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4話 新たな決意 ※



「ソフィア……貴方本当にこのまま諦めるの??」

 

「えっ??」

 

 リンの鋭い視線が私の目を真っ直ぐに捉える。

 

「貴方言ってたわよね?? ラガゼットとは違う選択肢が見えているって!!

 ソフィアが先にあのダンジョンをクリアする選択肢があるって言ってたじゃない!! 

 それなのになんなのよこの体たらくわ!! あんなに熱く語ってた夢をもう諦めたのかって聞いてるのよ!!」

 

 リンの声に徐々に熱が篭る。

 

「た、確かにあの場では訳あってそう言いましたが、現実的にもう私に出来る事はないんです。

 ギルド側がラガゼットに協力した今、私に手を貸してくれる人はあのギルドには居ない。 

 ラガゼットの言う通り通常の攻撃魔法を持ってない私だけじゃ『竜王の間』には絶対に辿り着けない。 

 60階層までいけるどうか……つまりどう足掻いても不可能なんです。 

 わ、私だって好きで諦めてる訳じゃないんです!!」

 

 リンの熱に充てられたのか気付けば私もいつもより感情を表に出してしまっていた。 

 


 失敗した、今更こんな事をリンに言ったって気を遣わせるだけに決まってるのに。

 


「……どう足掻いても不可能?? 絶対に辿りつけない?? 貴方本当にソフィアなの?? 

 いえ、貴方はきっと偽物なのね。 本物のソフィアがこんな台詞を言う訳ないもの」


「ど、どう言う意味ですか! 私は間違えなくソフィア本人です!!」

 

「違うわ。 貴方は偽物よ、私が知っているソフィアはどんな時だって『不可能』なんて言葉を使う事はなかった。

 こんな腰抜けじゃなかったわ!!

 私は本物のソフィアと話に来たの、偽物さんはさっさと御退場してもらえないかしら!!」

 

「か、勝手な事言わないでください!!

 さっきも言った通り私は本物のソフィアですし、不可能な事は不可能なんです! 

 私はっ!! ……ただの『平民』なんですから!!」

 

 喧嘩腰のリンの態度と言葉に私は思わず声を荒らげてしまった。

 


 だけど、この言葉は本心だ。 

 

 勢いに任せて投げやりに言ったわけじゃない、私はもう本心からダンジョンの攻略を諦めているんだから。

 

「……勝手な事を言ったのは貴方が先じゃない」

 

「なっ!! 私は勝手な事なんて言ってませっ」

 

「勝手な事を言ったのはソフィアが先だわ!!」

 

 私の声を遮り、今度はリンが声を張り上げる。

 

「貴方さっき言ってたわよね?? 

 訳があってラガゼットにあんな事を言ったって!! 

 あれって私の為でしょ?? あのまま行けば私があのパーティを抜けると思ったから!!」

 

「そっそれは……ち、違います!! リンの勘違いです!!」

 

「嘘を付く時に目を逸らすのは貴方の悪い癖ね」

 

「っ……う、嘘じゃありませんから」

 

「言っとくけどあんなわかりやすい演技を見破れない程、私と貴方は『他人』じゃないの。 

 これ以上嘘を重ねるのは辞めて頂戴」

 


 きつい言い方で話すリンの言葉は今まで聞いてきたどんな言葉よりも優しく、その温かさに私は思わず泣きそうになってしまった。

 


 それにしてもまさか全部見破られていたとは。

 


「……リン、ごめんなさい。 貴方の言う通り先に勝手な事をしたのはどうやら私だったみたいね。 

 でも、あの時の私の判断は間違ってないわ!! リンには夢が、大事な願いがあるじゃない。 

 私なんかのくだらなくて小さい夢なんかじゃなくてっ」

 

「人の夢に小さいも大きいも無い!!」

 

 私の言葉を再び遮ったリンはそのまま大声で続ける。


 

「あの時の判断が間違ってなかったですって?? そんな訳ないじゃない!! 何もかも間違ってるのよ!!

 あんな事をして私が喜ぶとでも思ったの?? 

 私がソフィアを見捨ててまで自分の願いを叶えたいと本気で思ってるの??

 馬鹿にしないでっ!! もう一回言うわ! ソフィアの判断は間違っている!! 私はもう、あんな奴等とパーティを組む気なんて無いわ」

 

 

「……ま、まさかリン、貴方ラガゼットのパーティを抜けたの??」

 


「えぇ、そうよ。 当然じゃない、あんな酷い事をする奴らと一緒に行動したくないもの。 ましてや命なんて預けられなっ」

 

「な、何考えてるですか!! 今からでも遅くないです!!

 直ぐに撤回してラガゼット達の元へ戻るべきよ!! 

 リンの夢を叶える大きなチャンスなんだよ?? なのに何でっ!!

 一時の気の迷いで判断を間違えてるのはリンの方です!!」

 

 想像していなかったリンの言葉に私は我慢出来なかった。 

 


 まさかここまでリンが馬鹿だったなんて!!

 リンの家を……リメスト家を救う絶好の機会を自ら放棄するなんて!!


 

「嫌よ、それにもう遅いわ。 パーティを抜ける時にラガゼットの顔面を思いっきりブン殴ってやったからね」

 

「な、殴ったって……リン、貴方の夢はどうするんですか??

 リメスト家を再び立て直すってあんなに言ってたじゃない!!

 その為なら死ぬ事だって怖くはないって! それなのに何でそんな事をしたのよ!!

 あの言葉は嘘だったんですか!!」

 


 せめてリンには私の分まで夢を叶えて欲しかった。 


 そんな想いからか、気付けば私の目からは涙が溢れていた。

 



「夢を叶える為なら死ぬ事なんて怖くない……その気持ちは嘘じゃないわ」

 


「だったらっ!! だったらどうしてっ」

 

「簡単な事よ。 私には死ぬ事よりも怖い事がある、それは私が『私』じゃなくなる事よ。 

 確かにラガゼットの言う通りにソフィア一人を切り捨てれば、リメスト家はこの先も生き残れるかも知れない。 

 だけどそれじゃ……私が死ぬのよ、リン・リメストがね。 

 私は死ぬ時も生きる時も私でいたい。 ただそれだけよ」

 

 

 

 真っ直ぐ私の目を見つめてリンが答える。

 

 その姿はとても凛々しく、私は思わず息を呑んだ。

 

 

 一時の気の迷いなんかじゃなくリンは本気で言ってる、その事実が私の心臓の鼓動を再び大きく高める。

 

 そしてそんな私の心情を察してか、リンはそのまま私が一番求めていた言葉を呟いた。

 


「ソフィア、『本物』の貴方に尋ねるわ。 もう一度、私と一緒に『翡翠の竜王』を攻略しましょう」

 


「っ!! そ、それは……」

 


 今からもう一度……あのダンジョンに挑む。 


 あの日からずっと考えない様にしてたその可能性に私の思考は、感情は、大きく乱される。

 


「ど、どうして私なんですか?? リンやラガゼットの様に『貴族』でも無いし、攻撃魔法だって無い!!

 迷宮の攻略が終わった今、私出来る事は殆ど無いんです!! そんな足手まといを……どうしてっ」

 


「どうしてって……ソフィアは私の『パーティ』じゃない。 

 ダンジョン攻略にパーティを誘うのは当然でしょ??

 だからね……もう泣かないでソフィア」

 



「……うん」

 



 泣きじゃくる私の肩を摩りながらリンは優しく答えた。

 その掌はとても温かくて、まるで私から不安や恐怖取り除いてくれている様だった。

 


「ソフィア、貴方は足手まといなんかじゃないわ。 

 たった一人で60階層までを攻略し、遂には今まで誰も辿り着く事の出来なかった99階層へと私達を導いてくれたじゃない!!

 いつも笑顔で、どんな困難に陥っても貴方は決して『不可能』なんて諦めの言葉を言う事は無かったわ。

 私はそんな貴方を心から尊敬してるの、本物のソフィアはラガゼットに裏切られたくらいで夢を諦める様な人じゃない筈よ。 そうでしょ!!」

 



 私を見つめるリンの大きな瞳に涙が溜まる。 

 



 ……そうだ、16階層で餓死寸前まで追い込まれた時も29階層で精神崩壊しそうになった時も43階層で魔物に殺されそうになった時も私はダンジョンの攻略を諦めた事は無かった。 



 それなのに、ラガゼットに、ギルドに裏切られただけで諦めるの??



 そんなの、そんなのって……全然私らしくない!!




「……すいません、リン。 

 もう一度私に尋ねて貰っても良いですか? 今度こそ私が、ソフィア・ソーリアス・ラズリーがお答えしますので」

 



「ふふっ、わかったわ。 じゃあ最後にもう一度だけ聞くわね」

 


 目に溜まった涙を拭いリンは微笑む。

 


「ソフィア!! 貴方がまだ夢を諦めてないのなら私と一緒に『翡翠の竜王』を攻略しましょう!! 誰も成し遂げた事の無い七つ星ダンジョンを!!」

 


 そう言ってリンは私の前に手を差し出す。

 



 私は迷わず、直ぐにその手を握り返した。

 



「えぇ、勿論です!! 私は、私達は絶対に夢を諦めるつもりはありませんから!!」 

 




「「……ふふっ、あっはは」」

 



 目を合わせた私達は同時に笑い合った。

 



 これから先、もしかしたら2人とも死ぬ事になるかも知れないのに私達はそのまま涙を流しながら笑い続けた。

 




 ……ありがとう、リン。 


 どうやら貴方のお陰で私も『私』を取り戻す事が出来たみたい。


〜リン・リメストのモノローグ〜



ソフィアの家に来てから5日。


ようやく彼女に会う事が出来た。 毎晩遅くまで叫んでいたからかなり怒ってるかと思ったけど、如何やらソフィアは酔っていたみたい。


前に一緒にお酒を飲んだ時も酷く暴れていた事を思い出す。


ふふっ、あの時はラガゼットも焦ってたわね。



……一体どうしちゃったのかしら。



あの日、ラガゼットはまるで別人の様だった。

終始イラついた態度に濁った瞳の色。


もしかしたらラガゼットにも何か事情があるのかな??



……勿論、どんな事情があったとしても彼がソフィアにした事を許す事は出来ない。


ソフィアは優しい子だ。

いつも一生懸命で希望に満ちた綺麗な目をしてる。


そんな彼女に私は救われたのだ。


ラガゼットの言う通り『落ちこぼれ』と呼ばれていた私に夢を見せてくれた。


そんなソフィアを裏切ったラガゼットは本当に大馬鹿者だ!!



ソフィアの力になりたい、彼女の味方でいたい。



それが私に出来る唯一の恩返しなんだ。

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