決着は終わりではなく、始まりである
太一が大井家でDOGEZAを決めて、婚約発表の会場がしっちゃかめっちゃかしていた頃……
太一を面白半分に送り出したギャルたちは中間に集まっていた。
「全然連絡来ないんだけど……大丈夫なんかな、ウッディ」
「まぁあの格好だしね~。職質とかされてたら一発で補導とかされてそう」
「ああ、ソレはあるかもねw」
霧崎と鳴無は、出発前に撮影した太一の写真をスマホに表示させて好き勝手言っている。
対して、不破は部屋の窓から外をぼうっと見つめていた。
「てかさ、よくこんな服おばあちゃん持ってたよねw」
「おじいさんがカッコいいって買ってきたんだっけ? もう一周まわってハイセンスって感じよね」
「でもクラスの男子がコレ着ても絶対コスプレにしかならないよね~。でもウッディさ、もう引くレベルで似合いすぎ、っていうかさ~」
おかげでこちらまで変なテンションになって髪型やら小道具選びに精が出てしまった。
されるがままに弄り回される太一。かっちり固めた髪型に、日焼け対策のグラサンを装備。それだけの加工にも関わらず、妙に格好が決まって完成した時には皆で写真を撮った。
しかし、
「ねぇキララ~。やっぱ何度みてもコレめっちゃ笑えるなんだけど~w。今度の学祭の時さ、ウッディにこの格好させたらめっちゃ面白いことになりそうじゃない?」
「ああ……」
霧崎に水を向けられても、不破は窓から視線を外すことなく生返事。
太一が家を出ていくまでは不破も霧崎たちと一緒になって太一の劇的ビフォーアフターにノリノリで参加していたのだが……
いざ太一が玄関を出てしばらく経つと御覧の有様。心ここに非ずといった様子で窓の外を眺めている。
霧崎と鳴無が場を無理やり盛り上げようと騒いでいる中、不破はひとり輪の外で黄昏ている……正直、
……らしくない、っていうか……全然似合ってねぇ(ないわねぇ)。
霧崎と鳴無の内心がシンクロする。なかなかひどい物言いである。
しかし普段の不破を知る身からすれば無理からぬこと。
彼女は基本的に悩むより先に行動する派の人間である。それが、まるで物思いに耽っている姿など……とてもじゃないが、らしくない、なさすぎる。
「そんなに太一君のことが気になる?」
「あん? そんなじゃねぇっての」
鳴無の声に不破は不機嫌そうな表情で応じる。
「ふ~ん。じゃあもしかして、気になってるのはあっちの大井とかいうオンナの方?」
「はぁ?」
不破の眉間に更なる皺が刻まれる。
「まぁ外見のレベルもそこそこ高かったし、人当たりもまぁまぁ良い感じで、運動もそこそこ……まぁ男子ウケはよさそうな印象かな~」
「なにが言いてぇんだよ」
「別に。ただ、そんな子が太一君を好きになるんだなぁ~、って意外に思っただけ。まぁ彼もスペックは悪くないけど……性格がアレじゃ――」
「今すぐその口閉じねぇと鼻っ面へし折っぞ」
ドスの効いた声音で鳴無を睨みつける不破。
ピリピリとした一触即発な空気に霧崎は呆れたように溜息を漏らす。
「やめやめ二人とも。マイマイは無駄にキララを挑発しない。そんでキララはなにをそんなに気にしてんのさ~?」
「だから別になんでもねぇっての」
「いやいやいや。キララさ~、ウッディのこと気になってんのバレバレだから……ていうか夏休み前もそんな感じでウッディが他の相手と絡んでた時イライラしてたよね?」
思い出されるのは鳴無が復学して間もなくの7月初め。
不破のグループ女子3人に太一がおもちゃにされた時だったか。あの時も、切っ掛けを作ったのは不破本人のくせに、あとで不機嫌になってそのことを霧崎に愚痴ってきた。
……男なんてとっかえひっかえなくせに、自分の手に入ると妙に独占欲というか、執着見せるんだよね~。
しかし、それがまさか太一相手にも発揮されるとは。正直なところ、霧崎としても予想外だった。
その感情が果たして『恋愛』と名のつくものなのか。
「キララさ~。ウッディのこと気になるなら取りあえずアピっておいて、キープしとくなりすればいいんじゃん?」
正直この提案は自分でもどうかと思いつつ、とりあえずでもいいから感情に素直になった方がいいという霧崎なりのアドバイスだった。
本命になるかどうかは、このさい本人たちに任せるしかない。
だが、感情をモヤモヤとさせたまま、なんの進展もない状態で放置しておくというのは霧崎としても得策じゃないように思われた。
不破のような性格の人間ならなおさら、気になることがあるなら突き詰めて突っ走って、結論を出してしまった方が楽ではないか。
「ウザ……余計なお世話だっての。てか、アタシが宇津木に気がある前提とか、マジでないから」
「あ、そ」
……めんっどくせ~。
めんどくさ! なにこいつ!? ツンデレかよ!? 似合わねぇよ!
霧崎は今に外に飛び出しそうになる荒れ狂う感情をなんとかぐっと胸の内に呑み込む。
ここで自分まで鳴無のように挑発ムーブをかましたところで、場の空気が悪くなるだけでいいことなし。
それでもこの目の前でいじけたように妙な乙女を発揮する友人を霧崎は初めてはっ倒したくなった。
まぁ実際にそんなことをすれば返り討ちに遭うのが関の山だろうが……
この女、腕っぷしが強すぎて一部の男子とはそれがもとで破局した過去を持つ。
「「はぁ……」」
霧崎だけでなく鳴無も一緒になってため息を吐き出した。
……でも。
実際、不破の内心はどうなっているのだろうか。はっきりと言ってしまえば、霧崎も鳴無も、太一と男女のお付き合いをしたいとは思えない。少なくとも現状では。
彼にまったく魅力がないわけじゃない。しかし正直にぶっちゃければ、付き合いたいと思えるほどに惹かれるものも感じもない。
だが、不破はこうして不機嫌になるくらいには彼になにかしら感じている様子。
あるいは……彼が実際は自分以外から評価されるという事実を知って、不破の中で太一という男の価値に変化が生じたか。
……ガラクタと思っていたものが、実はお宝だったって知ったら、そりゃ見る目も変わるんだろうけどさ。
人間、注目されているものをやたらとありがたがる。
グッピー理論が分かりやすい。人気があってモテる人間は、顔の造形がイケてようがそうでなかろうがモテる。不人気でモテない人間は、どれだけ美男美女だろうがモテない。
人は、他人が評価したモノを『イイ』と認識するクセがある。人間は知らず、自分よりも周りの価値観に流されてしまいやすいのだ。
不破が抱いてるこの苛立ちの正体も、もしすると……
……う~ん……それこそキララ『らしく』ないか。
彼女は自分の価値基準を持った人間だ。
好きと嫌いの境界線、良い悪いの線引きを自分の判断でできる女。
少なくとも霧崎は不破をそう認識してきた。
「とりあえず。ガッコでもここでも自分でウッディの背中押したんだから、それで不機嫌まき散らすのだけはナシね」
「うっせ。わぁ~ってるよんなこと」
それきり、不破はスマホを取り出して弄り始める。
ただ、やたらとトークアプリを開いては消してを繰り返す姿を前に、霧崎も鳴無も溜息まじりに呆れるばかりであった。
不破の手元。スマホにポコンと届いた届いた一件のメッセージ。すぐさま開いて内容を見遣り、
「…………」
彼女は目を細めて画面から視界を外す。
再び瞳は窓の外。空の向こう。天に上るような入道雲が渦を巻く。開け放たれた窓からは、冷やりとする風が舞い込んできた。
チリンチリンと、揺られて止まない風鈴の音色。少しずつ沈む夕日と共に、ひぐらしたちの静かな声が耳に優しく響いて心がざわつく。
どうやら、太一の方で決着がついたらしい。
『すみません
なんかキスされました』
……ふ~ん。
メッセージの内容を思い出し、不破はスマホをギリッと握りしめる。
――それからしばらくしたのち。
夜の帳が降りる頃。宇津木太一が戻ってきた。どこか憔悴しきったような表情で、玄関を潜る彼の隣には、
大井暁良の姿もあった――
(´・ω・`)
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