終わり良くない終わり方、つまりは始まりである
お久しぶりです
あとがきに今後についての説明があります
はてさて海岸線でドラマチックに青春して帰ってきた太一ではあるが。
祖母の家に帰宅した頃にはすっかり魂が抜けた状態になっていた。
不破満天はそんな彼が連れて来た大井暁良と真正面から対峙する。
二人は中間でお互いを見つめ合う。空気がピリピリと張りつめていた。
ちなみに太一はまともに会話ができる状態ではなく、言葉のキャッチボールが暴投ばかりで支離滅裂。早々に部屋を追い出されてしまった。
「よぉ。宇津木にキスしたんだってな」
「そうね。言っても、ほっぺただけど」
「中坊かよ……てか、お前マジで宇津木のこと好きなわけ?」
「もちろん。じゃなきゃ頬にだってキスなんかしないって」
「ふ~ん」
「逆に訊くけどさ? 不破さんはたいちゃんのこと、どう思ってんの? ただの友達? それとも」
「ダチだよ」
不破は大井の言葉に被せて返答した。大井は「そう」と笑みを浮かべて「よかった」と明るく口にした。
「なんか二人ともいい感じに見えてたから。あとから出てきて横槍入れちゃったんじゃないかな、って心配になったんだよね」
大井は不破の不機嫌そうな表情を前にしても怯むことなく、真っ直ぐに目を合わせ続ける。
部屋のすぐ外で霧崎と鳴無が聞き耳を立てる。
「……ねぇ、これどう思う?」
「キララ的には、いきなり出てきた女が横からウッディをかっさらっていった感じ」
しかし付き合ってるわけでもないのに、二人の恋愛事情に首を突っ込むのはなし……と、不機嫌な顔しつつ自制している、と。
「ねぇ、きらりんってそんなにめんどくさいキャラだっけ?」
「普通だったらイヤなモノはイヤ、ってハッキリ口にするんだけど……今回はちょっとキララ自身も自分がウッディをどう思ってるか判断しかねてる、って感じかな」
これまで付き合ってきた男、男友達は明らかに距離感の違う相手。自分の懐に入っているくせに、それが自分にとってどんな意味を持つ相手なのかわからない。
恋愛脳全開で「好き」とか「嫌い」などと割り切れない。
性格は不一致、趣味嗜好もかなり違う。それでも一緒にいることに違和感はなく……しかし相手に求めているものがあるのかと聞かれたら、
「別にキララはウッディになにか求めてるわけじゃないしねぇ」
太一にとって不破は憧れの存在。
逆に不破にとって太一はなにを求める相手なのだろうか。
「都合のいいパシリじゃないの?」
「もうそういうんじゃないでしょ……なんていうか、」
――一緒にいる時間が長いから気になってきた、霧崎はそう言った。
「まぁ、キララがなんて答えても、状況的にはだいぶ不利なんだけどね」
中間で不破は大井を睨む。直接的になにかされたわけではないが、この女はなにか気に食わない。
「もしかしてたいちゃんから聞いてるかな? 昔のあーしたちのこととか」
「……まぁ適当に」
まただ、胸がざわつく。彼女の口から太一の愛称が飛び出す度に、苛立ちが募る。
「そっか。あーしさ、小っちゃい時にたいちゃんにひどいことしちゃったんだよね。うん、めっちゃ自分勝手な気持ちで、たいちゃんの人生、完璧に壊すところだった」
「あいつが小五ん時、不登校になったって話?」
「そう……でも、あーしはあの時からたいちゃんが好きだった……好きだったんだって、自覚した」
大井は組んだ手に視線を落とし、「はぁ」と息を吐くと顔を上げた。
「だからまぁ、好きって気持ちと、償いの意味も込めてさ……あーし、自分の全部、たいちゃんにあげちゃおっかな、って」
「重すぎてキモイ」
「あはは……自覚はある。でも、なにをどうして償えばいいか、分かんないから
「あのバカはそんなこと気にしねぇし、むしろそうやって『自分あげます』とか言われてもテンパるだけだろ」
「よく見てるね、たいちゃんのこと」
「常に一緒にいたら嫌でも視界に入るだろ普通」
「へぇ……常に一緒にいるんだ」
途端、部屋の温度が下がったような気がした。
「念のため、もう一回訊くけどさ? 二人は別に、『そういう関係』じゃないんだよね?」
「しつけぇぞ。あいつとはそんなんじゃねぇっての」
「うん、何度も確認してごめんね? あ~、でもさ? 不破さんは別にたいちゃんこと気にしてないかもしれないけど、たいちゃんはどうなんだろ?」
「あ?」
「もしかしたら、不破さんのこと、好きになりかけてたりとか――」
と、大井の言葉が先を紡ぐより先に、
「ねぇ二人とも~。ウチのスマホそっちあるんだけど取り入っていい~?」
「あん? 別に好きに入ってくりゃいいじゃん」
「へ~い」
と、霧崎はバツが悪そうな顔をして襖を開ける。
実際、スマホは自分のポケットの中。彼女はバッグの中を漁る素振りを見せ「あ、ごめ~ん。こっちじゃなくて居間の方だったかも~」と部屋を出て行った。
鳴無も「じゃあついでに~」と言って、中間にある自分のバッグからコスメのポーチを取り出し、「じゃね~」と手を振ってその場を後にする。
「んだあいつら?」
「あーしらがこんな話してるから、気ぃ遣わせたんじゃない? ……はぁ」
大井は溜息を吐くと、
「取り合えず、不破さんはたいちゃんのオトモダチってだけで、恋愛感情はナシ、ってことで」
「おう」
「じゃ、あーしがアプローチ掛けても、問題ないってことで」
「……好きにしろよ」
「うん。ありがと。それを聞けて、安心したよ。今日はもう遅いし、あーし帰るね。たいちゃんに挨拶は……今日はやめておこうかな。まだ頭ショートしてかもだし」
大井は話を締めると、そのまま玄関へ。
「あ、ねぇねぇ。実は明日さ。この近所でお祭りやるんだ。よかったら皆もおいでよ。あーしがおススメの屋台を案内してあげるからさ」
じゃね~、と彼女は手を振って、その場を後にする。
「あんれ? アキちゃん、もう帰っちゃったんかい?」
「みたいっすよ」
不破はかず子にそれだけ残すと、中間に引っ込んだ。
……くそっ、なんでこんなイライラすんだよっ!
自分の中の意味の理解できない感情に、不破は怒りという感情で応えた。
(怒`・ω・´)ムキッ
「ふんふふ~ん♪」
大井は鼻歌を口ずさみながら夜道を歩く。月明かりがとても綺麗だ。別に風流を愛でる趣味もないが、今はすこぶる気分がいい。
「上機嫌ね~?」
と、背後から声がした。田舎特有の、夜になるといっきになくなるひと気。自分が声を掛けられたのか、大井は後ろを振り返った。
「さっきのアレ、な~に?」
そこにいたのは、やたらと大人びた印象の黒髪の女だった。
確か、海で見かけたギャルの一人だったか。夜道でその姿を見掛けると、その美しさよりも先に不気味さが際立つ。
口元に浮かぶ怪しい笑みとは逆に、その瞳はなにを考えているのかわからない、独特の気味悪さがある。
「さっきのって?」
「きらりんと話してたでしょ? 太一君について、色々と」
「……それが?」
「なんとなく? あなたがきらりんに喧嘩を売ってるように見えたから」
「聞き耳立ててたんだ?」
咎めるような響きはない。ただ、だからどうした? といった挑発的な声音であった。
「だって友達の恋愛話とか気になるじゃない、普通?」
「野次馬根性全開じゃん。まぁ否定はしないけど」
「でもさ、知り合いがいきなり現れた子に挑発されてたら、さすがに友達としては気分よくないよね~?」
「なんのこと? あーしはただ、彼女にたいちゃんへの気持ちはないよね? って訊いただけじゃん?」
「…………そういう空気にしておいてよく言うわね」
鳴無の声のトーンが少しだけ変わった。
しかし大井は意に介した様子もなく、
「ねぇ、鳴無さん、だったっけ? ちょっと訊いていい?」
「なに?」
「鳴無さんってさ、恋愛漫画とかアニメとか、小説、ラノベとか読んだりする人?」
「……どれもほとんど見たことない。恋愛はたまにドラマとか映画は見るけど」
「そっか」
海から吹いてくる潮風が、二人の長い髪を揺らした。
「恋愛ものってさ、男の子の主人公に複数のヒロインがいると、結構な割合で幼馴染ポジションにいる子って、負けヒロインなんだよね」
「負け、なに?」
「負けヒロイン。物語の中で主人公と本命の女の子がくっつくための踏み台とか当て馬とか……要するに、主人公のことが好きだけど、恋愛で競争相手に負けちゃうヒロインのこと」
「ふ~ん。それが?」
「なんとなくさ、今のあーしってかなり負けヒロインのニオイっていうか、フラグがすごいのよ」
鳴無は彼女が何を言ってるの理解できなかったが、なんとなく、恋愛勝負で負ける運命にある、と自分で言ってるのは理解できた。
「でもさ……そんな予定調和とか、正直クッソくらえって思うじゃん? ワタシの方が先に好きだったのに、なんで後から出て来た女の当て馬されて諦めないといけないわけ?」
「あのさ、もうちょっと会話のキャッチボールしてくれないかな?」
オタクのスラングに疎い鳴無に構うことなく……いや、大井は実際に鳴無を前にしながら彼女に言葉を投げてはいなかった。
「あーしの人生は、あーしが決める……決めていいなら」
鳴無は大井と目が合った。それは、どこかゾッとするような光を孕んだ、歪なものに見えた。
「もう、遠慮とかしない……兄貴を見習って、好き勝手やってやる」
それだけ言うと、鳴無の反応を待つことなく、彼女は暗い夜の中へと消えていった。
「……完全にメンヘラじゃん」
――翌日、鳴無は前日に話した通り、太一たちを誘って夏祭りを訪れた。
そこには恋愛事の色もなく、ただ本当に、仲の良い友達と遊ぶかのような、そんな感じ。
しかし、どこか白々しい空気が流れていたことに、その場の全員が、気づいていた。
そして、太一たちは「また来んしゃいね」と見送られ、祖母の家を後にし……夏休みは確かに、秋の足音と共に終わりを迎え、
「――今日から転校してきました、大井暁良です」
自分たちの領域に、新たな火種が自ら飛び込んできたことに、ただただ目を丸くすることしかできなかった――
皆さま、数か月間投稿に間が空いたこと、深くお詫び申し上げます。
つきましては、こちらにて本作、
『毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくないWEB版』
の今後についてご説明させていただきます
まず、この話で第3章が終了となります
そして、この後に第4章の執筆に入っていくわけですが……
次回の投稿開始を12月からとさせていただきます
待たせた上に更に待たせてしまうことになり、本当に申し訳ありません
間隔を開けて投稿するより、12月からしっかりと連続投稿させていただいた方が、読者様がしっかりと話を追えるかと思い、このような形を取らせていただきました。
なにとぞ、ご理解の上、本作を応援していただけると嬉しいです
『毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない』
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また、どんなことでもけっこうです。作品へのご意見・感想もお待ちしております




