新しい勇者、選ばれる聖女
『これより、勇者を召喚する。魔術師達よ、魔素を集めるのだ!!』
『『『は!!』』』
今日は神に選ばれし勇者を召喚する日だ。正直意味の無いものとしか思えない。
まず、召喚された勇者は元の世界に帰れない。その上こちらはこの世界を救えと傲慢を言うのだから。本当に呆れたものだ。馬鹿すぎて気持ち悪い。
「おお!!これが『神の通り道』と言われる光の柱か!!素晴らしい!!」
どこが素晴らしいのか私には分からない。いや、眼が腐ってしまって素晴らしさすら感じなくなってしまったのかもしれない。
『うわっーーーーー!!!!』
「!?」
完全に声が聴こえた、疑っていたが本当にこの光の柱は違う世界と繋がっているのかと、そしてまた正しい未来から外れる者が出るのかと思うと少し寒気がした。
「いっ、てて………?ここは、どこ?」
「………」
純粋無垢そうな少年の顔をみて、私は顔を背けてしまった。これから酷い目に合うであろう彼を救えないのだから。自分の行動力の無さなに歯を食いしばる。
『貴方様が勇者か?』
「ゆ、勇者??」
『我の名はハルペスカペル国王第三十二世、ユージーン・アロウネス・ハルペスカペルである。』
「え、えっと………志原 優馬です」
はぁ、と息が漏れる。名はマナだ。本来の名をまだ信用もならない人間に言ってしまえばマナを操られ、まるで操り人形のようにされてしまう。まぁ、もし交渉に失敗したらの話だが、問題はない、と思いたい。
『貴方様は勇者に選ばれた。どうか、どうか、この国を、救ってくだされ………』
「え!?」
困惑するのも無理は無いだろう国王は頭を下げたのだ。直々に、しかも下げたあの頭の顔面は屈辱そうに、そこに加えこのアマガキが!と言わんばかりの笑顔で。不気味すぎて正直キモが冷えた。
「そんなに困っているのでしたら………」
『本当か!!』
「えっ、、、と。はい………」
『っ………ありがとう』
馬鹿だな、これが王の思う壷だと言うのに救いようのない。私は最後の契約、いや交渉の言葉を聴いて隣にいた神官に気分が悪い、と伝え外にでた。あれが良い判断であると信じたい。そしてまた、戦争が始まるのかと思うと、止められなかった自分が情けない。
「また、一人あの『鳥籠』から聖女が居なくなるのか………せめて、死なない事を願わねば………」
そんな時思った。今更神に願ったところで、変わらないのではないか?と。
それは文字通り変わらなかった。
─────
『…………これより勇者様と同行する聖女を名乗る!拒否権はないが、代わりに行く者がいるのであれば受け付けよう!!』
(ヒソヒソ)
(また誰かいなくなってしまうのね)
(今度は私かもしれない………)
(新人に行ってもらいたいものね)
(あらあら、あんなに良い雰囲気が台無し。)
本当に誰が行くのであろあか。もしかしたら、私が行くのかもしれない。まぁ、それも良いだろう。手に汚れた血が違う生物に変わるだけなのだから………
『同行する聖女の名は………『預言の聖女』である!!!』
「っ!」
預言の聖女。最近入った聖女、そして一番の優等生。まさか彼女が選ばれるなんて。
私は周りを見渡して彼女を探す。彼女は柱の影でひっそりとその言葉を耳にしていた。
『預言の聖女よ!日が沈むまでに答えを出してもらう!!以上!!』
(あの子ね)
(可哀想に、辛いでしょうね)
「…………」