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ぼくのいない世界  作者: 松永晋也
分かる世界2(2011年10月~11月)
25/33

 ホームルームの時間になった。


 先生は心の声で何かを話していた。けど、ぼくとxxは心を閉ざしていたから、その言葉は聞こえてこない。


 ぼくたちは、教室の後ろにある新聞のことばかりが気になっていた。なるべく見ないようにしてはいたけど、それでも10秒に一回は後ろを振り向いて、その様子を確認していた。


 ただ、教室の掲示ボードなんて、あんまり見る人は居ない。朝のホームルームが終わっても、一時間目の授業の後の休み時間になっても、誰もその存在にも気づかなかった。


 ぼくとxxは、何度も何度も掲示ボードの方を見るけど、誰も見ている人が居ない様子を確認して、がっかりすると同時に、安心していた。


 けれど、昼休みになって状況が変わった。クラスで一番うしろの席に座っている原崎さんが、ぼくたちの張り出した新聞に気づいたらしかった。


 彼女はまじまじと新聞を見つめて、しばらく固まっていた。


 ぼくとxxは心を閉ざしているから、彼女が小説を読んで何を思っているのか分からない。しかも彼女は無表情で、何かを考えているか全然わからない。


「なあ、あれ」


 xxがぼくの席にやってきて、原崎さんを指差した。


「うん……」


 ぼくたちは二人で、彼女の動向をじっと見守った。


 五分くらいで、彼女は新聞を読み終えたのか、また自分の席に戻っていってしまった。終始無表情だったから、つまらなかったのかな? でも、彼女はあんまり普段から表情が豊かじゃないし、面白かったのかもしれない。それに、本当に面白いものを見ている時って、大体無表情で読みふけるものだし……どっちだろう?


「彼女の気持ちを覗いて見ていい?」


 ぼくはxxに聞いた。今すぐ答えを知りたかった。


「待て」


「何?」


「ほら、あれ」


 xxはまた、掲示ボードの方を指差した。


「え」


 クラスメート達がぞろぞろと掲示ボードに集まりだしていた。みんな無表情だけど、すごく真剣に、集中してxxの書いた小説を読んでいた。互いに押し合って、我先にって感じでそれを見ようとしている。


「うまくいったかな」


「だと良いけどな。もしかしたら、みんな物珍しくて見てるだけかもしれないしさ。俺がみたいな奴が書いた小説だし」


 xxは自虐的につぶやいた。

 けれど、その目はなんだか嬉しそうだった。誰かに自分の書いたものが読まれて、嬉しいみたいだ。ぼくも、それを手伝った身としては、とても嬉しい。


「きっと、みんな夢中で読んでるんだよ」


「どうかな。たいした話でもないし」


「どうしてそんなこと言うのさ……って、原崎さん、どうしたの?」


 ぼくとxxが話をしていると、いつの間にか原崎さんが目の前に立っていた。恥ずかしそうに顔を伏せていて、口を小さくもごもご動かしている。なにかを言おうとしているみたいだけど、めったに口を使わないからか、中々言葉が出てこない。


 ぼくたちは、彼女の言葉を緊張しながら待った。


「……ねえ、コの小説の続きハ?」


 原崎さんは、小さな声でそう言った。


「えっと……xx、どう?」


「……書こうと思えば、明日には次の話を出せるよ」


 少し考えてから、xxはそう言った。


「だってさ」


「ほんトうに?」


「ああ」


 xxはうなずいた。


「……がンばっテね」


 原崎さんは微笑んだ。


 その時ぼくは、この世界に来てはじめて、xx以外の笑顔を見たことに気づいた。


 ただ、xxは窓の外を見ていた。原崎さんの顔を見るのが、恥ずかしいみたいだった。


「早速、次の話を書かないとね」


「ああ」

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