またもや波乱!?
第三話 またもや波乱
戦いが終わると、体育館内にいた生徒は半分が絶望した様な顔になっていた。
先程の戦いで敗れてしまって除籍処分になる生徒だということが簡単に予想出来た。
すると、そんな生徒達の姿を見ながら校長が再び口を開く。
「皆さんお疲れ様でした。あ、因みに除籍にするという話は冗談なので、皆さんには普通に入学してもらいます」
『はあっ!?』
そして体育館内にいた生徒の心がまた一つになった。
仁哉も途中からなんとなくそうだろうとは思っていたが、心の中で校長の腹黒度が急上昇していた。
「とりあえず入学式はこれで終わりです。入学生の皆さんはこれから決められた教室に向かって下さい。そこで担任の教師がこの学校のシステムについて詳しく説明してくれる筈です」
校長はそれだけ言うと、壇上を降りていった。
(今のは入学式と言っていいのか?)
先程の校長の言葉を思い出し、仁哉はそんな事を考えていると、何人かの教師が生徒が座っている椅子の前に集まった。
「今から名前を呼ばれた人は一年A組とします。1番、清澄 桜花さん。2番、雛月 真白さん。3番、月宮 仁哉くん。4番―――」
一人のもやしの様にひょろい男性の教師が前に出ると、何の順番なのか全く分からない順にクラスが振り分けられる。
仁哉は3番目に名前を言われ、A組というクラスになった。先程戦った雛月 真白も同じクラスの様だった。
「―――一年A組は以上です。教室に案内するので呼ばれた人はついて来て下さい」
そして男性の教師はそれだけ言うと、ちゃんと生徒が付いてきているのか何度も確認しながら教室へ向かって行く。
(···なんというか、本当にエリート魔法師しかなれない魔法師育成学校の先生なのか疑いたくなるな)
教師の余りの挙動不審具合に思わずそんなことを考えながら、仁哉は教室へ向かったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
魔法師育成学校の敷地は広大であり、体育館から教室までの移動だけで5分以上も掛かった。
そして教師は先程言われた番号順に生徒を座らせると、生徒一人一人にスマホの様な薄い長方形の形状の端末を一人ずつ手渡した。
「まずはこの端末から説明しましょう。電源を入れてみください」
教師にそう言われて仁哉は端末の電源を入れた。
すると、そこには仁哉の名前と学年に組、そして二つの数字が映し出されていた。
(校内序列と学年序列?なんだこれ?)
仁哉や周りの生徒が端末の数字を疑問に思っていると、教師が再び口を開く。
「そこに書かれている序列というのは、この学校における実力の順位です。現在の順位は先程の体育館での戦闘を元に付けられています。現時点の校内序列は低いでしょうが、実技の評価や学校承認の元に行われる決闘などの結果によって順位は変動します」
つまりは学校の生徒に順位をつけて、生徒の闘争心を煽ろうということだろうが、仁哉には一つ疑問があった。
(どうして俺が学年で3位なんだ?)
仁哉の端末には学年序列3位と書かれていた。
先程の体育館での戦い。
仁哉はただ面倒を避ける為にひたすら逃げ、たまに攻撃を受け流すくらいしかしておらず、他の生徒を倒すどころか一度も攻撃をしていなかった。
にも関わらず端末に書かれているのは3位という数字。
(どういう判定をしたらこの数字になるのか···何かの不具合か?)
仁哉は素直にそう思った。
1位と2位は間違いなくあの黒髪の少女と白髪の少女――真白だろうが、幾らなんでも仁哉が3位なのはおかしい。しかし、仁哉はそこでふと気付いた。
先程の戦いは、殆ど仁哉の前の席に座っている二人の少女の一方的なものだった。
したがって、二人以外はまともな戦闘は出来ておらず、仁哉は物凄く地味にだが戦い、真白の攻撃を凌いだ。
(つまりなんだ?俺はなし崩し的に3位になった訳か?)
本当のところは仁哉には分からないが、とりあえず疑問は解消したのでそれで納得した。
仁哉は基本面倒くさがりなのだ。
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その後、このクラスの担任だというあのひょろひょろの教師―――立花 真司先生が、学校のルールや明日のことを説明して解散となった。
仁哉は時間を確認するが、時刻はまだ昼を少し超えた辺りであり、魔法師育成学校は全寮制だった。
基本的に門限というものはなく、授業に支障が出ないのなら寮に泊まる必要はないというただ甘っぷりである。
「···仁哉」
周りの生徒が次々と教室を出ていく中、仁哉がこれからどうするか考えていると、突然横から名前を呼ばれた。
仁哉が振り向くと、そこには白髪の少女――真白がボーッとした無表情でこちらを見ていた。
「真白か。どうかしたのか?」
「···予定がないなら、またあの技を見せて」
名前で呼ばれた為、仁哉も真白を呼び捨てで呼んだが、真白は大して気にした様子もなくそう返してきた。
「技って『流転』のことか?大して珍しい技でもないぞ?」
「···でも仁哉のは凄かった。もう一度見たい」
真白は仁哉の『流転』を相当気に入ったらしく、無表情なのは変わらないが、真白がサファイアの様な蒼い瞳がキラキラと輝いている様に見えた。
仁哉も自分の技が褒められて悪い気はしない。
「そうだな。昼飯を食べた後なら幾らでも良いぞ。真白も腹減ってるだろ?」
「···ん、空いた。一緒に食べよ?」
「良いぞ。食堂に行こう」
そして仁哉の予定が決まり、真白と共に食堂に行こうとした時だった。
「ちょっと待ちなさい!」
仁哉にまともや横から声を掛けられ、そこには背中まで伸ばした綺麗な黒髪の少女―――体育館で真白と戦った学年序列1位の清澄 桜花が立っていた。
「なんだ?これから昼飯に行くんだが?」
「アンタじゃないわ。私は後ろの白髪の子に用があるの」
そう言う桜花の視線は、仁哉の後ろにいる真白に向いていた。
そして、それを確認した仁哉は再び口を開く。
「悪いな。俺はこれから後ろにいる真白と一瞬に昼飯なんだ。用事ならまた今度にしてくれ」
「私よりもアンタの方が優先だと言いたいの?」
「俺の方が先に約束したんだから当り前だろ。何ならお前も一緒に昼飯に行くか?それなら話も出来るだろ?」
「はあ?なんで私がアンタなんかと一緒にご飯を食べないといけないわけ?」
仁哉は短時間で真白が話す事が余り得意ではないと理解していた為、代わりに相手をしたのだが、何故か桜花が喧嘩腰に突っかかってくる。
相手のプライドが高いと分かってはいたが、その態度には仁哉も流石にイラッとする。
(こいつ面倒くさいな)
そんなことを思う仁哉だが、面倒になると理解している為、顔には出さない。
「じゃあ、どうするんだよ。お前の用事は直ぐに終わるのか?」
「それはまだ未定よ。強いて言うならそっちの子次第ね」
そして、このままでは埒が明かないと判断した仁哉は、一瞬で対応を決めた。
「却下だな。悪いが日を改めてくれ。俺も真白も腹が空いてるんだ」
「なんで私がそんなことをしなくちゃ行けないのよ!」
「じゃあ、なんだ?お前の用事とやらは相手の予定を無視して、自己中に強制させる様な重要なことなのか?」
「自己っ!?私に喧嘩を売っているの!」
「喧嘩を売ってるのはそっちだろ?お前、真白とはほぼ初対面だろ?失礼にも程があるぞ」
余りの面倒臭さに仁哉も思わず口が荒くなるが、否があるのは間違いなく向こう側なので一切気にしない。
だが、このままヒートアップしても良い事はない為、仁哉は一度深呼吸をして気持ちを切り替えようとした。
だが、プライドの高い少女の顔を見た瞬間、仁哉は切り替えるのが遅かったことに気付いた。
「良い度胸ね!アンタ、私と決闘しなさい!」
「断る」
「···えっ?」
仁哉は告げられた勝負を即答で断った。
相手もまさか即答で断られるとは思ってなかったのか、きょとんとした顔をしている。
「な、なんでよ!?」
「じゃあ逆に聞くが、なんで俺がさっき体育館で暴れまわってた学年序列1位と決闘なんかをしないといけないんだよ」
「そ、それは···」
「そもそも俺は自分に得がないことはしない主義だ」
学校のルールとして、決闘は順位が下の者から挑まれると基本的に断れないらしいが、今回は仁哉の方が下だ。普通に拒否が可能だった。
仁哉は最後に自分の主義を言うと、真白を連れて食堂に向かおうとした。が、桜花はプライドが邪魔をするのかそれでも引き下がらない。
「と、得ならあるわ!」
「ん?」
「アンタが勝ったら私を好きにして良いわ!どう?これなら文句ないでしょ!」
「···はっ?」
桜花の言葉には、仁哉だけでなく教室にいた生徒全員が言葉を失った。
これには仁哉も顔を引きつらせる。
「···お前、幾ら勝てる自信があるとはいえ、馬鹿にも程があるぞ?自分が何を口走ってるのか分かってるのか?」
「うっ···わ、分かってるわよ。か、勝てば良いだけの話じゃない」
仁哉は呆れのため息をついた。
(こいつは俺が強かった時のことを考えてないのか?)
仁哉は余り実力をひけらかす方ではないが、実力には自信がある。
また、ここまで下に見られて逃げたいとは思わなかった。
「分かった、勝負を受ける」
「ほ、本当ね!」
「ただし、観客はなしだ。手の内を他人に見られるは好きじゃないし、そっちもその方が良いだろう」
「ええ、構わないわ。時間は一時間後、学校への申請は私がしておくから首を洗って待ってさい!」
最後に桜花はそれだけ言うと、申請をするためか教室を出ていった。
その姿を見送った仁哉は、少しして真白を見た。
「真白、すまん。『流転』を見せるのはまた今度で良いか?」
「···ん、大丈夫。でもご飯は一緒に食べたい」
「そうだな。食堂に行こう」
そして、仁哉と真白は食堂の向かったのだった。
すいません。余り物語が進みませんでした。