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闇黒に告ぐ  作者: 森音昆布
1/2

1 白百合の咲く丘で

おはようございます、今朝のニュースをお伝えします。

今日未明、都内某所で男女合わせて7人の遺体が発見されました。

被害者は全員10代から20代くらい、死因は刃物の様な物で切り付けられた事による出血死と見られています。

犯人の目撃情報はなく、警察は被害者の身元の確認を急ぐと共に殺人事件として調査を進めています。



私立与羽根(よはね)女子学園。

通称はヨハネ。校門を抜けた先にある聖ヨハネの石像が印象的で、そう呼ばれている。

都内有数のお嬢様学校であり、清楚な制服や規律正しい校則、そして世界的にも有名な生徒会長のおかげで倍率は年々上がっているらしい。

偏差値はそこまで高くない。だが家柄や今までの素行、立ち振る舞い等を見る面接試験で落とされる受験者が大半だという。


ただ、それなりに黒い噂もある。

ここに通う生徒の中には、過去に罪を犯した者がいる。近所に住む人の目撃証言から出た根も葉もない噂だが、それがきっかけで他にも様々な悪行が囁かれている。

が、そんな程度の低い噂等ではヨハネの名前は落ちない。結果、今年もこうやって憧れを持った女子中学生が沢山集まってきているのである。


そして、私もその一人。

ひめゆうり、それが私の名前だ。

ここの学園に通うにはふさわしくない普通の少女で、特筆する事と言えば昔剣道をやっていた事があるぐらいだ。


私は元々、地元の小さな公立高校へ通っていた。

だが校長が不祥事を起こし、そのまま辞任。元々生徒も教員も少なかった私の高校は廃校になってしまった。

突然居場所を無くし茫然としていた私に手を差し伸べてくれたのが、遠い親戚に当たる「彩里(あやり)」の伯父さんだった。

彩里は……身も蓋もない事を言えば、とてもお金を持っている。そして彩里家の長女であるめぐお姉ちゃんも、このヨハネに通っているのだ。

彼女とは小さい時に数回遊んだ程度の仲なのだが……それでも、困っている人を放っておけないのはめぐお姉ちゃんらしい。


今日は、転入前に一度めぐお姉ちゃんへ挨拶をしに行こうと思いヨハネに来ていた。

登校するのは明日から。年齢でいうと2年生になるのだが、残念ながら前高校での単位が足りなかった為に1年生としての転入になる。年下の子と授業を受けるのはなんだか複雑な気持ちだが仕方ない。それに、1歳差ぐらいならば言わなければ分からないだろうし、そんなに違いもないだろう。


「うーん、めぐお姉ちゃん何処にいるんだろう」


事前に連絡も何もしていなかった私は、絶賛迷子中だった。連絡しようにも電話番号が分からない。ここは異様に広くて、誰かに聞こうにもまだ学期が始まっていないので一部の生徒しか登校していないようだ。明日は新入生の入学式なので、その設営に関わる人や教員をちらほら見かけるが皆忙しそうにしていて声をかけられない。

めぐお姉ちゃんは生徒会に所属していると伯父さんに聞いた。だから今日も登校していると思ったのだが……


(あ、あの人……特に何もしていないみたい。聞いてみようかな)


前の方に、壁に寄りかかりながらスマートフォンを操作している人を見つけた。特に何か連絡をしている様子でもなく、スクロールの仕方から考えるとニュースアプリか何かで記事を見ているのだろう。

セミロングの黒髪に丸眼鏡、なんだか優しそうな人だ。


「あの、すみません……少しお時間よろしいでしょうか」

「……私?何か用かしら」

「彩里めぐという人を探していて……今日は登校してますかね」

「…………ああ、彩里さん。ええ、何処かにいるんじゃない?」

「…………あ、あの……何処にいますかね」

「生徒会室だと思うけど。彩里さんは副会長だから」

「……あの、よければ案内してもらえませんでしょうか」

「別にいいけど」


優しそうな印象とは裏腹に、彼女は一切笑顔を見せなかった。

操作していたスマートフォンをポケットにしまい、「こっちよ」と早足で歩き始める。


「ありがとうございます。この学園の生徒さんですよね?私は姫ゆうり、明日からここに通う一年生です。」

「なんだ、入学もしていないのに学校に来たの?……私は渡海(とかい)れん、三年よ」


こちらを見ることもなく、渡海先輩は自分が上の立場であることを強調するように、3本の指を立てた。

よろしくお願いします、そう頭を下げたがその間も渡海先輩は歩みを止めない。少し離れた距離を小走りで縮めながら、この人は私と仲良くする気がないんだと察した。

気まずい沈黙の中で、二人の足音だけが響き渡る。


「……ここを真っ直ぐ進んだ先にある、赤い扉。あそこが生徒会室よ」

「あ、ありがとうございます、渡海先輩」

「ねえ貴女、生徒会に入るつもりなの?」

「え?」


思ってもいなかった事を聞かれ、素っ頓狂な声をあげてしまう。まだ入学もしていないのに、所属する委員会を決めているはずがない。……が、めぐお姉ちゃんがいるなら。生徒会だなんて響きがかっこいいし、副会長として働くめぐお姉ちゃんを間近で見ていたい気持ちもある。


「そう、ですね。入れたらいいなって……」

「へえ。じゃあ、ひとつ忠告しておくわ」


その時、初めて目が合った。

きらりと光った眼鏡の奥で、綺麗なターコイズ色の瞳が細められる。

相変わらずピリピリとした空気が肌を焼く。


「…………『黒髪の魔女』には、気をつけなさい」



渡海先輩が口にした言葉の意味を理解したのは、全てが終わった後だった。

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