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2話 逃走 ※


「ふ、ふざけないで!! ラガゼット、あんた最低よ!! 私は絶対に認めないから!! ソフィアをパーティから追放するなんて許さないから!!」


 私の横に駆け寄り、リンは感情を爆発させる様に大きく叫ぶ。


「ちっ、うるせぇーな。 リン、お前話聞いてたのか?? これは他でも無いギルドの決定なんだ。 

 それなのにまだそんな馬鹿みたいな事を言い続けるつもりなのか??」

 

「当たり前じゃない!! 納得なんて一生するつもりは無いわ!!」 

 


 この状況になってまで私を庇ってくれるリンの姿に胸の奥が熱くなる。 


 ……だけど、このままじゃリンの立場まで無くなってしまう、それだけは駄目だ。

 悔しいけどラガゼットの言う通り、ギルドがラガゼットの味方をするのなら、私に出来る事は何もない。


 たがら……せめてリンだけでも夢を、願いを叶えて欲しい。 



「はぁー、お前はもっと賢い奴かと思ったんだけどな……リン、俺の言う事に納得できないって事はお前『貴族』の称号を捨てるって事でいいのか??」

 

「……ど、どう言う意味よ」

 

「このギルドの幹部達が誰かなんてお前にだってわかってるだろ?? 

 その決定に従わないって言うなら、お前の家だってただじゃ済まされないって事だよ!!」

 

「そ、それは……そうかも知れないわ。

 で、でもそれがどうしたのよ!! 今はそんな事関係無いじゃない!!」

 

「関係あるんだよ!! いいか?? 今更お前がいくら喚こうが俺はもう『それ』とは一緒にダンジョンに行くつもりは無い!!

 つまりお前が選ぶ道は2つしかないんだ!! 俺と一緒にギルドの力を借りてダンジョンを攻略するか、そこの平民と一緒にこのパーティを離脱するかの2択なんだよ!! 

 いい加減大人になれってさっきから言ってるだろ!!」

 

「っ!!」

 

「お前も散々見てきただろ!! 力の無くなった『貴族』がどう言う扱いを受けるか!! 俺と一緒にこいっ!! 

 ギルドにはダンジョン攻略の立役者として俺とお前の名前を刻む事を約束させた!! 

 これでお前の、いや、俺達の家は救われるんだ!! その為なら死ぬのも怖く無いってお前だって言ってただろ??

 だったら簡単な事じゃねぇーか!! 平民を切り捨てる事くらい!!」


「……そう、そんな理由でソフィアをっ」


 苛立ちを隠さないラガゼットとは対照的にリンは落ち着いた口調で小さくそう呟く。

 


 たった一言だったけど、私はその言葉でリンの胸の内を悟った。



 ……このままじゃきっとリンは選択を間違えてしまう。

 そしてそれを正す事がこのパーティでの私の最後の役目なのだろう。

 


「切り捨てる……もう何を言っても無駄なのね、ラガゼット。 だったらもう何も言わないわ!!

 あんたの望み通り、私もこのパーティを抜けてっ」

 


「ふふっ、あっははは!!」

 


 リンに続きを話させない為に私は出来るだけ声を張り上げて笑った。

 


「ソ、ソフィア?? どうしたの急に??」

 

 ありがとう、リン。 

 

 最後までは聞けなかったけど貴方の気持ちとても嬉しかった。

 


 焦った表情を浮かべるリンに心の中でお礼を云い、私はそのまま出来るだけ大胆にそして余裕たっぷりにラガゼット達を見下す様に笑い続けてやった。

 


「な、なに笑ってやがる!!」

 

「いえ、別に大した事ではありませんよ、ラガゼット。 

 ただ……貴方が言う2択が面白くて」


「面白いだと??」

 

「ええ、私とは少し違う選択肢でしたからつい笑ってしまったのです」

 

「何だとっ?? な、何言ってるんだお前は!! 俺と違う選択肢ってのはどう言う意味だ!!」


「どう言う意味もなにも私が考える2択とはいたって簡単な事です。

 私を追放した『貴方』が、それから『ギルド』が七つ星ダンジョン『翡翠の竜王』を見事攻略するのが先か……それとも私が先に攻略するのが先かただそれだけです」

 

「……はっ??」

 


 私の啖呵に一瞬だけ目を見開いたラガゼットだったが、直ぐに隣に立つエマと目を合わせると、2人は揃って今までで一番大きな声で笑い始めた。

 


「だっはははっ!! お前が一人でか?? 攻撃魔法も使えないのにどうやって『竜王』を倒すんだよ!! 

 いつになく真剣な面で何を言うかと思えばこんなくだらない事だとはな!! 

 くくっ、駄目だ、笑いが止まんねぇ!!」

 

「ラガゼット様、そこまで笑っては流石に可哀想ですわ、ふふふっ。 

 きっと混乱していて自分でも何言ってるかわかってないのよ。

 だってそうでしょ?? まともな思考を持っていたらわかる筈ですもの、今まで誰も攻略していないあのダンジョンを『平民』一人で達成できる訳ないって!!」


「エマだって笑ってるじゃねぇーか!!

 まぁ当然か、まさか『平民』がここまでイカれた人間だったとは思ってなかったもんなぁ!!

 はぁー、面白れぇ。 やっぱりパーティから外しといて正解だったぜ、『平民』の言う事は俺達『貴族』には理解出来ないからな!!」

 

「……」

 

「おいおい、ダンマリか?? それとも今になって自分の言った台詞が恥ずかしくなったか??

 あっそうだ!! もう一つお前には言わなきゃいけない事あったの忘れてたわ!!

 さっきも言ったけど、俺にはもうこの二流、いや三流の装備は必要無いからお前に返すわ!! ほらよ!!」

 


 そう言うと、ラガゼットは床に置いてあった大きな袋をこちらに向かって放り投げた。

 


 勢いよく地面に落ちたその袋は甲高い金属音を響かせた後、その中身が私の足元へ散らばる。

 


「な、なによこれ……」

 

 目の前に散乱する鉄屑を見たリンは息と一緒に言葉を飲み込んでいた。

  



 原型を留めていない程に粉砕されたそれは、私がラガゼットにプレゼントした装備品だった。

 


「ちっ何だよ、ちょっと投げただけでぶっ壊れるなんて本当にクソ装備だな。

 あー、良かった、使わなくて正解だったわ」

 

「ラ、ラガゼット!!」

 

「リン!! 良いんです、私は気にしてませんから!!

 それにこれは私がプレゼントした物ですから、ラガゼットがどう処分しようが……か、構いません」

 

 拳を構えるリンを私は大声で呼び止める。

 

「ソ、ソフィア」

 

「ふん、わかってんじゃねぇーか。 

 さてと、じゃあさっさとそこ『ゴミ』を拾って俺の前から消えてくれるか??

 これから俺達はダンジョン攻略の話し合いをしないといけないんだよ。 

 『平民』にこれ以上時間を使ってられないからな」

 


 ラガゼットの言葉を聞き流しながら私は足にあたった金属の破片を一つ拾い上げる。 

 私とリン、そしてラガゼットの名前が刻まれたその破片を。

 


「……わかりました」

 


 不満や文句を噛み殺し私はラガゼット達に背を向けてその場から歩き始めた。

 

 これ以上はもう……涙を堪える事が出来ないと思ったから。

 


「ま、待ってソフィア!! 貴方本当にこれで良いの?? 

『翡翠の竜王』を攻略する事はソフィアの、ずっと昔からの夢だったんでしょ!! それなのにっ!!」


 

「良いんです。 これで……良かったんです!! し、失礼します!!」





 後ろから響くラガゼットとエマの薄ら笑いを振り払うべく、私は歩く速度を上げてギルドを逃げる様に後にした。

 

 〜ソフィアの日記〜


 

 5月27日


 今日はどうやって家に帰ってきたのかも覚えていない。

 こんな気持ちになったのは初めてで、酷く気分が悪い。


 全て夢だったら良いのに……明日になれば、ラガゼットはいつもの優しい笑顔で私を迎え入れてくれて、リンと一緒にまた3人でダンジョンに向かう。

 そんないつもの日常に戻りたい。



 ……だけど、そんな日はもう一生来ないだろう。


 血が出るくらいに握りしめていた、この破片が、私に容赦なく現実を突き付ける。


 あんなに喜んでくれてたのになぁ……。


 ラガゼットは結局一度も私の名前を呼んではくれなかった。


 私にはそれが一番辛かった。



 ……駄目だ、もう文字も書けなくなってきちゃった。

 今日は……もう寝よう。


 確か前にリンから貰ったお酒が残ってた筈。


 前は飲み過ぎて怒られたけど、今はもう怒ってくれる人もいないしね。



 眠たくなるまで飲んでやる!!


 おやすみなさい。 リン……それからラガゼットも。

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