勝手に結婚を決められた聖女は愛する牧師と結婚がしたい
ここはオリュン帝国の端にある村。
そこには聖女のミリシア・フローレンスと牧師のアレス・リアンが教会を営んでいます。
その二人はとても仲睦まじく、村では大人気の二人です。
聖女は美しく、牧師はかっこいい。
これから始まるのはそんな二人の物語です。
――アレス視点――
「牧師様ー! 聖女様いる?」
「いますよ。どうしました?」
一人の迷える少年が今日も教会へと訪れている。
「ちょっと……相談したいことがあって。いい?」
「全然いいですよ! 聖女様! 相談したいって子が来てますよー」
「はーい。今行きますねー」
そう言って出てくる聖女様は今日もとっても綺麗だ。
天使という言葉が似合うほどの整った顔立ちに真珠のような肌。
クリっとした大きな銀色の瞳。
長い銀髪の髪は美しく風に揺れている。
見た人全員を魅了するかのよう。
優しくて美しい自分達とは少し違う存在に見えながら、たくさんの信者にも慕われている。
「聖女様! 相談したいことがあって!」
「何ですか?」
少年はモジモジしながら話し出す。
それを聖女様は優しく微笑みかけて聞いている。
「その、お母さんと喧嘩しちゃって……それで家に帰れない」
「もしかして喧嘩して家を出てきちゃったんですか?」
「うん……」
お母さんと喧嘩しちゃったのか。
それで家に帰るのが嫌で、でもどうしていいかわからず聖女様に相談に来たと。
「気まずいんですか?」
「うん。でもどうしていいかわからなくて……」
「そうですね、じゃあどうしたら気まずくなくなりますか?」
「んー喧嘩した記憶を無くすとか、聖女様できない?」
問いに対して聖女様はニコッと微笑んだ。
「できません。私にできるのは怪我や病を治すことぐらいです。それと悩みを聞いてあげることですね」
「……」
「もうどうしたらいいかわかってるのでしょう? 大丈夫です、きっとあなたが考えた末に出したことなら正しい道ですよ」
聖女様は最後にとびきりの微笑みを向けて優しく少年の手を握る。
その時少年の瞳は輝いていた。
まるで何もかも悩み事全てが吹き飛んだかのように。
「うん! ありがとう聖女様!」
「これで家に帰れますね」
「うん!」
少年は笑顔で帰っていった。
これが優しくて美しい、聖女様です。
しかしこれは表の聖女様。
「今日もお疲れ様です……ところで急にだらけるのやめてもらっていいでか? ギャップに戸惑います」
「疲れたんです。しょうがないです」
聖女様は人前でなくなると急に変わる。
これが素の聖女様。
「もう少し頑張りましょうよ、まだ誰かが来るかもしれないですし!」
「その時は頑張りますから……おやすみなさい」
「おやすみなさいじゃ……」
二人のやりとりしているとガチャっとドアが開く。
「聖女さ……!」
ドアが開いた時には光の速さで聖女様はきちんと正した姿勢で座っている。
「お届けものでーす」
「……あ、はーい」
ほんと聖女様には敵わないな。
俺の中で聖女様の神格度レベルが少し上昇した。
――ミリシア視点――
「私がこうするのはアレスの前だけなんですよ」
ボソッとアレスが配達員に気を取られてる間に言って見た。
しかし気づかない。
ほんと鈍感です。
なんとなくで察してくださいよ。
私はアレスのことがずっと好きなんです。
小さい頃からこの教会で一緒に過ごすうちに、いつの間にか見る度にドキドキするようになっていて。
しばらくしてからそれは好きという感情だと気づきました。
それからというもの。
「アレス!」
「アレス!!」
「アレス!?!」
何度も気づいてもらえるようにアピールしたけど未だに気づいてもらえてない。
「鈍感すぎますよ、全く」
しかし、そんなところも私は好きになっている。
「こんな生活がずっと続けばいいなと思います」
この楽しい日々を永遠に。
――――――――――
配達員の方からアレスが受け取ったのは一通の手紙。
「誰からですか?」
「開けてみましょう」
アレスが手紙を開くとそこには教会本部の印が押されてあった。
「どうやら教会本部からの手紙のようですね」
「なんの要件でしょうか?」
教会本部。
それは数々の教会を管理する教会の統括。
各協会には牧師が本部から配置される。アレスもその一人。
「牧師会議に出ろとかでしょうか? 聖女様をほってなんていけないっていつも言ってるのに……」
「それなら毎回行ってきていいですよって言ってますよね」
「聖女様が心配なのでいけません」
「もうっ、とりあえず中身をみましょう!」
「そうですね」
アレスが破れないようにゆっくりと封を開けるとそこには『大聖女選定の報告』と書かれていた。
大聖女選定とは数年に一度行われる大聖女を決める祭典。
教会本部トップの教皇様が神の声を聞いて大聖女、聖女のトップなる人物を選定する。
そしてその選定された大聖女は次期教皇である教皇の息子と婚約しより一層発展に尽くすというのが慣わし。
『教会〇〇支部のミリシア・フローレンス様へ。貴方様は今回の大聖女に選ばれましたのでご報告させていただきます。一週間後に一度お見合いを兼ねた食事会、その3日後には王城へと移住の予定です。そしてさらに4日後には式の方を上げさせていただきます。ご確認のほどをお願いします』
手紙をアレスが読み終えると
「私、結婚したくないです……」
そうミリシアの口からこぼれた。
アレスは意外そうな反応をしたがミリシアは好きなのだ。
小さい頃から共にお互いのことを思いやりながら過ごしてきたアレスのことを。
「どうしました? 結婚が嫌なんですか?」
「嫌です」
「次期教皇様と結婚なんて名誉なことじゃありませんか」
そうだ。
一般的にこの結婚は幸せと思われている。
それでもミリシアは嫌なのだ。
結婚はアレスじゃなきゃ。
聖女だから政略結婚なんておかしい
そして聖女は決意する。
(私にできることならなんでもして、どうにか政略結婚を免れてやりましょう!)
聖女が決意している時、アレスはどこか上の空だった。
――アレス視点――
俺はどうしたのだろうか。
聖女様が結婚すると聞いたあとから何も考えられない。
聖女様。
聖女様がいなくなったこの教会での暮らしなんて想像もできない。
しばらくして聖女様が部屋に戻った後でも、俺はいつまでも手紙を眺めている。
「聖女様が結婚……」
いつか来る可能性はあった。
来たら来たで、そう考えたことだってある。
なのに実際にきた時、頭が真っ白になった。
自分では準備できてるつもりでいたのか。
それ以上何も考えられない。
思考が止まる。
「俺もまだまだ未熟ですね」
俺は考えることをやめた。
――ミリシア視点――
私は抗うと決めました。
まずは何か策があるか考えることにしましょう。
「何かありますかねー。とびっきりの策」
しばらくの長考。
その結果二つ三つ案が思い浮かんできた。
まず一つ。
アレスと共に国から出る。
無理ですね。
アレスに迷惑がかかってしまいます。
二つ目。
私一人で逃げる。
ありですね。
どうにか逃げ切ればいつか帰って来れるかもしれませんし。
三つ目。
諦める。
これは最終手段ですね。
というか策と言えないです。
「二つ目が一番良さそうです」
しかしどこに逃げましょうか。
とりあえず夜アレスが寝たぐらいに出るとして。
隣国……は私の足でいけるんでしょうか。
途中で疲れて倒れるのが目に見えてますが。
でも行くしかないですね!
やってみないとわからないですし!
身支度を少しずつして怪しまれないように!
では方針も決まりましたし、今日は寝ましょう。
実行は3日後。
がんばりましょう!
暗闇の中、聖女は迷うことなく抗うための方針を決めて準備する。
そして実行の日が来る。
「準備完了! アレスの寝てる間に!」
あたりは真っ暗誰も聖女の姿を捉えることはできない。
気づけば村を出ることに成功していた。
――アレス視点――
聖女が脱走を実行している頃、アレスは考えていた。
「どうして聖女様が結婚すると聞いてからずっとモヤモヤが取れないんだろうか」
あの日からずっと、考えを止めてはもう一度考え出して。
思考の繰り返しだ。
何度考えても答えが出ない。
いっそのこと花占いや近所の占い師にでも占ってもらおうかとも思ったがやめた。
そんなの俺の考えた結果じゃない。
そんな考え事をずっとしていた。
ドンっ!! ドンっ!!
大きな音が教会中に鳴り響く。
「誰だろ。こんな夜遅くに」
ドアを開けると。
「聖女様! 聖女様はいらっしゃいますか?!」
そこには焦った男……いや、よく見ると学院時代の友人が息を切らして立っている。
グレイ・リーゼロッタ。
金髪に整った顔をした牧師学院の同級生で友人だ。
「あ、アレスか! ここの聖女様は?! どこにいる!?」
「そんなに焦ってどうしたんだよ。聖女様ならそこの部屋で寝てるぞ」
「ほんとか?! 確認するぞ!」
「おい待てって! 聖女様が寝てるだ……ろ?」
俺の視界に入ったのは誰もいないベッド、そして一つの置き手紙だった。
「聖女様がいない?」
「やっぱり! 俺お前に用事があってここにきたんだけど来る途中に馬車が事故ってこんな時間に到着になったんだ。で村に入るときに銀髪の人が村から出てたんだよ! それで声かけようとしたら逃げられて。もしかしたらってここに急いできたんだよ!」
「聖女様は!」
「もう村の外だろうな」
「くっ!」
「おい、ちょい待てって!」
俺は駆け出した。
グレイが静止してきたがそれすら振り解いて。
「聖女様!」
どこにいるのだろうか。
早く見つけないと。
何かにあってないか。
心配事が次々に思い浮かんでくる。
どこだ。
どこにいるんだ聖女様。
走り回って、走り回って。
見つからない。
どうして俺を置いて……。
雨が降ってきた。
まるで俺を嘲笑うような雨。
気づけば村はずれの森にいる。
歩くたびに泥がはねて足にまとわりつく。
気持ちが重くなる。
「聖女様……」
がさ、がささ。
後ろで音がした。
「聖女様?!」
しかし出てきたのはグレイだった。
「なんだお前か」
「なんだはねえだろよ。せっかく聖女様見つけてやったのに」
「聖女様見つかったのか!?」
「ああ、村の人たちにも協力してもらってしらみ潰しな。協力を呼びかけるからお前のこと呼び止めようとしたのに全く聞かないよな」
あ、あの時か。
「す、すまん。動揺してた」
「まあいいさ。早く聖女様の元に行ってやりな。部屋にいると思うからよ」
「ありがとうなグレイ」
「さっさと言ってちゃんと話してこい」
「ああ」
――ミリシア視点――
「まさか、見つかってしまうとは」
逃げる途中で何か騒がしいなと思ったのでうまく隠れてやり過ごそうと思ったのに……。
見つかって連れ戻されてしまいました。
隠れたところに村の人がいたなんて。
私のかくれんぼスキルもまだまだですね。
「すぐにアレス呼んでくるから聖女様ここにいて」
そうグレイに言われて待ってますがまだでしょうか。
ドタドタっ。
「来ましたか」
ドアが勢いよく開かれる。
どろどろのびしょびしょなアレス……。
「どうしたんですかそんなに汚れて」
「どうしたんですかじゃないですよ! 聖女様いなくならないでください!」
アレスは必死だった。
そこで何もわかってない彼に私はプチンっとキレてしまった。
これまで思ったことのないような感情の昂り。
今回私にはもう一つの企みがあった。
私がここまで嫌がってるなら教皇様に断りましょうとか、俺が守りますとか言ってくれるかもって。
なんなら私がアレスに気があるというのに気づいてくれれば最高って考えてた。
なのに私が逃げる前と何も変わっていない風だったから。
この感情の昂りは抑えられない。
そこで私は怒気のこもった声で叫んだ。
「私は教皇と結婚したくないんです! どうして連れ戻したりしたんですか!」
「俺は聖女様が心配で……」
「いっつも私のことで心配して、心配するなら私の気持ちも考えてくださいよ!」
私の言葉に対してなよっとした返答をしてくるアレスによってさらに感情が昂る。
会話はさらにヒートアップした。
そして昂っているのは私だけではなく。
「何が不満なんですか! 教皇様とですよ!」
「嫌なものは嫌なんです! わかってくださいよ!」
「わからないですよ! 何がしたいんですか。村の人たちにまで迷惑かけて」
なんでわからないんですか。
なんでわかってくれないんですか。
私は……。
「私はアレスと結婚したいんです!!!!!!」
言ってしまった。
それが告白を言った後の気持ちだった。
そして次の瞬間にはもうどうにでもなれって気持ちになっている。
言葉はもう止まらない。
「私はずっとみてきました! あなたを!」
「お、俺は……聖女様をそんなふうにみたことが、ないです」
「むっ、そういうところですよ! アレスはいつも自分勝手で、私だって人間ですよ……私の気持ちもっと考えてください! 見てください!!」
「聖女様……」
その後二人が話すことはなくなった。
聖女は布団に潜り、牧師は言葉を失う。
沈黙の時間だけが過ぎていく。
「あーあ、何喧嘩してんですか。せっかく見つけてやったのに」
一人の男が声を発した。
「馬鹿ですか二人は」
グレイの声は呆れているように聞こえる。
「俺が悪いんだ。俺が聖女様のことをちゃんと考えられてなかったから……」
「はいはい。お前は鈍感すぎな。聖女様も聖女様だぞ」
沈黙の間に思ったことがある。
私はなんて自分勝手だったんだろうと。
アレスに甘えて、アレスに頼って。
何もかもアレスがわかってくれるとすら思っていた。
だからグレイに言われた言葉はすんなりと受け取ることができた。
布団に潜ったままですが。
「そうですね。私の方が自分勝手です」
「聖女様は悪くないですよ! 俺が至らなかっただけです……」
「違いますよ! 私がなんでもあなたに任せすぎていたんです」
「そんなことは……」
二人で言い合ってると
「はいはい。お互いに庇い合うのやめてもらっていい? 全くさっきまで喧嘩してたとは思えないね」
とグレイに言われてしまった。
「「はい……」」
私とアレスは怒られた子供のよう……というかそれですね。
「お互いに思おうことがあるなら喧嘩せず話せよな」
――アレス視点――
俺は自分勝手だった。
聖女様が結婚することはいいことだって決めつけて、聖女様相手なんて教皇様しかとか。
そんな固定観念だけ持って、勘違いして、聖女様を怒らせてしまった。
何してんだ俺は。
俺はただ聖女様に幸せになって欲しいだけなのに。
――――――――――
グレイは部屋を出て、二人きりになった。
そして先にアレスが口を開く。
「ごめんなさい。聖女様。俺の考えが足りなかったです」
「いえ! 私が馬鹿だったんです。自分のことしか考えてなくて」
「違います! 俺が聖女様の気持ちとか考えてなかったんです。聖女様は俺とは違うって思っていたので……」
申し訳なさそうに話すアレスにミリシアが笑う。
「ふふっ、私だって人間ですよ?」
「そうですね。今ならわかりますなんとなく」
それから二人は話し合うことした。
さっきまでの言い合ってた雰囲気なんて忘れて、これまでのこと、これからのこと。
お互いに思っていたこと。
全部話した。
「ほら、アレスだって私のこと好きなんじゃないですかー」
「好き……ってことになるんですかね? なんだあモヤモヤしたので」
「それを好きっていうんですよ。ほんと鈍感ですね」
「あの、鈍感ってグレイも言ってましたがそんなに俺って鈍感ですか?」
ここ数日の二人の間に生まれていた蟠りなんてもうどこにもなかった。
前よりも仲良くなってるぐらいだ。
「鈍感ですよアレスは」
満面の笑みで微笑んだ。
ミリシアは思う。
やっぱりこの人が好きだと。
アレスは思う。
この人とずっと居たいと。
そして二人の談笑は夜明けまで長引く。
朝日が昇り、またそれで笑い合って。
夜の雨空は綺麗な青空に変わっていた。
――――――――――
二人の関係は前よりも良好な関係になった。
しかしまだ問題は解決していない。
ミリシアの次期教皇との結婚は刻々と迫って来ており、数日後にはお見合いの食事会。
「どうしたもんだか」
お互いの思いを知り、仲を深めた二人だがアレスはどうも次期教皇との結婚が悪いものに思えなかった。
そしてそれを阻止する方法すら何も思いつかない。
「俺なんかより会ってみないとわからないけど次期教皇様と結婚する方が聖女様にとっても幸せなんじゃないのか?」
聖女様は俺と結婚したいと言ってくれた。
でも一時の迷いかもしれない。
一時の気の迷いでこんな好条件の結婚を断らせてしまってもいいのだろうか。
聖女様はそれを望んでいなことはわかっている。
でも、聖女様のためなら……。
次の日。
「聖女様、一度お見合いだけでも行ってみてはどうでしょうか」
聖女は顔を曇らせた。
「どうしてですか?」
明らかに嫌そうな反応。
「もしかしたら次期教皇様が俺よりいい人かもしれませんし一度会ってみるべきではと思ったので」
「私は会うまでもなくアレスがいいんですが」
聖女は一度気持ちを伝えてから迷いも照れもなく真っ直ぐだ。
「一度会うだけ会っても損はないですよ」
「うーん……そこまでアレスが言うなら、一度だけですよ?」
牧師は自分から言っといて心が少しズキっと傷んだ気がした。
聖女が部屋を出て、一人になった時。
「何傷んでんだよ。聖女様のためだろ」
それは自分に言い聞かしているようなそんな言い方だった。
そして数日後、お迎えの馬車が来て聖女は王都へと運ばれた。
――ミリシア視点――
なんでアレスはあんなことを言うのでしょうか。
あの日からずっと気持ちを伝え続けているはずなのに。
どうして伝わらないんでしょうか。
こんなにも愛しているのに。
「もうすぐ着きますよ」
教皇直属の執事さんに声をかけられて思考から解ける。
外を見ればでかい建物ばかり。
世界が違うかのようだった。
「すごいですね。村と王都でここまで違うとは!」
「聖女様のお気に召したようで何よりです」
若干興奮してしまいました。
辺境と中心ではここまで違うのですね。
それから少しして、私は王宮へと到着しました。
「凄いですね」
「そうでしょう!」
王宮に着いてから私は執事の方と王宮内を案内してもらっている。
「この王宮で仕えることが出来てほんと幸せなんです」
「それは本当によかったです。そう思える場所があるのは大切なことですから」
執事の方はとても愛想がよく、話していてとても楽しい人。
そしてその執事と楽しく話していると前から人が来て私に近寄って来た。
「これはこれはアルバート様。こちら聖女のミリシア様でございます」
どうやらこの方が私のお見合い相手。
次期教皇のよう。
「聖女様こんにちは。アルバート・オリュンと申します」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
「本日は食事会に来て下さりありがとうございます。ではこちらへ」
私が王宮に着いたのは夕方だったため今はもう夕食の時間。
食事会の部屋に行くと、とてつもなく豪華な料理が沢山並んでいる。
「ほんとここに来てから驚かされてばかりです」
自然に口からそんな言葉が出た。
「そうでしょうそうでしょう。あんな辺境とは比べ物にならないでしょう」
え?
聞き間違いですかね?
「聖女様もそう思うでしょう? あんな辺境よりこちらの方がいいと」
アルバートはそれから次々に王都と村を比べ、村のことを蔑み始めた。
「ここの民と村の民ではまずまず価値が違います。聖女様もそう思うでしょう?」
何度も何度も私に同意を求めてくる。
しかし私は1度も首を縦に振らず、静かに聞いている。
相手は教皇の息子、下手に刺激をしない方がいいとアレスから言われているので特に言い返したりはしない。
それを肯定と捉えているのかアルバートは意気揚々と次々と話していく。
「一番傑作なのはですね、あの牧師ですよ」
え、アレス個人についてですか?!
ついつい驚いてしまう。
私の中で教皇一家の印象は今のところ最悪だ。
自分より立場が下の人間を雑に扱い、蔑み、侮辱する。
そんなこの人が私は嫌だ。
「あの聖女様にまとわりつく牧師なんて両親のいない底辺野郎ですよ! ほんと笑っちゃいますよね!」
その話には特に驚いてしまった。
この人はアレス個人のことまで調べているのですか。
思わず顔が引き攣ってしまった。
「どうしました聖女様?」
「い、いえ、何もありませんよ」
こんなところから早く愛する人の待つあの村に帰りたい。
ただそれだけをずっと思っていた。
そして食事が終わり、部屋に戻ろうとするとアルバートに呼び止められた。
「聖女様、明日は何します?」
「え? 一度村に戻るのではないのですか?」
「あんなところに聖女様を返すなんてとんでもない! このまま式まで応急にて暮らしていただいていいですよ」
こんなことになるなんて……。
最悪です……。
予測していなかった、最悪の事態。
それが決まった日の夜。
「アレス……助けてに来てくれますよね……?」
この事態に気付いて王子様が助けに来る、そんなことを夜の空に願った。
――アレス視点――
聖女様が王都に行ってから3日が経った。
「聖女様、なんで帰ってこないんだろ」
「まさか盗賊に?!」
「いや、崖の崩落?!」
嫌なことばかり思いつく。
けどそれもしょうがないことだと思う。
不安でしょうがないもの。
「おーい。アレス?」
聖女様が行った後からはグレイが教会にいて、手伝いをしてくれてる。
村の人たちとも仲良くなっているみたいだ。
ちょいちょい気にかけてくれたりするのでグレイには言わないがほんと精神的にも身体的にも助けになってる。
「聖女様帰ってこないけど大丈夫か?」
「心配だよ」
聖女様のことが心配だ。
心配でたまらない。
「そうか」
俺の親友はそれだけを言って散歩に行った。
聖女様はその後も帰ってこず、明日に聖女様と次期教皇様の結婚式が控えているところまできた。
「聖女様、どうか幸せになってください」
帰ってこないとはそういうことだろう。
そう思って納得しようとして、胸を痛めて。
けれど聖女様が望んだことなら。
もはや聖女とずっと一緒に居たいという自分の願いなど忘れ、聖女の幸せだけを願っている。
もし、聖女様がなにかに巻き込まれていたら。
当然助けに行くし、何がなんでもそばに向かいたい。
でもなにかあったか分からない。
何も報告がない。
だから何もできない。
待つことしかできない。
そういえばグレイもいつからかいなくなった。
あいつの事だからどこかほっつき歩いてるんだろう。
少し心配ではあるが昔からあいつがどこかに勝手に行くのはよくあったので気にしない。
時間が過ぎるのが遅い。
1日がとんでもなく長く感じる。
聖女様がいないから。
そしていくら時間が過ぎるのが遅いと言っても時間は少しずつ過ぎていく。
もう夕方か……。
どこまでも進まない時間を感じていたはずなのに今となっては早かったなと感じる。
夕飯の支度をしないと……。
そう思い、いつものように動き出そうとするとドアが叩かれた。
コンっコンっ、と。
ふ、と誰だろうと考えたが誰かわからないので考えることを辞めた。
「どちら様でしょう……か?!」
そこには汗だくのグレイが立っていた。
「よう、遅くなったわ」
「お前どこ行ってたんだよ。そんな汗だくで……今風呂沸かすから……」
俺の言葉はバッサリとグレイによって切られる。
「アレス、覚悟はできてるか?」
これまでに見たこともないようなグレイの真剣な顔。
何が言いたいのか何となくわかった気がする。
聖女様になにかあって助けに行くんだろう。
その事に迷いなどない。
俺は即断した。
「あぁ、行こう!」
そして俺はグレイに連れられて馬車に乗った。
聖女様を助けるために。
――――――――――
「そして聖女と牧師は隣国へと亡命しました。なぜ亡命できたか、なんと牧師の友人グレイは隣国にまで手を回していたのです」
話す声は幸せを噛み締めて。
「隣国ででっかい屋敷を用意してもらい、暖かな家庭を築き、聖女と牧師の二人はいつまでも暮らしましたとさ」
そして物語は幕を閉じた。
「ママこの聖女と牧師って……!」
「そうだよ」
私たちは願う。
この幸せな暮らしがいつまでも続きますように、と。
最後までご愛読ありがとうございます!
「面白い」「続きが気になる」と思った方はブクマと星をお願いします!