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00003-呪われて死ね





「まじっすか」


 神様からのまさかの暗殺命令にオレは言葉を失い。


《そうだね、これは大まじだね。

 結構深刻な問題だと言っていい》


 そう言って神様は説明を始める。


《僕を信じる人間同士で争いが起きてね……》


「争いですか」


《君のいた世界では当たり前の歴史だから意外かもしれないけど、これから行ってもらう世界では史上初めて同一宗教による別宗派同士の戦争が起きようとしてるんだよ》


「別宗派同士の戦争ですか、確かに当たり前ですね」


 オレは宗教意識の乏しい日本人だ。

 それに記憶は無いが、きっと学校で習った世界史もすでに忘れかかっているだろう。


 でもそんなアホなオレでも、同一宗教によるーー宗派対立による戦争は、確かに珍しい話のようには聞こえない。


 中世ヨーロッパとか盛んにあったんじゃない? とか。


 今も一部地域の紛争原因になってるとかだっけ? とか。


 そう思う程度。


《別に戦うこと自体は否定しないよ?

 けど、問題なのは両方とも僕を信仰したまま戦おうとしていることさ》


 どうやら神様いわく。

 常に祈りとか祭りなどから信者たちの信仰心を受け取り、それを神通力として活用しているそうだ。


 神様を信じる人から信仰心を集めて、神様は集めたそれらを使って大地を豊潤にしたり、疫病を駆除してあげたりして信者に還元しているらしい。


 つまり人間の信仰と神の力は比例関係にあるらしくて。


 だから信者の数が少なくなったり、不真面目な信者ばかりになると受け取れる信仰心の量や質が悪くなり、世界に恵みをもたらせるような強い神通力を発揮できなくなるとのことだった。


《それで今回はお互いに僕を信奉しての戦いだから。

 正直、どんな信仰心になるのかよく分からないのさ》


「どんな信仰心? さっき言っていた質の話ですか?」


《そう。これまでと同質なものを受け取れるのか。

 それともまったく異質なーー

 それこそ神通力や恵みに変換できない、悪しきものになるか不透明でね》


「神様でもそういう分からないことがあるんですね」


《別に世界を作れるから全知万能ってわけじゃないよ。

 もし本当に全知万能だったのなら、天啓だとか啓示とかで預言者とか勇者とか任せず、全部僕で解決しちゃうからね》


 まぁ、そういうものなのかな?

 いまいち自分の宗教観をつかみかねているオレは、そんな神様のことをながらで聞きつつ。


「まぁ、その、神様が『どんな信仰心になるか分からない』っていう部分で不安に思っているのは理解しました。

 でも、どうしてそれが誅するって話になるんです?」


《単純な話だよ、リスクコントロールだ》


 どんなものになるか分からない。

 だから危険が起こる前に無くしてしまえ、そんな感じの話なのだろうか。


《そうだね。僕もあの世界を作った以上、愛着もあってね。なるべくなら維持できるように取り計らいたい。

 不幸なことにあの世界は、僕無しでは成り立たない発展を遂げていてね》


「成り立たない発展?」


《魔法だよ。

 ソドマジIIも剣と魔法の世界だっただろう?

 君がいた世界は科学が発展していく世界だけど、これから転生してもらいたい世界は、科学の代わりに魔法が発達している世界なんだ》


「まさにソドマジII」


《そしてあの世界の魔法は全て僕が下賜している形だ。

 僕の力が弱まれば弱まるほど魔法が衰弱していってーー》


「色々と問題が起きる訳、ですね?」


 なるほど、なんとなく話の筋が見えてきた。


 神様からの恵み無しでは成立しない世界なのに、その恵みの元になる信仰心に不純物が混じろうとしている。

 確かに危機感を持ってもおかしくない話だろう。


《もし僕の神通力が弱まったら……

 世界中が凶作になって。

 疫病がいくつも流行って。

 魔物は大繁殖して。

 これまで人の生活を支えてきた魔法が弱体化し生活水準が数百年レベルで後退する訳だ。


 有り体に言って世界の終わりだね》


「ヤバいじゃないっすか」


《だから君に転生して欲しいんだよ》


 もちろん、無理にとは言わない。

 そう付け加えながら神様は。


《さっきも言った通り、僕の作った世界だから愛着がある。

 だからこそ、あの世界を救って欲しくてね》


 神様はそう言いながらオレの手を取り、真っ直ぐ見つめてくる。

 どこか飄々とした雰囲気を感じさせる神様だったが、今はひたすら真摯な態度を向けてきていて。


「……分かりました、引き受けましょう。

 ただ、その、オレなんかで良ければ、ですが」


《何を言っているんだ。

 星の巡り的に君以外の候補者なんかそういないよ。

 たぶん数百億分の一ぐらいだね》


「まじっすか」


《まじまじ。

 君にはーーぜひ救世主として頑張って欲しい》


 異世界転生どころか、救世主ですか。

 話のスケールがえらいデカいな。


「それで実際のところ何をすればいいんです?

 誅するとかさっき言ってましたけど」


《うん、ただね。

 正直な話、詳しい方法は君に任せたいと思っているんだ》


 そして神様は語る。

 要は集まる信仰心の種類が混じることなく、一つになれば良いのだと。


《たとえば『神の遣い』を語り、片方の宗派に肩入れしてもいいし。

 君自身がそれぞれの宗派を超える新たな宗派を立ち上げてもいいーー極端な話、もっと真剣に祈ってもらえるのなら、片方の宗派には全滅してもらっていいし》


「まじっすか、最後のは結構物騒なんでちょっと嫌っすね」


《実際に転生したら理解できると思うけど、結構あの世界は物騒だから。

 君が元いた世界、というか、国家と比べてね。

 どんな手段にせよ、最低限戦える力は必須だろうね》


「なるほど。ま、日本は平和過ぎということですか」


 それは理解できる。


 ーーいずれ、手を汚すこともあるかもしれない。


 なにせ中世ファンタジーの世界に転生だ。

 魔物だって現れるだろうし、それを討伐する冒険者という存在やギルドという存在だってあるだろう。

 自衛手段は最低限、というか有るだけ有ってこしたことは無いはずだ。


《さて、僕からの説明はあらかた終わりかな。

 君から聞いておきたいことはある?》


「うーん、そうっすね」


 そりゃあ山ほどある。

 これから全く知らない異世界に行くのだ。

 不安にならない訳が無い。

 でも、その世界に行ったこともないオレは、何から聞けばいいのかさえあやふやで。


「いっぱいあるっちゃあるんですが、あとは実践というか、慣れながら覚えていきます」


《そうかい。ま、聞きたいことが出来たら神殿までおいで。

 神通力を使うから頻繁にはできないけど、君には《啓示》スキルを持たせているから、何かその時にでも助言しよう》


「至れりつくせり何よりっす」


《ははっ、それじゃあ……》


 Have a nice day!


 そう。

 神様は言い残して。

 次第に。

 遠ざかる声を聞きながら。


 オレの視界は淡い光に染まっていった。





「Have a nice day!」は英語圏での別れの挨拶です。


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