第一話 入学式でいきなり波乱!?
ウー!ウー!ウー! ウー!ウー!ウー!
通勤や通学により、沢山の人が行き交う町の早朝の中、そんな警報の音が鳴り響く。
『緊急事態発生!緊急事態発生!南地区付近に魔物の発生を確認しました!住民は速やかに避難して下さい!繰り返します!緊急事態発生!緊急事態発生!······』
そんな町内放送が流れ、南地区にいた住民達は一瞬の静寂の後、あちこちから悲鳴が響き渡る。
「···うるせえ」
そんな騒然とする町を歩く一人の青年――月宮 仁哉は鬱陶しそうにそう呟き、とある方向を向いた。
仁哉の視線の先。そこには空間が歪んだ様な黒い穴があり、その穴から大きさ3メートルはある巨大な猪や、腕の太さだけで丸太程ありそうな人間よりも二回りは大きい鬼の様な生物が続々と現れていた。
「うわああぁ!?魔物だ!?魔物がいるぞ!?」
「逃げろ!?」
逃げ惑う誰かの口からそんな言葉が漏れる。
魔物。
それは今から100年程前に現れ始めた、異次元の侵略生物の総称だった。
魔物は時や場所に関係なく、突如として発生する空間の裂け目から現れ、人や動物などの地球上の生物を無差別に襲う。
その膂力は人間を遥かに上回り、人類はあっという間に追い詰められた。
現に今も、近くでの魔物の出現に腰を抜かした一人が、巨体の鬼の魔物――オーガに棍棒が振り下ろされようとしていた。
しかし、突如として一陣の風が吹き、棍棒を振り降ろそうとしていたオーガの腕が切り落とされる。
グガアアアァ!?
オーガが腕を切り落とされた痛みに叫びながら暴れまわる。
そして、その光景を見た人達が、手のひらを返した様に足を止め、今度は恐怖ではなく歓喜から声を上げる。
「おお!魔法師だ!魔法師が来てくれたぞ!」
「良かった!魔法師がいればもう大丈夫だ!」
魔法師と呼ばれ、人々の視線の先にいたのは人間だった。
魔法師。
それは100年前、魔物の発生により追い詰められた時、魔力と呼ばれる人間の誰もが持つエネルギーを使い、魔法という超常現象を起こして人々を救った、魔術師や魔女などの現代の名称だった。
その一見以来、魔法師や魔法は世間一般にも広がり、今では魔物と戦う職業として当たり前になっていた。
そんな魔法師達が魔物と戦っているのを暫く見つめると、仁哉は興味を失った様に建物の裏路地へと足を進める。
そして、裏路地へ入った仁哉は暫くして足を止めた。
仁哉の進行方向、視線の先の空間が歪んで黒い穴が発生し、先程と同じく巨体の鬼の魔物――オーガが10体近く現れる。
ガアアアア!!!
オーガ達は脅かす様にそう叫び声を上げるが、仁哉の表情は全く変わらず無表情のままだ。
「また魔物か······くだらない」
そして、仁哉がそう吐き捨てた次の瞬間、仁哉の姿はオーガの向こう側にあり、10体いたオーガの首が全て斬り落とされていた。
「これから入学式なんだ。俺の邪魔をするな」
そんな仁哉の呟きは、誰の耳にも届くことなく、裏路地へと消えたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「今朝、郊外で魔物が出現するという事件もありましたが、こうして無事に入学式を開くことが出来てとても嬉しく思います。また――」
仁哉の耳に絶望的に面白くない話が長々と聴こえてくる。
現在は入学式の真っ只中。
国民を守るという名目で作られている魔法師育成学校なのだが、校長の話がどうしようもなく暇で眠気を誘うというのは変わらないらしい。
仁哉は隠す気もない様に欠伸をするが、それは長くは続かなかった。
それは校長の話の内容が原因だった。
「――さて、面白くもない社交辞令的な話はここまでにしましょう。···突然ですが、皆さんにはこれからバトルロワイヤル形式で人数が半分になるまで戦ってもらいます。魔法師には実力が必要不可欠です。その為、生き残れなかった人については、除籍処分とさせて頂きます」
『はっ?』
極一部を除いて、入学式の会場である体育館の生徒の心が一瞬だけ重なる。
魔法師育成学校には、魔法師という命を掛けて戦う者を育成するという名目上、入学前にはそれなりに厳しい試験を合格する必要がある。
つまり、ここにいる入学生は既に最低限の力があるのは証明されていることになる。
ここにいる入学生は全部で500人。
校長の話が本当なら、ここでその半分――250人が除籍されることなる。
とても正気の沙汰とは思えなかった。
そして、生徒達は暫く理解が追い付かずに呆然としていたが、時間が経つに連れて途端に殺気立ち、各々の武器を抜く。
魔法師育成学校の生徒には、特例として武器の携帯が認められているのだ。
「回復魔法の使い手を待機させているので、殺しさえしなければ問題ありませんので、思う存分暴れて下さい。では、どうぞ」
校長のそんな合図とも言えない様な声で、生徒達が一斉に戦い出す。
そんな中、仁哉は攻撃してくる生徒を躱しながら、こんなふざけたことをする校長を睨めつける。
校長は外国人とのハーフで、綺麗に伸ばされた金髪に碧眼をしており、更にモデル顔負けのスタイルを持った美女で、“魔性の魔女”の異名を持つ最高位の魔法師らしい。
確かに美女だが、仁哉から言わせればただの腹黒女だ。
(あの顔は絶対に忘れない様にしよう)
そんなことを思いながら、仁哉は自分の得物である刀を抜いた。