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8話 勇者の生まれた街 ※



「この辺りの筈なんですけど……あっ!! あそこじゃないですか?? リン!!」

 

「や、やっと着いたのね……はぁー、疲れたわ」


 リンと一緒に街を出て10日、私達はようやく目的地のアランへと辿り着いた。


「それにしても結構人の姿が見えますね?? 何かあったのでしょうか??」

 

 こう言っては失礼かも知れないけど、アランの街は私の想像以上に活気に溢れていた。

 

「あぁ、きっと観光客ね」

 

 隣で息を整えながらリンが辛そうに答える。

 

「か、観光客ですか??」

 

「えぇ、この街は旧世代の軍の所有地だったからその名残がまだ見られる場所として多少は有名なのよ。

 ……まぁあの人達の目的はもう一つの方だと思うけど。

 ソフィアも直ぐにわかるわ、少し歩けば見えてくると思うしね」

 

 そう言うとリンは私の前を歩き始める。

 

「あっ、待ってくださいよ!!」



 置いていかれない様にその後を追い、私達は街の入口へと向かった。

 

 

 もう少し歩けばわかるって一体この町に何があるんだろう??

 見たところ大きな建造物もなさそうだし、この近くにはダンジョンだって無いのよ??

 それとも私が知らないだけで有名な軍の施設でもっ……。

 


「な、何ですかこれ??」

 


 私の思考は街の入り口に掲げられた大きな横断幕によって遮られる。

 


「何って……書いてある通りよ。 そしてこれがこの街アランに人が集まる大きな理由」

 

 私の目に映るその横断幕には大きな字で『勇者の生まれた育った街』と書かれていた。

 


「ち、ちょっと待ってください!! ここはあの人の生まれ故郷じゃなかったんですか??」

 


「そうよ。 そして同時にこの国で一人しか与えられていない『勇者』の称号を持つ者が生まれた街でもあるの……更に言えば私達が探している人と勇者様は一緒に育った仲、つまる幼馴染って事になるかしら」

 

「そ、そんな……」

 

 その人が追放されたのは勇者のパーティじゃなく『幼馴染の勇者のパーティ』って事なの??

 そんなのって……。

 

「ソフィア、貴方の言いたい事もわかるわ。

 だけど私達が口を挟める問題でもないし、もう終わった事だわ……今は一先ず私達の目的を優先しましょう」

 

「……えぇ、そうですね」

 

 私はその場で深呼吸をし、再び足を動かす。

 

 

 街に入った後も勇者に関する施設や看板を見る度に胸の奥が締め付けられる。

 そしてその横に最近まではあったであろう看板の撤去跡が更に私の気分を悪くさせた。

 

「……」

 

「……」

 

 色めき立つ観光地を私達は無言で通り過ぎていきそのまま一本道の突き当たりに辿り着いた。

 

「……どうやらこの先見たいね。 行きましょうソフィア」

  

 リンはイラついた口調でそう言うと身体を右へ向ける。



 リンが怒っている理由はすぐに分かった。

 

 矢印と一緒に描かれた『この先、旧軍基地。 足元注意』の看板に大きく『なお今は負け犬の住処になってます』と落書きされていたから。

 


 その後も私達とすれ違う人達が小さくない声で「あんな風にはなりたくない」「あぁ、なったら終わりだな」「まさに負け犬って言葉が相応しいぜ」と談笑しながら帰って行く。


 

 ……あの人が私達に協力してくれる筈が無い。

 

 想像を超える酷い仕打ちに私はもう諦めかけていた。



 幼馴染のパーティを追放されて見ず知らずの人に笑い者にされる。 

 そのうえ生まれ育った故郷にさえ見捨てられている……こんなのいくら心が強い人でも壊れてしまう。 

  


「……貴方が泣く事じゃないわ」

 

「……うん、分かってる……けど、こんなの酷すぎるよ」

  

 気付けば私の目からは涙が止まらなくなっていた。

 


 私と同じ境遇だと勝手に想像していた自分が嫌になる。 

 彼は私なんかよりずっと……ずっと辛く苦しい思いをしていた。 

 

 我慢しても止める事の出来ない涙を何度も手で拭い、私はただただリンの後ろを着いて歩く事しか出来なかった。


〜リン・リメストのモノローグ〜 その2



ソフィアに偉そうな事を言ったけど、実は私も王都を出た事は殆ど無い。

昔お父様が生きていた頃に連れ回されたくらいだ。


その頃の印象はとにかく時間の流れがゆっくり感じられ、空気が美味しい居心地の良い場所。

それはソフィアにとっても良い気分転換になるんじゃ無いかと期待していた。



……だけど、全ては幼い私の勘違いだったみたいだ。


この街で目に付く様々な光景は私に苛立ちを募らせ、ソフィアの心を苦しめている。


下品な落書きと勘に触る薄ら笑い。

優れた者を持ち上げる為に他者を馬鹿にする愚行の蔓延る街。

それがアランと言う街に来た私の印象だ。


後ろを振り向く度にソフィアの悲しげな表情か目に映る。



失敗した……こんな事ならぬいぐるみの一つくらい許可してあげるべきだったのかも知れない。



彼女をこれ以上傷付けたくなかった。



だけど、今の私に出来るのは見ず知らずの通行人を殴らない様に自制する事だけだった。

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