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ホームルームの時間になった。
先生は心の声で何かを話していた。けど、ぼくとxxは心を閉ざしていたから、その言葉は聞こえてこない。
ぼくたちは、教室の後ろにある新聞のことばかりが気になっていた。なるべく見ないようにしてはいたけど、それでも10秒に一回は後ろを振り向いて、その様子を確認していた。
ただ、教室の掲示ボードなんて、あんまり見る人は居ない。朝のホームルームが終わっても、一時間目の授業の後の休み時間になっても、誰もその存在にも気づかなかった。
ぼくとxxは、何度も何度も掲示ボードの方を見るけど、誰も見ている人が居ない様子を確認して、がっかりすると同時に、安心していた。
けれど、昼休みになって状況が変わった。クラスで一番うしろの席に座っている原崎さんが、ぼくたちの張り出した新聞に気づいたらしかった。
彼女はまじまじと新聞を見つめて、しばらく固まっていた。
ぼくとxxは心を閉ざしているから、彼女が小説を読んで何を思っているのか分からない。しかも彼女は無表情で、何かを考えているか全然わからない。
「なあ、あれ」
xxがぼくの席にやってきて、原崎さんを指差した。
「うん……」
ぼくたちは二人で、彼女の動向をじっと見守った。
五分くらいで、彼女は新聞を読み終えたのか、また自分の席に戻っていってしまった。終始無表情だったから、つまらなかったのかな? でも、彼女はあんまり普段から表情が豊かじゃないし、面白かったのかもしれない。それに、本当に面白いものを見ている時って、大体無表情で読みふけるものだし……どっちだろう?
「彼女の気持ちを覗いて見ていい?」
ぼくはxxに聞いた。今すぐ答えを知りたかった。
「待て」
「何?」
「ほら、あれ」
xxはまた、掲示ボードの方を指差した。
「え」
クラスメート達がぞろぞろと掲示ボードに集まりだしていた。みんな無表情だけど、すごく真剣に、集中してxxの書いた小説を読んでいた。互いに押し合って、我先にって感じでそれを見ようとしている。
「うまくいったかな」
「だと良いけどな。もしかしたら、みんな物珍しくて見てるだけかもしれないしさ。俺がみたいな奴が書いた小説だし」
xxは自虐的につぶやいた。
けれど、その目はなんだか嬉しそうだった。誰かに自分の書いたものが読まれて、嬉しいみたいだ。ぼくも、それを手伝った身としては、とても嬉しい。
「きっと、みんな夢中で読んでるんだよ」
「どうかな。たいした話でもないし」
「どうしてそんなこと言うのさ……って、原崎さん、どうしたの?」
ぼくとxxが話をしていると、いつの間にか原崎さんが目の前に立っていた。恥ずかしそうに顔を伏せていて、口を小さくもごもご動かしている。なにかを言おうとしているみたいだけど、めったに口を使わないからか、中々言葉が出てこない。
ぼくたちは、彼女の言葉を緊張しながら待った。
「……ねえ、コの小説の続きハ?」
原崎さんは、小さな声でそう言った。
「えっと……xx、どう?」
「……書こうと思えば、明日には次の話を出せるよ」
少し考えてから、xxはそう言った。
「だってさ」
「ほんトうに?」
「ああ」
xxはうなずいた。
「……がンばっテね」
原崎さんは微笑んだ。
その時ぼくは、この世界に来てはじめて、xx以外の笑顔を見たことに気づいた。
ただ、xxは窓の外を見ていた。原崎さんの顔を見るのが、恥ずかしいみたいだった。
「早速、次の話を書かないとね」
「ああ」




