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兄さん!レベリングって面倒ですね!

異世界へ突入した詩織ちゃん。


その世界で待っていたものは騎士とモンスターの群れであった。


やれ!詩織ちゃん!奴らに地獄を見せてやるのだ!

『戦場』まさしくそう呼ぶにふさわしい熱気と臭いを辺りにばら撒き、命が擦り切れ、潰され、やがて消えていく。


 外からやってくる豚共と同じような恰好をした不思議な少女は、自分に与えられた仕事をただこなすように淡々と怪物共に死を与えていく。


 確かに……確かに、戦場における勝利とは相手を打倒し屈服させる事ではあるが、しかしこれは……!


「こ……これは戦いなどでは無いっ……!!」


「あ、またレベルが上がりましたね」


 ────────


『門』を通り、包まれる光から抜けた先は広々とした大地であった。広がる視界には針葉樹林であろう細く高く伸びた植物が群生する森が見え、地平線の向こうまで続く光景は詩織が異世界への転移を納得するに充分な光景であった。


「広い……ここから兄さんを探すには情報源が必要になってきますね」


 詩織は自身が立つ平原の周りを見回した。そばには古いが頑丈な造りと伺える石畳の街道が地平線の向こうまで平原を這いずっており、この上を沿って歩けばいずれ街か村へ辿り着ける事を示唆している。


『詩織さーん?聞こえてますでしょうかぁ?ミシェルですー』


 詩織は手で握りこんだキューブから、ミシェルが自身に呼びかける声に気付く。


「ミシェルさん?」


『あ、無事に着いたようですねぇ♪こちらからもキューブの位置を追跡はしていますので到着したのは知っていますが』


 キューブからは相変わらず脳天気な明るい声が聞こえてくるが、右も左もわからないこの状況ではとてもありがたい。詩織は内心ホッとした。


「ミシェルさん。今無駄に広い平原に立っていて近くに大きな道があるのは見えるのですが、どの方向に進めばいいのかってわかったりしません?」


『えーと……ちょっと待ってくださいねぇ』


 キューブの向こうでミシェルが資料を探しているのか、ガサガサと紙がすれるような音が聞こえてくる。


『お待たせしましたぁ。詩織さんから見てですねぇ左が北、右が南となっていましてぇ、その街道の南側へ進んでいただきますとぉ。え……とトゥハ……チェスブルグという街につくそうですー』


「南……こっちですね。ありがとうございますミシェルさん!」


『あ、ちょっと待ってください!』


 街道の上を助言どおり歩きだした詩織をミシェルが呼び止める。


『詩織さん、トゥハチェスブルグへは距離があるので徒歩はしんどいと思われます。それと……』


「それと?」


『馬が一頭と何かがいっぱいですねぇ、やって来てるんですー』


「はぇ?」


 そう言われて、詩織は自身の目線を街道の奥に向けると1、2キロメートル離れた場所からこちらに向かってくる白い物体と、その更に後方、両側を森に挟まれた形になる街道の奥からもうもうと土煙が上がっているのが見えた。


 時間と共に音と振動が近付いてくる。どうやら白い馬の上に人が乗っているようで「あ、本当に馬です」そう詩織がつぶやく頃には向こうもこちらに気づいたのだろう。


其処(そこ)御仁(ごじん)! 聞こえておられるならば何処(いずこ)かへ隠れられよっ!」


 凛としたよく通る声が詩織に対し投げかけられた。


「……隠れる?あの人、こんな無駄に広いところで隠れろなんて無茶な事言いやがりますね」


 詩織が動かない事に業を煮やしたのか、詩織の目前で馬を横滑りさせる様に止め、馬上から詩織に手を伸ばす。


「時間が無い! ……ご令嬢! 我が馬にお乗りください!」


「あ、騎士です」


『そうですねぇ』


 馬上の騎士は白で統一された西洋甲冑を身にまとった麗人であった。切羽詰まった様子の騎士とは対照的にのんびりとした反応を返す詩織とミシェル。


「──っ! ちっ! ここで迎え撃つしかないのか……!」


 脅威からの離脱は不可能と判断した騎士は、下馬しその尻を叩き馬を逃がす。得物であるハルバードを両手に構え、迫りくる土煙と対峙した。


「あぁ……どうしてこんな事にっ、無理だよ死んじゃうよぅ……」


 騎士は小刻みに震え弱音を吐いていた。


『詩織さん、確認したところですねぇ、あれはゴブリンやスライム等のモンスターの集団ですねぇ……異常に興奮している様子ですが』


「それは奴等が繁殖期だからだ! それより何だその喋る石は! 面妖な!」


 キューブから出るミシェルの声に騎士がビクッと反応する。詩織は顔の前にキューブを差し出し。


「ミシェルさんです。因みに私は詩織です」


『ミシェルですー』


 騎士に自己紹介した。


「ぐぬぬぅ……自分はアナスタシアッ! アナスタシア・ツルゲーネフ! 『姫騎士』だ!」


「──姫」


『騎士──』


 ──説明しよう!姫騎士とは高貴な出身のやんごとなき御方が就職される役職の1つである。模擬試合では大体最強を誇り、特別で2000勝で模擬戦な御方なのだが、特筆すべきはどんな状況においてもまず負ける。記録では2Pで負けるという騎士道最速伝説もあり、もうわざとやってるんじゃないかと思われる負けっぷりにファンも多いと聞く。あといっぱいいっぱいになると獣みたいな声を出すよ!


「私、知ってます! 兄さんが持ってるエッチなゲームに出てくる雑魚キャラですよね!」


「な……何だ君はいきなり……! 失礼じゃないかっ!」


『まぁ、不安になる職業の方ですよねぇ……』


「っ……、うぅ、ふぐっ……うっ……」


 アナスタシアは見知らぬ人にいきなりこんな事を言われ思わず泣き出した。


「あ、泣いちゃいました。ミシェルさん言い過ぎですよ。謝ってください」


『えっ!? えぇっ! 今の私だけが悪いんですかぁ!』


「早く!!」


『ご、ごめんなさい……?』


 ミシェルは釈然としないまま謝罪を行う。胸中では『いや、絶対おかしいやろ』とは思ったが詩織が怖いので口をつぐんだ。


「い、いいんだ……うっ、あながち、間違いではない……それに、自分たちはあれにやられてしまう」


 アナスタシアが震える指をさす方向は大きくなった土煙から涎をだらだら流しながら突っ込んでくるゴブリンと飛び跳ねてくる体表がピンク色のスライムの先頭集団であった。


『皆さん恋の季節なんですねぇ』


「姫騎士なら耐えられると思いますが、私は嫌です」


 詩織は心底嫌そうな顔をして、キューブを握る。「ですので──」詩織は決断をした。


「皆殺しにしちゃいましょう!!」


 ────────


『キューブは詩織さんが想像したものが創造できます……くっ……くくっ』


「ミシェルさん?」


『いえ……ぷっ……想像と創造って……ぷふっ』


「あ?」


 ミシェルは詩織の声に殺意めいたものを感じると「申し訳ございません」と素直に謝る。


『──こほん、でですねぇ詩織さんの世界由来のものはそのまま想像してもらえばいいですがぁ、今いる世界の物についてはその世界由来の関連物がパーツとして必要になります』


「あの軽トラみたいに?」


『その通りです。私の想像力であの形になったんですよぉ』


「わかりました。そこまでわかれば十分です」


「お、おい……! 君、もうそこまで来ているぞっ……!」


 アナスタシアの焦る声をよそに詩織は目を閉じ、想像する。


 ────────


 ある過去の日の事


「──はぇ……兄さんこれすっごいですね! 船から降りる兵士がボコボコにされています!」


「……毎分……1200発」


 私と兄さんは、兄さんが借りてきたBDから超大作戦争映画を観ていました。冒頭のシーンで船から降りる兵士達が次々とやられていくのを見て私はそれが気になって、兄さんに聞いたのです。


「兄さん! 兄さん! あれ何ですか! 気になります!」


 興奮気味に質問する私にヘドロみたいな目を光らせて兄さんは答えてくれました。


「……グロスフス……MG42……汎用機関銃……ドイツでは一般的な口径の7.92mmで──」


「あははは! 兄さんめっちゃ喋るやん!! キモーイ☆」


 ありがとうございます!兄さん!


 ────────


 それは突然現れた。


 鉄色の筒はアナスタシアの持つハルバードより、短く、優美さを彩る修飾などもなく、ただただ機能性を求めた末に産まれた戦争の凶児。


 黒いベークライト樹脂で造られた銃床は全体の凶悪さを認識させる一助となり、暗い鉄色の中にまろび出た金色の弾帯が目を引く


「出来ましたー! なんとか42です!」


『これ鉄砲ですかぁ?何か長いですけど』


 キューブで作られた、なんとか42からミシェルの声が響く。


「これ、弾が少ない気がしますね?」


 詩織が、なんとか42の横から垂れ下がる弾帯を上下に動かしながら疑問を口にした。


『あ、その点は心配いりませんよぉ。その道具が発揮するパフォーマンスを再現するのでぇ、弾とかはいりません』


「へぇ……」


『今、詩織さん絶対悪い顔してますよね! いけませんよ悪い事に使っちゃ!』


 詩織は、なんとか42の後ろに周りボルトを引き弾丸を発射可能にする。


「君、何をしている! そんな刃もついてないような棒では何も出来ないぞっ!」


 アナスタシアは悲痛に叫ぶが、詩織は素知らぬ顔で射撃体制を取る。


『あ、これ調べましたが反動が凄いようですねぇ! その再現性はカットしておきますねぇ』


 ────詩織はトリガーを引いた。


 瞬間、音の途切れない雷鳴が響く。


 一掃射でモンスターの先頭集団が崩れ、光の粒となり消えた。すると詩織の体が明るく光りだしたのである。


「はぇ……?」


『おめでとうございます詩織さん! レベルアップですよぉ!』


 不思議がる詩織に祝福するミシェル。今起こった光景が信じられずに絶句するアナスタシア。


『このまま全滅させて、経験値にしちゃいましょう!』


「そうですね、皆さん私の養分になってください」


 雷鳴が響く、モンスターが弾け飛ぶ、近づく前に次々とスライムが、ゴブリンが、コボルトが、キラービーが光の粒となり消える。その度に詩織の体はクリスマスのイルミネーションのようにド派手に光る。


 アナスタシアは思った。戦いとはお互いが命をさらけ出し、その末に勝取り、相手を敬うものである。しかし、これは何だ……?一方的で義務的なただの殺戮ではないか……。


 故にアナスタシアは思った「ふぐぅっ……怖ひぃぃん」


 淡々と殺戮していく詩織に、恐怖した、ドン引きした、マジかこいつと思った。アナスタシアはおしっこが漏れそうな程にビビってしまったのである。


「こ……これは戦いなどでは無いっ……!!」


「あ、またレベルが上がりましたね」


 ────────


『おめでとうございます詩織さん!レベルカンストですよぉ!』


「スキルも色々いただきましたね」


「……」


 モンスターを数百体以上を全滅させた詩織は無事に広告のEXPブーストの恩恵を受けレベルがMAXとなっていた。


「君達……よくあんな事が出来るな……?途中逃げてるモンスターも後ろから斃してたではないか!」


 非難するアナスタシアに対し、詩織はキョトンとした表情で答える。


「え?でも逃げる奴もモンスターですよ。で、向かってくるモンスターが良く訓練されたモンスターです」


「な……!」


「本当に異世界は地獄ですねー!」


『あははははは☆』


 イっちゃってる詩織にアナスタシアはちょっと漏らした。


 ────────


 《続》

モンスターの手を逃れた詩織達を待っていたのは、また地獄だった。

役所に住み着いた無能とお年寄り。

異世界が生み出したクソみたいな貴族システム。

ここは南の集団牧場管理の街トゥハチェスブルグ。


次回「兄さん!役場の人間が使えません!」


次回も詩織達と地獄に付き合ってもらう。

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