00007-腹を切れ
「おっ、レベルが十三も上がってる」
(電矢III)を一本一本束ねて作った電流乱れる塔。
そんなアホみたいな魔法でダンジョン一つを更地に変えたオレは、ひとまず自分のステータスを確認することにした。
無論、現実逃避だ。
「ついでにスキルも取っとくか……これから必要になるし」
そうしてオレは暇つぶしなど敢行してみる。
弄った結果、こんな感じになった。
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【個人ステータス】
名前:マーノ 性別:男
種族:人間種 年齢:十六歳
New!
称号:なし 職業:冒険者
レベル:14
【ステータス】
HP:438/438
MP:5,409/5,409
筋力:42 敏捷:50
魔力:1,055 頑丈:42
【ユニークスキル】
《健体保持》《神の遣い》《啓示》
【使用可能な魔法/スキル】
【火炎魔法】
(火矢III)(炎壁III)(焔渦III)
【雷撃魔法】
(電矢III)(雷球III)(紫電III)
【神聖魔法】
(快癒III)(消毒III)(蘇生III)
【空間魔法】
(収納III)(運搬)(邸宅III)(隔絶III)
【生贄魔法】
(交信)(契約III)(調伏III)(憑依III)
【スキル】
《魔の炉III》《魔の躰III》
New!
《隠密III》
忍んだり、潜む行為を得意とする。
《隠密II》の効果に加え、さらに隠密性+100%
New!
《気配察知III》
周囲の変化を敏感に察する。
《気配察知II》の効果に加え、さらに範囲+1km
New!
《弁舌家III》
話術に長けた人物。軽やかで雄弁な舌の持ち主。
NPCとの会話を優位に進められる。
《弁舌家II》の効果に加え、人外も口説き落とせる。
New!
《脱獄王III》
その者に枷を嵌めること能わず。
牢屋に囚われた際に脱獄手段を思いつき易くなる。
《脱獄王II》の効果に加え、毛髪でピッキング可能。
New!
《無垢なる者III》
幼子の心を持ったまま成人した者。
悪徳を知らないつぶらな瞳で他人の庇護欲を煽る。
《無垢なる者II》の効果に加え、人間種以外の庇護欲も刺激できるようになる。
【使用可能レベルアップポイント】
残り 41p
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ちなみに今回弄ったのは。
称号の名前の部分と。
《隠密III》《気配察知III》《弁舌家III》《脱獄王III》《無垢なる者III》だ。
称号を「神の遣い」から「なし」に変えたのは単純に事を大げさにしたくなかったからで、他のスキルを獲得した理由に関しては説明文に書かれている通りだ。
これらの脱法脱走、何が何でも言い訳してみせる系スキルを持っていながら、牢獄から処刑台に上がるヤツはさすがに皆無だろう。
「ねぇ衛兵さん」
さっそくオレはスキルの効果を試そうと、馬車の御者台に座るオッサンに声をかけてみる。
「ん? なんだいボウヤ……って、俺は何言ってるんだ?」
どうやら問題なく効いてるようだ。
というかなぜ愛娘を見るかのようにデレデレとした顔つきを最初向けてきたのか、逆に怖い。
「オレ、これからどこに連れて行かれるんです?
というか見てお分かりの通り、どう見てもオレって部外者だと思いませんか?」
そして軽やかに回る舌。
何が『見てお分かりの通り』なのか。
言ってるオレ自身分かってないが、悪い反応にはならないはず。
「あー、まぁ、なんだ。
君の言うことも理解できるんだが、これも仕事でね」
「そうですか」
「あの凄まじい魔法が起きて近くにいたのが君だったから。
君がやったと思ってないが、調査する必要はあってね」
「なるほど、分かりました。
それで大変恐縮なんですが、これからオレはどこに連れて行かれるんです?
少し前まですごい田舎に暮らしてたんですが、最近魔物に襲われたせいで村が無くなってしまいまして……
それで町に来たんですが、分からないことだらけで……」
「ああ、そうか……
君はノーズウル村の出身だったのか……
可哀想に……」
そして涙ぐみ始める衛兵のオッサン。
このオッサン、オレが不憫系美少女にでも見えてんのか。
変に気遣われまくってて逆に怖いわ。
で。
まぁ。
その。
ここまでの流れで察せられたかもしれないが。
(電矢III)の雨をブッ放したオレは。
ツバを吐き散らかし。
こめかみに青筋立てながら怒声を浴びせる衛兵二人に拘束されて。
二人の言う『町からの応援』でやってきた檻付きの馬車に乗せられ。
あの洞窟を出たばかりに見えた、無骨な城へとドナられており。
もちろん座席は檻の中。
今はブタ箱対策用スキルの確認に勤しんでいる。
というか戦闘系スキルばかり取るんじゃなくて、ちゃんとこういう交流系とか補助系も取っておくべきだった。
明らかに《弁舌家III》と《無垢なる者III》が仕事をし過ぎている。
最初、槍を突き付けられて捕まったのが嘘のよう。
今の感じから予測するに、最初からスキルを取っておけばいきなり拘束される羽目にならずに済んだ気がする。
反省。
「ま、お仕事なら仕方ないです。それで」
「ああ、これから君が行くところか。
まぁ、今までずっとノーズウル村に居たなら知らなくても仕方ないか」
目尻に溜まった涙を拭いながら、もはや情緒不安定の疑惑さえ出てきたオッサン衛兵は説明し始める。
「ネーヴルテインという町さ。
『山の臍』という意味の名前でね」
なんでもこの土地は周囲を山で囲われた盆地とのことで、数百年ほど昔、北方から魔物の大軍が攻めてきた時の激戦地だったとのこと。
元は人間種、獣人種、樹人種、魔人種で構成された連合軍の陣地だったらしいが後世に砦へと改築され、年月を経るに連れて、その砦やその周辺に人が住み始めるようになって、今のような城塞都市へと発展してきたらしく。
「城塞都市とは言ってもな。
ここは今でも魔物が出るぐらいだから王都と比べたら全然田舎だな」
「へぇ、王都はもっと大きいんですか」
「ああ、比べるのもおこがましいぐらいだな。
この町はいいとこ一万人ってとこだろうが、王都だったら数十万人は暮らしているだろう」
なるほど、それは確かに比較にならないほどの差だ。
立派な城壁だったから結構大きめの都市かと思っていたが人口比から予測するに『王都』とやらの方が凄いだろう。
「王都ですか。一度見物してみたいですね」
「そうは言ってもな。少年は冒険者だろう?
魔物もいないし、辺りは開拓され尽くされてるから、君の行く意味は無いと思うぞ?」
なるほど、王都には冒険者としての旨味は無い、と。
貴族とか町民ばかりで、荒事専門の冒険者の出番は無い。
そういうことだろう、たぶん。
「それにあと二ヶ月もしないうちに《アイピラへの溜息》がこぼれてくるだろう。
ここは溜息がこぼれると酷く積もる。
腰の高さなんて優に超えるほどだ。
当然、王都への道も塞がれる。
《トゥイントォの睦言》も重なってくると、もっと早いかもしれんな。
少年も稼ぐなら急いだ方がいい」
ん、なんかファンタジー的慣用句が出たぞ。
《アイピラへの溜息》とか《トゥイントォの睦言》とか。
文脈的に《アイピラへの溜息》というのは雪とか冬のことを指しているのだろうか。
このネーヴルテインという町が盆地という話もあったから豪雪地域というのは理解できる。たしか盆地は気候的に雪が積もり易くなるはずだ。
《トゥイントォの睦言》はよく分からんが。
「そうですね……
でしたら早めに解放してもらえると有難いですね!」
「ははっ! 少年の言う通りだな!」
……ふむ。
今のやりとりをした感じ、どうやら衛兵はすでにオレへの警戒心はだいぶ薄れているらしい。
もはや犯罪者を捕らえるというか観光ガイドと化しているのを考慮すると、そう思って間違いないだろう。
それでも、まだ解放されていないということは。
(オレがブッ放した(電矢III)が、よっぽど規格外だったんだろうなぁ……)
そう自省する。
牢屋にぶちこまれて拷問じみた尋問……はさすがに無いと思うが、色々とさっきのことについて聞かれる気はする。
(どうする、逃げるか?)
しかしネーヴルテインという町には近付いていく一方で、衛兵たちは休憩とか隙らしい隙を見せていない。
今も乗馬した衛兵二人が馬車を取り囲んでいるし。
夜なら色々潜み易いから、まだチャンスがあったかもしれないが、あいにく今は真っ昼間だ。
(……ま、変にこじれても面倒だしな)
そう考え直したオレは。
「しかし大きい城壁ですね」
「ああ、そうだろう。
ネーヴルテイン唯一と言っていい観光名所だ。
数百年前の魔物の大群に襲われたときからのもので、言い伝えによると――」
観光ガイドの案内されるがまま、城下町へと入ることにした。
ま、逃げ出すならどうとでもなるだろ。
そう思いつつ、しばしの異世界旅行を楽しむことにした。
おっさんと仲良くなるマーノくん。
彼は呑気ですね。
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