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ぼくのいない世界  作者: 松永晋也
春の川沿いの世界(????)
33/33

 俺は魂の存在を信じていない。


 どんな生命にも魂なんてない。


 世界は永遠に物質がその位置や形を変え続けているだけだろうし、人間の人生に目的など無いだろう。


 心の底から、俺はそう思っていた。


 だって俺は理性的な人間だからだ。


 だが同時に(矛盾するようだが)俺は飛鳥の存在を信じていた。

 もちろん、全てが妄想ということは間違いない。あいつは世界の何処にも居ない。

 所詮、俺の頭の中にだけ存在しているものだ。

 けれど、俺が世界の価値を見出す瞬間があるとすれば、あいつの目を通して世界を見ているときだったし、あいつが喜んでくれる瞬間だけだった。


 だから今でも、飛鳥と会いたいという気持ちが心から消える時はない。常に、苦しみとともにその気持がある。でもきっと、この苦しみこそが、俺を生かしているんだろう。だから孤独を感じるたびに俺は嬉しくなる。飛鳥の存在をはっきりと感じる事ができるからだ。

 

 あいつはもうどこかに行ってしまったが、あいつとの記憶は消えない。あの不思議な世界の記憶は、俺の中の一番奥で、何よりも大切な記憶として残っている。現実世界の記憶なんてまるで残っていないのに、あの世界の記憶は、どんな些細な部分だろうと詳細に思い出せる。だから、それだけで十分に俺は生きていられると思う。


 それに飛鳥は義理堅いから、10年後に再会するという約束は絶対に守るだろう。


 俺はそれまで、可能な限り退屈な人間に成り下がることを目標にして生きていこうと思う。まずは出遅れた分の勉強をしっかりして、大学には普通に通いたい。偏差値は50ぐらいのところで十分だ。大学を卒業したら、地方の中小企業に入って、そして毎日仕事の愚痴を言いながら生きていこうと思う。そうしたらきっと、10年なんてあっという間だ。


 10年経って、飛鳥と再会したら、何をしよう。学校で一人で勉強しながら、毎日そればかり考えている。あいつと冒険する世界を、自分の頭の中で作ったりしている。だから友達を作る暇は全然無い。これからも多分無いだろう。


 ……きっと、飛鳥のために頑張るなんて、間違った考え方なんだろう。

 俺は、正気じゃないのかもしれない。けど、どうして他のことのために頑張れるだろう。

 あいつは俺のために自分の魂すら投げ出したのに、俺があいつ以外のために生きることなんて、もう出来っこないんだ。


 ああ、やっぱり10年って長いな。

 強がって10年なんて言ったけど、待てそうにないよ、飛鳥。

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