進軍
攻めるのは次話で。そう思ったら、短くなった。
なんだろう。なんか、嫌な予感がする。右、右?なんだろう。何か、来る。
「全員伏せろ!」
矢?大隊長の頭に…。銃撃も。士官が殺られてく。まあ、服違うし、目立つしな。しかも、殺られるとかなり痛い。
「離脱する!全員ついてこい!」
僕が面倒をみるのは、部下とシュメルだけ。他は邪魔だからついてこんでいい。
茂みの中に隠れる。混乱の中だ。敵からは見えていまい。立て直す。
まとめる。敵の遊撃を受けた。本隊とはぐれた。小隊内に行方不明者が出た。ゲリラ嫌い。
とりあえず、居る奴だけでも集まってる訳だが。
でも、どれくらい損害が出たんだろう。うーん、頭が殺られたのは痛かったな。それ以外の奴も、はぐれて安否不明だし。
現在、ここに居る士官は、僕、シュメル、あと中隊長補佐。上を優先してたね、奴ら。半数は死んでるだろう。後は、一般兵が各個撃破されるかな。下士官が少しは頑張るか?だが、混乱の中で、どれ程の兵が命令を聞くか…。
指揮は中隊長補佐に。一応、階級は一番上だし。で、その補佐は自動的に僕に。実質的にシュメルだけど。
集まったのは20人ほど。こっちがゲリラになったみたい。
「大尉、どうするのですか。撤退ですか、続行ですか。」
無理に突撃するべきではないし、撤退は有りだ。でも、このまま攻めることも可能。その場合、戦術が大事になるね。数がいれば、多少は誤魔化せるが、少数であればあるほど、実力差があればあるほど、戦術は大事になっていく。ゲームをやって学んだ。だが、現実でも同じだろう。
「…このまま帰れば恥さらしだ。作戦続行。」
「わかりました。作戦続行。友軍はどうします?」
「無視だ。合流しようとして、再び奇襲を受けてはな。」
まあ、あんまり動き回るのは危険だな。うん、いいと思う。
「わかりました。では、どこから攻めます?」
「道はゲリラが塞いでいるだろう。このまま森を進む。詳しい戦術は、敵を確認してからだ。」
「訓練を受けているとはいえ、慣れないものには酷な道です。それでも行きますか?」
「ああ、行くしかないだろう。」
うん、安心した。わかっていてやるなら別にいい。
「では、出発ですか。」
「ああ。準備しろ。これから暫く、休みなしだぞ。」
「それはいいですね。ええ、それはいい。」
休みなし、ね。まあ、そうは言いつつあるのだろう。
え、ああ、着いたんだ…。ほんとに休みなしだった。うん、流石に皆、疲弊している。休みあり、だよね?
「軽度ではありますが、数人、けが人も出ましたし、このままではろくに動けないでしょう。いい加減休ませては?」
「今日はここまでか。よし、休むぞ。」
皆一斉に倒れこんだが、大丈夫か?またも出遅れた…、いや、なんでもない。士官は立派にしてないと。
「気を抜くな。周囲に敵がいる可能性は極めて大。今奇襲を受けたらどうする。」
「しかし小隊長、流石に疲れました。」
「情けない。まあいい。攻め時までしっかり休め。警戒は僕がしよう。シュメル、大丈夫?」
「シャロン、私も?」
「今は僕が上官。上官の命令に背くの?」
職権濫用なんて言葉、この国には、少なくとも西方軍にはない。
「えー…。」
「行くよ。」
無理矢理引っ張る。ひとまず、二人きりになりたい。疲れたもん。
シュメルちゃん…。ああ、安心感。
「これなら、初めから言ってくれれば良かったのに。」
「皆がいる前じゃ、恥ずかしいよ。でも、警戒しなきゃだから、キスだけ。」
唇が重なり合う。暖かい。あったかい。
シュメルの舌が、入ってくる。口の中を舐め回される。うん、シュメルはちゃんとここにいる。シュメルは無事。
シュメルに押し倒される。
「ねえ、本当にダメ?」
「そりゃ、士官があんまりなまけちゃ、いけないでしょ。また今度、ね。」
音が聴こえる。左から。多分、人。
「左から人。」
「わかった。」
じっと、息を潜め、隠れる。声が聴こえてくる。
「以外と、簡単に落ちたよな。ゲリラも成功したって言ってたし。敵も暫く動けないだろ。」
「まあ、その間に準備を整えないとな。たった一人で小隊を狩るような奴が敵にはいるって噂だしな。」
小隊を狩るような奴?こないだ、まさか…。
「ああ、物陰に隠れてた衛生兵が見てたらしいな。馬車から少女が出てきたと思ったら、ライフル銃で友軍を次々と撃ち殺し、皆殺しにしたとか。」
あ、僕のことだ。
「ねえ、どうする?取っ捕まえて拷問する?」
シュメルが小さな声で聞いてくる。
「やめておこう。敵戦力は集まりきってないみたいだし、変に警戒されたくはない。」
階級が低かろうが、いつまでも戻って来なければ、敵も不審に思うだろう。そんなことで勘付かれたくない。
「シャロンって、そういうところは慎重だよね。」
「まあ、命に関わるし、責任もあるし。十二分の警戒でね。
敵は去った。情報も、僅かだが得れた。シュメル、一応報告しといて。僕が残るから。」
「苦手分野、だもんね。いいよ、対価なしで。」
「そうそう。互いのいいところを活かし合っての僕達だからね。」
それと、今回の場合、シュメルを出来るだけ安全な所に居させたい、というのもある。恥ずかしいから言えないけど。
危険であっても、シュメルの為なら…。
その後、敵に目立った動きはなかった。
作戦決行は午前4時。まだ日の出前、薄暗い頃だ。敵も、起きているのは最低限、警戒に出てる奴だけだろう。
警戒に出てる敵兵は、僕が狩る。こないだみたいに、ナイフで首をサクッと、声をあげさせずに、一撃で。
「シャロン、任せたぞ。お前がヘマすれば、全員の命に関わる。お前に全員の命を預けてある。失敗は許されないぞ。」
「わかってます。本来ならば、僕がしゃしゃりでるべきでは有りませぬが、任された以上、完璧にこなしてみせましょう。」
「うむ、よい。全員の命、預けた。行ってこい。」
「では、これで。あ、指揮官、ヘマしないでくださいよ?」
「任せておけ!」
安心安心。自分のすべきことに集中できる。本来ならば、シュメルは僕が、直接守りたいのだが、作戦が成功せねば守れない。成功させるには、ひとまずシュメルから離れねばならないのだ。結果、指揮官に任せることとなる。
「シュメル、行ってくるね。」
「うん、私も頑張るね。」
行くか。シュメルを傷つけようとしてる奴は、一人残らず殺すから、待っててね。
いよいよ銃剣(≒ナイフ)無双か?