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コンタクト

 寮の前に着いた。学校からの距離は、大体徒歩五分。入りたいんだけど、うん。いくしかないよね。面倒ごとに、どうしていつも遭遇しちゃうんだろう。

「えと、さっきから入り口で右往左往して、どうしたの?…シュメルちゃん。」

「あ!シャロンちゃん!!シャロンちゃんってこの寮なの?」

 なんだろう。目が異様に輝いている。まるで、救世主をみるかのようだ。だから、話しかけたくなかったんだ。まあ、話しかけた以上、無視も許されないか。

「そうだけど、どうかしたの?」

「その、私もここの寮みたいなんだけど、一人だと不安でさ。その、一人暮らしなんて、したことないから…」

 と、そこでいい淀み、慌てて両手を口に当てる。可愛い、じゃなくて、気をつかってくれたんだ。へえ、優しいんだ。

「まあ、姉がいたし、別に一人暮らしだったという訳でもないから。」

 こっちに来てからも、ずっと村の皆が面倒見てくれたし。そうか、初めての一人暮らしなのか。今更ながら不安になってきた。

「そうなんだ。でね、不安だから、一緒に部屋まで来てくれない?」

 女の子の、部屋に?まあ、特別な意味がある訳でもなく、友達を呼ぶような感覚なんだろうな。

 仕方ない、ついていってあげようではないか。




 あらまびっくり。お隣さんだった。あ、でも、同じ学年で固めてるんだっけ。

「びっくりしたねー。私達、お隣さんだよー?これからよろしくねー。」

「うん、よろしく。」

 しかし…。これが女の子の部屋か。

 部屋自体は、既に業者が女の子の部屋にしていたようだ。

 薄いピンクを基調に、机、椅子、ベッド、そしてぬいぐるみ。壁際の剣、いや、刀さえ除けば、完璧と言えように。

「シュメルちゃん、あの剣、ちょっと特殊そうだね。」

「うん。東方から来たから。刃が片方にしかないんだよねー。まあ、地方民ってことだね。」

 ほーん、東方ね。

 シュメルちゃんが、刀を鞘から抜く。完全に日本刀なのな。

「ほら、片方にしかない。」

「わかった、わかったから。危ないからしまって。」

 全く、無用心だなぁ。万が一にでも、手から滑り落ちるなんてことになったらどうするんだ。

「シャロンちゃんは、銃を使ってたよね。それも相当珍しいと思うんだけど…。」

「運が良くて、かな。たまたま、偶然手に入れられてね。あ、別に盗んだとかじゃないよ?入学祝いにと貰ったんだ。」

 おっちゃん達、どうしてんのかな。

 そう言えば、今更だけど、どうして火縄銃とか、マスケット銃ではなく、ライフル銃だったんだろう。

 マスケット銃、たしかライフル銃よりも安価だから人気があるとか、どうとか聞いたけど。貴族と軍にね。

 あ、そういえば。前におっちゃんにこの事聞いたな。確か、知り合いの商人が『高すぎて売れ残った奴を、仕方ないからと通常の十分の一以下の価格で売ってくれた』って言ってたような気がする。

「ねえねえ、銃弾をこの剣で斬れたりしないかな。」

「えと、静止してるなら、可能性はあるかな?」

「そうじゃなくて、飛んでるのを。」

 あの形状だと、ど真ん中にでも当てない限り、斬れないと思うし、当てても弾くとか、そんなもんな気がするし…。刃が耐えれるかも怪しいし。

「斬れるかは怪しいけど、弾くことなら出来るんじゃない?」

「弾くかー。なら、弾を弾き続ければ、剣でも銃に勝てるかな?」

 剣で銃に?弾けると仮定して考えると、一対一なら何とかなるかも。銃剣で応戦するならわからない。数によっても変わるか。

「微妙かな。条件に依る、みたいな。」

「そっかー。」

「でも、剣のほうが数を揃えやすいからね。最終的には数で押しきればいいんじゃない?」

 いざとなれば、死体を盾にすればいい。現段階では、弾を貫通させるのは、至近距離でもない限り難しい。死体も十分に盾になる。

「それだと、死んじゃう人が出ちゃうよ。」

「別にいいんじゃない?所詮ヒトはヒトだし。そんなこと言ったら、自分達の存在、この国の存在を否定し、悪しきものであると言うようなもの。殺し合い、戦争によって、時には命を捨て、国を護ってきた人々が救われない。」

 大体、ヒトだから、同族だからと特別扱いしすぎだ。他の動植物が死のうが、関係無いくせに。平気で命を奪うくせに。その上、『文明』という名の要塞に閉じ籠もり、中々出てこない。動植物を殺しておきながら、自分達は安全地帯で眺めるだけ。戦争によって滅ぶのかといえば、中途半端に終わらせ、一向に数が減らない。むしろ、年々増えている程だ。

 ヒトを、脅かす存在が。ヒトを、狩る存在がいる。

 一旦落ち着け、僕。平気で命を奪って、安全地帯に閉じ籠ってんの、僕もだから。まあ、自然という危険地帯にいた分、他の人よりかはマシかな。って、また自分を贔屓してる。いけないいけない。ちゃんと人も評価してあげないと。あ、上から目線。

「人が死ぬのは…嫌だよ。親がいないシャロンちゃんにはわからないだろうけど。」

「人間の驕りだよ、それは。死んだら終わり、先はない。だというのに、どうして…。ヒトの、頭で、何故理解が…」

 親しい人が死んだ。それがどうした。自ら動く『物』から、動かない『物』に変わっただけだ。それがどうした。死んだんなら仕方ないだろ。僕だって家族を亡くしてるんだ。正当な主張だと思いたい。

「ごめん。別にシュメルちゃんの主張は間違っていないのだと思う。でも、僕は違う主張をする。そういうことなんだ。主張を押し付けるなんて、随分見苦しい事したな、僕。」

「いいよ。シャロンちゃんの主張も正しいと思うし、人が皆、おんなじ事を考えていても、気持ち悪いもんね。

 今日はこんな風になっちゃったけど、また今度、ゆっくり話をしたいかな。シャロンちゃんはどう?」

「僕もいいよ。昔から、こんな風に、意見の異なる人の話を聞くのは好きなんだ。違った角度から物事が見えてきて、自分の考えをより深められる、みたいな?」

 そういや、**はどうしてんのかな。いつもこんな風に、僕の意見を聞いたり、自分の意見を言ったり、楽しかったな。結局、相手から告白されたのに、ヘタレて現状維持を選び、傷つけたよな。心配してくれているのだろうか…。

「じゃあね。」

「うん。お隣さんだし、暇なときにでもまた来なよ。それとも、私が行く?」

「じゃ、暇なときにでも。」

 シュメルちゃんの部屋を出て、自分の部屋へ。随分と長話したな。


 このライフル銃に、不思議な感覚を抱いたのは、人を『狩る存在』が必要と感じていたから、なんだろうな。普通の人間じゃ駄目だし、時々命を非常に軽視する僕は、ある意味では適任なのかもしれない。自分の知らないところで、『自分』がそのような判断を下したとしても、何らおかしくはないか。

 どのみち、卒業後は兵として徴用されるんだ。人を殺すのに、特別な感情を抱くのはお勧めできない、か。また、自分を正当化しようとしている。いや、こればかりは否定のしようがないと…。

 でも、戦争が起きるか、感染病が異様に流行るかしない限り、人は中々減らないからな。人の敵はヒト。ヒトが殺すのが、数を調整するのに一番。人間は愚か。あまり数が多くなるのはまずい。

 明日も学校があるんだ。本を読んで落ち着こう。平和的なのはどれかな。これかな?うん、これにしよう。

シャロンちゃん…、可愛い?

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