3話 思わぬ訪問者
「……お腹減った」
食器やゴミが散乱してるテーブルをベットで寝転びながら眺め、何か食べる物が無いかを探す。
いつもなら気になってしょうがない程に汚れたテーブルも、ベタベタした自分の髪も今はどうでもよく感じてしまう。
あの日、私がパーティを追放された日から今日で5日目になる。
最初の3日間の記憶は殆ど無い、泣き疲れては寝てを繰り返していたからだろう。
4日目、つまり昨日はラガゼットとエマ、それにギルドに対しての怒りが出てきたからかちょっとだけ元気なって家にあった食べ物を何も気にせず食べ散らかしたのを覚えている。
……あぁだから何も無いんですね。
「さ、流石に買い物くらいは行かないとね」
いくら探しても無い物は無いんだと見切りをつけ、ベットから立ち上がり寝過ぎで固まっている身体を引き伸ばす。
「……夜だし着替えずに行っても大丈夫だよね?? 別に誰にも会わないだろうし」
自分に言い聞かせる様に小さく言い訳を言い、私は必要最低限の荷物を持って5日振りに家の扉を開けた。
「……やっと出て来たわね」
扉を開けた先に居た人物に私は心臓が止まりそうになるほど驚いた。
「リ、リン! な、なんでここに??」
「ソフィアが心配だったからに決まってるでしょ??
貴方ったらあれから10日もギルドにも街にも姿を見せないんだもん……正直最悪の事態も考えてたわ」
「……10日?? 5日じゃなくて??」
「10日よ!! 私がここに来始めたのが5日前なんだから間違えないわ!!
毎日夜遅くまで何かを叫んでたからとりあえず生きてるのはわかってたけど、ソフィアったらドア叩いてもベル鳴らしても無視するから毎日夜にここで貴方が出て来るのを待っていたのよ。
……まぁソフィアが私と会いたくないって思う気持ちもわかってたけど、どうしても話しておきたい事があったから」
リンの辛そうな表情を見れば、彼女が嘘をついて無い事は直ぐに分かった。
……正直叫んでた記憶も無いし、ましてや無視したりとかなんて全然覚えてないけどリンがそう言うなら間違えない事なんだろう。
私自身ここ最近の記憶はあまり無いのだし。
「ごめんなさい、リン。 言い訳になるかも知れないけど、ここ数日の事は全く覚えてないです。 決して意図的にリンを無視をしてた訳じゃ無いの」
「覚えてない?? 10日間もの記憶がないの??
ふふっ、そんな事有り得なっ……ねぇ? もしかしてソフィア、お酒飲んだりした??」
「えっ?? 覚えてないけど、お酒のゴミもあったから多分飲んだんだと思うけど……それがどうかしましたか??」
「……そ、そう。 まぁそれなら仕方ないわね」
何が仕方無いんだろうか?? もしかしてリンは私がお酒に飲まれていたとでも思ってるのかな??
そんな事今まで一回も無いのに。
「と、とにかく私を無視してたわけじゃないって事は信じるわ。 上がっても良いかしら??」
「も、勿論です。 あっ、でも今は少し汚いけど大丈夫ですか??」
「……それもなんとなく察してるわ。
じゃあ上がるわね」
深い溜め息を吐きながらリンは私の家へと入った。
「こ、これ人間の住むところなの??」
「い、今だけですよ!! 何時もは綺麗なのはリンも知ってるでしょ!! 何回も来た事あるのだし」
「えぇ、まぁそうなんだけど……面影が全く無いから別の空間かと思って」
「だからさっきも言ったじゃない。 少し汚れてるって!!」
「ソフィア、少しの意味知ってる??
ってまぁいいわ、あんまり時間もないしね」
そう言うと、リンは足で床のゴミを掻き分けそのままその場に腰を下ろした。
「単刀直入に言うわ。『翡翠の竜王』のダンジョン攻略日が決定したの、今から2ヶ月後よ」
真剣な表情で私を見るリンの言葉に心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「そ、そうですか。 直ぐにでも攻略にいくと思ってましたが、ラガゼットも意外と慎重なんですね」
私は出来る限り表情を変えずに、リンに言葉を返した。
「いえ、ラガゼットは直ぐにでも行きたかったみたい。 でもギルド側が止めたのよ。
なんてったて相手はあの『竜王』だからね。 これは私の勝手な予想だけど、ギルドの最高戦力を投入しても即席のパーティじゃ不安なんでしょうね」
「……そうですか」
おそらくリンの予想は当たっている。
連携の取れていないパーティでは思う様に力を出し切れない可能性もあるだろうから。
流石にギルドだけあってしっかりとした判断力だ……その分私を追い出した事も色々考えた結果なのだろう。
「それだけギルドも本気って事なんですね……でもそれなら良かったじゃないですか!!
ギルドが万全な準備をしてくれるなら失敗する可能性は低くなりますからね。
す、少なくとも私達3人で挑むよりはずっと可能性がありますよ、ははっ」
そうだ、これで良かったのだ。
私の夢はリンに比べれば他愛の無い事だし、結果的にリンの願いが叶う確率が上がったのならそれは私にとっても嬉しい事だ。
なのに、なのに……どうしてこんなに胸が痛いんだろう。