宿命
「………」
預言の聖女が顔を俯かせている。こういう時先輩にあたる私が何とかしなければならないと思い、私は声をかけた。
「大丈夫か?」
「あ………はい………」
あまりにも分かりやすい作り笑顔、彼女は堪えている。辛さを私に感じさせない様にと優しさ故の笑顔で。
「けど………行かなきゃ、ですよね………」
「………そうだな、天命であれば尚更だ。だが、もし辛いのであれば私が………」
「いえ、これは私の人生の道です。行きます。」
「………本当に、本当にそれでいいのか」
「良いんです………それに先輩も言ってましたよね。『たとえ、どんなに辛くても乗り越えることが自身の道になる』って……」
「………」
「だから私、神様に左右されても自分の道だけは私の物にしたいんです。」
「そうか………」
この子は強い、私が思うよりも別段に。もしあの子ぐらいの年だったら私は怖くて怖気づいていたかもしれない。
「それに、もしかしたら私の故郷にも行けるかもしれないじゃないですか、こうやって前向きに考えればなんか楽になってきました」
「そうか」
「先輩、ありがとうございます。ちょっと話したら荷が降りた感じがします」
そう言って私に笑顔を向ける。確かに最初に比べれば温和になった感じがする。私はなにも出来ないけれど、せめて御守りくらいは………
─────
「もう、王都に行かなきゃ行けないのか………早いな」
少し苦笑いをしながら荷物を馬車に乗せる。これで帰ることは出来なくなった。
「リーレイ!!」
「!?」
今、ふと私の名前を呼ばれた気がした。教会では呼ばれることすらなかった私の名前。誰が呼んだのだろう?私は辺りを見回す。するとそこには私の元へ走ってくる人影が見えた。
私は目を凝らしてその人影の正体を確認した。
─あれは………先輩!?
ビックリした。まさか先輩が私の方へ走って来るなんて思いもしなかったから、正直胸がギュッてなった。
「ハァ………ハァ………ハァ………ハァ……」
「先輩?」
「ま、間に合った………これ!受け取って」
先輩はなにかを握りしめた左手を私の目の前に見せた。なんだろうと持っている物を受け取ると、それはキラキラ輝いたペンダントだった。
「これって………」
「御守りだよ、何かあったら1回だけだけど守ってくれる。高性は良いから1回だけなんだけどさ………」
「これって、私に、ですか?」
「当たり前だろ?その為に走ってきたんだから、それに徹夜だって………」
私は嬉しさの余り泣いてしまった。ポロポロと溢れる涙。その姿を見た先輩はどうした?どうした?と私を慰めてくれた。
こんなに嬉しい気持ちでいっぱいになったのはいつぶりだろうか?
村にいた頃はいつも感じでいた温もり、優しさ。それが一気に今、私に降ってきた感じだ。言葉なんかじゃ言い表せない感情。私は一つの言葉で先輩に感謝を述べた。もちろん、万遍の笑みで。
「ありがとうございます、先輩!」