(第一部 あらすじ)
気がつくと、5歳の僕は調整池と呼ばれるところに浮かんでいた。外から緩やかに光が射し込む中、福音者に僕は導かれ、僕が生きていた世界のこと、僕の手を静かに引いてくれていたモトコのことを思い出した。福音者は、次の世で生きるために必要なことを教えてくれた。そして、ルカの福音の恵みを受け、ネオガリア連侯国に転生した。
その地で僕ははじめて家族というものを知った。思慮深い騎士であるカリスト父上が家長のラディール家。ラディール家は、リヒタイン侯爵様より騎士爵家を任じられていた。僕は家の第九子のカンデ・ラディールだった。家族というものを知らなかった僕は、ラディール家ではじめて父の優しさというものを知った。
しかし、僕が10歳となった時、父上は隣国との戦の場で裏切りにより、亡くなってしまう。ラディール家に残された11人の家族に危機が迫る。おそらくは裏切りに加担していた男爵家の男たちが家に訪れ、喪葬の儀の中の姉たちを値踏みするようにねめまわすように見ていった。
あわやという家族の危機の中、10歳となった子の定めである降霊の儀の場に僕は導かれ、最幸の降霊書を手にする。僕がバードとして記憶していた光る鳥の精霊が、僕と妹の肩に止まった。バードに宿る大精霊マリンは、ラディール家の守り手となった。
そして、僕はリヒタイン侯爵領の南部にある連侯国学院に入学し、妹と共に精霊使いを目指すことになる。学院では、僕は、静やかに生きる道を選ぶ。『異界への門をくぐった先のどこかの地に、モトコが転移している。』、という福音者の言葉を、僕は信じる。学院で学び、この地で精霊使いとして力を蓄え、僕は異界の地に挑むことを決意する。僕はどこに異界の門があるのかも知らずに、そう思っていただけなののだったが。
しかし、僕が連侯国学院の最上級生への進学を前にした春の日、突然に異界の門が開いた。門から出てきた異獣により、多くの騎士や民が犠牲になる中、僕たち、学院の精霊使い見習いは、異獣に戦いを挑むことになる。