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刮目して見よ! これが日本のDOGEZAだぁぁぁ!!

 人間、あまりにも予想外の事態に遭遇した時どうなるか。

 結論。思考能力がダメになってフリーズ状態する。

 

 今の状況こそまさにソレ。

 

 これからめでたい婚約発表の席。若い男女の未来をさかなに、宴会で大盛り上がりと思っていたところにまさかの異物混入。


 真っ白タキシードにノーメイクでゴリッゴリの強面を携えた、裏稼業の従事者らしき人物の乱入だ。

 誰も彼もが口をポカンと開いて静止中。急須でお茶くみをしていた近所のおばちゃんは、湯呑からお茶をこぼしてなお注ぎ続ける始末。


 さっきまでの喧騒が噓のよう。

 荒れた海を顔面凶器で無理やり凪の状態に持っていくとは、この男もなかなかやるもんである。


 が、実際は一気に注目されて顔が緊張状態のまま固まってしまっただけの、哀れな子羊ちゃんである。その名も宇津木太一。

 眉間に皺を寄せるその顔つきはメンチを切っているようにしか見えない。


 一触即発。

 

 そんな中、唯一表情を変えずにニッコニコなのは大井暁良の母くらいなもんである。

 事前に彼の来訪はかず子から聞かされていた。写真も送られてきていた。

 誰にも知らせなかったのはひとえに『なんか黙ってたほうが面白くなりそう』と思ったから。

 彼女はサプライズがお好きなようだ。やられたほうはたまったもんじゃない。


「みなさ~ん。こちらは~、かず子さんのところのお孫さんなんですよ~。夏休みに帰省されてたとかで~、わざわざこうして顔を出してくれたんです~」


 ぽやや~んとした声音で893な珍客を紹介する大井母。

 いまだ拳銃をつきつられているかのような面々の中で、


「よぉ。来たのか」


 時任が集団の中からひょろりと抜け出して、太一の前に顔を出す。


「こ、こんにちは」

「おう」

「あら~。二人はお知り合い~?」

「ああ。ついこないだから」

「あら~」


 893な少年が時任の知り合いと知れてか、いくらか場の空気が弛緩する。


「ちょ、ちょっとお母さん! な、なんでたいちゃんが!?」

「今朝にね~、『うちの孫が挨拶に行くからよろしく頼むよ。カッコよくしていくからね』って~。わざわざ写真付きで連絡くれてたの~」


「これ~」と、スマホの画面を娘に見せてくる大井母。

 そこには、頬を引きつらせて無理やりに笑みを浮かべる完璧な893さんが写っていた。周りには彼を取り囲むようにギャル3人がおもいおもいのポーズを決めて画角に入り込んでいた。

 そこだけ切り取ってみると完全にオンナを侍らせたクソ野郎のようである。


「おっきくなったわね~。昔は~、こ~んな小さかったのに~」

「お、お久しぶりです。ほんと」

「ふふふ~。おばさんのこと、覚えててくれた~?」

「は、はい」

「わぁ~。うれしい~」


 大井母のあまりにも間延びしたしゃべり方に、調子を狂わされる太一。


「――知り合いか?」


 と、太一の前に、大井暁良の祖父……大井仁武が歩み寄る。

 太一とはまた違った、年季の入った本物の貫録を漂わせる初老の男性。


「そうよ~。昔~、ここに引っ越してくる前の小学校で~、アキちゃんと仲良くしてもらってたの~」

「ほう……」


 大井母の言葉を受け、仁武は太一をじっと観察するように見やる。


「ふむ。なるほど……圭蔵けいぞうさんによく似ている」

「あ。おじいちゃんの名前」

「ああ。彼とは古い付き合いでな。そうか、あいつの孫か。よく来てくれた。まぁ立ち話もなんだ。適当に掛けなさい」

「い、いえ。お気遣いなく。ヤヨちゃ……暁良さんとお話したら、すぐにお暇させていただきますので」


 太一は大井暁良に視線を向ける。すると、彼女の肩が小さく揺れた。


「時任君も、聞いててもらっていいかな?」

「ああ」

 

 太一がオジジオババの海を割って前に出る。

 こちらをおっかなびっくり見上げてくる大井の前で正座。彼女の隣に時任が腰を下ろしてあぐらをかく。


 太一は瞑目し、一度深く息を吸い、吐く。


「きゅ、急だね。おばあちゃんに挨拶してこいとか言われた?」

「暁良さん」

「あ、ああ。なんか話があるって言ってたよね。よ、よかったあーしの部屋で」

「暁良さん!」


 二回目。太一は彼女の名前を口にし、次の瞬間――


「ごめん!!!」


 なんと、その場で思いっきり額を床に叩きつけんばかりの勢いで土下座した。


 さすがにこの光景に周囲の面々が食らう。


「えっ、ちょっと何なにナニ!?」

「暁良さんの告白、めちゃくちゃびっくりはしたけど、その点…嬉しかったです!!」

「「「んっ!?!?!?!?!?!?!??」」」


 眉間に皺を寄せて、まるで余裕のない顔を上げて吐き出された発言に、周りの大人たちが色めき立つ。


「ちょぉぉぉぉぉぉっ!!!??? なに言ってんのたいちゃん!!!」

「この前の、一緒に出掛けた時に、海でしてくれた告はっ」

「やめろぉぉぉぉぉっ!!」


 大井は咄嗟に耳を塞いで太一に背を向ける。もう頬はおろか耳から首筋まで真っ赤っかである。

 時任も急な太一の暴露に「ええ……」って顔になっていた。


 しかし、それでも太一は止まらない。


「あれから一杯考えたんだけど! でも、でも僕は――!」


 これから婚約発表という場において、周りの目がある中にも関わらず、他の男に告白したという事実を包み隠さず公開する太一。


 そう、この男……めちゃくちゃにてんぱっている!!

 見知らぬ家へ上がる緊張から始まり、更には部屋へ通されてからの視線による一斉斉射。

 彼の脳みそはこの時点で『さっさと目的を果たして帰ろう!!』となってしまったのである! 故の大暴走!!


 だが、そんな彼ではあるが。

 彼女に対する己の『答え』をもって誠意を示そうと、必死なのである。


 その結果が、


「ごめん! 僕は、人を好きになるって気持ちがわかりません! 考えても、わからなかった!!」


 だから――


「君の気持には『応えない』! 応えられません!!」


 それは紛れもない、大井暁良の告白に対する、彼なりの回答であり……同時に、太一が人生で初めて、異性からの告白をフッた瞬間でもあった。


 太一の結論に、大井も背けていた顔を彼に合わせる。


「本当に、ごめん!!」


 再びの土下座。己の気持を吐き出すだけ吐き出した太一。


 だが、再度言っておこう。この場は、大井家と時任家の、婚約発表の場であることを!!

 

 途端に巻き起こる周囲のざわめき。

 頭を下げたままの太一の頭頂部を見下ろす大井暁良の表情は、顔全体がトマトのようになった末の涙目&唇を歪めて羞恥にプルプルと震えるなんとも憐れな状態に。


 完全にさらし刑である!


 が、さすがに孫の状況を見ていられなかったのか、仁武が「ううんっ!」と咳払い。

 親戚たちの囁きは鳴りを潜め、彼は状況が呑み込めないなりに、孫に疑問を投げかける。


「暁良。ワシはお前に再三訊いていたな……『好きな男はいないのか?』と。お前は『いない』と言ってように思うんだが……」

「あ、あはは……はい。いなかったですよ。『こっち』には」

「それは、つまり……なんだ。お前は、彼のことが好きと?」

「え、えへへへへ……」


 ダメだ。完全にぶっ壊れてる。


 半泣きの状態で不気味に笑う大井。彼女の母親は「あらあらまぁまぁ~」と頬に手を当ててニコニコしたまま。何を考えてるのかわからない。父親など、いまだに事態に思考が追い付かず目を白黒させている。


「ふぅ……では質問を変えよう。お前は、時任のせがれのことはどう思っている?」


 問われ、大井は静かに隣の男子を見やる。

 彼は相変わらずの無気力顔で見つめ返してくるだけ。何も言わず、ただ彼女の答えを待つ。


「わたくし……あーしは……あーし、は……」


 これまで、絶対に家族の前では口にしてこなかった自称。

 羞恥に責め立てられた頭は、それでも必死に祖父への答えを探し、


「嫌い……」


 言った。親戚たちが一堂に会するこの席で、言ってしまった。


「嫌い……嫌い。嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い!! 大っ嫌い!!!」


 もうどうとでもなれ。責任? 世間体? 知ったことかそんなもん!!


「その落ち着きくさった態度も! なんでもお見通しですって目つきも! 顔が中途半端にイケメンなとこも、妙に察しがよくて無駄に気遣いできてラノベ主人公みたいなとこも! マジでマジでマジで!!! 大嫌いなんだよぉぉぉぉぉ!!!!」


 止まらない止まらない止まらない。もはや八つ当たりだ。周囲の親戚たちもドン引きである。土下座していた太一も顔を上げ、呆気に取られていた。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……ああ、もう!!」


 整えた髪をぐしゃぐしゃと搔きむしり、内心で「あ~あ、終った。あーしの人生」と、今朝とは別の意味で絶望感に苛まれる。


 これは罰か? 好きな男の子を、自分のいいように弄んだツケか?

 

 ……なら、仕方ないよね。


 そのせいで太一は一年間、引きこもりになり、無駄な時間を過ごす羽目になった。性格もだいぶ歪めてしまった。

 だったら、やり返されるのは、仕方ない。全部、自分のまいた種だ。とはいえ、


 ……兄貴は見つけたら半殺しにする。


 そもそもの話、正統後継者である兄が駆け落ちなどしなければこんなことにはならなかったはずではないか。

 とはいえ、


「はぁ~……ごめん、おじいちゃん。スッキリしちゃった」


 これまで貯めこんでいた本音をぶちまけられて、次の瞬間には殴られるかもと思いつつ、大井の顔は笑みの形を作っていた。ちょっとだけ歪で、晴れやかに。


「あ~。それとさ、ごめんついでもう一個」


 大井は祖父から、太一に目線を滑らせ、


「あーしさ――」


 太一と大井の瞳が重なる。彼女は、どこか困ったように、苦笑を浮かべた。



 ァハハ…(-∀-`; )

『毎日家に来るギャルが距離感ゼロでも優しくない』

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