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ぼくのいない世界  作者: 松永晋也
ぼくの居ない世界(2007年4月)
31/33

 壊れた世界で目を閉じて、気がついたらぼくはxxの家に居た。


 いくつか不思議な事に気づいた。まず第一に、ぼくの体が何処にもないということだ。ぼくはまるで宙に浮かんでいるような、幽霊になっているような感じだった。何にも触ることができなくて、声も出せない。


 そして目の前にはxxの姿があった。随分幼い姿だった。はじめてxxに出会った頃の彼の姿に似ていたから、多分小学生の頃だろう。ただ、ぼくの記憶にあるxxと比べると、なんだか目つきが一層暗くて、無表情だった。


 スヌーピーの時計を見ると、今は朝の八時過ぎだった。本当なら、もう学校に行く時間だ。なのに、xxはマンボウ柄のパジャマを着たまま動かない。


「……」


 彼はぼうっとしていた。学習机の椅子に座って、天井を見上げていた。なんにもしないで、ぼうっとしていた。部屋の中は驚くくらい静かで、床の下からぼくの父さんと母さんの声が聴こえてきた。


「転校先で、うまく馴染めなかったみたい」


「だからといって、休ませてどうなる。休んだら余計に学校に行きづらくなるだけだぞ」


「それは分かるけど……でも、学校に絶対に行きたくないって泣くの」


「逃げ道は無いんだ。男なら戦わないと」


「本当にそう思うながら、あの子にそう言ったら? 泣いてるあの子の顔をひっぱたいて、『お前が弱いから悪い』って言えばいいじゃない。私には絶対そんなことできないけど」


「それは……そうだが……」


「あなたっていっつも口ばっかり。xxのことをなんにも知らないのに、正論ばっかりぶつけて、しかも実際にはなんにもしないじゃない」


「今は繁忙期だからだよ。仕事が落ち着いたらなんとかするから」


「それまでxxのことは放っておくの? 仕事とあの子、どっちが大事なの?」


「もちろんxxの方が大事だ。けどな、今仕事を休むわけには……」


「やっぱりウソばっかり。いくら忙しくても、話す時間くらいあるのに、そうしないじゃない。ご飯を食べる時間とか、寝る前の数分でも良いから話せば良いのに」


「それはお前だってそうだろ。わたしよりずっとお前のほうが時間があるだろ。お前は一日中家に居るんだから。なのにあいつのことをなんにも知らないだろ」


「何よ。わたしが悪いって言いたいの? ……そうね、全部わたしが悪いってことで良いわ。主婦はなんにもしてないって言いたいんでしょ?」


「そんなことは……もう、仕事にいく。話の続きは帰ってからにしよう。な?」


 ドタドタと足音がして、少し後になって食器が壊れる音がした。


 それきり、下の階からの声は聞こえなくなった。


 xxの顔を見るとさっきよりも陰鬱とした表情に変わっていた。


 ……どうなってるんだろう? なんでぼくの両親がここに居るんだろう?


 xxには両親が居ないはずなのに、それに、彼は転校生じゃない。

 転校生はぼくの方だ。

 この世界はどうなってるんだろう?

 そう思って、彼に手を伸ばすけれど、ぼくの手は空を切った。


「ほんとうの世界を見せてやる」と、xxはそう言っていた。


 xxの言葉が本当なら、この世界が本当の世界なんだ。


 だとしたら……ぼくは一体どこに居るんだろう? それに、どうしてぼくの母さんと父さんがxxの両親なんだろう?


 そう考えたら、ぼくはなぜだか急に気が遠くなって、目を開けていられなくなった。

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