7話 再出発
3日後、約束通りリンが私の家を訪ねてきた。
「ソフィア準備はちゃんと出来てる??」
「はい!! ちゃんと用意しました!!」
「そう、それなら早速……って何よそれ??」
「え?? リン知らないんですか?? これはゆるカメちゃんです!! 今大人気のキャラクターなんですよ!!」
「知ってるわ、私も好きだもの。 可愛いわよね!! 特にこの何も考えてない様な顔が……じゃなくて!! なんでそんな物を持ってるのかしら??」
私が持っていたゆるカメちゃんのぬいぐるみを指差し、リンは飽きれた様に溜息を吐く。
「なんでって言われても……持っていくからに決まってるじゃないですか」
「置いていきなさい」
「っ!? ど、どうして?? 長旅になるなら連れていかなっ」
「置きなさい」
「……はい」
怒った表情を浮かべるリンに、私は渋々ゆるカメちゃんをベットに戻す。
ごめんね、必ず帰って来るから良い子でお留守番してて下さいね。
「他に変な物持って行こうとしてないでしょうね?? 」
「あ、ありません」
「はぁー……まぁ良いわ。 ソフィアはこの街を出た事は無いって言ってたものね。 目的地がどのくらい遠いかもあまり理解できてないみたいだし」
リンはそう言うと私の目の前に地図を広げて続ける。
「良い?? 私達の街のユーストリアはここ、そして今から向かうアランはここ。 どんなに急いでも10日はかかるわ」
「そんなにですか??」
「ええ、今となっては交通手段さえも殆ど残ってない街からね。 だからなるべく余計な物は置いていく事、わかったわね??」
「は、はい!!」
リンにそう言われ、私は急いで荷物を整理する。
枕くらいは持っていこうと思ってたけど、置いて行った方が良さそうだ。
「そろそろ行くわよ??」
数分後、私の準備が終わったと同時にリンが立ち上がる。
「あっ! リン!! 置いていかないで下さい!!」
私も急いで荷物を持ちその後を追った。
途中リンはここ3日間で得た情報を話してくれた。
如何やら『あの人』はこの街から離れて生まれ故郷に帰ったみたいだ。
良くも悪くも元勇者のパーティメンバーだけあってこの2年間、大勢の人がその姿を見に行ったらしく間違いは無いとの事だった。
その中には私達と同じくパーティの勧誘をしに行った人達も居たみたいだが、その人は全て断っているらしい。
「俺にはやるべき事がある」その一言だけ伝えて。
会話の最後リンはもう一度、会いに行くかどうかを訪ねてきたが私は直ぐに首を縦に振った。
他に行く当ても無かったし、何より私自身がその人に会ってみたかったから。