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ぼくのいない世界  作者: 松永晋也
さいしょのせかい(2007年5月)
22/33

 ほうかごは、すぐにいっしょに遊びに行った。


 ぼくはこのまちに来たばかりだから、xxが街を案内してくれた。


 さいしょに向かったのは神社だった。神社なんてつまんない。そう思って少しがっかりしていたけど、そんなことは無かった。


 神社の中にある池で、xxがスルメを使ったザリガニつりの方法をおしえてくれた。


「ザリガニを見つけたら、そのまえにスルメをたらすんだ。そうしたらさ、ザリガニがスルメをつかむから、つりあげるんだ」


「そんなのせいこうするわけないよ」と、ぼくはわらった。


「まあ、見てろよ」


 かれはタコ糸の先にスルメをくくりけて池の中におとした。そしてザリガニの目の前にスルメがくると、ザリガニは少しだけなやんでから、がまんできなくなったみたいに、スルメをはさんだ。


「よし」


 xxが糸を引っ張るとをあげると、ザリガニはそのまま釣られてしまった。


 ザリガニは、釣られたと分かってもハサミを開かない。やっぱりばかなんだろうな。xxはそのザリガニのお腹をつかんで、「ほらな」とぼくにそれを見せてきた。


「わー、すごい」


 ぼくはすごくおどろいた。


 それに、xxはこんなことを知っていて、すごいと思った。


 やっぱり、物知りななんだ。


「ぼくもやっていい?」


「もちろん」と、xxはわりばしとタコ糸で作ったつりざおをぼくにかしてくれた。


 池の中にいる別のザリガニの前にエサを落としたら、さっきと同じように、ザリガニはハサミでそれをつかんできた。


 なんだか、ちょっとかわいいなって思う。ザリガニってばかだからかわいいのかな。つりあげたザリガニを手で持つと、ぼくの手からぬけだそうとあばれるけど、すごくノロマで、全然大したことない。


「わー、あははは」


「おもしろいだろ?」


「ザリガニってばかだよね。エサから手をはなせばいいのにさ、ぜったいにさ」


「そうだな。ザリガニってばかだな」


 xxはわらった。学校じゃあ全然わらわなかったのに、今はすごくニコニコしてる。かれもぼくと遊んでいて楽しいみたいで、ぼくももっとうれしくなった。


 ぼくが彼をわらわせているんだなって思うと、すごくいいことをしている気分だった。


「凄いバカだよ」


 けれど、ぼくたちはあんまり楽しくなりすぎて、神社にはぼくたち以外にも人がいることをすっかりわすれてしまっていた。


「こらー! なにをしとる! バチ当たりな! せっしょうはいかんぞ!」


 神主さんが、白いビラビラのついたぼうを持って、どなりながらおいかけてきた。


「うわっ! にげろ!」


 ぼくたちは走り出した。


「こりゃー! こりゃー!」


 ちょっとマヌケなどなり声がうしろから追いかけてくる。


 ぼくたちはわらいながら走ってにげた。


 声はだんだん遠くなって、それでもぼくたちは走り続けた。神社から飛び出して、道路を走って、走って。そのままコンビニにかけこんだ。


「ふぅ、ここまでは追ってこないだろーね」


「そうだな」


「『こりゃー!』だって!」


「こりゃー! こりゃー!」


「あははは」


 xxのモノマネはすごくにてた。入れ歯がとびだしたみたいな、気の抜けた声そっくり。

 ぼくたちは笑いながら肉まんを買って、食べながら、また街をあるきはじめた。

「この街は遊べるような場所、全然無いんだよ」

 ってxxは言う。たしかに、あんまり楽しそうな顔をしている人は歩いていない。きっとみんな面白い場所がないからつまらなそうにしてるんだろう。楽しそうな顔をしてるのは、ぼくたち二人だけだった。


「そうなんだ」


「ああ、いなかだしさ」


「じゃあ次はどこに行くの?」


「カカシ屋って店なんだけどさ、金は持ってるか?」


「千円だけあるよ」


「それだけあれば、まあいいだろ。たりないぶんは、おれが出すからさ」


 ぼくはなんだかむてきな気分だった。なんだってできる気がする。ぼくたち二人なら、何だってできる。きっとxxもおんなじ気持ちだったと思う。わざと両手をぶんぶんふり上げて、へいたいみたいに歩きながら、ぼくたちは商店街を歩いてすすんでいく。


「ここだ」


 xxは一つの店の前で立ち止まった。


 店の前には大きなパンダのぬいぐるみがおかれてて、かべにはおもちゃのビラがたくさんはられていた。


「へー……」


 ぼくは、ガラスごしに店の中を見た。


 そうしたら、店の中には天井までおもちゃの箱がつまれていた。


 歩く場所もないくらい、たくさんのおもちゃだ。カードに、ゲームソフトに、プラモデル、ドミノ、ボードゲーム、つまり、なんだってあった。


 それを見たぼくは、なんだか、そこに入るのがいけないことのような気がして、扉の前で動けなくなってしまった。


「入らないのか?」


 そんなぼくを見て、xxは手をのばしてきた。


 ぼくはxxの手をつかんだ。そうしたら、勇気が出てきた。そうだ。ぼくは別にいけないことをしているんじゃない。おもちゃ屋に入るだけだ。


「は、入るよ」


「行こう」


 それで、ぼくは店の中をみわたした。いろいろなおもちゃが並んでる。本当は、何から何までほしいと思いながら、ぼくは全然そんなことないって顔をして、xxの後ろからゆっくりついていった。


 ふしぎなことだけど、店の中にはだれのすがたもなかった。店員もお客もいない。ぼくたち二人だけだった。


「どうして誰も居ないんだろう?」


「今日はそういう日なんだよ」


「そういう日?」


「何でも好きな物を持っていっていいんだ。きょうは子供の日なんだよ」


 xxはそう言ったけど、ぼくにはそれがうそだってすぐに分かった。


「そんなのあるわけないよ」


「あはは、バレたか。でもさ、店は開いてたんだし、たぶん店員さんは店のおくにいるんだよ」


「そうだね。どうする?」


「店の中を見て回ろう」


 ぼくたちは二手に分かれて、店内を歩き回った。どこれもこれも欲しかったけど、その中でも一番欲しかったのは、ボートのオールみたいな形をしたスケートボードだった。スケートボードに近いけど、車輪がふたつしか無いやつ。


 それはなんていうか、見た目がカッコ良かった。黒いボディに、キラキラの青い線が走ってる。ぜんぜんおもちゃって感じはしなくて、こどもっぽくもない。これに乗れたら、きっとみんなにじまんできるなって感じ。


 ぼくはその箱を手にとってみた。そうしたら、ずっしりと重くて、持ち上げるのも大変だった。その重さで、ますますそれが欲しくなった。重たいものはだいたい良いものだからだ。


 けど、箱をよく見たら、それはひとつ7千円もするものだった。やっぱりすごく良いものなんだろうな。


 けれどぼくの持っているお金は千円しかない。こんなに高いもの買えない。ざんねんだけどそれを元あった場所にもどした。


「それ、ほしいのか」


 いつの間にか、xxがとなりに立っていた。


「ううん、持ってみただけ」


 ぼくはウソをついた。かれに対してウソをついたというよりも、ぼくは自分に対してウソをついたんだ。こんなものはほしくないと思わなきゃいけない。だって、ぜったいに手に入らないものを欲しいと思っちゃいけないからだ。思っていても、悲しいだけだからだ。


「へー、おれは欲しいけどなー」


「そうなの? でも、ひとつ7千円もするよ」


「七千円かぁ……六千円は持ってるんだけどな。ちょっと足りないな」


「六千円? それなら……ぼく、千円持ってるよ」


 ぼくは急いで千円をとりだして、xxにわたそうとした。けれど、かれはそれをうけとらない。


「でも、あすかは興味ないんだろ?」


「……えっと」


 ぼくは困った。ほんとうはすごくこれがほしい。乗ってみたい。けれど、『本当はほしい』って言ったら、さっきぼくはウソをついたことになっちゃうからだ。もちろん、もうウソはついてるんだけど、そのウソをみとめるのは怖かった。xxにけーべつされそうだから、言い出せない。


「べつにむりしなくていいよ」


 と、xxが言う。


「むりしてないよ」


「いいんだって。ほかのもの買おう」


 そしてxxはクルリとそのボードに背をむけてしまった。このままだと……ほんとうに欲しい物が買えなくなる。


 そう思ったら、ぼくの口からかってに言葉が出てきた。


「ほ、ほんとうは、ぼくもこれに乗ってみたい」


 こんなにゆうきを出したのは始めてだった。声がうらがえって、へんなふうに聴こえちゃったかもしれない。


「え?」


「これ、乗ってみたい」


「……さっきはちがうって言っただろ?」


「うそだったんだ。ごめん」


「へー」


 と、かれはニヤニヤ笑う。ぼくははずかしくって、顔をあげられない。


「おれはウソはだいきらいだから、二度とウソはつくなよ」


「うん、ごめん」


「それに、おれが先に乗るからな。六千円も出すんだし」


「う、うん!」


 ぼくはxxに千円をわたした。そうしたら、かれは自分の6千円と合わせて七千円をレジのところにおいて、商品をそのまま持ち出した。


 店を出るとすぐに、ぼくたちは二人で箱からボードをとりだした。


「よし、ここで乗ろう」


 カカシ屋のちゅう車場で、xxはさっそくそのボードに乗った。けれど、ボードにはタイヤが2つしかついていないから、ボードに乗っても、すぐガタンとバランスをくずしてしまう。


「えー、これどうやって乗るんだ?」


「前足に体重をかけて、後ろ足を前後に動かすんだって」


 ぼくは箱の裏に書かれている説明文をそのまま読んだ。


「ん? ……こうかな」


 xxはぼくの説明を聞いて、もう一度ボードに乗った。けど、どうやらこのボードは乗るだけでもけっこうむずかしいみたいで、なんどもなんども失敗していた。


「ねえ、ぼくにも一回やらせて」


「ちょっと待て。もう少しだから」


「……分かった」


 xxは怖い顔をして、なんどもボードに乗ろうとする。けれど、やっぱりそのボードは乗るのがとても大変みたいで、中々うまくいかない。ガタン、ガタンと彼は失敗を続けていた。そのうち、ボードの横の部分に傷がつきはじめた。


 ぼくはその様子をだまって見ていた。


 なんども、なんども失敗していて、ぼくはだんだん彼のことがかわいそうになってきた。6千円も出して買ったのに、全然乗れないなんてって。


 がしゃんっ!


 とつぜんxxがずっころげだ。サポーターもヘルメットもしてないから、かれはヒザとヒジをぶつけてすりむいて、血を流し始めた。すごく痛そうだった。


「だ、大丈夫?」


 ぼくがそばによると、


「だめだ」


 xxはプイと顔をそらした。すねちゃったみたいだ。


「乗れないよ、これ」


「もう少しだよ」


「あすか、やっていいよ」


 彼はボードを持ち上げて、ぼくのほうに渡そうとしてきた。


 けど、そう言う彼の顔は、すごく悔しそうだった。それに少しだけ目が赤い。


「だめだよ、ぼくは君が乗れるようになってからで良いから」


「……乗れないって、こんなの」


「乗れるよ」


「おれにはむりだよ」


「もう少しだけやってみなよ」


 ぼくが何度か言うと、xxは「分かったよ」と、もう一度ボードに立ち向かった。


「うっ、ぐっ」


 ガタン。けれど、かんたんにはうまくいかない。失敗は続いた。


「乗ってすぐに足を動かさないと!」


「こ、こうか?」

 ガタンっ!


「もっと早く!」


「くっ、えいっ」


 何度も、何度もくりかえした。正直言って、ぼくはもう本当に無理かもって思い始めた。


 けどたぶん、10回目を超えたときだった。xxがボードに乗って後ろ足を動かすと、ボードの後ろ部分がくねくねとかたむいて、前に動きはじめた。まるで自転車に初めて乗ったときみたいに、ぎこちなくて、身体のバランスが右にかたむいたり、左にかたむいたりしている。けれど、ギリギリのところでガタンとならないで、持ちこたえていた。


「お、お、お……あれ?」


 xxはボードに乗れていた。しかも、まだ進んでる。


「くっ、ふっ、くっ」


 そして変な声を出しながら、どんどん前に進んでく。


「おっ、おっ、おっ……どーだ? これ!」


 そしてついに、笑いながら、はっきりと走り始めた。クネクネとした動きは相変わらずだけど、それはバランスの取れたクネクネだった。


「すごいすごい! 乗れてるよ」


「そーだよな!」


「乗れてる!」


「ひゃっほー!」


 かれはそのまま、ちゅう車場からとびだした。


 ほんとうはダメなんだけど、商店街の道をボードで走り始めた。ぼくも、そのとなりをならんで走る。


「いえぃーい!」


「たのしい?」


「さいこう!」


 xxはおっきな声で叫んでた。


 周りには誰もいなくて、ぼくたち二人だけだった。がたがたと小石をはね飛ばしながら、xxは進んでいく。乗れたと同時に、かんぜんにマスターしたみたいだ。そのへんは自転車に似ているみたいだった。一度コツをつかんだら後はかんたん。どこまでだって行ける気がするし、二度と転んだりはしないって感じだと思う。


 ぼくは、それを見てて、自分も乗りたくなった。


「ぼくも乗っていい?」


 xxの横を走りながら、ぼくは言った。


「まだダメ!」


「えー」


「おれが6千円出したんだぞ」


「ぼくも千円出したよ」


「6千円だから、1時間千円として時きゅうかんさんで6時間分だ。6時間は俺一人のものだからな」


「6時間はずるいよ」


「……じゃあ、あと1時間」


「それでも夜になっちゃうよ」


「良いだろ、夜になっても」


「怒られちゃうよ」


「怒られるからなんだっていうんだよ」


 xxはあんまりどうどうとそう言うから、ぼくはなんて言って良いのか、わからなくなった。


「……えっと」


「な、平気だよ」


 そしてぼくたちは、本当に暗くなっても、完全に夜になっても、まだまだずっと遊び続けた。家に帰ったら怒られちゃったけど、すごく楽しい一日だった。こんな日がずっと続けばいいのに。


 ぼくも楽しいし、xxも楽しんでいるのがよくわかった。一人で居るよりずっとずっと楽しい。明日になればまた学校があるけれど、もうぜんぜん怖くない。だって、ぼくには友達が居るから。

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