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最近は晴れが続いている。
みんなは「暑すぎる」とか「地球温暖化だ」って言ってるけど、ぼくからすれば、ずっと道を歩いていたくなるような、ちょうど良い陽気だった。そう、ほんとうは学校に行かないで、いつまでも散歩していたいくらいに。
だけどぼくはちゃんと学校に行く。今週頑張れば来週からは夏休みだし、それくらいはきちんとしないとね。
「おはよう、飛鳥」
教室に入ると、先生はもう教室にやってきていた。
ルーズな人だから、ホームルームの時間になっても来ないことがよくあるけど、今日はやけに早い。月曜日だからかな。
「おはようございます」
「先週のコナンのスペシャル、面白かったな」
「盛り上がってきましたね。そろそろ黒の組織と全面対決してくれると良いんですけど」
「だよな。ま… … そろそろ終わりは近いだろ」
「先生はコナンの黒幕って誰だと思います?」
「アガサ博士だろ。それ以外にない」
先生は断言した。
「ええー… … そうかなぁ?ぼくは違うと思いますけどね」
「いやいや、いい人っぽいやつの方が怪しいんだよ」
「おはようございます」
「おはよーっす」
教壇の前に立って先生と話しているうち、どんどん他の生徒達も教室に入ってくる。彼らも教壇の近くに集まって、みんなコナンの話に混じってきた。
一人、また一人と教室に入ってきて、話に加わる。
そしてホームルームがもう始まるという時間になって、ようやく最後の一人が教室に入ってきた。黒いサラサラとした髪の毛をした男の子。目つきは穏やかで、少しだけ悲しそうにも見える。
「おはよう『XX 』」
先生は笑いながら彼に挨拶をするけど、
「… … おはようございます」
彼は元気がない。
そしてそのまま一人ぼっちで席に向かっていく。先生はやれやれって感じで肩をすくめると、それ以上は深追いしないで、他の子達とコナン談義の続きを始めた。
ぼくは先生の側を離れて、xx の後を追って声を掛けた。
「今日は元気ないね」
「… … そんなことないよ」
xxはそう答えた。
「先週のコナン、見た?」
「見てないよ」
「えーなんで?」
「… … なんでって言われても、見てないものは見てないんだから、仕方ないだろ」
そう言って、彼は会話を打ち切ろうと本とノートを取り出した。
予習を始めるみたいだ。
……けどおかしい、彼はじつはコナンが大好きなんだ。漫画も揃えているし、アニメも欠かさず見ている。普段なら、アニメでまだやっていない回を嬉しそうにネタバレしてくるのに、それをしてもこない。
「何かあったの?」
ぼくは少し心配になってきて、彼に聞いた。
「別に」
「本当にぃ?」
「… … うるさいなぁ。なんでも無いって!」
彼はそう言って、数学の本に視線を落とした。けれど、なんだろう。何か嫌な感じがする。きっと何かあったんだ。ぼくにはそれが分かる。だって、ぼくは彼の親友だから。
… … けど、何かがあるってことが分かっても、何かができるわけじゃない。
「ねえ。今日学校が終わったらさぁ、カカシ屋に行こうよ」
ぼくは彼に提案した。けど、彼は顔をあげてくれない。
「今日はパス。そういう気分じゃない」
顔を落としたまま、xx はそう言った。
「なんで?遊戯王、新しいパック出るのに」
「… … あ、そう言えばそっか… … 」
xx は顔をあげて、本を閉じた。
「二人でお金出してさぁ、ボックス買いしようよ! 半額づつ出してさ」
「そんなお金無いよ。千円しか無いから」
「じゃあ別の人も誘おうよ」
「別に1ボックスも買う必要ないだろ。俺も6パックだけなら買えるから、二人で行こう。で、欲しいカードがあったらシングル買いすればいい」
彼は冷静に言う。xx はいつも冷静だ。
「そっか。そうだね」
けど、良かった。そう思って僕は笑った。




