表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転任の午睡 (2)  作者: 終身名誉東方愚民
1/1

ココロの在り処

二作目です あまり展開が進んでいない・・・

完結までなんとか頑張りたいです

「天の神様の言う通り なんちゃって」

天子は、一点を見つめる。

妹紅は、少し戸惑った様子で傍観している。

手元の黒帽子を丸く軌道を描く様に転がす。

予想通り、頭の穴を下に向け軽く上下しながら止まる


「困ったわね これでは分からない」溜息をついて独り言のように言う。

私の勘違いじゃないなら嬉しいけど、多分誰も最初から全く何も分かってない。


「・・・何やってんの?」

「転がして、それに任す」

地上からすれば夢のようなゆったりとした暮らしをしている天人らしいと言えばそう言えなくもないか。

イヤ、多分こいつの感覚は割とずれている。



「…効率悪すぎない?」

「自分からついてきた癖に」誘ったのは誰だったかな


「協力はするけど子分にでもなったつもりはないっての。私だって寿命が付いて回るヤツとくっつくのは、

あんまり好きじゃない」

「あら知ってたの、私達も死ぬときゃ死ぬってこと」


「あの忌々しい薬でも飲まない限りはな。その私が言うのも説得力がないかも知れんが、いざその時になって後悔しても成すすべないぞ。何かちょっとでも手がかりはないのか?」

天子は、帽子の紅い飾りにそっと触れ 遠くを見やりながら小さく呟いた。



「…さくら」 「ん?」 「桜が綺麗なところ、かな」

博麗神社だろうか?花見に訪れるヤツも多かった。

…まぁ殆ど酒とご馳走目当ての様だったが

「それならいくつか心当たりはないのか?」

「分かってたらこんな曖昧には言わないでしょ」

それもそうか。


「とにかく、飛んで探そう」

「…私ただの天人だから飛べなーい」

「乗るか?」そういうと私はぐっと伸びをし体をほぐした

「それ本気?」天子は少し怪訝そうだ。

「自分で言うのも何だが」体が一気に焔を纏う。

「不死鳥に乗る機会なんてのも、そうないと思うぞ」



流石に上空は風が強い。押しつぶすような圧力を翼で揚力に変える。

「うわっナニコレ引くわー 炎なのに熱くない」

飄々とポーズを決めながら天子が大きすぎる独り言を呟く。

「…この炎は感情が昇華されたものだから私の精神状態に左右されるんだ。言ってなかったか?」

ちなみに今の台詞は竹林にお住まいのお馴染みの相手の分析の受け売りだ。

「随分と無茶苦茶な力なのね」


正直私もなぜこれが使えるのか分からない。

ただ、月からやってきた化け物相手に不死という、

昔の私唯一のアドバンテージは取るに足らないものだった。


だからこそ永い時間をかけ私の中からその為に生まれてきたものである事は少なくとも疑いようがない。


旋回する。勿論、背中の客人を万一でも落とさない為だ。「ねぇ不死鳥さん」「何だい?」


炎の長い尾が風に煽られ、いつも以上にたなびく。

「私最初から思ってること、言っていい?」「…どうぞ」


「桜…見える?」

今は6月。桃色の花は、何処を探しても見えなかった

「そうだな」「何も考えずに飛んだの?」

「…そうだな」背中に乗ってるヤツが俄かに震えだす


「ッーーあっはっはっはっは!それじゃあ私の帽子占いとぜっんぜん変わんないじゃない!この不死鳥(笑)も只の鴉だったりするんじゃない?」

「おい」「アホーー アホーー って熱っ!?滅茶苦茶アツゥ!?」「機嫌損ねたからな、感情の炎じゃしょうがない」「アンタじつは小物でしょ!?」


背中のうるさいのを無視し下を食い入る様に見つめると小さく洋館が見えてきた。記憶ではあそこには吸血鬼の姉妹の他、魔女も住んでいた。

種族からのれっきとした魔女で、寿命を伸ばす方法にも心得があると言う。この人妖も殆ど残っていない荒廃しきった幻想郷でもあるいは?


「あそこの廃館に昔魔女が居た。ひょっとすると今も生きていて力を貸してくれるかも知れないかも知れない。」」「西洋のお屋敷ね」目を輝かせて天子がつぶやく。

「…その前に寄らなきゃいけない場所がある」


私たちが降りたったのはかつて『魔法の森』と呼ばれていた処だ。かつてより木々は深くなっているし薄暗いが、境界が力を失ったからか、瘴気は今はそれ程でもない。


「入ったはいいけどさぁ、何処に家なんてあるのよ」「私にも正直分からん」「…鳥頭」

「・・・今度はちゃんとアテがあるんだ、信じてついてきてくれ」「本当かしらねぇ」そう言うと天子は手に掴んでいる人形を弄ぶ。


……ん?


「天子その人形」「私の周りをぶんぶんうるさかったから捕まえてやったわ 付喪神かしら?」

「バカ‼︎そりゃアリスの案内だ!すぐ離せ!」

「やっぱりぃ?」


人形の導きで鬱蒼とした森の中のこじんまりとした落ち着いたデザインの瀟洒な家にたどり着く。

もう中の住人も気付いていると思うが、一応ノックする。


「アリス、妹紅だ。 少し頼みが有り来た」

すぐにドアが開かれ、家の雰囲気に似合って洗練された服装の魔女が姿を表す。


「久しぶりね。どうぞ入って 。そちらの方は…あのときの天人さんね。私の人形に悪戯したのは貴方?」

小さくくすくすと笑う。


「…可哀想なことをしたわね 謝るわ。」

「別に責めたりしてないわよ そう強くあたってないみたいだったし」そう言いながら彼女はドアを広めに開き、入るように促した


木のあたたかみを基調として全面に出した、自然とリラックスできてしまうようなきちんと片付いた室内でレコードが控えめに音楽を奏でていた。レコードのある机の上には裁縫道具が広がっていた。。


「…それで頼みって何かしら??」「パチュリーのとこに紹介を頼みたいんだ」「私の紹介が無くても話くらいは聞いてくれるんじゃない?」「でも基本的に本を読むこと以外全部面倒くさがるだろ?」


「それもそうね」そう微笑むと机の筆記用具を取る。


「私が書いてる間、お茶でも飲んでて」そう言うとアリスは奥の部屋に消えていった。

「だそうよ 妹紅アンタも食ったら? 結構美味いわよ」まぁ予想通りだが天子が既にお茶をすすりながらテーブルの上の菓子に手を伸ばしていた


「もう食ってるのか」

「主人は食い物でもてなし、客はそれを自由に食える そんな人生の基本もふぁからんぬぉか?(※分からんのか)」

正論だけど、段取りってモンがあるだろ。 あと食いながら喋るな。


「…私達以外にもこう言う風にまだここで生きてるのってどれくらい居るのかしら」

「さあな」負けじと食欲をそそるような香りのする焼き菓子を頂く

「まぁ、そう多くはないだろうさ。」「…そうよね」


頃合いを見計らってアリスがやってきた。

「…できたわよ。手紙に私が書いた証拠として簡単な術式もかけておいたわ 。ちょっとしたお土産も添えておいたから機嫌よく聞いてくれるとは思うけど…」

流石に気がきく。


「何から何まで本当にありがとう。助かったよ。」

「あの・・・お礼って訳じゃないんだけど少し頼みがあって・・・」

彼女から頼みとは珍しい。なんだろうか?

「えぇっと…できればでいいんだけれど魔理沙のとこを尋ねて欲しくて。」

「…別にイヤって訳ではないが… 何か伝言か?」


ああ、それね 。 少し照れ臭そうにアリスが答える

「ほら…幻想郷がこんなだからあの子のところを訪れるのなんてもう私くらいしか居ないのよ。多分寂しがってる。貴方達が行ってくれたら、きっと あの子喜ぶわ。」

「…そうか。本当に優しいんだな。どこかのつまみ食い天人に見習わせたいよ。」背後から飛んできた本を避ける。


「このくらい友人として当然よ。」そう笑うとかぶりを振る。「不思議なもので、長い付き合いだし、なんとなくそういう気持ちとかも分かっちゃうのよね。」


人形の先導で暗い森を進む。既に日は傾き始め、時折現れる木々の間から橙色の光が差し込んでくる。

「洋館 こっちだっけぇ?」「…寄る場所がもう一つ増えた。」「効率悪くなぁい?」

先程の台詞をそのままに返される。「…すまん。」


それは突如現れた。昔何処かで聞いた御伽話の中から飛び出てきたような 呪われた森に建つ、そびえるような縦に長いシルエットの洋風の建造物。


視認できる範囲内に入ると、人形が離れていく。この訪問が自分の口裏合わせと悟らせない為か。使い魔なのだろうか、無数の蝙蝠が警戒の音を発して舞い上がる。


「さっきの家と比べちゃ悪いけど、シュミわるいわね〜」怖れげもなく天子が大きすぎる独り言を。


「趣味が悪い?そりゃあ悪かったな だがそれで結構 褒め言葉だ」私が何か言い返す前に、私達2人の間にいつのまにか密集した蝙蝠の中から何者かがまくし立てる。「よっ。」生命を持った黒い霧が晴れると、

黒幕を倒し数々の異変を解決してきた英雄が、昔と変わらない姿で顔を表す。「お茶 出すぜ」


案内された部屋はかなり散らかっていたものの、足の踏み場がないと言う程ではなかった。何やら部屋の隅の魔道具が音と共に妙な色の蒸気を吐き出し、落ち着かない。


「何か用か?あっと驚くような大花火の魔法からどんな魅力的な異性だって振り向かせられる恋の魔法まで、なんでもござれだ!まぁ…境界が無くなってからマジックアイテムが減ったんで値は張るが」

「いや…別にこれと言って用は無いんだが久し振りに顔が見たくなったんだ。」


「おっそいつは嬉しい 何なら泊まってけ!寿命の長い天人 蓬莱人と言えど見たこともないもんを食わせてやる。」そう言い残して奥へ消えてったのを見計らって大急ぎで今にも異論を爆発させそうな天人の口を抑える。


(…えっ何この流れ?)(きっと寂しがってるだろうってことでアリスが私に頼んできたんだ)

(私の頼みは?私の家来になったんじゃなかったの?)

(二度目だがお前の家来になった覚えはない!給金ナシ 1日24時間労働の超ブラックボランティアだ!)

(…そうだけど)


もっと反論が来ると思ったが意外にもアッサリ折れた。私を連れ出したことに多少のためらいは有ったようだ。何度目かに垣間見えた良心には悪いが、言葉を続ける。


(と言うわけでお前の出来ることは二つ!)

慰めるように天子の頭に軽く手を置く。

(薄暗い森を散歩するか、有り難く歓待を受けるか、だ!)言いたいことだけ言うと、手伝いの為か魔理沙と同じ部屋に消えていった。


気味の悪い迷いの森を一人で歩くのはまっぴらだし、悔しいが後者を選ぶしかない。手伝いをするにしても余計に邪魔になりそうなので、客間の一つで夕食まで時間をつぶすことに決めた。家の外観に似合わず快適な感触のベッドに倒れ込む。服が汚れているので水場を借りたいが、疲労には勝てない。



夢を、見た。妙に現実味を帯びた質感の、ぼうっしていると、自分の意識が流れていき溶け込んでしまいそうな夢。周囲には桜の木が乱立し、花びらが落ちていく。 遠くにも花びらが舞って。その美しい紅色と漂う様子が、不思議と懐かしい人を思わせた。

「い………」思わず声が漏れる。同時に、足が出る。


朦朧とした頭で彷徨っていると、目の前に大きく華美な家屋が見えてきた。一箇所だけ空いた襖の切れ目の間に、

人が座って桜を眺めていた。いや、こんな奇妙な場所に居るのでは、人間かどうかも怪しいところだ。


「あらぁ、久しぶりねぇ〜 いらっしゃあ〜い」


妙に間延びした声と、おっとりとした笑顔だ。薄い青に桜の花びらを基調としたデザインの和服に身を包み、両手に何やら剣のようなものをかかえている。この姿には見覚えがあった。死を司る亡霊、西行寺幽々子。とすれば、此処は冥界ということになる。


「私…死んだのかしら? 随分と急だったわね」

あら、意外と落ち着いてるのね そう返しながら剣を横に置き、扇に持ち帰る。


「生きてるわ。まぁどの道いつかは死ぬんだけど… 今はまだ…ね。恐らくは貴方の今の魂と心の在り方のせいで、迷い込んだんだと思うわ。」「・・・」

「でも貴方なら今頃『くせものっ!』とか言いながら斬りかかって今すぐに亡き者に変えてたんでしょうねぇ。ねぇ、妖夢。」お世辞にも似ているとは言えない声真似を披露しながら、傍の剣に話しかける。


そういえば、こいつには白髪のいつも殺気立っていた庭師が居た。彼女も、恐らくはもうこの世には居ないのだろう。


朦朧として回らない頭で必死で考え、声を絞り出す。

「貴方、散ってしまった桜を咲かせる方法ご存知?」

「あら、何故私にそれを聞くのかしらぁ?」

「昔私が異変を起こす前に大きな桜を咲かせようとしたんだろう?」


よくご存知ね、と微笑む。心なしか笑顔に不穏なものが走った気がした。

「そう、こう春度をね、ちょいちょいっと」

「はぁ」掴み所のない説明が、働かない頭を右から左に通り抜ける。

「…分かりやすく言うとね、今のアナタに助力する気は ないってコト」

「ない」もっと気の利いた返事があろうものだが、仕方がない。


「今のアナタとても歪よ。誰かさんに近付こうとして、 それでいて怖がっている。しかも心の底で答えは分かりきっているはずなのに、それに目を向けようともしない。だから気がつけない。だから迷い続けたままで。タチが悪いわね。」


「・・・・・」

風が強くなり、地面に厚く積もった花びらが舞う

「…そろそろ行きなさいな 本当に戻れなくなるわ」


「最後に」その視線を目に入れただけでぞっと身震いのするような笑顔を正面から見据える。

「…衣玖は天国にいる?」


「…もう死んでいるか、という意味の問いなら…

ええ、間違いなく。地獄の沙汰は・・・流石に私の 知るところではないわねぇ。」

やはり。予想はしていたし、覚悟はできていた。

しかし、抗えない程の後悔と寂寞の念が私の中で確固としていた筈のそれを覆い尽くした。顔を、上げることができない。


「でも貴方なら知っているでしょう。あの子が地獄に落ちることなんて、世界中の白と黒が入れ替わりでもしない限り、まず有り得ないわ。」慰めのつもりか、言葉が続く。

それでも、もうこの世では彼女と話をする事すらできないという事実は、何ら変わりようがない。


「有難う、それを聞いて少し心が楽になった。もうここに未練はないよ。」

「あらあら、あの子が最後に自分に何か言ってたか とかくらい聞いて行ったら?」

意味はないさ、と呟く。只の幽々子への返答の様な気もするし、自分自身に言い聞かせているような気もする。


「実を言うと、あいつと私の関係は地上の奴らが思ってる程深くはないんだ。私に対する伝言なんて、有るわけないよ。」それも大きな理由ではあったが、彼女との関係の幕切れは、あまりにも惨たるものだった。

…私は、彼女自身の口からそれを聞くことをこの上なく強く望んでいた、しかしそれ以上に怖かったのだ。


それは残念ねぇ、そう口にしながら幽々子が扇を優雅な動作で振る。

「いきなさい、天界の娘。そして自らを見直し、在り方を今一度考え直しなさいな。これだけは覚えておきなさい、答えは、そこに有るわ。 」







目覚める。目に涙が溜まっていた。朦朧としていた頭が急にはっきりしだす。全て夢だったのだろうか。

「天子〜飯できたぞ〜」今となっては随分聞き慣れた声が届く。


「そんなに声を張り上げなくても、聞こえてるわよ。」応答し、部屋から出るべくベッドから降りる。夢かどうかは、まぁ次に会ったときにでも確かめればいい。そう納得しておくことにした。


予告通り、見たことも無いような食べ物が並んでいた。境界が崩れ去った今日この頃何処で見つけてきたかも分からない珍品の数々。鰻だろうか、ぶつ切りにされ何やら固まった水の様なものに押し込められたもの。蝙蝠のスープ。(使い魔の世界もシビアなようだ)

よく分からない生き物が黒く丸焼きになったもの。


「…これは?」まともそうな山菜らしきものの山を指差して尋ねる。「・・・毒人参の、サラダだそうだ」

調理に関わった妹紅は、更にげっそりとしている。


「珍味ね」「珍味だな」

「頂きますだぜ!」反応からして察せないのか、まるで大好物が目の前に並んでいるのかの様な調子で魔法使いが声をあげる。…実際そうなのかも知れない。


「こっちにはどうして来たんだ?」魔理沙が鰻(?)のぶつ切りを口に運びながら問う。「それはさっきも

言っただろう、お前に会いに来たんだ。」妹紅は、

化け物でも見るかの様な顔でカエルの黒焼きに挑戦しようとしている。

「当ててやろうか?アリスの差し金だろ。私が暇してる、とか言って。」


少し不満気に魔理沙が毒人参のサラダを一掴みよせる。

「何故分かったんだ・・・っていうか旨いなこれ」

両方に感心した様子で妹紅が口を開く。

「実はこいつが綺麗な桜の咲く場所を探しているんだと。もう6月にもなるのに。 なぁ天子」 「・・・・」

返事は、ない。


仕切り直すように魔理沙が口を開く。

「まぁ、アイツとも長い腐れ縁だしな。考えてることとか何となく分かっちまうんだ。」

「成る程なぁ。アリスもお前に似たようなこと言ってたぞ。」妹紅も倣って毒人参に手を伸ばす。


すると魔理沙は意表をつかれた様子で、

「だっ、誰にでもそういうくらいあるだろっ!?お前もそういう相手の1人か2人居るだろっ!」急に慌てだした。妙に顔が赤い。


「…そうだな」妹紅の顔色が沈む。まずい、とも思ったが、「長く一緒に居るとさ、不思議と心が通じ合うというか、分かっちまうもんだよなぁ。予想する、

とはまた違うんだろうけど」

昔を懐かしむような、

優し気な今までに見せなかった様な表情になる。


口に出せる相手が現れて、逆に彼女とって楽になれたのかもしれない。そうそう、そうだよなぁ。魔理沙が満面の笑みで頷く。「霊夢ともだぜ、他にも博麗の巫女に協力したことは数多かったけども、やっぱアイツは特別だったよ。」


やはりか。スペルカードルール創設初めての巫女、

博麗霊夢。彼女は魔理沙にとって初の協力相手であり、ライバルでもあり、色々と苦労が多かった、と聞く人間時代の魔理沙を支えた、よき親友でもあった。

そんな距離の近かった親友ともあれば、ある種の特別な心の繋がりが生まれるのは当然だろう。


「…お前は食わないのか?」はっとして他ならぬ自分に対して問われていることに気がついた。食べ物の見た目は確かに食欲をそそるようなものではなかったが

一つどうしても気になる、今回の旅で解決しておかないといけないことが有った。



「どうしたら、心は通じ合うのかしら」



「…そうだなァ」妹紅も、魔理沙も直ぐには出せない答えの様であった。

「・・・先ずはそいつのことを知りたいと思うことだ そう私は思う」先に妹紅が口を開いた。

「あとは…とにかく沢山喋って、ふざけあって、喧嘩して、一緒に酒でも飲むことだな!」魔理沙が続ける


ずきん、と胸が痛んだ


「・・・もう一言も話せない相手だったら?」「え?」

「もう笑い合うことも、本当の気持ちをぶつけることも、同じ酒で酔うこともなかったら?」

「・・・・」三人は、同じく永い時を生きたが故に

天子の言わんとしていることは直ぐに察せられた。

「もしあの人もうと会えずに

今何も見えなくても、もう何も見えなくても、」




「同じ景色を共有できれば、あの人の気持ちは、

私にも分かるのかしら?」



まるで夢の中の独り言の様に、しっかりとした意思を伴うことを感じさせない無い言葉だった。しかしそれは先程までの明るい会話の気質を一変させる程重く、部屋に響いた。



ああ、そうか とほぼ同じくして妹紅と魔理沙は察した。



こいつは、亡くした友の心を拾いに、地上まで降りて来たんだ。

未だ咲くことの無い桜を求めて。


2人にとってその場所が意味するものまでは察せられる事ではなかったが。一つはっきりとしていることは有った。


「…お前の求める答えを語り得るものが無いとしても」

いつもの明るい調子ではなく真摯に、魔理沙が口を開く。

「それを見つけることは、できる。」

「それって…」




「お前だよ」魔理沙は、ただ真っ直ぐ私を見つめた。

「私……?」


「結局皆んな他のヤツと関わって生きてんだよ。」

妹紅は顔を下向けたままだったが、その言葉は穏やかに私を包み込むようだった。


「別アイツもお前の家来じゃあなかった。最初は成り行きだっただろうが、自分から進んでお前のことに首を突っ込んでいるフシもあったし。博麗神社に2人で能楽を観に来てたこともあったろ?それってつまり、

お前が大切だったんだよ。」

「・・・・」 魔理沙が更に言の葉を紡ぐ。


「嫌いなヤツとくっつきたがるヤツなんて居ない。

付き合っているヤツのことが分かれば、自ずとそいつ自身の内面も見えてくる。あいつが何を望み、何を喜んでいたかは、きっとお前自身がよく知っているさ。今はまだ分からなくてもな。」

そう、なのだろうか。


「でもそれも一筋縄じゃあいかない。自分の心の中とは言っても、只のものを探すみたいに、『はい見つけた』って訳にはなかなかいかないからな。その為には

自分を見直し、在り方を考えるんだ。」

同じような言葉をどこかで聞いたようであったが、頭にもやがかかったように、思い出せない。


「お前さんの仕事は、多分考え抜くことなんだ。」

妹紅が私の肩に手を置く。

「思い出の場所なのか何なのかは分からんが、手を貸そう。何ならそっちは私に任せっきりでもいい。」



魔理沙は私に道を示してくれた。

妹紅は私の気まぐれとはいえ力を貸してくれた。

全てではないが、胸の重みが、少し軽くなった。


「バカ言うんじゃ無いわよ。アンタに任せっきりじゃ10世紀たっても見つかる気はしないわ。私からの頼みだし、どっちも頑張れるわ。」

「そいつは悪かったな」口調とは裏腹に、天子の顔の

曇りが少し晴れたのを見てとった妹紅の表情は、晴れ晴れとしていた。

「言われちまったな。」そんな2人を、魔理沙は満足気に見つめていた。


「そういえばすっかり忘れてたわ、その変な焼き鳥みたいなの寄越しなさい。」

「ああ、トカゲの香草蒸しか?これがなかなかジューシーで美味いぞ」



夜が明けた。暗い森に、わずか光が差してくる。

鳥たちのさえずりが遠くから聞こえていた。

「綺麗に洗濯しといたぞ。」

「ああ、何から何まで済まない。」「久しぶりの客っだったからな〜」嬉し気に魔理沙は答える。


筋書き通りの訪問でもやはり楽しかったのか、あるいは結局アリスの思った通りで、自分のことを分かってくれていたのだと感謝しているのか。おそらくはその両方だった。


「パチュリーに会いに行くんなら気をつけろよ、高価そうな箱みたいなのが隅にあったんで盗 …借りていこうとしたら凄い勢いで殺そうとしてきたからそれには触るなよ。」

「そんなことをするのはお前ぐらいだよ・・・」


少し遅れて天子が出てきた。これまでにないくらい晴れ晴れとした顔をしていた。「見た目に似合わず、結構なもてなしだったわ。…ありがとね。」

「ああ」こんな顔もするのか。というか私にだって感謝の言葉くらいあってもいいだろうに。



「あとは…その、なんだ…また 来てくれるよな?」

たいぶ照れ臭そうに魔理沙が口を開く。

「それは…」「ああ!もちろんだ!」快く返事をする

それを見て魔理沙は少しはにかんだ様子で、笑った。


「じゃあな〜 道中気をつけろよ」見送りを受けながら風に身を任す。時折雲の切れ目から顔を見せるまだ低い陽光が眩しかった。


「…寄り道も無駄じゃあなかっただろ?」「ええ」

朝の淡い陽光に照らされ、眩しく輝く湖面のすぐ近くに、紅い館が見えてきた。








今回のお話は長い付き合いおける絆がテーマでした

幻想郷が滅んでからもかなりの時間が経っているのでなかなか出したいキャラを登場させるのは難しいですね… (地霊殿とかどうしよう)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ