卒業、入隊
さっさと入隊させたかった。
月日はあっという間に過ぎていった。気づけば、入学して一年。一部の、成績優秀者は卒業し、士官候補生として徴用される。そして、その中には、僕とシュメルも含まれていた。
「これで、会えなくなっちゃうね。」
「そうだね。」
僕の配属先は、西方軍第320小隊。シュメルは、西方軍第108小隊。同じ西方軍に属しているとはいえ、地理的に遠い。
「でも、二度とじゃない。3ヶ月すれば異動だ。そのあとも、異動、異動の繰り返し。またどこかで会えるよ。」
「そうだね。シャロンが私の指揮下に異動してきたりして。」
「その逆もあり得るかな。」
別に、上に立ちたいとかいう欲はないけど。でも、3ヶ月後には強制的に士官だしな。
「そろそろ迎えの馬車が来る時間だよ。それじゃ、またどこかで。」
「うん、またね。」
また、絶対に会える。会えるよね。
銃を使うのは僕だけ。卒業生の中に、僕以外の銃使いはいない。一緒に乗っているのは、先生と、馬を操ってる人だけ。
持っていくのは、いつものライフル銃と銃剣、先生が卒業祝いにくれたリボルバーだけ。本は何回も読んだし、要らないから学校の図書室に寄付した。
「どうだ、リボルバーは。」
「扱い易いし、マグナム弾もいい感じ。とても気に入りました。」
「奮発した甲斐があったな。」
「でも、どうしてこんなに高いものを?」
こちらも、ライフル同様、相当な値がするはずだ。奮発、なんてもんじゃ足りないくらいに。
「まあ、愛弟子の喜ぶ顔を見れたら、嬉しいしな。それに、お前はこれをもつべきだ。いや、持つ義務がある。良銃も、上手い奴が使わないと腐るからな。」
「そうですか。」
上手い奴ねえ。上手いからこそ、か。変な義務が生じるもんだな。一理あるとも思うけど。
風景が変わる。それまで生い茂っていた木々が、急になくなり、開けた土地に。
下士官が指示をだし、兵が指示に従い、行動する。どうやら、物資を運び、種類ごとに分別しているようだ。その中には、銃もある。
「ついたぞ。」
今日からここで暮らすんだ。いよいよ、って感じだな。
「降りるぞ。忘れ物はないよな。」
ライフルも、リボルバーもある。大丈夫だ。
「うん、問題ない。」
馬車を降り、先生に案内され、自室に。贅沢はいえないが、やはり狭かった。寝れるだけありがたいな。眠れないけど。
その後、歓迎会をやるとかで、部屋での待機を命じられた。
「おーい、もういいぞー。」
部屋を出て、食堂へと向かう。歓迎会といいつつ、実態は飲み会なんだろうな。
僕やシュメルは国に徴用され、軍人となったが、それはごく一部。各学校から選ばれた、成績優秀者のみ。そのため、女性は少ない。別に、男女差別があると言うわけではない。差別は犯罪だからな。単に、多くの女性が就きたくないだけ。
今、その理由を嫌と言うほどに感じている。
だって、すっごい男臭いし。暑苦しいし。シュメルいないし。オマケに、こっち見てるし。
「本日付で、西方軍第320小隊に配属となります、士官候補生のシャロンです。これからよろしくお願いします。」
言えたー!ちゃんと言えたー!暑苦しい男共にじろじろ見られてたけど、ちゃんと言えたー!もう帰りたい。
「シャロンの教育は私が監督する。引き続きよろしくな。
おいお前ら!シャロンが可愛いからって、変な気起こすなよ?」
「まさか、大隊長どのの…。」
「馬鹿言え、ただの愛弟子だ。こいつの恋人は…」
「先生、それ以上言う必要がありますか?」
プライバシー、プライバシーの侵害だ。…あれ?先生って僕とシュメルの関係知ってたっけ?ヤバ。
「ほう…、その様子じゃ、誰かいるのかな?」
「アッハハー、誰でしょうかねー。」
くそ、やられた、油断したー!うわーん、先生意地悪なんだもん。愛弟子が可愛いからとかいって、しょっちゅういじってくるんだもん。
「教えろよ。なあ、誰なんだ?」
「ここで教える必要がありますか?」
なんで教えなきゃいけないんだ。
「あるな」
「ありますね」
「ああ、ある」
みんな酷かった。
「よし、シャロンが言わない限り、歓迎会続行!」
ちょ、それはずるいって。
「…わかったよ、いえばいいんでしょ。…、シュメル。」
「ん?なんだって?」
「西方軍第108小隊所属、シュメル士官候補生!」
自棄だ。大声で言ってやった。泣きたい、というか泣いてる。
「わー、大隊長が泣かしたー。」
「煽ったのはお前らもだろ!?
シャロン、悪かった。済まなかった。無理に言わせるようなことして。だから、な?その…」
「いいよ。どうせ、愛弟子とかいいつつ、からかいたいだけなんでしょ、レズだって。」
こうなったら、徹底的に優しくしてもらう。
「いや、だから、済まなかったって…。この通りだ。」
何を…。
「大隊長!?」
「せ、先生!わかりました、わかりましたから、顔をあげて下さい!」
やり過ぎた。自分よりも階級が低い相手に…、それも、多くの人が見てるなかで、土下座をするなんて…。
「これで、許してくれるか?」
「十分です、十二分です!!なにも頭を下げなくとも…。」
「そうか、良かった。」
驚かせて、まったく。
「では、仕切り直して、乾杯。」
「「「「乾杯!」」」」
この国では、飲酒の年齢制限はない。一応、僕のところにも酒が回ってきている。飲むべき、なのか?
「どうした?飲まないのか?」
「うーん、お酒よりも、お茶が飲みたいかな。」
「そうか。確かあった筈だな。用意させよう。」
とりあえず逃げる。やっぱ、未成年での飲酒は、ちょっと…。
「おーい、こいつのために紅茶を淹れておいてくれ。」
「もちろん、砂糖無しだよ?」
砂糖の入った紅茶なんて、あんなの…、紅茶じゃない。
「さて、シャロン士官候補生。これからの話だ。明日から、第320小隊小隊長として、任務に就いて貰う。まあ、下士官が何とかしてくれるだろう。」
「わかりました、大隊長殿。明日からよろしくお願いします。」
「こちらからも、よろしくな。
さて、つまらない挨拶はこれくらいにして、飯でも食うか。」
ご飯は…。山菜と、豚肉。それと白米。全部、この駐屯地の中と、近くの山で用意したらしい。これなら、後方の支援が滞っても、何とかなりそう。
「任務って、具体的には?」
「小隊とともに、裏山の探索をしてもらう。まあ、食糧集めだ。野生の動物を狩ってきてもいいぞ。程々にだがな。」
狩りか。久しぶりだな。どんなのがいるかな。
「危険な場所は?」
「お前の行くところは、比較的安全だ。気を付けるとすれば、段差とか岩。あと、野生動物だな。」
「段差とか岩って、どんな感じ?」
ちゃんと聞いておかないと。滑って転んで、なんてしたくないし。
「まあ、大したことはない。お前、確か山にいたって言ってたよな。なら大丈夫だろ。」
「てことは、特に注意をする必要があるポイントはなし。念のため、野生動物と段差、岩といった、自然に気を付ければいいのかな。」
「ああ。それと、小隊にな。一応、お前は小隊長なんだからな。」
「うん。小隊を連れているということが、どんなことなのかか、ちゃんとわかってるよ。…多分。」
小隊長は、ただ居ればいいというものではない。まあ、そこらへん学ばせるためのものなんだろうけど。
だから人の上に立つのはそんなに好きじゃないんだ。でも、楽しみだな。
シャロンちゃん可愛い。