探索(訓練)
持ち物、よし。点呼、とった。最少編成の十人、最少なのに十人もいるんだ。いや、多くても少なくても、指揮は大変か。どうせ裏山の探索だけだし、下士官が頑張ってくれると思うし、平気か。
「これより、訓練を開始する。」
五・五で二列に並んでおく。長いのも、短いのも嫌。それに、隣に下士官を置けるから。
「あくまで訓練であるが、向かうのは山だ。そこらの整備された道と違い、凹凸や、急な坂などが多くある。当然、実戦ではそんな道も普通に通るわけだが…。まあ、山に慣れていないものにはかなり過酷な訓練であると思われるが、がんばってくれ。流石に死ぬようなものでもないしな。」
さて、挨拶はこれくらいにして、さっさと裏山に向かうか。
途中で三・四・三に分かれ、探索中。一班、三班はちゃんと見える位置にいるな。
「どんな感じ?」
「食用のものも沢山生えていますが、中には棘や毒を持ったものもいますね。あと、虫が多いです。毒を持ったものもいると思われますので、注意されたほうがよろしいかと。」
「ありがと。そういえば、蛇も食えるよな…。」
あそこに、低いところに、枝に巻き付いている。確か、レンジャーも喰ってるよな。大丈夫だろ。
「あれは…、毒蛇ですね。取っ捕まえて、毒を抜けば美味しいですが。今はそんな危険を冒さなくともよいかと。」
「どのみち邪魔だし。」
先生からもらったリボルバーを取り出す。練習はしたけど、動物に撃ったことはないしな。
「一応、全員伏せろ。毒蛇撃つから。まあ、自殺願望あるならいいけど。」
皆伏せたな。どんな風になるかな。小さいから、よく狙って…。
『ダァン』
頭部直撃。吹っ飛んで、首なし死体に。どんな味なんだろう。
「お見事です。噂は本当のようですね。」
「噂って?」
「珍しいことに、個人でライフル銃を保有し、そのうえ素晴らしい才能を有する少女がいると、軍では噂になっていたのですよ。国からも支援を頂いていたらしいではないですか。勿論、一般の教育費とは別に。」
「ちょっと待て。国からの支援なんて、聞いてないよ?ああ、そうか。何丁も、何十発も使ったもんな。」
いくら比較的安価で、量産されているものとはいえ、あれだけ用意するには、相当な金が必要だろう。
「さて、無駄話はこれくらいにして、さっさと先に進もう。」
少し開けた、小川の流れる場所に出た。休憩中。一応は訓練だから、偵察に出ている奴は除くけど。
あー、あそこ、釣り楽しんでる。みーんな、服脱いで浮かれちゃって。体冷えんぞー。
「あそこの馬鹿共、どうしたもんかねえ。休憩中だからって、浮かれすぎだろ。体冷えるぞ?」
「まあまあ、あんなことしていられるのも今のうちだけですからね。あれでよいのですよ。」
「そんなもんか。ま、今のうちはな。」
後でこき使うとしてね。
「そろそろ行こうかな。皆集めといて。」
「了解しました。」
あー、いいなー。下が優秀だから、楽できる。指示だしゃいいだけだもん。
その後、班の入れ替えとかやったり、テント張って一晩過ごしたり。虫が寄ってきて、可愛かったな。
小隊の訓練のついでに、射撃の練習もできたからとても良かった。うん、良かった。
訓練前は、まるで保護対象を見るかのように見てきていたのが、恐怖の対象を見るかのように変わっただけ。そうだね、一応上官だもんね。舐められてはいけないもんね。これでいいんだ。
さて、と。
「異動、ですか?」
「ああ、上がな。どうやら優秀な人材を、放っておけないみたいだな。一刻も早く戦力化したいのだろう。」
「しかし、一回目の異動は、入隊から3ヶ月後と、定められていた筈では。」
「例外的な措置ということだろう。ああ、どうやらもう一人いるようだ。」
もう一人?
「誰ですか?」
「ふふ、それはお楽しみだ。」
「何ですか、気持ち悪い笑い方して。」
「一応、上官なのだが…。」
あー、そうだった。
「僕にとっては先生ですから。」
「そうか、そうだな。
大した荷物もないのだろう?明日出発してもらう。小隊くらいには挨拶しておけ。」
本当、先のことはわからないもんだな。3ヶ月、ゆったり過ごそうと思ってたのに、数日後に異動を告げられるなんて。一応、訓練させて、ということかな。一回じゃ全然足りてないよ。そりゃあ、実戦のほうが伸びが早いこともあるけどさ。
異動先は、西方軍のまま。でも、前線だ。いつ衝突してもおかしくない。実際、頻繁に武力衝突が起きていると聞くし。
つまりは、だ。
おい、なんかスッゲー学生が居るらしいぞ?
↓
マジかよ。すぐに卒業させようぜ?
↓
卒業後は、一応訓練させよう。その後、前線に送り付けようぜ?
↓
お、そりゃいいな。
みたいなやり取りがあったんじゃないかなって。本当にそんな気がしてきた。
別に、そうであっても、なくても、どうでもいいことだけどな。命令が下ったのであれば従うのみ。軍人の鑑だね。
異動先でも、同じように歓迎会とかあるのかなあ。
もう行かなきゃ。荷物、全部持ってるよね。忘れ物…。平気かな。
部屋を出て、階段を下り、外へ。って、皆!?
「たったの数日とはいえ、共に暮らした仲だ。全員で送らせてくれ。」
「恥ずかしいよ…。でも、ありがとう。先生、皆、お世話になりました。では。」
「ここにいる皆が、お前を応援してるんだ。頑張れよ。」
「はい。日々精進します。」
「ほんとかぁ?」
う、痛いところを。
「…善処します。」
「まあ、元気でな。行ってこい。」
「うん、さようなら。また会おうね…。」
また会う、会うから死ねない。死んでたまるか。絶対、会うから。
山を抜け、野を抜け、『道』を抜け、新たな『家』に着いたようである。着いたようである。着いた、着いたんだよね?燃えてない?
燃え盛る炎、廃墟と化した建築物。人の死体も転がっている。
そうか、攻め込まれたのか。じゃなくて。
それはわかってますよ。だって、馬とかも殺されたし。今は、リボルバーでヘッドキルしたり、銃剣で切りつけたりして敵を(現世から)追っ払い、物陰に。どうする、これ。突撃して潔く散るか?いやでもなあ。まだ詰んでないし。なんで、初日から攻め込まれるの?酷くない?現実は非情なりといえども、これは酷すぎるって。今は隠れられているけど、それは敵さんの警戒によるもの。無理に飛び出せば、敵さんも、僕も、撃たれるからね。こっちが圧倒的に不利だけどな。数の差は大きい。
あれ、そういえば。確かもう一人、いるって…。そっちのほうがやや遠いから、少し遅れるだろうって。
やばくね?そうだな、煙は遠くから見える。不審がって近づかないだろう。僕は不審がって近づいたけど。
うーん、馬の足音が、小さな、本当小さな音なんだけど、聞こえているような…。その、複数人なら、増援として喜べるけど、一人なら逃げてくれ。お願い。
敵が馬車に近づいていく。あれ、狙えるじゃん。あなたたちお馬鹿?
『ダァン、ダァン、ダァン、ダァン』
雑魚が。残弾は、残り七発か。マグナム弾使いきっちゃったし。
馬車の中から、人が出てくる。まだ敵さんいるよ、危ないよ。一体誰…、シュメル!?
人生は予定通りに行かない。執筆も予定通りに行かない。