食され始めているらしい。これが洗脳というやつか。こわやこわや。
「は~い。今行きますよ~」
色々と諦めの心境だ。むしろ心は凪いでいる。なるほどこれが明鏡止水……絶対に違うな。
騒がしい朝の時間も過ぎ去って、担任が現れホームルームが始まった。
「夏休み開けていきなりだが、転校生を紹介するぞ~」
……は?
太一の時間が静止する。教室に現れた人物……それは紛れもなく、
「――今日から転校してきました、大井暁良です」
まさか、家、学校ときて、クラスという距離にまで急接近してくるアサルト系幼馴染……太一は目を見開き、不破も珍しく動揺を見せる。
「これから、よろしく」
太一の、胃の痛くなるような新学期が、始まった――
(;゜ロ゜)ハッ!?
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