5話 平民の意地
「はははっ、こんなに笑ったのは久々だわ! やっぱソフィアにはその意味わからない強気な態度が似合ってるわ!」
「それ褒めてるですか??」
「褒めてないわよ?? まぁ馬鹿にもしてないけどね。 さて、私の話はこれで終わり。 改めてこれならも宜しくね、ソフィア!」
「う、うん!! 本当にありがとうリン!! よ、よろしくお願いします!!」
優しく微笑むリンに私は急いで頭を下げた。
もう一度あのダンジョンに挑める事に、リンと共に戦える事が私にはとても嬉しかった。
「そうね、じゃあ早速これからの事についての話をしましょうか??」
しばらくして笑いが落ち着いた頃、リンは少し照れ臭そうにそう言った。
「そ、そうですね!! 2人なら出来る事も増える筈ですし!!」
「ええ、私達の最終的な目標は七つ星ダンジョンの『翡翠の竜王』をラガゼット達より先に攻略する事よ!!
その為にはソフィアがラガゼットに渡したダンジョンマップを取り返す必要があるわね
今からもう一度迷宮を攻略してたんじゃ絶対に間に合わないから」
「はい!! ……ってあれ?? どうしてマップが必要なの??」
私にはリンの言葉の意味がわからなかった。
マップなんて必要無いと思うんだけど??
「どうしてって……ダンジョンマップが無いと最深部には辿り着けないでしょ??
ソフィアも自分で言ってたじゃない、1人じゃ60階にさえ行けるかどうかだって」
「それは言いましたけど、リンが手伝ってくれるのでしたら話は別ですよ??
私が60階層まで行けないと言った理由は、そこに住む魔物のせいだもん。
思えば最初にリン達をパーティーに誘ったのもそれが理由でしたし。
なのでリンが居る今なら85層までは攻略出来ると思います……まぁそれでも2人だけじゃ最深部に行けない事には変わりないけど」
そう、私とリンだけじゃ不可能だ。
せめてあと1人、私達に力を貸してくれる仲間がいれば良いのだけれど。
「……えっ?? ち、ちょっと待って!!」
今度はリンが言葉の意味を感じ取れていない様に首を捻りながら続けた。
「もしかしてソフィア……100階層までの道筋を覚えているの?」
「あ、当たり前じゃない! 普通忘れませんよ!!
そもそもあのダンジョンマップだってラガゼットが欲しいって言うからわざわざ手書きで書いた物なんですよ??
あっ! もしかしてリンがマップを取り返そうとしてたのって私の記憶力を疑ってるって意味ですか??
わ、私だって流石にそこまで馬鹿じゃありませんよ!! 道くらい覚えてます!」
まさかリンが私をここまで子供扱いしていたとは!! 全くもって失礼な話だ!
私が迷子になるのは……す、少し大きな街に行った時くらいなんだから!!
「ほ、本当に? 本当に覚えているの??」
いつもの大きな目を更に見開いてリンは驚いた表情を浮かべていた。
「……そ、そんなに驚かなくて良いじゃない。
はぁー、そもそもリンだって私がマップ見ながらダンジョンの攻略に行った所見た事ないでしょ??
私はいつだって記憶を頼りに進んでたし、間違えた事も一回も無いもん。
それが何よりの証拠になると思うっ」
「す、凄いじゃない!! 分かってたけどやっぱソフィアは天才だわ! そして同時に本当に馬鹿なのね!!
普通ダンジョンの道筋なんて記憶しないもん!
しかも手書きって!! 今時のマップなら持ってるだけで自動で更新されるのに!!」
私の言葉を遮って、急に抱きついてきたリンは称賛してるのか貶しているのかわからない言葉を大声で叫ぶ。
いや、これは絶対に馬鹿にしてる方だと思うけど……それより今、自動更新って言った?
えっ? マップって今まで買った事無かったけど全部自動なの??
し、知らなかった。
「でも本当に凄いわよソフィア! これならラガゼットより先に私達がダンジョンを攻略出来るかも!!」
「ほ、本当に?」
「ええ! ダンジョンの道筋がわかっているなら私達もラガゼット達と同じ様に新しい仲間を増やせば良いだけだもの!! 簡単よ! 冒険者なら誰だって協力してくれるわ!」
「そ、それは……無理よリン、私達に協力してくれる人なんて居ないわ」
笑顔で話すリンに私は静かに呟く。
「どうして?? 『翡翠の竜王』は冒険者なら誰もが挑戦したいと思う七つ星ダンジョンよ?? ギルドに居る人に声を掛ければっ」
そこまで言ってリンは気付いたのか、それ以上続きを言う事は無かった。
……確かにリンの言う通り本来なら協力してくれる人は多いだろう。
だけど、今となってはあのギルドに私の仲間になってくれる人なんて居ない。
私がラガゼットに追放された場所はギルドの大広間なのだ。
あの場にいた人達が私達の味方をするなんて考えられない。
「だ、だったら他のギルドの人に! いえ、フリーで活動してる冒険者だって沢山居るわ! その人達に協力を頼めば!!」
「それも無理です。 他のギルドの人間が私の話を信じるわけ無いです。
ギルドに入ってない人達の事は考えたけど、私達が求めるレベルの人は居ないわ。
頭数だけ増やしても死体が増えるだけよ……ただでさえ私自身が足手纏いなんだし」
「そ、そんな事ないわ……」
私の言葉にリンが元気なく呟く。
今の私に味方してくれる人なんて一人も居ない。
だからこそ私はダンジョンの攻略を諦めていた。
リンが協力してくれるだけで私にとって十分奇跡だ。
「そんなに落ち込まないでリン。 まだ2ヶ月あるんだもん! 私が頑張って修行して強くなるわよ!! ラガゼットやエマなんて簡単に倒せるくらいにね!!」
自分自身に言い聞かせる様に私はリンに言った。
「あの二人に見せてやるんだから!!『平民』の意地ってやつをね!!」
そうだ!! 『貴族』がなんだって言うんだ!!
私はもう二度と諦めたりしないんだから!!