2
神社でお祓いの塩を買ってから、ぼくたちは目的地であるビルの前にやってきた。
時間は7時を少し過ぎたところ。既に夜だった。
「……不気味だな」
普段はあんまり怖がったりしないxxが、珍しいことを言った。
けど、それはしょうが無いことだった。廃ビルの周囲には人の住んでいる家は無くて、同じように、使われなくなった家や店が並んでいる。まるで、死んだ街に来たみたいだった。
その中でも、目的の廃ビルは特別嫌な感じがした。入り口の扉は板が打ち付けられていて、どうやっても開かないようになってるし、コンクリの壁は黒ずんでいる。しかも窓はすりガラスで、中の様子は全然見えない。
ぼくは、今から自分がそのビルの中に入っていくってことが信じられなかった。ていうか、無理だって思った。
「やっぱりやめない?」
だからxxの服の袖をつかんで、ちょっと引っ張った。
「馬鹿言うな。電車賃が勿体ないだろ」
「電車賃くらいなら、ぼくがあげるよ」
「ダメだ」
「……じゃあ、xxが先に行ってね」
「それはダメ。一緒に行くぞ」
「え~~……でも、扉が閉まってるから入れないよ」
「窓から入れるさ、ほら」
そう言ってxxが指差した窓は、一箇所だけ開いていた。
窓ガラスの向こう側は真っ暗な闇。まるでぼくたちが入れるように用意されているみたいで不気味だった。
「それ、ふほー侵入だよ……」
「そんなことははじめから分かってただろ」
そう言いながら、xxは中々窓に入ろうとしない。
よく見ると、彼の顔もちょっと青ざめているように見えた。
暗いからそう見えているだけかもしれないけど。
「xxも怖いんでしょ?」
「……そんなこと無い」
「ならなんで入んないの?」
「……分かった。見てろよ」
彼はそう言いながら、窓から建物の中に飛び込んだ。
「ちょ、ちょっと!」
ぼくは彼を止めようとしたけど、もう遅かった。ゴロンと彼は建物の中に転がり込んでしまった。
「大丈夫?」
ぼくは窓の向こうの暗闇に向かって声を掛けた。
けど…………返事がない。
ぼくは、撮影用のスマホを取り出して、ライトをつけた。建物の中が光に照らされると、そこにはがらんとした暗い世界が広がっていた。コンクリの床、壁はところどころが欠けていて、中の鉄筋が見えている。そして、ともかく物が無い。何も無い。
数秒前に建物へ入っていったはずの、xxの姿も無かった。
「xx?」
なんで? どうして?
「どこに居るの?」
さっきまで一緒だったのに。
「ねえってば。ふざけてるなら、笑えないよそれ」
返事はない。姿も、物音もしない。
ぼくは急に背中が寒くなって、後ろを振り向いた。けど、そこには何も無かった。死んだように暗くて音のしない建物があるだけで、彼の姿は無かった。
「……中に、居るよね」
ぼくは、覚悟を決めてビルの中に入った。




