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6話 境遇を共に ※

 

「……平民? そうよ!! 平民よ!!」

  

 私の言葉にリンが何かを思し出したかの様に手を叩く。


「き、急にどうしたの??」

 

「思い出したのよ!! どうしてソフィアが追放される事になったのか!!」

 


 私が追放された原因??

 


「それは私が『平民』だったからよね?? ラガゼットが最初に言ってたもん、平民とは一緒に戦いたく無いって。

 でもそれがどうしたの?? 

 ……もしかして今から私に貴族になれとか言うんじゃないわよね??」

 

「言うわけ無いじゃない! 今更ラガゼットのパーティに戻るなんて選択肢は無いわ」


「だったらどうしたんですか??

 もしかして私が追放された原因は他にもあったって事??」

 

 私がそう尋ねるとリンは口角を僅かにあげて得意げな表情を浮かべた。

 

「ラガゼットがソフィアを追放した理由はそれであってるわ。 

 貴方が帰った後も、うだうだ言ってたからね。 私が思い出したのはなんでラガゼットがそんな馬鹿な事をしたのかって事よ」

 

「えーと、確か平民が居たせいで勇者のパーティがダンジョン攻略に失敗したから……でしたよね??」

 


 あの時は自分の事で精一杯だったけど、考えてみれば酷い話だ。 

 ダンジョン攻略の失敗をたった一人に押し付けるなんて。

 


「そう、私達より前にパーティを追放された人、言わば私達の先輩ね。

 もしかしたらだけどその人なら私達に協力してくれるんじゃないかな??」

 


 リンの言葉に私の心臓の鼓動が少しだけ早くなったのを感じる。

 


 確かに元とは言え勇者のパーティに居た人だ、実力は申し分ないだろう。 

 それに……その人は私達と同じ気持ちを味わっているのだ、見返したい気持ちだってあるかも知れない。

 


「で、でもそんな優秀な人ならもう既に他の人とパーティを組んでるんじゃないんですか?? ラガゼットは2年前とも言ってましたし」

 

「……おそらくだけど、今でも一人だと思うわ。 

 ソフィアは噂とか興味ないから詳しく知らないと思うけど、あの時は本当に酷かったの。

 ギルドだけじゃなく、国が一丸となってその人を追い詰めてたから。

 まぁそれだけ勇者の位を持つパーティは期待されてたって事なんだけどね」



 リンはそう言うと私から視線を逸らして言いにくそうに続ける。



「実は私はたまたまその人が追放された現場を見てたの。 確かラガゼットと一緒にご飯を食べている時にね。

 勇者本人は居なかったけど、それでも他のパーティメンバー全員から罵声を浴びせられてたわ。 

 そして気付けば周りの人達も参戦して食べ物や飲み物まで投げつけられてた」

 

「そ、そんな」


 

 その光景を想像だけで、胸が痛くなる。

 

 たった一人に、ラガゼットだけでもあんなにも辛かったのだ。 

 大勢の人達に同じ事を言われたら私ならきっと耐えられないだろう。

 


「それ以来、その人は誰ともパーティを組む事はしてないみたいよ。 

 勿論、最近の事は詳しくは知らないけど……どうするソフィア? 会いに行ってみる??」


 リンは心配そうに私を見つめる。 


 正直言えば、その人が私達に協力してくれるとは到底思えない。

 

 だけど他に望みもない……今は僅かな希望に縋ろうと思う。



「行きましょうリン。 協力して貰えるかはわかりませんが可能性が少しでもあるのなら」

 

「……そうね、ソフィアならそう言うと思ったわ。 

 ふー、じゃあ私は一度帰ってギルドでその人の情報を集めるわ。 

 まぁ結構な有名人だし、居場所くらいは直ぐにわかると思う」

 

 そう言うとリンは徐に立ち上がり、私に背を向けた。

 

「出発は3日後。 それまでにソフィアも準備しとおく事!! 長旅になるかも知れないから準備は念入りにね??

 部屋もちゃんと片付けるなさい。

 それから……それから、今日は本当にありがとうねソフィア」

 

「えっ、あっちょっと!!」



 一度も振り返る事はなく早口で捲し立てると、リンは私そのまま家から出て行った。

 


 お礼を言うのは私の方なのに。

 リンが来てくれて嬉しかったわ、ありがとう。

 

 急いで帰ってしまったリンに心の中で返事をし、少し時間を置いて私も家を出た。

 

 

 

 

 とりあえず、お腹が空いたからご飯を買いに行こうかな。

 あっ、あと、帰ったら部屋も掃除しなきゃ。

 


「……それにしても一体どんな人なんだろう??」

 

 買い物に向かう途中、私はリンから教えてもらった人の事を思い出す。

 


 勇者のパーティを追放されたその人は、今何を考えているのだろうか??

 勇者を恨んでいて、復讐しようとしているのだろうか??

 それとも全てが嫌になって絶望しているのだろうか??

 

 私がその人の立場なら間違えなく後者だろう。

 

「……私に何か出来る事があれば良いんだけど」

 

 気付けば私は会ったこともないその人の事をとても気になり始めていた。


〜ソフィアの日記〜 その2



6月5日


今日は久しぶりに外に出た。 

冷たい夜風に当たって帰って来たのに身体があまり冷えてないのは、きっと心が温かいからなのかな??

だとしたらそれはリンのおかげだ。


って大人になってまで私は何を書いているのだろう。

深夜のテンションに少し浮かれているのかも。



それにしてもリンの話は衝撃的だった。


勇者のパーティが七つ星ダンジョンの攻略に失敗した話は聞いた事はあったけど、その後の事は知らなかった。


まさかパーティメンバーの1人に全責任を押し付けていたなんて。


どうしてそんな簡単に仲間を切り捨てられるんだろう。

今まで一緒に冒険し、互いに命を支え合ってきた筈なのに。


リンはその人の居場所を探してみるって言ってたけど、そう簡単に見つかるのかな??

私なら誰も知り合いの居ない何処か遠い所に逃げ出したくなると思う。


私と同じ境遇のその人にどうしても仲間意識を持ってしまう。

でもきっとそれは失礼な事なんだろう。

見ず知らずの私になんかに同情なんてされたくないだろうし。


……あくまで協力を頼みに行くだけにしなきゃ。

彼の境遇や立場なんて気にせず、パーティの勧誘をしよう。

それが礼儀だもの。



リンとの約束の日は3日後。

それまでに色々と準備はしないとね。


先ずは……うん、部屋の片付けからしよう。


き、今日はもう遅いし明日から!!



おやすみなさい。

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