9話 旧世代の武器
「少しは落ちついた?? ごめんなさい、やっぱりソフィアには少し辛かったわね」
暫く無言で歩いていたリンが足を止めて振り返る。
「……大丈夫です。 こっちこそごめんなさい、どうしても止められなくて」
「無理もないわ。 ソフィアは優しいし、いい意味で純粋だもの。
あまりこう言う事には慣れて無いわよね。
それに貴方自身色々あったばかりだもん」
「いえ、私は本当に大丈夫です。
私にはリンが居てくれたから……ねぇリン、その人は今もずっと一人なんですよね??
生まれ故郷とはいえこんな仕打ちを受けているこの場所で……一体何をしているんでしょうか??」
「それは……ごめんなさい、詳しい事は私にもわからないの。
でも、あの人がどうしてこの場所に留まっているかは知ってるわ。 さっきも言ったけどここは軍が使用していた土地、つまり旧世代の武器が未だに多く存在しているの」
「旧世代の武器ですか??」
「えぇ、ソフィアも魔法学校に通っていたのだから、銃って名前くらいは聞いた事はあるでしょう??
昔は魔法の概念もなんてなかったから代わりになる武器を使って争っていた。
そんな代物がここには沢山残ってるみたい」
「銃って……勿論名前は聞いた事はありますけど、それが一体何の関係があるんですか??」
「大有りよ。 どうやらあの人はこの2年間ずっと銃の練習をしているらしいわ。
それがあの人がここ場所に留まっている理由みたいだしね」
「じ、銃の練習を?? 一体何の為にそんな事を??」
リンの話に私は驚いた。
銃の事は魔法学院の授業で習ったし、拳銃くらいなら実際に使った事もある。
でも旧世代の武器は一切の魔力を込める事が出来ないから簡単な魔法障壁さえも壊せないのだ。
殆どの人間が魔力を持つ今の時代においては全く使い物にならない。
魔物相手に傷を与える事なんて尚更不可能な代物だ。
言ってしまえば子供のおもちゃのような物、それがその時の私の感想だった。
そんな物の練習を何故しているのか??
私にはどんなに考えても全く検討が付かなかった。
「わ、私だって知らないわ。 言ったでしょ?? 詳しい事はわからないって」
「あっ……そうでしたね、ごめんなさい」
「まぁ答えてくれるかはわからないけど、本人に直接聞いてみれば良いんじゃない??」
「はい!!」
リンの提案に私は大きく返事をし、そのまま私達は再び歩きだっ。
「……ってあれ? 行かないんですかリン??」
リンはその場で足を止めたまま動かなった。
「……実はね、もうとっくに目的の場所にはついてる筈なの。
ソフィアはずっと俯いていたからわからなかったと思うけど、私達さっきから同じ場所を歩いているのよね」
「えっ??」
その言葉に私は直ぐに辺りを見渡す。
……全然気付かなかったけど、確かに今までとは少し雰囲気が違う。
人の気配もなくなり、周りの建物は廃墟ばかりだ。
「この辺りに居るのは間違いないんだろうけど、思ったより広くてね。
このまま探しても見つかりそうにないから、ここで誰か来るのを待ってようと思ってたの」
お手上げと言わんばかりに手をあげてリンは溜息を吐いた。
「そうですね、当てもなく歩き回るよりはそっちの方が良いですよね。
何処に居るかわからない人を見つけるのは難しっ……あっ、いや、分かりますよ!!
ちょっと待っててください!!」
私はその場で目を瞑り集中して魔力を込める。
『聴力強化……レベル3』
リンが言っていた。 私達が探している人は銃の練習をしていると。
どんなタイプか詳しくはわからないけど、この近くに居るなら絶対に音が聞こえる筈。
「……見つけました!! こっちです! リン!!」
「えっ? あっ、ちょっと!!」
僅かに空気の震える音が聞こえて私はリンの手を掴んで走った。
……あれ? この声……もしかして誰かと一緒にいる??
4人……いや、5人かな??
音に近付くにつれて聞こえてきた男女の話し声が私の走る速度を早くさせる。
こ、ここです!! この場所から銃声が聞こえて居ましたから!!
……でも、もしかしたら先客が居るかも知れません」
「確かにその様ね。 これだけ近付いたら私にも銃声は聞こえるわ。
それにしても先客ね……そりゃあ私達と同じ事を考えてる人も居るわよね。
でもとりあえず中に入りましょう?? その為にここまで来たんだし」
そう言うとリンは目の前の大きな扉に手をかけ、ゆっくりとその扉を開いた。
「す、すごいですね」
建物の中に入った私はその光景に圧倒される。
見た事も無い沢山の銃は至る所に転がっており、撃ち抜かれた跡のある朽ちた人型の的がこの場所が放置されてからの年月を教えてくれている様だった。
左右は塀に囲まれていて扉はあったが天井はない。
的の裏は吹き抜けになっているのか、一体この部屋が何処まで続いているか一目ではわからなかった。
ここは……射的場?? 魔法学校で似た様な場所があったけど、モデルはここから来てるのかな??
「ねぇソフィア、あれ」
部屋の内装に驚いていた私の肩をリンは数回叩き、そのままその手を前に向ける。
「……どうやらまだ話してる最中みたいね。
ソフィア、このまま気付かれない様に近付きましょう」
リンが指差した方向には男女混同のパーティーらしき団体が1人の男の人を取り囲んでいた。
「わ、わかりました」
私達は出来る限り気配を消しゆっくりとその集団の近くへと回り込む。
「なぁ、頼むよ!! 別にあんたにとっても悪い話じゃないだろ?? こんな所で腐ってるより俺達と一緒にもう一度ダンジョン挑戦しないか??」
「……」
「なぁ?? 聞こえてるんだろ?? そろそろ返事を貰いたいんだけど??」
「……」
おそらくはこのパーティーのリーダーであろう少年は、少し苛ついた声色で目の前の男に話し掛ける。
だけどその人は全く返事をする事はなくそのまま前だけを見つめ銃を打ち続けていた。
やっぱりこの人達も勧誘しにきてたんだ。
って事はあの人がリンの言ってた人なのかな??
ここからじゃあんまり顔は見えないけど、想像より随分若いかも。
30代?? いや、もしかしたらもっと……。
「黙ってないで何とか言ったらどうなんだ!! わざわざこんな辺境の地まで来てやったんだぞ?? お前みたいな『負け犬』の為に!!」
我慢していた怒りをぶつける様に少年は男に向かって怒鳴りつけた。
「……だから最初に言っただろ?? 話なら後で聞いてやるって」
しゃがみ込みながら銃を構え、その人は少年に目も向けずに静かに言い放つ。
その声はとても落ち着いていたけど、私には少しだけ怒りが滲んでいる様にも聞こえていた。