日常の変化って微細だけど後から大きく変わってることに気付く
朝に投稿した内容に不備がありました。
同じ内容を物語中2回、重複するように掲載してしまいました。
こちら、ご報告もあり、すぐに修正せていただきました。
読者の皆様にご迷惑をおかけしたこと、心よりお詫び申し上げます。
不破は本当にほぼ毎日、宇津木家に顔を出し食卓を共にしていた。
最初は夕飯だけだったものが、いつの間にか朝のランニング後にも顔を出し、シャワーを浴びて朝食まで一緒するように……こうなると顔を合わせていない時間の方が逆に短いくらいである。
もはや自宅のような感覚で太一と共に玄関で「ただいま~」と口にするあたり随分と馴染んでしまっているように感じられる。ここ最近は近隣の部屋の住民とも顔なじみである。彼女は態度こそ粗忽だが不愛想ではない。意外なことに周囲との人間関係を構築する術は非常に優れていることを実感させられる。
太一はそんな彼女を観察し続け、「なるほど」と納得した。伊達にクラスでカーストトップにいたわけではないのだと。
不破が宇津木家に通うようになって2週間が過ぎた。二人でダイエットを始めてから一ヶ月が過ぎた計算になる。
依然として太一に対するアタリはキツイが、家に招いてからは不破から向けられる嫌悪感があまり目立たなくなったように思える。
話せば普通に返してくれるようになり、常に撒き散らされていたピリピリとした空気がだいぶ緩和され少し穏やかさも見せるようになった。
宇津木家リビング。ソファで膝を抱えてスマホを弄る不和を背に、太一はリング状のコントローラーを手に足を大きく開いたワイドスクワットに挑んでいた。
今日の彼女は学校から直接マンションに来たため、制服姿である。しかしスカートの下は運動することを考慮してかスパッツを着用していた。
「ふっ、ふっ、ふっ!」
今日も今日とて、宇津木家のリビングで二人はフィットネスゲームをプレイする。
いつもは不破が先にプレイしてシャワーを浴びに行くのだが、今日は、
『ああごめん。なつかしい奴からラインきてた。ちょっと連絡するから先にやってて』
と、こんな具合に普段と順序が逆転し今に至るわけである。
不破の外観はここ数週間で目に見えて変化が現れていた。元々代謝がいいのか、あるいは運動をしていた過去から筋肉がそこそこついていたからなのか、ダルッとしていたお腹のお肉はほどほどに取れて、顎のラインも見え始めていた。
日課となったランニング、週3回のプール、そして宇津木家でのフィットネスゲームプレイに涼子手製のダイエット料理。
それらがうまい具合に作用し、若い肉体もあいまって不破は徐々に元の体系を取り戻しつつあるように思えた。
「――へぇ。あんたもなかなか動き様んなってきたんじゃね?」
不意に声を掛けられて太一は「ふぁい!?」と素っ頓狂な声を上げてスクワットの最後の一回を盛大にミスしてしまった。
「ちょ、なにやってんのw。てかキョドり過ぎなんだけどw」
ケラケラと人を指さして笑う不破。太一はちょっとだけムッとした表情を浮かべたが、すぐに画面に向き直ってプレイを再開した。
映像は戦闘画面から切り替わり足踏みでの移動パートだ。
太一は背筋を伸ばして小刻みに足踏みしてキャラクターを操作する。
ステージには常に体を使ったギミックがあり、今日は足踏みの動きを大きくして下半身に効果的なメニューが組み込まれていた。
通常の足踏みより太腿を大きく上に上げ、膝が90度になるように脚を何度も上下させる。
それを見ていた不破からまた声がかかる。
「宇津木さ、前は脚全然上がってなかったよなw。しかも息切れしまくって何度も足止まってたしw」
「い、今はそんなことないじゃないですか」
「だから『前は』って言ってんじゃん。ちゃんと人の話きけし」
「ふ、不破さんだって、ちょっと前はかなり息切れしてたじゃないですか。汗だっていっつもすごいし」
「あ? 調子のんな。あたしの方があんたより何倍もスマートだったから。一緒にすんなっての」
後ろから言葉でちょっかいを出されながらも、太一は画面を見ながらフィットネスプログラムを消化していく。
こうして話ながらでも普通に体が動き、ほとんど呼吸も乱れなくなってきた。一ヶ月とは言え、日々のランニングや水泳で太一の体も絞られてきており、体力もついてきた。
腫れたように丸かった顔も徐々に輪郭が出てきて、顔つきにも変化が見られる。
が、それと同時に姉と同様の三白眼が際立つようになり、不破からは、
『あんた最近めつきめっちゃ悪くなったなw、すっげぇウケるんだけどw』
などと写真を撮られた上にケタケタとバカにしたような顔で笑われた。
決して自分がイケメンではないと太一自身も自覚はしていたが、それでも痩せてくれば少しはまともな顔に近付いて来るものだと思っていただけに、この変化は嬉しくなかった。
しかも不破いわく、
『今のあんたの顔なら、3年のヤンキー相手でも逃げ出すんじゃねぇw! あははっ!』
らしい。
太一としてはそこまで目つきが悪いのか、と思うのと当時に、どう転んでも自分の容姿は一般的なものには落ち着かないんだな、と悲しくなった。
『ゴール!』
ゲーム画面からステージクリアのアナウンスが流れる。今日のところはここまでで終了。
掻いた汗を用意していたタオルで拭いて、
「よっし次はアッタシ~」
とソファから立ち上がった不破にリング状のコントローラーを手渡した。
「うわ、コントローラー汗すってんじゃん。宇津木今度から手袋してプレイしろな」
「ええ~……なんでそんな」
「いや普通にあんたの汗吸ったコントローラー握るとかキツイから。まぁ今日は仕方ねぇし我慢すっけどさ」
……それ、僕もいっつも同じこと思ってるんだけど。
内心で抗議するも、彼女が人の言う事を素直に聞くような性格なら苦労はしない。やはり彼女は勝手だ。自分の好きなように好きなことをして好きなことを平然と口にする。
涼子の前では多少猫を被っているが太一の前だと本当に遠慮がない。
……舐められてるんだろうなぁ。
思わず嘆息する。彼女から対等に扱われたいなどとは思わないし自分が底辺にいる人間であることは理解している。最近はよく不破と一緒にいること、痩せてきたことなども手伝って周囲から若干注目を集めてはいるが、話しかけられても彼の根っこの部分が他人とのコミュニケーションを阻害する。
うまく話そうと躍起になってカラ回るか、或いは考えすぎて愛想のない感じの返答をしてしまうか。
そんな自分が、誰かから対等な存在に扱われるはずがない。
太一の内に黒い感情がぷつんと湧き出てくる。自虐的な思考に陥りながら、
「先にシャワー、浴びてくる」
「いてら~」
ハァ・・( ・´д・`)=3
適当な返事に送られて、太一は脱衣所に入る。鏡に映った自分を思わずみつめた。
贅肉と脂肪の塊のようだった体から、今ではその下に確かな筋肉の存在を知覚出来るようになるまでに至った。一部の筋肉は意識すれば少し動く。お腹も腹筋の部分が薄っすらとだが見えるようになってきた。
食生活の改善で脂肪が落ち、筋肉の輪郭も少しづつだが浮き上がってきている。
きっと、このまま行けばそう遠くないうちに不破のダイエットは成功し、太一自身もこれまでのようなガチデブ体型からオサラバできるだろう。
……あと、もうちょっと。
意外なことに不破はその不真面目さからは考えられないような真剣さでダイエットに挑んでいる。
聞けば太一が最初に提案した計画書の内容にも記載していたストレッチやフィットネスを、自宅で就寝前にやっているらしい。
その話を聞かされた時に、『なんかあんま体重減ってねぇんだけど』とジト目で言われたが。
見た目に変化があることから、それはおそらく不破の脂肪が減少してきたのであって、むしろ筋肉がついた分重くなってきているはずだと太一は答えた。
当然ながら、脂肪よりも筋肉の方が比重は上である。
日常的に筋肉を行使していれば、筋肉の成長と併せて体重が増加するのは自然な流れだ。
そのことを説明したら、
『でもアタシ別にムキムキとかなりたくないんだけど。むしろなんかヤダ』
と、二の腕を摘まんで顔を顰めていた。
が、実際のところ、女性は筋肉がつきにくく、かつ脂肪をため込みやすい性質がある。
そのため、よほど本気でトレーニングでもしない限り、今の軽い筋トレと有酸素運動だけで不破の危惧するようなムキムキな体になることはまずありえない。
『なら別にいいけど……体重が重くなるってのはなんだかなぁ……』
渋々といった表情。納得したのかしてないのか。だがいずれにしろ、今現在やっていることが将来的に無駄になるわけではない。
体重は確かに完全には元に戻らないかもしれないが、プロポーションは復活させることができるはずだ。
それで納得してもらうしかない。
汗を流した太一は、髪を乾かしてリビングに戻る。
不破はまだゲームをプレイしていた。彼女が大きく動くたびにスカートが翻って中のスパッツが見え隠れする。
「ふぃ~、あっつ……」
大きく開いたシャツ。風を送り込むために胸元をパタパタとはためかせる仕草に、太一は思わずドキリとさせられた。
不破が元の体形を取り戻すまで、きっとそう時間はかからない。
太一は、彼女の体付きに女性特有のシルエットが宿ってきたのを自覚し、もっと彼女が早く痩せられる何か、別のアプローチはないか、と考え始めた。
( ー̀ωー́ ).。oஇ
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