勇者の執事は今日も一仕事する
「おお、成功だ!」
なんていうテンプレのような勇者召喚によって連れてこられたのは、俺と幼馴染の二人。
何でも魔王討伐のために異界から勇者を呼び出したとのこと。
さて、ここで問題です。俺の立場はどういったものでしょうか?
はい、そこのラノベやネット小説読みまくってテンプレに飽きてきてる深謀遠慮(笑)な貴方、正解です。
俺は所謂『巻き込まれた者』でした。
この後の展開も分かり切ってるでしょう?そうその通り!勇者である俺の男幼馴染、総一郎は光魔法だの聖剣召喚だのでもう万々歳。
聖女と呼ばれた女幼馴染、桜は同じく光魔法だの特級回復魔法だのでもうそれは拍手喝采。
で、俺よ俺。ドラ〇エ見たいに賢者的な魔法使いを予想している人が大多数。幼馴染ズも中々期待してくれていたけど、あいにくこの物語はそういうパターンを逸脱していた。ある意味役立たずテンプレみたいな感じ?
「わずかに闇魔法と空間魔法の適正があるが、それ以外は何の才能もない一般人ですな」
なんて、水晶に触らせて適正診断していたお爺ちゃんは何の感慨もなく事実だけを淡々と告げた。
別に闇魔法だからって忌避されているなんて言うこともないけど、だからと言って役に立つかと言われるとそうでもないし、空間魔法も数は少ないけど俺の適正じゃ精々小さなアイテムボックスを創れるくらいで空間断裂斬とかも出来ない。
皆して『役に立てることがあって良かった・・・ね?』みたいな目をしてきた。
兼ねてよりまごうことなき一般人としてふるまってきた(実際そうだった)俺としては、知ってたけど少しくらい期待してもいいじゃない!って感じで一筋の涙が。
まあ、幸いにして使えん奴はいらん的な王様じゃなかったから、戦いを望まないならここで保護するとのことで、俺としては俺TUEEが出来ないのに危険な目にあいたくないし、それでも少しずつでいいから幼馴染ズの役に立ちたくて訓練とか身の回りの世話とかの部分で頑張らせてもらった。
かくかくしかじか。で、数年後。
「じゃあ、行ってくる」
「留守番お願いね」
「行ってらっしゃいませ」
他人行儀な言葉で勇者と聖女を見送って、俺は総一郎が王から貰った屋敷に戻って掃除開始。
そう、今の俺は執事。一時期はあいつらとは離れて暮らそうかと思ったけど
『万が一にもお前を人質に取られでもしたらまずい』
ということで、あいつらが本格的に活動し始めてからは執事として出来るだけ近くにいて守ってもらえるよう、そして外では雇用以外の契約がない他人としてふるまうようになった。
俺が最初『ご主人様』なんて言ったときは皆して噴き出しやがったけど。
改めて現状確認。総一郎と桜はめでたく結婚しました。
え?そうじゃない?略奪愛?勇者が基地外で桜はお前が救うヒロインだろって?
いやいやまさか。一般人である俺と頭脳明晰成績優秀運動神経抜群の上イケメンで優しい総一郎、どっちがいいって言ったらそりゃあ、ね?優しいだけで堕ちるヒロインとか俺も勘弁ですしおすし。そんなわけで二人は結婚、俺は二人を盛大に祝福しましたとも。
結婚したから手だし出来なくなった勇者の代わりにということで俺のほうにも無駄に縁談が舞い込んできたけども。貴族って怖いね、権力のためならあんなことやこんなことまでしてくるなんて思わなかった。俺は俺で無駄にこだわりがあるから全部断ったけど。
そんなわけで勇者不在の数日後、今日も今日とて屋敷をピカピカにしようとやたらと上がっている女子力を発揮しようとしたら、お客人が尋ねてきた。
「勇者の『影』である君にしか頼めないことが出来てな」
なんてのたまうお方はこの国の王女、セレスティーナ氏である。長いからティーナと呼ぶことを特別に許されている。
「何度も言いますけど俺は一般人ですよ?」
さしたる実力もない俺に何を頼むというのか。
実際俺はここ数年頑張ったけど結局空間魔法の初級である空間収納と、闇魔法の初級である影繰りくらいしか出来てない。空間収納はそのままアイテムボックス、影繰りは影を操って武器を振らせたり出来る魔法。一応相手の首を絞めたりできるけど、内在する魔力で抵抗出来るからあまり強くない。 あぁ、一応あれもあるけど、正直出来たところでってぃう感じのしかない。
「相変わらず自己評価の低いことだ」
この王女様、何かと俺を持ち上げるが、別に俺に惚れているということはない。何故なら婚約者の公爵家の跡取りとラブラブだから。それはもうこの国の住民で知らない奴がいたらモグリと断定できるほどに。割と頻繁に顔を出すから勘違いしたこともあるけど、所詮俺は只の商売相手だったのだ。泣いてないし。
「それで、頼みとは?」
「この資料にある奴隷商人だが、魔族に肩入れして獣人などの戦闘奴隷をあちらに流しているという情報が出ている」
「つまり…」
「そうだ、潜入してそれが事実であれば、こやつを殺してほしい」
またですかと、そういいたい。仕事だから別に割り切ってやってるけど、暗殺なんていうことまで始めたのは1年ほど前から。俺があの魔法を開発したことを知った王様が、やってくれないかと頭を下げる勢いで俺に依頼してきたことが発端だ。
俺だってそれまでに訓練してある程度の技量はあるし、何度か外に出て勇者ご一行と共に魔物を退治してる時に出た盗賊を殺害した経験はある。それでも、積極的に人を殺すのは嫌だと言ったんだが・・・
『この者はこの国の貴族だが、これまでも領民に重税を強いたり気に入った者を無理矢理娶っていたようだ。だが国に貢献している以上、私も手が出しづらかったが、今回は話が違う。サクラを手に入れようと画策しているという』
『殺りましょう』
詳しくはよく覚えてないが、国が手を出せない以上暗殺するしか方法がないということだった。しかしあまりに悪行が過ぎるため、誅殺の対象となってしまった豚さんだったのだ。
俺だって幼馴染には相当の思い入れがある。その頃には二人共ラブラブオーラ全開だったし、俺も応援していた。それを壊そうとする奴がいるなら、もう躊躇う必要はなかった。その日の夜にはそいつの屋敷に潜り込んで、事実を確認した後スパっとやった。
閑話休題。
「分かりました、報酬は?」
「あの魔道具が手に入った。それを譲ろう」
「殺りましょう」
「待て待て、一応事実は確認しなさいよ。もし違っていれば、報告してくれればいいから」
「一応聞きますけど、俺がサボって適当にでっちあげる可能性は考えないんですかね?」
「聞くところによるとサクラを攫って売っぱらおうとしているらしいぞ」
「殺りましょう」
「待て待て!」
桜は美人だし、頭もいいんだけど、何か抜けてるところがあるからなぁ。強くなってるはずなのにそれを思わせない天然であるからして、無駄に狙われやすい。だからこそ、狙われる前に狙うのだが。
でも最近、こいつら王族はサクラを出汁にして俺を動かそうとしている節がないかな?と思わんでもない。
(えー、こちら実働部隊、ターゲットの屋敷に潜入成功した。オーバー。)
なんて小声で言っても誰も返答してくれない。一刻も早く音声通信が出来るように世界を変えなければ、某金属で歯車な固体さんごっこが出来ない。
ふざけているのも何なので”影潜み”で屋敷を探る。影潜みとは俺が創った魔法で、闇魔法の影繰りと空間魔法の空間収納を合成したものだ。能力はそのまま、影の中に空間を生成して、影が動けば共に移動が出来るし、屋敷が作る大きな影なら、その中を自由に移動できるものだ。
これまで闇魔法と空間魔法の同時発現が無かった上、合成魔法というのは基本的に『2人がそれぞれ別の魔法を使うことで可能になるもの』という考えが蔓延していたために、俺のような魔法合成を試みなかったし、合成魔法というのは火+風で炎の嵐、みたいな感じで攻撃魔法しか開発してなかったから、補助の役割が強い影潜みなんかは考えもしなかったそうだ。今ではこの国の魔法研究家はこぞって単独の合成魔法を試みてているが、今のところ開発に成功したということは聞かない。
そんなこんなで、俺の得意武器が短刀ということも合わさった結果、
『お前暗殺者にでもなんの?』
という勇者な総一郎君のうかつな発言により、俺は本当に暗殺者になってしまった。今のところは政治と関係ない、むしろ魔族関係のみということで契約はされているが、この先はどうなることか分からない。流石に魔王軍幹部の暗殺、なんて依頼されても俺じゃ無理だし。因みに幼馴染ズは俺がまさか本当に暗殺やってるということを知らない。
閑話休題。
さてさて、重要な資料は大抵寝室か執務室の鍵が掛かった金庫に入ってるということで、そこら辺を探ると出るわ出るわ、魔王軍との関連資料。他にも無理矢理捕縛して奴隷にした違法奴隷やら、一緒に入っていた日記のような物には奴隷でうっぷんを晴らしていることやら。因みにこの世界、というか国では犯罪奴隷以外の奴隷は大切にしましょうね的なあれです。いいことですね。
さて、俺を見ているそこの神様たちもそろそろクズな奴隷商人は殺してもいいという声が聞こえてきたところで行動に移しましょう。…え?何?俺の表現力が乏しすぎて感情移入出来ない?すまない。取り合えず可愛い動物の耳と尻尾が生えたおにゃの子が性的に虐待されている様を思い浮かべてください。ね?イライラするでしょう?
さて、夜の帳が下りて皆さん就寝している時間ですから、このあくどい奴隷商人をスパっとやっておしまいにしましょう。切った張ったの大乱闘はいりません。
ガタッ
…いらないんだけどなぁ。
振り返るとそこには何故か起きている奴隷商人。こちらの手にした資料を見て驚いてる模様。
「な、何者だ!そこで何をしている!」
「見りゃわかんでしょう、あんたの不正と魔族との癒着の証拠集めですよ」
律儀に返答する俺。奴隷商人だけなら良かったのに、なんか後ろに強そうな人がいるから奇襲も出来ない。困った。
「それを見てタダで済むと思うなよ!おい、奴を殺せ!」
なんとも陳腐な台詞。
「…なんとも陳腐な台詞」
おや、後ろにいる魔族と思われる関係者さんとは仲良くなれそうだ。
「まぁ、見られたからには仕方ありません。人間、悪く思わないでくださいね」
「あー…まぁそうなるよなぁ」
接近してくる魔族に対して、机を蹴り飛ばす。
「むっ!?」
少しだけ驚いたようだが、机はあっけなくワンパンで粉砕される。真正面から戦ってもはなから勝てるなんて思わんから、視界をふさいだ隙を利用して影に潜る。都合よく机の影と魔族の影が接触していたので、そのまま奴の下を取る。
「どこへ行った…?」
探知が得意な奴だと影に魔力が残ってることを認識して見つけられたりすることもあるが、どうやらこいつは探知は苦手らしい。きょろきょろしながら物陰に隠れたと思っている俺を探している。
物を壊しながら俺を探している間に、影繰りで魔族の死角から徐々に首の方へと影を誘導していく。服の中を移動する影は見つかりづらく、実にやりやすい。奴隷商人は入口辺りでニヤニヤしているようだが気が付いてない。こいつら馬鹿だな、魔族の力を過信しているのか知らないが慢心している。
「どこだぁ!」
イライラしてきた魔族の顔の真横に影が到達した。
「むっ!影繰りか…首を絞めるつもりだろうか、こんなもの効きはしないぞ!」
魔族から魔力が放出されるが、別に首を絞めるつもりでないので少しくらい押されたって問題ない。
腕一本影から出せればいいのだから。
スパっと気持ちいいほど、簡単に魔族の首が飛ぶ。
「なっ…!?」
奴隷商人には突然魔族の首が飛んだように見えたのだろう、唖然としており逃げることはしていない。
影から出て、動かない奴隷商人へと近づく。
「…っ!わ、分かった、金なら出す!いかほどで依頼された?その倍は出してやる!」
暗殺者は大抵金で雇われているからこその発言。
「あのなぁ、魔族との関与について調べていたんだから、金がどうこうじゃないって分からない?」
だが、俺は金なんかに興味はない。
「そ、そんな…!頼む、助けてくれぇ…!死にたくない…!」
「じゃ、来世では真っ当な道を歩むんだな」
彼奴の首を跳ねる。勇者の仲間だからって渡された特性の金属で出来た短剣は、驚くほどに切れ味がいい。
魔族と関わった証拠を残すわけにはいかない為、空間収納に魔族の死体を回収した後、屋敷から去った。
「相変わらず仕事が速いな」
戻ってきた勇者の屋敷で、王女と向かい合っている。
「それくらいしか能がないので」
職人気質でいつも時間にせかされている日本人精神は、場違いな力の発揮をしていた。
「そうか、ではこれが今回の報酬だ。受け取ってくれ」
「おぉ・・・!これが・・・!」
報酬である魔道具を見る。これさえあれば…ふふふ。
「では、私は帰る。また頼むぞ」
「出来れば一般人を巻き込むことはしないで欲しいんですがねぇ」
「君がそんなことをするとは思わん」
「俺のことですよ!」
そうして今回の仕事は幕を閉じた。
「「ただいまー!」」
「お帰りなさいませ」
総一郎と桜が帰ってきた。今回も無事だったようだ。
「それで、今回はどんな相手だったんだ?」
屋敷の中に入ると、敬語はやめる。いつものように、総一郎の武勇伝尋ねる。
「それよりもご飯!遠征中の簡易食糧はほんと勘弁してほしいな…」
「あー分かる。ねーこれからはお弁当作ってよー」
「弁当作っても1日分しかないだろ。まぁまってろ、実は最近いい物を手に入れてな。料理の幅が広がったんだ」
「え!マジ?更に美味くなるとか、もうこの屋敷から離れたくなくなるんですけど」
「ははは、執事冥利に尽きるな」
そういって新作の料理を提供する。総一郎と桜は俺の料理に舌鼓を打ってくれる。それが楽しくて、また俺の家事スキルが上がっていく。
こんな日常。報酬のミキサーは、台所で輝いていた。
お読みいただきありがとうございました。
続きが読みたい!こんな物語にしてほしい!等
ご意見ご感想お待ちしております。
評判が良ければ無い知恵絞りだして続編を書いてみたいと思います。