出会う前の僕ら
一応最後まで書く予定です。
僕は魔法学校の入学式に黒髪ロングの赤い目に意識を持っていかれた。
赤い目の女の子はエリイ・ガートンと言う名前の女の子だ。
僕の色褪せた空虚な人生は魔法学校の入学式に様変わりした。僕にとって何の意味も無い時間は何気ないもので、意味あるものになった。
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この世界で黒髪は冷遇されている。
黒髪は魔法がまともに練れない無能の証だと言われている。
大人たちが言うんだ、黒は冴えない、パッとしない、情けない、恥だと…。
ある程度年齢を重ねれば誰でも子供も場の空気を理解し始める。
そんな大人たちを見て子供は、必然的に黒髪を避けるようになる。
人間は強いものにはヘリ下り………弱い者には攻撃的だ。
そこで弱い者たちは勘違いをしだす。自分より下の者がいるんだからまだ自分たちは弱くは無いと…。
誰かが言う「エスタ家の神童フィル・エスタが凄い」と。
そして比較するように誰かが「ガートン家には無能が生まれる」とバカにする。
更に「なんて言ったってガートン家は姉妹そろって無能だからな。姉が黒髪で騒がれていたのに生まれてきた妹も黒髪だなんて、いっそのこと哀れだ」と言う。
生まれたばかりの妹すらバカにされた。
まだ幼かった頃のエリイ・ガートンにはこのことが非常に辛かった。
碌に知りもしない自分たちことをバカにする奴等で世界は埋め尽くされているとすら思えた。
だからエリイ・ガートンはバカにしてきた人を見返す為に努力をするようになった。
そして…魔法学校に入学できる15歳に成る頃には黒髪の天才と呼ばれるようになった。
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今日は、入学式当日だ。
私はいつもより少し早く起きて新しい制服に着替える。
「エリ姉ー、部屋に蜘蛛が出たよぉぉ。助けてぇ」
私の部屋は二階だ。
そして、私の大切な妹の部屋は私の部屋の真下である。
つまり、少し大きな声を出せばお互いに会話ができたりする。
割とこうやって会話している人は多そう。
「分かったぁ。今から少し待っててね、リリイ」
私は少し大きい声でリリイにお願いした。
「出来るだけ…は、早く来てね」
私はリリイの部屋に向かうためにゴム手袋を装着して更に魔法で体力強化シリーズ諸々掛けた。
「あ、もう一つ忘れていたわ!」
私は更に視力も強化する。
「これなら大丈夫かしら?」
私は一通り蜘蛛退治用の魔法を掛けたところでリリイの部屋へ向かう。
私の部屋を出てすぐのところに階段があるので、その、階段を飛び降りて一息にリリイの部屋の目の前まで行った。
「リリイー開けるわよ」
「うん」
部屋のドアは引き戸の為ガチャリと音が鳴る。
そして、私はリリイの部屋を見て呆れた。
部屋の主導権はリリイにあるのではなく最早リリイの何処かから持ってきた植物に握られていた。リリイが使用していたのはベッドと机のみで他は何処を見ても植物である。
両親が見たら絶句していたであろう。幸いエリイが見ていたので良かった。
「リリイ!?また部屋の中を植物だらけにしたのね。今回は何処からこの植物たちを持ってきたの?」
エリイにとっては毎度のことである。だから聞いたのだ。
「エリ姉ぇ、それは後で答えるから今は蜘蛛取ってちょうだい」
可愛らしい妹7歳の願いは姉には断れなかった。
「分かったわ。エリイ…後で説教ね!」
「う…うん」
リリイは涙目になりながら頷いたのであった。
蜘蛛を取るとなると…この部屋には植物が多くて見え辛いわね。ただ…横を見るとリリイが私がやろうとしたことを察したのか首をブンブン振っている。可愛い。
まずは誘き出すのが先決ね!
空間魔法の刻印をしたハンカチを使いハンカチの中から柑橘系スプレーを取り出す。
私はゴム手袋に掘られた刻印に魔力を放出する。
私の使ったゴム手袋から放出された魔力は刻印の力で柑橘系スプレーの香りが強化される。
「蜘蛛はミカンを嫌うわ!つまり、嫌いな匂いだから逃げるって訳だね」
「エリ姉そこには誰もいないよー」
私はドヤ顔をしていたのでリリイの顔を見ないで説明を続けた。
「私はこの部屋に罠魔法の警報を設置しているわ。指定の者が通れば警報がなるから直ぐ分かるわ!」
これが私の秘密兵器よ。
「エリ姉…私もだけどエリ姉も大概だね」
ねえ、リリイ。
何で残念な人を見るような顔をしているの?
お姉ちゃん悲しいわよ。
ビービー
警報がなる。
よし!かかったぁ。
「エリ姉、蜘蛛発見したよ!!」
「ナイス!!リリイ」
さて、蜘蛛はどんな蜘蛛かな?
ん?アシナガグモね…。
結界魔法で囲んで空間魔法のハンカチで嫌いな人の顔に飛ばすことにするわ。
中等部の校長なんてどうかしら?いや、ダメね…気づかれるわ。
なら、私を嫌って陰口を言っていた後輩の机なんて良いわね!名案だわ!
「えい!これで蜘蛛はとんでったわね。で、リリイ言う言葉はない?」
「ありがとうエリ姉。それと…ごめんなさい」
リリイは物分かりが良いので分かってくれたみたいだわ。
「リリイ、部屋に植物ばかり置くと寝てる間に窒息死するわよ。だから今後は気をつけなさいよ?」
「うん。分かった」
私はリリイの頭を撫でながら言う。
「それじゃあリリイ…ご飯を食べに行きましょう」
「うん!」
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ガートン家は代々高名な魔法使いを排出してきた家だ。
そういう事が理由なのか少しばかり格式が高い。けれど、決して住み辛い訳ではない。ガートン家は基本的に仄々しているので厳しい所は厳しく後は優しいという感じだ。
「おはよう、エリイ、リリイ。今日も朝からドタバタしていたけれど何かあったのかい?」
「おはようございます。今日は…」と何も知らない両親に説明しようとしたらリリイが涙目になったので 私は誤魔化すことにした。
「今日は…入学式ですから舐められないように刻印魔法の再確認していたら魔力が上手く練れなくて暴発しました」
私がそういうと両親は一瞬だけ暗い顔をしたが「そーか」と納得してくれた。ただ元凶であるリリイは、小声で「エリ姉…ありがとう」って言ってくれた。この一言だけで私が自虐で誤魔化した甲斐がある。
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僕の目から見える世界は虚ろだ。
それを有体に言ってしまえば僕にとっては何の価値の無いものでしかない。
父が言う。
「フィル、お前は天才だ」
母が言う。
「あなたは神に選ばれた神童だわ」
同級生が言う。
「フィルは良いなあ。天才だから何でもできるんだから」
誰も僕を同じフィールドにいる人間として見ていない。達観した大人が見れば当然だろと口にするだろう。ただそんな人は僕をどのようなフィルターを通して見ている?
そもそも僕と目を合わせて会話しようとしているのか?
少し目を背けてないか?
仕方ないことなのかもな…。
だって他人だから…。
ああ、また曇ってきた。
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